ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

文字の大きさ
40 / 247
第1章1節 学園生活/始まりの一学期

第39話 寛雅たる女神の血族

しおりを挟む
「……ねえ。ハンス……でいいんだよね?」



 互いが互いの出方を窺う中、最初に口を開けたのはエリスだった。



「……何?」
「アーサーに何をしていたの?」
「色々させてた」


「スリとか、暴行事件とかも?」
「そうだよ」
「……どうしてアーサーだったの?」
「面白そうだったから」


「そう。それなら、面白そうって思うのなら、二度と関わらないで」
「それはそいつにも訊いてみた方がいいんじゃないか?」


 ハンスはアーサーを顎でしゃくる。



 それに反応しアーサーは、ナプキンにペンを走らせエリスに渡した。



『こいつはオレの正体を知っている。ばらされないためにも親しくしておきたい』


 エリスは唖然とした表情を見せた後、それから口を閉じた。





「……どうしよう、イザーク」


 会話が終わってしまったのを受けて、カタリナは隣のイザークに小声で話しかける。


「コイツらアレだな。誰も話を切り出そうとしねえから、全然話進まない」
「しかも、今ハンスとアーサーの出方を窺ってるよね……」
「んー……」


 イザークは腕を組んで目を瞑る。



 そして、暫くした後手を叩いて。


「よし! 鍋だ! 食おうぜ!」



 鍋の中の具材は程よくしなっており、火が十分に通っている。


 つまる所、早く食せよこの野郎と煮え滾っていた。



「えっと……ハンス? 大丈夫?」
「……黙れ。ぼくに話しかけるな」
「シャドウ、絶対に離すなよ」


 ハンスは顔を真っ赤にして俯いていた。いつの間にかヴィクトールが抑え込むように寄りかかり、背後からは二本の腕に姿を変えたシャドウがハンスを抑え込んでいる。


 そうしている間に近付く大きい人影。先程もやってきたラニキだ。


「よう、大丈夫かお前ら」
「あ、えーと……」
「ラニキでいいぞ。ラタトゥイユが好きな兄貴分、略してラニキ。皆にはそう呼ばれてる。んで、こいつは初来店サービスだ」


 ラニキは皿に乗せられたチーズを鍋に乗せる。スープと混ざって瞬く間に溶けていき、具材と絡み合う。


「ん、そこで蹲ってる奴。どうしたんだ、体調でも悪いか?」
「……! そう、そうなんです、実は……!」
「心配しないでください。こいつは知らない店に来ると恥ずかしくなるタイプなんです」
「そうか、中々珍しいな」


 ハンスがヴィクトールを睨み付けている間に、ガゼルが肉の腸詰めの皿を持って戻ってきた。


「何だガゼル、向こうにいたんじゃねえのか」
「あっふんラニキィ。いやー連れてきた一年生の話をしたら、ほっとくのはいけないと総ツッコミにあったので戻ってきました。あとこれはくすねた腸詰めです」

「あー……まあいいや。とりあえず食え。これ以上は伸びてしまって美味しくなくなるぞ」
「えっと……それじゃあ、いただきます」


 エリスはチーズがかかった鶏肉を取り皿に取り――


 汁をある程度落としてから口に入れる。



 一口、二口、しっかりと噛み締め、肉汁を堪能する。



「美味しい……トマトとチーズが絡み合って、いい感じです……」
「ははは、そうだろうそうだろう。さあ他の奴も遠慮せずに食え」


 エリスに続いて、他の一年生も具材を口に入れていく。


「あ~うめ~。こっち来てから初めて食ったわ鍋」
「あたし……鍋なんて初めて。こんな美味しくて、ほっこりする食べ物があるんだ……」
「ふん……」
「……まあ、悪くはないな」


 しかしハンスは俯いたままでフォークに手を伸ばそうともしない。身体を振るわせ手を膝に押し当てている。



(……何でだよ)

(何でこいつらと不味い飯を食わなきゃいけないんだ……)



 そう思っていたのを察した――わけではないが、イザークが立ち上がり、



「ハンスちゃん、ハンスちゃ~ん!? お鍋食べないんですかぁ~!? 好き嫌いですかぁ~!? エルフ様が好き嫌いするんですかぁ~!? さては赤ちゃんでちゅかチミはぁ~!?」


 堪忍袋の緒を引き千切る暴挙に出た。




「――てめえ!!! 何だよ、何なんだよ!!! ぼくのこと馬鹿にもがががぁ……!!!」
「いいぞサイリ! やっちまえ!」


 スプーンに人参を乗せて待機していたサイリは、


 ハンスが激昂し怒鳴り付け始めたのを見計らって口に押し込んだ。


「どうだ? 美味いだろ? グレイスウィル産の採れ立て人参だからな!」
「え、グレイスウィル産なんですかこれ」
「ああ、この店はグレイスウィル……第三階層から直接食材を仕入れているぞ」
「おおっ、適当に言っちゃったけど当たった!! さあどうだ!!」
「……」


 ハンスは流れるまま人参を噛み砕き、飲み込む。



 噛み締める度に広がる、素朴な甘み。飲み込んでもなお、口の中に残る。



(……美、味、い、ぞ、ぉ……)


 甘みを感じながら、周囲の人間の表情を窺う。


(だが……こいつらに……それを、言うのは……!)



 そんな彼の代わりに動き出したのは、この彼女だった。



「……ん?」
「ワオン?」
「おや、わたくしに何か御用ですかな」


 今まで微動だにしなかったハンスのナイトメア、シルフィ。彼女はふと動き出すと、それぞれのナイトメアの前に向かう。


 カヴァス、セバスン、サイリ、シャドウ。彼らの身体に触れると、ほんの少し風を起こす。


「ワンワン、ワワン!」
「成程、左様でございますか」
「……♪」


「……」


 シルフィはそれだけ行いこくりと頷く。そして定位置であるハンスの隣に戻っていった。



「……何の真似だ」


 ハンスがシルフィを問い詰める前に、イザークが笑い声を上げる。


「そうか!! そうかそうかそうか!! オマエ人参美味しかったのかぁ!! サイリがさ、オマエのナイトメアがそう言ってたって教えてくれたぜ!!」
「ああ、主君の心を読んだのか。他の奴等には隠せても、己の騎士には隠せないってことだな」
「美味いんだろ!? だったらもっと食えばいいじゃん!!!」


 囃し立てる面々を見て、ハンスは悔しさが沸き上がった。




「うわあああああああああああああああああああ……!!!!!!」


 そして大声で泣き出し、机を叩き始めた。




「……君大丈夫? 何か嫌なことあった?」
「嫌なことだと? 今置かれている状況全部だ!!!」


 ハンスは顔を真っ赤にし、唖然とするガゼル達を捲し立てる。


「てめえらは何もわかっていないクズばかり!!! 無理矢理こんな汗臭い所に連れてきやがって……!!! てめえらのっ、てめえらの、せいだぞ……!!! ぼくが、偉大なるメティア家の嫡子たるこのぼくが……!!! こんなに惨めにされ、虐げられ、愚かな立場に追い込まれてるのは……!!!」



「でも人参は美味かったんだろ?」
「そんなこと思っていない!!! この役立たずが、勝手に言い出しただけだ!!!」


 シルフィを指差し、鬼気迫った目でそう言い放った。




「……その態度。君、もしかして寛雅たる女神の血族ルミナスクランの子か」



 委縮するシルフィを見て、ガゼルは出会った当初とは比べ物にならないぐらい、冷静に告げる。



寛雅たる女神の血族ルミナスクラン?」
「エルフこそが至高と掲げる団体で、本拠地は海の向こうのウィーエル地方。過激な言動が多くて、暴行も差別も何でもありの連中さ。人間のみならず、ナイトメアも見下している。他にも言いたいことはあるけど、キリがないのでこの辺で……」


 ラニキが咳払いをしてからガゼルの後を引き継ぐ。


「エルフ以外の連中を見下すような奴が、どうして多種族多文化のグレイスウィルに来てるのか知らんがな。ここに住んでいる以上ナイトメアを見下すような発言はいただけねえ」
「……」


「ていうか、オマエのナイトメアさ、多分オマエが気持ちを言えないのを見て動いたんだと思うんだよ。それを役立たずって言うのはなー」
「……」


「……貴様は実に生きにくそうな性格をしているな。先が思いやられる」
「……こいつらぁ!!! こいつら、こいつらっ……!!!」



 ハンスが肯定できないあらゆる感情に、身体を震わせていると――



「……気を落とすな」


 駄々をこねる子供を嗜めるように、アーサーが口を開いた。




「……何だよてめえ」
「確か、ナイトメアを発現するのは十二歳からだ。そうすると、発現してからまだ三ヶ月しか経ってないだろう。まだ関わり方がわからないんじゃないのか」
「はぁ……?」


 その間に、エリスはナプキンにペンを走らせアーサーに渡す。



『アーサーが仲良くしたいなら、わたしはそれで大丈夫。同じ男の子なんだし、アーサーの好きにしてもらっていいよ』



 それを確認してから、アーサーは言葉を続ける。


「他人とかナイトメアとの関わり方は、これからわかっていけばいいんだ。寛雅たる女神の血族ルミナスクランだとかどうか、そんなのは関係ない」
「そうだよハンス。だから、これから仲良くしてね」


 エリスはハンスに向かって微笑む。



 一方でアーサーはハンスを見つめながらも、視界の中にはイザークを捉えていた。


「……ああそうだな! 学園生活まだまだこれからだもんな! もしかしたら、コイツとも仲良くできるかもしれねえ!」
「アーサーがそう言うなら、あたしも……頑張る」
「貴様等は物好きだな……俺の知ったことではないが」


 ガゼルとラニキも観念したように肩を竦めた。


「あー……一年生の関係に首突っ込むのは野暮だね、こりゃあ」
「そうだな。でもまあ、もし何かあったらここに来い。そして鍋をつつけば、仲も深まるってもんだ」


 そう言いながら、ラニキはもう一枚のチーズを鍋に入れる。 


「あ、お玉と取り皿いいですか。ハンスの分よそいます」
「おうよ」
「大盛りにしろよ? コイツには美味いもんいっぱい食わせねえと!」
「ふふっ、そうだね」


「あたしも何か食べたいな。ハンスの後でいいよ」
「はーい」
「じゃあ俺はそろそろ戻るぞ。ごゆっくりどうぞっと」
「チーズごちそうさまでした、ラニキさん」


 エリスは鍋から具材をよそい、カタリナとイザークはそれぞれナイトメアにちょっかいを出して待っている。




「そういえば君達って課外活動は?」
「俺は生徒会に入ってます」
「ヴィクトールは生徒会か。じゃあクオークのことは知ってる?」
「ああ、クオーク先輩。よく生徒のために行動する先輩ですよね」
「おっ、言うねえ。僕あいつと同じクラスでさ、よく絡むんだよね。褒めていたって伝えておくよ」
「ありがとうございます」


「アーサーはどうなの?」
「えっと、わたしと同じ料理部に入ってます」
「料理部かー。知り合いはいないかな」
「……」



 アーサーは会話に混ざりはしないが、様子を静かに見守っている。そして諫められない程度に鍋をつつく。



(……何なんだよ、こいつらは)


 その最中、ハンスは品定めするように、全員の姿をぎろぎろ眺めていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

無能と追放された結界師、三十路のおっさんですが17歳の辺境伯令嬢と婚約して人生逆転します

みかん畑
ファンタジー
無能と蔑まれ、Aランクパーティを追放された結界師フィン。 行き場を失った彼を拾ったのは、辺境伯の娘リリカだった。 国土結界の恩恵が届かない辺境で、フィンの結界は本当の価値を発揮していく。 領地再建、政治の駆け引き、そして少女のまっすぐな想い。 これは無能と呼ばれた男が、辺境で居場所を見つけ、やがて年の差婚へと至る物語。

神具のクワで異世界開拓!〜過労死SE、呪われた荒野を極上農園に変えてエルフや獣人と美味しいスローライフ〜

黒崎隼人
ファンタジー
ブラック企業で過労死したシステムエンジニアの茅野蓮は、豊穣の女神アリアによって剣と魔法のファンタジー世界へ転生する。 彼に与えられた使命は、呪われた「嘆きの荒野」を開拓し、全ての種族が手を取り合える理想郷を築くこと。 女神から授かったチート神具「ガイアの聖クワ」を一振りすれば、枯れた大地は瞬時に極上の黒土へと変わり、前世の知識と魔法の収納空間を駆使して、あっという間に規格外の美味しい作物を育て上げていく。 絶品の「ポトフ」で飢えたエルフの少女を救ったことを皮切りに、訳ありの白狼族の女戦士、没落した元公爵令嬢、故郷を失った天狐の巫女、人間に囚われていた翼人族の少女など、行き場を失った魅力的なヒロインたちが次々と彼の農園に集まってくる。 蓮が作る「醤油」や「マヨネーズ」などの未知の調味料や絶品料理は、瞬く間に世界中の胃袋を掴み、小さな農園はいつしか巨大な経済網を持つ最強の都市国家へと発展していく! 迫り来る大商会の圧力も、大国の軍勢も、さらには魔王軍の侵攻すらも、蓮は「美味しいご飯」と「農業チート」で平和的に解決してしまう。 これは、一本のクワを握りしめた心優しい青年が、傷ついた仲間たちと共に美味しい食卓を囲みながら、世界一豊かで幸せな国家「アルカディア連邦」を創り上げるまでの、奇跡と豊穣の異世界スローライフ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます

黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。 だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ! 捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……? 無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!

神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜  ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!  電子書籍は、2026/3/9に発売です!  書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。  イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!  ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

処理中です...