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終章 いつも楽しく面白く

第35話 お土産という響きが好き

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 約束の日。
 かつてシェーレ国のあった地へ足を踏み入れたBL隊。
 しかし街は荒れ果て、全く命の気配を感じない完全なるゴーストタウンと化していた。
 そんな街の様子を見て、ネムを気遣うユーキ。

「ネム……大丈夫?」
「うん。ネムは小さくてシェーレに居た頃の事はあまり覚えてないの……だから大丈夫」

「必ずまた、活気溢れる国にして見せるのです!」
「うん。リーゼルも出来る限り協力させてもらうよ!」
「ありがとうなのです!」
「ユーキ姉様、ありがとう」

「リーゼル……じゃなくて統一王として、じゃないの? ユーキ」
「と、統一王の事はまだ保留なの!」
「だがユーキ君。シェーレも今や統一国のひとつなのだ。君が統一王としてひと声かければ、シェーレの復興も容易になるのではないかね?」
「う! そ、それはそうかもしれないけど……」

 アイバーンの言葉に考えるユーキ。

(そっか。せっかく五国が統一されたんだもんな。みんなで協力すればネムの国を復活させる事だって。今の僕ならそれが……)

「それにしても、パラス軍はせっかく占領したシェーレを何で放置してるんでしょうか? これなら簡単に取り返せそうですが……」

「いくら滅んだとはいえ、ネムやロロみたいに生き延びた者も少なからず居る筈ニャ。そんな連中が強くなって国を取り戻しに来た時に、また戦いを楽しもうとしてるニャ」

「うわあ、悪趣味ですね~」
「とはいえ、当然見張りの兵ぐらいは居る筈ニャ」
「戦場になる事が分かってるから避難してるんじゃないの?」
「もしくはぁ、影に隠れてて不意打ちするつもりかもしれませんよぉ」

「カオスはそんな真似はしないニャ。来るとしたら、功を焦ったバカな兵が、待機命令を無視して仕掛けて来るぐらいニャ」
「待ちなっ!!」
「言ってるそばから来たわね」

 ユーキ達の前に、いかにも雑魚キャラという風貌の男達が数人現れる。

「BL隊だな!? ここを通りたければ、俺達を倒してから行きな!!」
「ええ~、こんな下っ端にまでBL隊って名前浸透してるの~? 何かやだな~」
「誰が下っ端だ~!!」

「こんな小娘、ナンバーズの皆さんが出るまでもねぇ! 俺達でやっちまおうぜ!!」
「おうっ!!」
「死ねや! ガキぃ!!」

 一斉にユーキに襲い掛かる下っ端達だったが、あっという間にパティ1人にねじ伏せられるのだった。

「ユーキが居るお陰で命がある事に感謝しなさい。あたし1人だったら全員皆殺しだったわよ?」
「ハ、ハイ。命を助けて頂いてありがとうございます」

 パティに踏みつけられながら、命の有り難みを実感している下っ端。

「それで、パルとチルはどこに居るの? 知ってるんでしょ?」
「ハイ。パル様とチル様はシェーレ城の前の丘でお待ちです」
「そう。戦いに巻き込まれたくなかったら、あんた達はさっさとこの国から出て行きなさい」
「ハイ。お心遣い感謝いたします」

 パティに踏みつけられている下っ端を見て、羨ましそうな顔のレノ。

(俺も踏まれてみたい……)

 その後、ユーキ達がシェーレ城の前まで来ると、そこには既に何体かの召喚獣を従えたパルとチルが待ち構えていた。
 少し離れた場所で足を止めるユーキ達。

「じゃあ僕達は少し離れた所で見てるから。ネム、ロロ、気を付けてね」
「うん。行ってくる」
「お土産は幼女姉妹なのです」

 そんな様子を、離れた場所で気配を消しながら見物しているジョーカー。

(フフッ。さあ、今度こそナンバーズの初勝利となるでしょうか? そろそろBL隊の数が減ってくれた方が、私としては都合がいいんですがねぇ)

 そして対峙するネム&ロロ組とパル&チル姉妹。
 
「逃げずによくここまで来たのよ! その勇気だけは褒めてやるのよ!」
「怖くて逃げ出したい気持ちを誤魔化す為に、無理して悪態ついてるの~」
「パルの心理状態をバラすんじゃないのよ!!」

「召喚獣が6体しか居ないようだけど、まだ召喚してないの? それともどこかに隠してる?」
「これから戦う相手に教える訳無いのよ!」
「チル達では2人がかりでも、魔獣を10体も同時に操れないから小出しにするの~」
「だからバラしてるんじゃないのよ!!」

「大丈夫。分かってたから」
「予想の範囲内なのです」
「ご、ごちゃごちゃ言ってないで、そっちも早く召喚するのよ! もうじき試合開始時間なのよ!」

 パルの言葉を受けて、少し作戦会議をするネムとロロ。

「どうする? ロロ。様子見で何体か召喚しようか? それともロロ1人でやる?」
「あの程度の魔獣ならロロ1人でも問題無いのです。でも向こうもどんな隠し球を持っているか分からないのです。ロロが離れている間にネムが集中攻撃されたら危険なのです。もっとも、初めから魔装しておけば防御面での心配は無くなるのです」

「うん。それはそうなんだけど、ちょっと本気になったあの娘達の実力を見てみたいから、初めは召喚獣だけで行ってみようと思うの」
「分かったのです。ではロロは、お呼びがかかるまで待っているのです。自宅待機ロロなのです」
「その言い回し、久しぶりだね。じゃあ向こうと同じ魔獣を召喚するね」

 そう言ってパル達と同じ様に、Cランクのサイクロプス3体、Dランクのヘルハウンド3体を召喚するネム。

「さあ、行くよ!」
「覚悟するのです!」

「リーゼルでの手合わせの時とは訳が違うのよ! 本気で行かせてもらうのよ!」

 だが、パルの気合いとは裏腹に、元気の無いチル。

「お腹が減って力が出ないの~」
「うにゃ!? ついさっき朝ごはん食べたとこなのよ!?」
「いっぱい魔獣召喚したからもう魔力がカラなの~」

「じ、じゃあとりあえずパルが1人で戦うから、その間にお昼ご飯用に持って来たお弁当を食べるのよ!」
「分かったの~」

 チルを後ろに下がらせ、前に出て魔道書を構えるパル。

「お昼の分に半分残しておくのよ!?」
「大丈夫なの~。半分残したの~」
「いや食べるの早過ぎるのよ! でも偉いのよ。ちゃんと残せるようになったのよ」
「ちゃんと残してるの~」

 そう言いながら、半分残った弁当箱をパルに見せるチル。

「そ、それはパルのお弁当なのよ!! チルの分は……既にカラなのよ!!」
「お昼に分けてもらうように、ちゃんと半分残したの~」
「そこから更に食べるつもりでいる事に驚愕なのよ!!」







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