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第五章 五国統一

第25話 見た目で人を判断しちゃいけないよ

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「Cグループより、見事決勝トーナメント進出を決めたのは、やはりこの人! トゥマール王国騎士団団長、アイバーン選手でした! この後、15分の休憩を挟みまして、Dグループの予選試合を行いたいと思います」

「セラ! 付き合って!」
「いや~ん、告白ですかぁ? 喜んでぇ!」
「いや、違うから! メル君とアイ君の治療!」
「そんな照れなくても分かってますよぉ」
「んもうっ! またセラお姉ちゃんの悪いクセが始まった~!」

 頬を膨らませながらセラの手を握り、フワリと浮き上がり、闘技場に降りて行くユーキ。

「アイ君! メル君! ケガ見せて!」
「ユーキ君!? セラ君も!? すまない、メルクの方を先に見てやってくれないか?」
「ハァイ、ちょっと失礼~」

 アイバーンとメルク、それぞれに手を当ててケガの状態を見るセラ。

「ふむふむ、なるほどぉ。2人共、アイちゃんの氷で既に出血は止まってますがぁ、出血量で言えばむしろアイちゃんの方が危険な状態ですぅ」
「いや、私は大丈夫だから、先にメルクの治療を……痛っ!!」

 アイバーンの傷口をギュッと握るセラ。

「セ、セラ君!? 何を!?」
「ぶう~! ヒーラーの言葉を信じなさぁい! 危険なのはアイちゃんの方ですぅ! ちゃんと2人共治療しますからぁ、大人しくしてなさぁい!」

「あ、ああ……すまない……ではよろしく頼む」
「ハァイ! 頼まれましたぁ! メルちゃんは傷口を塞ぐだけなのでぇ、ユウちゃんに任せますぅ! アイちゃんは失った血液も再生しないといけないからぁ、私がやりますぅ!」
「うん、分かった!」

 セラに言われて、メルクの治療を始めるユーキ。

(一見したらメル君の方が重傷に見えるのに、アイ君の方が危険な状態なんだ? でもそれはつまり、メル君がそれだけアイ君を追い込んだって事か……)

 程なくしてメルクが意識を取り戻す。

「う……」
「あ! メル君、気が付いた?」
「え!? ユーキさん?」

 段々頭がハッキリして来たメルクが、辺りを見回して状況を再認識する。

「そっか……やっぱり僕は負けたんですね……」
「うん……だけど凄かったよ。アイ君をあそこまで追い詰めたんだから」
「でも勝てませんでした……はあ、何だか僕、すっかり負けキャラが定着してしまいましたね……」

 どんどんヘコんで行くメルクを、必死でフォローするユーキ。

「あ……や……で、でもほら! よく言うじゃない……負けた試合からは多くの事を学ぶってさ!? メル君はまだまだ成長途中なんだから、これからだよこれから! ね!?」
「ハハ、ありがとうございます。そうですよね……これからもっともっと頑張って強くなればいいんですよね!」
「うん、そうそう!」

「……あ! そう言えばユーキさん!」
「ん!?」
「さっきの試合……その~……色々ユーキさんをダシに使ってごめんなさい!」
「ああーっ! そうだった! そこはちゃんと制裁を与えとかないとね!」

 そう言って、メルクの脇腹を思いっきりつねるユーキ。

「いいーっ!! 痛っ! 痛いですユーキさん! そこはまだ治りきってないですーっ!!」


 ユーキとじゃれ合っているメルクを、うらやましそうな目で見つめるアイバーンであった。


 そして、アイバーンとメルクの治療が終わった頃、Dグループの予選試合が開始される。

「皆様お待たせしました!! ただ今より、Dグループの予選試合を行いたいと思います!!」

 レフェリーがボックスの中から引いた紙が、巨大モニターに映し出される。

「決まりました!! Dグループの試合形式は、5000メートル走です! 一斉にスタートして、一周400メートルのトラックを12周半していただき、最初にゴールした選手が、決勝トーナメント進出となります! 当然、他の選手への攻撃妨害なんでもアリですが、唯一のルールとしましては、必ず自分自身の足で走ってゴールする事です!」

「自分の足で……つまり、飛行魔法は使っちゃダメって事か……」
「そうね。空飛んでたら、トラックをどれだけ進んだか分かりにくいからじゃない!?」


 スタートの合図が鳴り響くと同時に、1人の少年が長距離走にもかかわらず、まるで短距離走のように猛スピードで走り出す。

「ああっとー!! スタート直後にいきなり飛び出した選手が居るー!! ゼッケン503番、トト選手だー!! 凄いスピードだが、これは長距離走です! こんなペースで最後まで保つのかー!? それとも、何かの作戦かー!?」  

 そんなトトをあざ笑う他の選手や観客達。

「ハッ! 初めからあんなに飛ばして保つ訳がねぇ!」
「しょせんガキだぜ! スタミナ配分ってのが分かってねぇ!」
「どうせすぐにバテるぜ! それからゆっくり追い抜けばいい!」

 そんな周りの声を聞いて、呆れ顔のパティ。

「はあっ……全然分かってないんだから……スタミナなんてものは、魔力でどうとでも補えるんだから、それだけあの子は魔力に自信があるって事でしょ? ねえ! ネムならあのペースで最後まで走れるんじゃない?」
「うん、やった事は無いけど、多分走れると思うよ」
「ネムみたいに魔力が多い子って居るんだね~……あれ!?」

 モニターに映し出された少年を見てハッとなるユーキ。

「どうしたの? ユーキ」
「あの子ってどこかで見た気が?」
「ええ~!? あんな小さな男の子までいけるんですかぁ? ユウちゃんは守備範囲が広いですねぇ」
「いや、誤解されるような言い方すんな!」

「ああっ! そう言えばあの子確か、以前街で同い年ぐらいの女の子と口喧嘩してた子じゃない!?」
「ああそっか! あの時の子か~! どおりで」

 
 他の選手が1週回った頃、先頭を突っ走っていたトトが2週目を終えて、最後尾の選手を周回遅れにしようかという位置まで迫っていた。

「あのガキ、もうあんなとこまで来てるぞ!」
「全然ペースが落ちねぇじゃねーか!?」
「信じられねぇスタミナだ!」

「ああっとー!! 後続を大きく突き放して独走状態のトト選手! 最後尾の選手を射程内に捉えたー!!」

「くっ! 冗談じゃねぇ! 一時的とはいえ、周回遅れになんかされてたまるかよっ!!」

 最後尾集団の選手達が、トトを行かせまいとして攻撃するが、それをいとも簡単にかわしてあっさり抜き去って行くトト。

「もう! 危ないなー! 弱っちいんだから邪魔しないでよねー! いちいち相手するのめんどくさいんだから」

「トト選手! 他の選手の妨害を受けましたが、何事も無かったかのように突き進んで行くー!!」

「し、信じられねぇ……」
「何なんだ!? 今の動き……」

 そして結局、その後も全くペースを落とす事無く1位でゴールしたトト。

「トト選手ゴーーール!! スタートと同時に飛び出したトト選手! 途中、他の選手より数々の妨害を受けましたが、それを全く意に介さず、そのまま圧倒的な速さでゴールしました!! Dグループからの本選出場者はトト選手に決まりました! 本選トーナメントでは、先程勝利しましたアイバーン選手と闘う事になります! トト選手、王国騎士団の団長を相手に、はたしてどこまでやれるのかー!?」

「結局あの子、そのまま勝っちゃったわね? 対戦相手のアイ君から見てあの子、どう?」

「ふむ……あの年齢であの動き……実に興味深い! これからの成長が楽しみだよ」

「……アイ君ってロリコンだと思ってたけど、どっちでも行けるのね!?」

「いや、何の話だねっ!?」


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