ナイトメア・アーサー ~伝説たる使い魔の王と、ごく普通の女の子の、青春を謳歌し世界を知り運命に抗う学園生活七年間~

ウェルザンディー

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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期

第126話 イズエルト小旅行の終わり・後編

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 そして翌日。散々引き延ばした小旅行も、本当に今日で終わりを迎える。



「いやあ、今回は泊めていただきありがとうございました!」
「イザークお兄ちゃん、面白いからずっとここにいればいいのに……」
「こらっ、そんなこと言わない。彼らは魔法学園に戻らないといけないんだぞ」
「むー……つまんないの」
「だからなあ……」

「それだけ楽しかったってことだろ? ボクもだぜ! でも楽しいっていうのはつまんない日常があるからこそなんだ、なっ? ボクと出会えたことを糧に、頑張れ!」
「……うん。元気出た。頑張るよ、ありがと!」



「アーサーお兄ちゃんもまた来てね。わんちゃんも遊ぼうね」
「……ああ」
「ワンワン!」

「ルシュドお兄ちゃんもね。そのときまでジャバウォックはでっかくなってるんだよ」
「ぐ、ぐぬぬ……頑張るぜ……」
「うーん、厳しいかも?」
「ルシュドォォォ!!! 主君のお前が諦めてどうすんだあぁぁぁ!!!」



 孤児院の前まで迎えに来た馬車を前にして、それぞれが名残惜しく会話をしている。



「シスター、今回は本当にありがとう。久しぶりに皆と会えて、私楽しかった」
「……私もですよ、リーシャ。半年近くも離れ離れで、気軽に会いに行ける距離でもなくて……毎日楽しく生活できているか心配だったの。でも、今回顔を見ることができて本当に良かった……」


 メアリーは涙を拭い、リーシャの後ろにいる五人の生徒に視線を向ける。


「エリスさん、カタリナさん……アーサーさんに、イザークさんに、ルシュドさんも。そしてナイトメアの皆様……どうか魔法学園に戻っても、うちのリーシャをよろしくお願いしますね」

「……ああ」
「勿論ですぜ!」
「リーシャ、料理部、一緒。おれ、世話になる。です」
「お世話になるのはお互い様です」
「どっちかというと、あたしの方がお世話になってますから……」


 トナカイが嘶く声が聞こえてきた。声が聞こえる範囲にいるということは、間もなく到着する。


 太陽も東から徐々に上り雪が光を反射していく。すっかり見慣れたこの光景に、そろそろ別れを告げて帰らなければならない。


「ではそろそろ――」
「待って!」



 言いたいことも言い合って、心残りはないか確認も終わって、乗り込みが始まろうとした矢先。


 孤児院の扉を勢いよく開けて、ダニエルと数名の子供達が次々と飛び出してきた。



「はぁはぁ……お姉ちゃん、これ……」


 ダニエルはエリスの所まで近付き、小さな籠と一枚の紙を渡す。籠の中には赤い苺が入っており、紙にはエリスの似顔絵が描かれてあった。


「……雪原の苺じゃないよ。みんなでおこづかい出し合って、市場で買ったんだ……お姉ちゃん、苺が好きって言ってたから……」
「カタリナお姉ちゃんにはこれね。こっちはブルーベリーよ!」
「リーシャお姉ちゃんはとくべつ。レモンにみかんにぽんかん! ぜんぶ食べればおはだもぷーるぷる!」


「……最後の最後に嬉しいことしてくれるな~!」
「ありがとう。美味しく食べるね」
「……ありがとう」



 子供達は紙と果物が入った箱を次々にエリス達に手渡す。



「……」
「……」
「……」


「……うん。何か言いたいことあるかな?」
「……」



 だんだんと場が静かになり、ダニエルの言葉を待つ。



「……あのね。エリスお姉ちゃんが、ぼくのこと助けてくれた時……すごく、勇気があるなって、思ったんだ」

「ぼくだったらこわくて何もできなかったと思う。でもお姉ちゃんはそれができた……」

「……だからね。もしかして、強いってことは、お姉ちゃんみたいに動けることだって、そんな風に思ったんだ」

「だから……」



「……ぼく、がんばるよ。がんばって、いつか本当に強くなる」


「……そっか。大丈夫、きっとなれるよ」



 エリスはダニエルの頭を優しく撫でた。



「……よかったねダニエル。自分のこと、気付かせてくれるような人に出会えて」
「うん……きっとこれもリーシャお姉ちゃんのおかげだね。ありがとう」
「えへへ……いい子なやつだなお前は~」


 リーシャもダニエルの頭をぐりぐりと撫でる。


「えっと、ひきとめちゃってごめんね! ぼくはもう大丈夫! だから、バイバーイ!」
「お姉ちゃーん! お兄ちゃーん! また来てねー!」
「今度は鬼ごっことかたくさんしようなー!」



 思い思いの気持ちを伝え、子供達はエリス達を見送る。



「……さて、では時間だな。馬車に乗ってくれ」
「はい!」


 御者台に乗っていたイリーナに呼びかけられて、エリス達は馬車に乗る。


「お姉ちゃん達、またねー!」
「元気でねー!」
「また遊びに来てねー!」



 馬車が見えなくなるまで、子供達は大きく手を振り声を上げ、精一杯見送っていた。


 全力故に吐き出した白い吐息が、晴れた冬の空に昇っていく――





「……」


 遠く小さくなっていく孤児院を、リーシャはぼんやりと見つめている。


「……寂しい?」
「……ううん。ただ、半年前もこうだったなあって、それだけ」


 そう言う彼女の瞳には、強い前向きな感情が込められていた。




「春は巡る、前を向く君に。だから私はそれを実行するの」

「私が望む春は、私自身の手で掴むから」




 疾走する馬車から決意をたなびかせ、リーシャは友人達に振り向く。


「さあ……帰ったらいつも通りの学園生活だ」
「おれ、帰る、宿題、やる」
「そーゆーのは直前まで言わないでおくれよルシュドさぁ~ん!?」
「う……ごめん」

「でも宿題はやらないといけないから……義務、だから」
「やめてくれ~カタリナすぁんッ。そんな言い方しないでくれ~。ああ、またヴィクトール先生を召喚しないと……」
「こっちもサラ先生を召喚しないとな~。何なら両方一気にやっちゃう?」
「それありー! つーかそうしようぜ!」
「……はぁ」



 アーサーは窓際に頬杖をつき、流れ行く景色を眺めている。更にエリスはそんなアーサーを眺めている。



「……アーサー。今回の旅行、楽しかったかな?」
「……」



「……まあ、楽しかっただろうな。辛いこともあったが、それ以上に」
「……そっか。それならわたしも何より……かなっ」


 エリスはほんの僅かに移動し、アーサーに近付く。天真爛漫で、ほんの僅かに意地悪な笑顔と共に。


「……近いぞ。離れてくれ」
「やーだ。だって寒いもん」
「……全く」


 生徒六人を乗せた馬車は、ゆっくりと港に進んでいく。歓楽と波乱に満ちた二泊三日の旅行は、こうして幕を下ろしたのだった。







 深淵の申し子は哀れな童。彼らは遊戯を知り得ない。

 彼らが無邪気に戯れば、死ぬか狂うか怯えるか。

 決して真意は図られず、ただ拒まれて消えゆくのみ。



「……」



 深淵の申し子は無垢なる童。寄れうる親を探しては、べったりずるずるついていく。

 愛を求めて大行進、哀を叫んで大合唱。

 原初の欲に駆り立てられ、呻き這いずるその様に、大団円など有り得ない。





「……」


 雪原の遥か西、暴雪吹雪く危険地帯。そこを闊歩するは一人の女。


「……反応は、この辺り」


 防寒具は首元に巻いた黒布のみ。臍を出した黒く短いシャツに、赤のベルトとズボン。黒革のブーツには粉雪が付き煩わしそうにしている。


「……いい加減に出てこいよ。何時間捜索していると思っている」



 その女は黒い塊を握りながら、雪に向かって魔法を放つ。忽ち地面が左右に割れ、女の行く道を作り出す。




 道に沿って生まれ出る、女を讃える一般人。あるいは親を出迎えて、今日あったことを話す童のよう。どちらであっても、悍ましき黒淵であることには変わりない。




「……ああ、やっと見つけた」



 緩やかに弧を描いた黄金の欠片。外側には宝石が散りばめられ、女には理解し難い模様が刻まれている。


 女は雪の中に埋もれていたそれを取り上げ、申し子達のように暗い黒の瞳で、訝しそうに見回す。欠片から紫色の煙が吹き上がり、女の顔を包む。



「こんな欠片のために深淵結晶を浪費させるとは……まあいい、これも我が主の命令だ」



 女は肩からかけていた鞄にそれを仕舞い入れ、吹雪の中を見回す。



「おい、猛獣」


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「チッ……聞こえているのか、猛獣!」


       <<_?{+>‘L!$*”$


「貴様の聴覚なら聞こえているはずだろうが、猛獣!!!」


       ($&”!’&$’&!$&(&


?_<}!*$”「鬱陶しいんだよテメエらはぁ!!!」





 女が地面を踏み付けると、奈落の者達は粉雪の波に攫われて消えていく。





「グオオオオオオ……オワッタノカ?」


 女の頭上から、唸り声のような言葉が聞こえてきた。



「聞こえていたのかよ、だったら返事をしろよ」


 女が苛立ちながら言うと、その人物は彼女の目の前に落ちてきた。



 雪煙が彼女の身長程に巻き起こり、それに飲まれるが一切動じない。



「ヘンジ、イラナイ。ワレ、スガタミセル。ソレデイイ」
「……妙に賢くなりやがって」



 頭を全て覆う、獅子の頭の毛皮。背中に羽織っているのは、熊の毛皮をマントのように加工したもの。腰に巻いているのは象の毛皮を加工し、さらに牙で飾っている腰みの。それ以外の部分においては、全て肌を露出している。

 女が言っていた、猛獣という呼称がよく似合う人物だった。



「目的の物を発見した。主君から与えられた使命を果たしたぞ」
「ソウカソウカ。ワレモシメイハタシタ。セツゲンノマモノ、イッパイクッタ。ワレノチカラニナル」

「ああそうか。どうだ、久々に暴れられて満足したか?」
「マダタリナイ。ダガキサマ、シメイハタシタ。ユエニワレモオエル。コレツマリ、ダキョウ」
「……状況に応じて身を制することを覚えたか。主君の改造の成果が出たな?」
「ワガシュクン、イダイナルソウゾウシュ。ワレ、シュクンニツクス。ダカラチカライル」

「そうだな。癪ではあるがその点では気が合うらしい。では素晴らしい我が主君の元に戻ろうではないか……」
「ハヤクカエル、シュクン、ヨロコブ! グオオオオオオオ!!!」



 女は手をかざし、白い雪の上に禍々しい赤い魔法陣を生成する。



 刹那、暴風が雪を巻き起こす。次にそれが止む頃には、二人の姿と魔法陣は跡形もなく消えていた。
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