ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第97話 サラ、ある秋の受難と邂逅

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 北からの風が木の葉を枯らし、水も土も冷たくなっていく十一月。人も自然も魔物も。女神の理の下で生きる者は全て、これから訪れる冬への準備を始めていく。




「暗獄の魔女ギネヴィア……」



 すかっと晴れた秋空のある日、サラとノーラは温室までの道を進んでいた。妖精のサリアは一冊の本を抱えながら、ひよこのヒヨリンは所々生えている草をついばみつつ後をついてきている。



「遥か昔、聖杯の力を得ようとした恐ろしい魔女ですねえ。どうしたんですか、急に名前を呟いて」
「あの魔女もこの秋空を見上げていたのかな、と思いまして」


 サラは立ち止まり、流れる雲を見上げる。


「まあ空はいつの時代も変わりませんからねえ。ただ同じ空でも、気分によって様相は変わるものですよ」
「魔女は一体どのような気持ちで空を見ていたのか……憎悪か、あるいは妬みか」


 ノーラも立ち止まって一緒に空を見上げる。


「黒魔法の始祖とも言われていますよね、ギネヴィアは。人の命を媒介にして有り得ない次元の威力を放つ魔法」


「あんな恐ろしい物を作り上げるなんて、一体どんな面持ちだったんでしょうねえ」


「まあ大方ろくでもない人生を送ってきたんでしょうけど……興味はありますねえ。そう思いません?」




「……聞いているのですかね、サラ」



 返事が返ってこないことに痺れを切らして、ノーラは首を元に戻す。


 だが視界の中にサラの姿は収まらなかった。



「あれま?」
「ピィピィ!」
「ん……?」


 ヒヨリンが囀りをしている方向を見ると、


「……あらあら」


 赤髪の女子生徒と茶髪の男子生徒によって、どこかに連行されているサラがいた。



「恐らくお友達なんでしょうね。ならもう私にできることはありません」
「ピィピィ!」
「面倒臭いのではないのです。私達には大事な使命があるから、それを優先させようって言っているのです。さあ行きますよヒヨリン」
「……ピィ~!」


 ノーラは温室への道を進んでいく。ヒヨリンは迷う素振りを見せたが、結局忠騎士らしく彼女に従うことにしたようだった。





「ちょっ……急に何なのよ……!!」
「いいからいいから!!」
「大丈夫だから!!」
「何も良くないんだけど!?」


 サラはエリスとイザークに羽交い絞めにされ、第一階層の寂れた公園まで連行されてきた。サリアは本ごとサイリに抱かれて抵抗できない状態。


「……何? この人目のつかない公園で話をしようっての?」
「ここじゃないんだよー。この先があるんだよー」
「はぁ? 何を言って「サラさんご入場でごぜーます!!」



「待って、何のこと――!? きゃあっ!?」


 そして魔法陣に無理矢理押し込まれ、例の島まで転移していった。





「来たか」
「ワン!」
「三人共、こっちだよー」



 島には既にアーサーとカタリナが待機していた。カタリナは三人の姿を視界に捉えると、大きく手を振り場所を知らせる。エリスとイザークはその場所まで到着した。



「遅かったな」
「いやー、百合の塔の方にいなくてさ。まさか温室に出向いているとは思わなかった」
「それでサラ……話をしてもいい?」



 森まで連行してきた後、エリスは恐る恐るサラの顔を覗き込む。サラは目を皿にして周囲の風景を観察していた。どうやら自分達のことは眼中にない模様。



「……ねえアナタ達。この場所の説明を簡潔に」
「ボク達の秘密基地でーす!」
「意味が分からない。もっと詳しく」

「さっき通った魔法陣あったでしょ。あそこをたまたま見つけて、通った先にたまたまこの島があったんだ」
「それで、誰も住んでいないから秘密基地に……って感じだよ」
「あの魔法陣が……」


 サラは思索に耽るが、一瞬で我に返って四人に詰め寄る。


「……って、魔法陣があったの第一階層じゃない。そこから繋がっているならここもグレイスウィルの領土よ。領主に申し出るのが先決ってもんでしょうが」
「えーでもそれは……わたし、グレイスウィルの国民じゃないし。だからここの偉い人に従う義理はないかな~」
「オレも同じだ」
「あたしも……」
「ボクもっすね」
「……」


 悪びれる様子のない四人を、サラは白目を剥いて凝視する。


「……ああそう。そうね、ここって海に浮かぶ島なのね。なら船とかからでも目視できるから、人が住んでいないなんてことはあり得ないと思うのだけれど」
「なんと結界が張ってあって外部から見えないようになってるんですねー」
「結界? 馬鹿なことを――」


 サイリから解放されたサリアが、イザークの言葉を肯定するように頷いた。


「……わかったわ。もういい、もういいわ。だったらワタシがこの島のことを申し出るから。堪忍しなさい」
「そんなことしたら毎日サラの部屋に起こしに行くけど、いいの?」
「なっ……」
「あと手紙も突っ込んであげる。毎日一緒にいようねっ」


 エリスは意地悪かつ真剣な笑みを浮かべた。この表情が意味するところは、本気で今提示したことを行うという意思表示である。


「で、でもそれって、先生に相談されたらあたし達の負けじゃ……」
「あ、確かに……この島のことが切り札にある以上、どうあがいてもサラに有利だ」
「おっとー上手くいくかと思ったが暗雲立ち込めてきたぞぉ」
「うー……あのーサラさん、今後のことなんですけどぉ……」



 エリスは声色を高くし、腰を低くしながらサラをもう一度見るのだが。



「……」



 彼女はそんなことは気にも留めず、じっと森を観察していた。





「……サラ? 大丈夫?」
「……不思議」
「ふしぎ?」
「不思議な森ね、ここ」


 その言葉に呼応するように、涼風が森を吹き抜ける。


「木も花もよく育っている。葉や花弁の付き方も良いし、瑞々しいわ。地面だって植物が育つのに丁度いい土壌ね。園芸部に持って帰りたいぐらいよ」
「そ、そうなの?」
「そうなのよ。下手すれば地上階の人工森林よりも質がいいわ。だからこそ意味がわからないの」
「具体的にはどの辺がだよ」
「これだけ恵まれた森なのに、動物や虫の数が少ない」



「……」


 言われれば確かに、という素振りで四人は周囲を見回す。


「森っていうのは木や花だけが全てじゃないわ。虫がいないと枯れた落ち葉が積み重なったままになってしまうし、動物がいないと花粉を遠くに飛ばしていけない。生態系も含めた全てを森と呼ぶのよ。疑問に思わなかった?」
「探せば見つかるかもしれないが、害があるわけではないからそこまで」
「た、確かに……虫ってあんまり好きじゃないから、いなくてラッキーぐらいにしか思ってなかった」


「さっきちらっと言ったけど、この島って結界張られてんだよな。人じゃなくって固有の動物とかがいてもおかしくはないか……?」
「そうね、それもそうだわ。だからこそ……不思議……」 


「……あんたも感傷的になるんだな」
「五月蠅いわね。黙ってて」
「……」



 四人はあれこれ考えるサラから次の言葉を待つ。


 そして、およそ三分程経った頃だろうか。



「……この島に出入りする許可を頂戴。そうしたら黙っててあげる」
「え、それでいいの?」
「結構よ。ワタシはこの森をもっと知りたいから」

「やったあ。じゃあわたし達のお願いも聞いてくれるね」
「ねえどうして話が飛躍するのよ」
「だってサラをここに連れてきたの、お願いがあるからだもん」
「……それは何?」


 観念したのか妥協したのか、とにかくサラは話を聞こうとしていた。
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