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第1章3節 学園生活/楽しい三学期
第149話 女騎士とチョコレート
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「レーラ先輩」
「何かしらウェンディ」
「今年もこの季節がやってきてしまいましたね」
「やってきたわね」
「……」
「……」
ある日の王城宿直室。現在休憩中のレーラとウェンディは、机に向かい合って座りながら会話をしている。
「……ねえ、今月のルゼールの新作なんだけど、中々お洒落で可愛いわよ……」
「既製品なんぞに頼ったら負けじゃーーー!!!」
「……」
血の気を沸き立たせ立ち上がるウェンディと、予測していた事態にやはりと溜息をつくレーラ。
「……やっぱりやるの? それで去年どうなったか……」
「去年は去年、今年は今年ッ! 失敗を活かして次に繋げるのが千年帝国グレイスウィルの騎士の本分なりッ!」
「ウェンディ・ルイスは、ウェンディ・ルイスは今年こそ、今年こそカイル君にぃぃぃぃぃ~~~~~……」
「特製手作りチョコを、プレゼントするんです!!!!!!」
偉大なる八の神々が一柱、光の神シュセ。その昔、彼女が若い竪琴弾きとして地上に降り立った際、血に飢えた魔物に襲われた。窮地に陥っていた所を助けたのは、付近の森で木こりを営んでいた男。謙虚で仕事熱心な彼に贈り物をしたいと考えたシュセ神は、森にあった木の実を用いてタルトを作って捧げた。感謝の甘い口付けと、ささやかな愛の言葉を添えて。
それはまだ雪が降り頻る二月の出来事。そんな伝承がある故に、二月には多くの女性がシュセ神のように、甘味を作って男性に捧げるのが慣習となっている。その名を愛と感謝の祭日。
というわけで一月も終わり、グレイスウィルにも二月がやってきた。食料品を売る店は何かとこの伝承にかこつけて売ろうとしている。女性達は厳しく品定めし、目的の物を買おうと右往左往。火花散らす商いの熱気に、雪はたちどころに溶けていく。
「んでさ~、エリっちとリーシャンはチョコやんの?」
「……唐突ですね?」
「だって二月つったらこれしかないっしょ。チョコをあげるか、貰えるか!」
ある日の料理部。エリスとリーシャが椅子に座っていた所、先輩生徒ヒルメはさも当然のようにこの話題を吹っかけてきた。
「まあ……みんなやってるし、作ろうとは思ってます。あ、誰にあげるかは言いませんよ?」
「くそう、先手を打たれてしまった。リーシャンは?」
「勿論作ります。あげたい人がいるので」
「マジで? 誰よ?」
「……うーん。多分先輩の知らない人だと思いますよ?」
「そうなの? てことは四年生以外?」
「それすらもわかんなくて……」
「……ほぉ?」
そこでアーサーとルシュドが席に戻ってきた為、ガールズトークは中断されることになった。
「只今戻った」
「話し合い、始まった?」
「まだだよ。二人が来るの待ってようって話になってたからね」
「わかった。じゃあ話し合い、しようしよう」
「あいよー」
それから数日後、百合の塔のロビーでは寮生向けにビアンカから説明がされていた。
「え~、まあこの時期皆チョコレート作りたいよね! 部屋にある竈じゃ物足りないよね! だから共有の台所使いたいって子は多いと思うんだけど……もうプリントに書いてある通り! 先輩後輩関係なく順番は守って、変な物は入れない! 壊れるから!」
ビアンカがきびきびと説明をするのを、リーシャはプリントに時々配布された注意書きに意識を逸らせながら聞く。今日一緒に買い物をする約束をしていたエリスも、その隣に座って同様の説明を聞いている。
「以上、何かわからないことあったら私達職員に聞いてね! それじゃあ、解散!」
ビアンカがパンっと手を叩くと、女子生徒達は口々に私語を始め、そしてロビーを去っていく。
「……共用のキッチンとかあるんだね」
「各階に、つまり各学年ごとに一つずつね。何か上の学年の生徒が下にやってきて、後輩の台所占領するってことがよくあるらしいよ」
「そうなんだ」
「でもエリスには関係ないでしょ。専用の台所あるし」
「それがそうとも……共同生活やってる都合上、アーサーも使うってことだから……」
「……あ、そっかあ。バレる確率が極めて高いんだね」
「そうなの。だからそれをどうしようか悩んでて……」
口を動かしながらエリスは腕を組み、上に向かって伸ばす。
「まあいいか。設備があればどこでも作れるし、材料買ってから考えよーっと」
「最悪私の部屋に来ればいいよ。何なら一緒に共用のを使おう」
「おっけーおっけー、そういうことで~。んじゃあ買い物行こうか」
「えっと、ダイナミックマーケット……は何か違うな。お菓子の材料だけを取り扱ってるお店、多分あるよね」
「千もお店があればあるに決まってるでしょ」
所変わって第二階層の食料品街。エリスとリーシャはそこを歩きながら、商人が弁舌を振るう様を聞き流す。
「さあさあいらっしゃい! 毎年お馴染み愛と感謝の祭日! こちらにありますミルクチョコレートを贈って、大切な人に想いを伝えましょう!!」
「お菓子を贈るなら手作りに限る! 今ならこのタルト型が十二個入り二百ヴォンド!! これに溶かしたチョコレートを入れるだけでお手軽チョコタルトの完成!! さあさあ本日限りの限定特価だよー!!」
「こちら本店限定商品!!! この生チョコ手作りキットの材料を入れて混ぜるだけで、美味しい生チョコの出来上がり!!! ご自宅で贅沢な味わいを楽しみませんかー!?!?」
「チョコレートの競売が盛んな今日この頃に!! 本格的なチョコレートを味わうのはいかがでしょうか!! こちらキブルス島直送カカオ豆でございます!! こちらに牛乳と砂糖を入れまして、お好みの味のチョコレートを作りましょう!!!」
「……勢いがすごいね」
「ここまで騒がしいとは思わなかった……ん」
「どうしたのリーシャ?」
「あそこにいるのって……ゼラさん?」
「……あ、そうかも。声かけてみようか」
他の店より一回り大きく、そして長蛇の列が並んでいる店。その脇でじっと列を観察していたゼラに、二人は声をかける。
「ゼラさん、こんにちは」
「……おんやあ、誰かと思ったら一年生の。あんたらもチヨコレイトかい?」
「えへへ、そうですそうです。もしかしてゼラさんもですか?」
「んなわけあるかい。あたしは久々に友達が来てるもんだから、挨拶ついでに仕事を見ているのさ」
「友達ですか?」
「ほれ、あそこさ」
ゼラが顎でしゃくった先では、黄色の髪をぐるぐる巻き、派手な化粧でアクセサリーで着飾った妙齢の女性が弁舌を巻いていた。
「あらぁ~いらっしゃ~い! ふんふん、チョコレートの材料を買いに来たのね! ホワイトチョコレートなら左から二番目の棚にあるわよ! あら、ドライフルーツ? それならここに一缶あるから、持って行ってちょうだい! 遠慮はいらないわぁ~!」
「名前はトパーズ。シスバルドっていう商会の会長で、あたしとは古い付き合いなのさ」
「へぇ……会長さんとも知り合いだなんて、凄いですね」
「まあお互いこうなるとは思ってなかったがね……それよりも、ここでぼけっとしてていいのかい」
「え?」
「見ての通りここは大繁盛だ。何せ商会のドンが直接売りに来てるからねえ。早く行かないと何にもなくなっちまうよ」
「た、確かに。よしリーシャ、早く行こう」
ゼラに会釈をした後、エリスとリーシャは混み合う店内へと向かう。
それから一時間かけて、目的の物をかごに突っ込みまくる。
「……え~っと。これで全部だね。よし、改めて確認しよう」
「板チョコ六枚、卵四つ、製菓用砂糖一袋、粉砂糖五個パック、無塩バター一箱、小麦粉一袋。そして円型二つ!」
「みっしょんこんぷりーとなりぃ! さて、お会計……」
エリスは顔を上げ会計口の方向を探す。
そして発見したその時だった。
「うおおおおおおおおお!!!!!!」
「……ん?」
「何の声?」
二人は女性のものにしては、やけに気合が入って野太かったその声の、主を探してその場で立ち竦む。
「おおおおおおおお!!!! おおおおおお!?!?!?」
「きゃあっ!?」
エリスは後ろから何かに衝突され、正面に向かって勢いよく倒れ込む。
だが何とか手をついて倒れることができた。無傷で済んだのである。
「……っ~……いったあ……」
「……ふにゃあ……」
「エリス大丈夫!? あ、あの……!」
「ウェンディ! もう……貴女ねえ!」
リーシャが心配する間もなく、青緑の髪の長身の女性がずかずかと入ってくる。
「レーラせんぱぁい……? ついてきてたなんて、ぷらいばすぃいの侵害ですよぉ……」
「貴女が変なことしないかどうか心配してたのよ!? そしたら案の定! ほら、正面見なさい!」
「……ん?」
ウェンディが正面を見ると、そこにはやっとのことで起き上がったエリスとかごから飛び出た荷物を集めるリーシャの姿が。
そしてリーシャは、得体の知れない液体と物体が入った茶色の瓶を手に持ち凝視する。
「……あああああ!? そっ、それはうちの蝮!! ぶつかった拍子に落ちちゃった!?」
「……蝮? これ蝮なんですか……?」
「蝮より心配することがあるでしょう! 貴女それでも王国騎士なの!」
「王国騎士……!?」
エリスとリーシャは、小柄な彼女の姿と手元の蝮を見比べながら唖然とする。
「うわあああああああ申し訳ございません!!! このウェンディ、如何なる処罰も受けるつもりでございます……!!!」
「申し訳ありません! この子、張り切り過ぎると周りが見えなくなっちゃって……!」
「……」
「……」
衝突してきたことも衝撃だったが、二人にはそれ以上に気になることがあった。
「……えっと、それについては大丈夫です。特に怪我もしなかったので……それよりも、あの、一つ訊いてももいいですか?」
「はい!? な、何でしょうか!?」
「えっと……ウェンディさん、ですよね? あの、この蝮っていつも食べてる物……ですか?」
「ひゃいっ! それはですね、チョコレートの材料です!」
「……材料、ですか?」
「今年は食べると元気が出るチョコレートを作ろうと思ってまして!! 他にもですね、納豆やにんにくを買ってきてるんですよ!」
「そ、そうですか……」
貰った相手はご愁傷様、なんてことをエリスは考えたが、
「カイル君はストイックですからね! 食べ物にも滋養強壮を求める人ですから、そういう物を材料にするんです!!」
「ちょっと、何うっかり個人名出してるのよ!」
「あーっ!!! またやってしまいましたああああ!!!」
「……えっ!」
何といううっかりの功名。知っている人物が被害に遭うなら、看過することはできない。
「……ウェンディさん。今あなたが買ってきた食材は、チョコレートに入れていい物ではありません」
「え? ちょっ、どうしたのエリス?」
「このかごの中を見てください。ここに入っている物を使えば、美味しいチョコレートはできるんです」
「え、ええ……? でも、もう一回材料買うのは……」
「わたしと一緒に買い物しましょう。まだ時間はありますからお付き合いできます」
「うーん……でも大丈夫ですよぉ! 大体こっちからぶつかってきたのに、これ以上迷惑なんてかけられ「ねえ貴女達!? 買い物に付き合ってくれるなら、ついでに頼みたいことがあるのだけれど!?」
ウェンディがまごまごしている間に、レーラがずばっと切り込んできた。ここがチャンスだという表情でじっと二人の目を凝視する。
「え、えっと……それは、わたし達にできることでしょうか……?」
「勿論ッ! 日時は合わせるから、この子と一緒にチョコレートを作ってほしいの! 場所はこの子の寮で! 当然オーブンもあるわよ!」
「あ、場所の問題が解決しそう。でも……」
「無理なお願いをしているのは分かっているわ! だから今回の件も含めて、この子の給料から報酬を出しましょう! 銀貨八枚でどうかしら!?」
「八枚!? 料理を一緒にするだけで!?」
「うちの給料を勝手にいじくらないでくれますか先輩!?」
「ウェンディ……料理カースト最底辺の貴女には発言する権利はないのよ……さあどうかしら!?」
エリスとリーシャは顔を見合わせるが、間もなく速攻で首が縦に動いた。
「ええ、わかりました。じゃあ日時は……どうしようかリーシャ?」
「来週の日曜日、祭日の前日がいいかなー。作る予定のチョコが生物だからさ。時間は十時ぐらいでどうでしょうか?」
「それでいいわ! 来週の日曜日ね! 騎士寮の場所はわからないと思うから、騎士団管轄区の入り口で待ってて頂戴! あ、名乗り忘れていたけど私はレーラよ! 王国騎士で、この子の先輩なの!」
「そ、そうだったんですか……」
「そうだったのよ! さて、今から買い物ね!」
レーラはそう言った後、風もびっくりする速さで買い物かごを持ってきた。
「籠はここに持ってきたわ! さあ行きましょう!」
「は、はい!」
「おっしゃあああ! 成り行きで何かすることになっちゃったけど頑張るぞおおお!」
「気合の入れようが凄いですね! 流石王国騎士!」
それからは何事もなく、二度目の買い物を終わらせることができたのだった。
「何かしらウェンディ」
「今年もこの季節がやってきてしまいましたね」
「やってきたわね」
「……」
「……」
ある日の王城宿直室。現在休憩中のレーラとウェンディは、机に向かい合って座りながら会話をしている。
「……ねえ、今月のルゼールの新作なんだけど、中々お洒落で可愛いわよ……」
「既製品なんぞに頼ったら負けじゃーーー!!!」
「……」
血の気を沸き立たせ立ち上がるウェンディと、予測していた事態にやはりと溜息をつくレーラ。
「……やっぱりやるの? それで去年どうなったか……」
「去年は去年、今年は今年ッ! 失敗を活かして次に繋げるのが千年帝国グレイスウィルの騎士の本分なりッ!」
「ウェンディ・ルイスは、ウェンディ・ルイスは今年こそ、今年こそカイル君にぃぃぃぃぃ~~~~~……」
「特製手作りチョコを、プレゼントするんです!!!!!!」
偉大なる八の神々が一柱、光の神シュセ。その昔、彼女が若い竪琴弾きとして地上に降り立った際、血に飢えた魔物に襲われた。窮地に陥っていた所を助けたのは、付近の森で木こりを営んでいた男。謙虚で仕事熱心な彼に贈り物をしたいと考えたシュセ神は、森にあった木の実を用いてタルトを作って捧げた。感謝の甘い口付けと、ささやかな愛の言葉を添えて。
それはまだ雪が降り頻る二月の出来事。そんな伝承がある故に、二月には多くの女性がシュセ神のように、甘味を作って男性に捧げるのが慣習となっている。その名を愛と感謝の祭日。
というわけで一月も終わり、グレイスウィルにも二月がやってきた。食料品を売る店は何かとこの伝承にかこつけて売ろうとしている。女性達は厳しく品定めし、目的の物を買おうと右往左往。火花散らす商いの熱気に、雪はたちどころに溶けていく。
「んでさ~、エリっちとリーシャンはチョコやんの?」
「……唐突ですね?」
「だって二月つったらこれしかないっしょ。チョコをあげるか、貰えるか!」
ある日の料理部。エリスとリーシャが椅子に座っていた所、先輩生徒ヒルメはさも当然のようにこの話題を吹っかけてきた。
「まあ……みんなやってるし、作ろうとは思ってます。あ、誰にあげるかは言いませんよ?」
「くそう、先手を打たれてしまった。リーシャンは?」
「勿論作ります。あげたい人がいるので」
「マジで? 誰よ?」
「……うーん。多分先輩の知らない人だと思いますよ?」
「そうなの? てことは四年生以外?」
「それすらもわかんなくて……」
「……ほぉ?」
そこでアーサーとルシュドが席に戻ってきた為、ガールズトークは中断されることになった。
「只今戻った」
「話し合い、始まった?」
「まだだよ。二人が来るの待ってようって話になってたからね」
「わかった。じゃあ話し合い、しようしよう」
「あいよー」
それから数日後、百合の塔のロビーでは寮生向けにビアンカから説明がされていた。
「え~、まあこの時期皆チョコレート作りたいよね! 部屋にある竈じゃ物足りないよね! だから共有の台所使いたいって子は多いと思うんだけど……もうプリントに書いてある通り! 先輩後輩関係なく順番は守って、変な物は入れない! 壊れるから!」
ビアンカがきびきびと説明をするのを、リーシャはプリントに時々配布された注意書きに意識を逸らせながら聞く。今日一緒に買い物をする約束をしていたエリスも、その隣に座って同様の説明を聞いている。
「以上、何かわからないことあったら私達職員に聞いてね! それじゃあ、解散!」
ビアンカがパンっと手を叩くと、女子生徒達は口々に私語を始め、そしてロビーを去っていく。
「……共用のキッチンとかあるんだね」
「各階に、つまり各学年ごとに一つずつね。何か上の学年の生徒が下にやってきて、後輩の台所占領するってことがよくあるらしいよ」
「そうなんだ」
「でもエリスには関係ないでしょ。専用の台所あるし」
「それがそうとも……共同生活やってる都合上、アーサーも使うってことだから……」
「……あ、そっかあ。バレる確率が極めて高いんだね」
「そうなの。だからそれをどうしようか悩んでて……」
口を動かしながらエリスは腕を組み、上に向かって伸ばす。
「まあいいか。設備があればどこでも作れるし、材料買ってから考えよーっと」
「最悪私の部屋に来ればいいよ。何なら一緒に共用のを使おう」
「おっけーおっけー、そういうことで~。んじゃあ買い物行こうか」
「えっと、ダイナミックマーケット……は何か違うな。お菓子の材料だけを取り扱ってるお店、多分あるよね」
「千もお店があればあるに決まってるでしょ」
所変わって第二階層の食料品街。エリスとリーシャはそこを歩きながら、商人が弁舌を振るう様を聞き流す。
「さあさあいらっしゃい! 毎年お馴染み愛と感謝の祭日! こちらにありますミルクチョコレートを贈って、大切な人に想いを伝えましょう!!」
「お菓子を贈るなら手作りに限る! 今ならこのタルト型が十二個入り二百ヴォンド!! これに溶かしたチョコレートを入れるだけでお手軽チョコタルトの完成!! さあさあ本日限りの限定特価だよー!!」
「こちら本店限定商品!!! この生チョコ手作りキットの材料を入れて混ぜるだけで、美味しい生チョコの出来上がり!!! ご自宅で贅沢な味わいを楽しみませんかー!?!?」
「チョコレートの競売が盛んな今日この頃に!! 本格的なチョコレートを味わうのはいかがでしょうか!! こちらキブルス島直送カカオ豆でございます!! こちらに牛乳と砂糖を入れまして、お好みの味のチョコレートを作りましょう!!!」
「……勢いがすごいね」
「ここまで騒がしいとは思わなかった……ん」
「どうしたのリーシャ?」
「あそこにいるのって……ゼラさん?」
「……あ、そうかも。声かけてみようか」
他の店より一回り大きく、そして長蛇の列が並んでいる店。その脇でじっと列を観察していたゼラに、二人は声をかける。
「ゼラさん、こんにちは」
「……おんやあ、誰かと思ったら一年生の。あんたらもチヨコレイトかい?」
「えへへ、そうですそうです。もしかしてゼラさんもですか?」
「んなわけあるかい。あたしは久々に友達が来てるもんだから、挨拶ついでに仕事を見ているのさ」
「友達ですか?」
「ほれ、あそこさ」
ゼラが顎でしゃくった先では、黄色の髪をぐるぐる巻き、派手な化粧でアクセサリーで着飾った妙齢の女性が弁舌を巻いていた。
「あらぁ~いらっしゃ~い! ふんふん、チョコレートの材料を買いに来たのね! ホワイトチョコレートなら左から二番目の棚にあるわよ! あら、ドライフルーツ? それならここに一缶あるから、持って行ってちょうだい! 遠慮はいらないわぁ~!」
「名前はトパーズ。シスバルドっていう商会の会長で、あたしとは古い付き合いなのさ」
「へぇ……会長さんとも知り合いだなんて、凄いですね」
「まあお互いこうなるとは思ってなかったがね……それよりも、ここでぼけっとしてていいのかい」
「え?」
「見ての通りここは大繁盛だ。何せ商会のドンが直接売りに来てるからねえ。早く行かないと何にもなくなっちまうよ」
「た、確かに。よしリーシャ、早く行こう」
ゼラに会釈をした後、エリスとリーシャは混み合う店内へと向かう。
それから一時間かけて、目的の物をかごに突っ込みまくる。
「……え~っと。これで全部だね。よし、改めて確認しよう」
「板チョコ六枚、卵四つ、製菓用砂糖一袋、粉砂糖五個パック、無塩バター一箱、小麦粉一袋。そして円型二つ!」
「みっしょんこんぷりーとなりぃ! さて、お会計……」
エリスは顔を上げ会計口の方向を探す。
そして発見したその時だった。
「うおおおおおおおおお!!!!!!」
「……ん?」
「何の声?」
二人は女性のものにしては、やけに気合が入って野太かったその声の、主を探してその場で立ち竦む。
「おおおおおおおお!!!! おおおおおお!?!?!?」
「きゃあっ!?」
エリスは後ろから何かに衝突され、正面に向かって勢いよく倒れ込む。
だが何とか手をついて倒れることができた。無傷で済んだのである。
「……っ~……いったあ……」
「……ふにゃあ……」
「エリス大丈夫!? あ、あの……!」
「ウェンディ! もう……貴女ねえ!」
リーシャが心配する間もなく、青緑の髪の長身の女性がずかずかと入ってくる。
「レーラせんぱぁい……? ついてきてたなんて、ぷらいばすぃいの侵害ですよぉ……」
「貴女が変なことしないかどうか心配してたのよ!? そしたら案の定! ほら、正面見なさい!」
「……ん?」
ウェンディが正面を見ると、そこにはやっとのことで起き上がったエリスとかごから飛び出た荷物を集めるリーシャの姿が。
そしてリーシャは、得体の知れない液体と物体が入った茶色の瓶を手に持ち凝視する。
「……あああああ!? そっ、それはうちの蝮!! ぶつかった拍子に落ちちゃった!?」
「……蝮? これ蝮なんですか……?」
「蝮より心配することがあるでしょう! 貴女それでも王国騎士なの!」
「王国騎士……!?」
エリスとリーシャは、小柄な彼女の姿と手元の蝮を見比べながら唖然とする。
「うわあああああああ申し訳ございません!!! このウェンディ、如何なる処罰も受けるつもりでございます……!!!」
「申し訳ありません! この子、張り切り過ぎると周りが見えなくなっちゃって……!」
「……」
「……」
衝突してきたことも衝撃だったが、二人にはそれ以上に気になることがあった。
「……えっと、それについては大丈夫です。特に怪我もしなかったので……それよりも、あの、一つ訊いてももいいですか?」
「はい!? な、何でしょうか!?」
「えっと……ウェンディさん、ですよね? あの、この蝮っていつも食べてる物……ですか?」
「ひゃいっ! それはですね、チョコレートの材料です!」
「……材料、ですか?」
「今年は食べると元気が出るチョコレートを作ろうと思ってまして!! 他にもですね、納豆やにんにくを買ってきてるんですよ!」
「そ、そうですか……」
貰った相手はご愁傷様、なんてことをエリスは考えたが、
「カイル君はストイックですからね! 食べ物にも滋養強壮を求める人ですから、そういう物を材料にするんです!!」
「ちょっと、何うっかり個人名出してるのよ!」
「あーっ!!! またやってしまいましたああああ!!!」
「……えっ!」
何といううっかりの功名。知っている人物が被害に遭うなら、看過することはできない。
「……ウェンディさん。今あなたが買ってきた食材は、チョコレートに入れていい物ではありません」
「え? ちょっ、どうしたのエリス?」
「このかごの中を見てください。ここに入っている物を使えば、美味しいチョコレートはできるんです」
「え、ええ……? でも、もう一回材料買うのは……」
「わたしと一緒に買い物しましょう。まだ時間はありますからお付き合いできます」
「うーん……でも大丈夫ですよぉ! 大体こっちからぶつかってきたのに、これ以上迷惑なんてかけられ「ねえ貴女達!? 買い物に付き合ってくれるなら、ついでに頼みたいことがあるのだけれど!?」
ウェンディがまごまごしている間に、レーラがずばっと切り込んできた。ここがチャンスだという表情でじっと二人の目を凝視する。
「え、えっと……それは、わたし達にできることでしょうか……?」
「勿論ッ! 日時は合わせるから、この子と一緒にチョコレートを作ってほしいの! 場所はこの子の寮で! 当然オーブンもあるわよ!」
「あ、場所の問題が解決しそう。でも……」
「無理なお願いをしているのは分かっているわ! だから今回の件も含めて、この子の給料から報酬を出しましょう! 銀貨八枚でどうかしら!?」
「八枚!? 料理を一緒にするだけで!?」
「うちの給料を勝手にいじくらないでくれますか先輩!?」
「ウェンディ……料理カースト最底辺の貴女には発言する権利はないのよ……さあどうかしら!?」
エリスとリーシャは顔を見合わせるが、間もなく速攻で首が縦に動いた。
「ええ、わかりました。じゃあ日時は……どうしようかリーシャ?」
「来週の日曜日、祭日の前日がいいかなー。作る予定のチョコが生物だからさ。時間は十時ぐらいでどうでしょうか?」
「それでいいわ! 来週の日曜日ね! 騎士寮の場所はわからないと思うから、騎士団管轄区の入り口で待ってて頂戴! あ、名乗り忘れていたけど私はレーラよ! 王国騎士で、この子の先輩なの!」
「そ、そうだったんですか……」
「そうだったのよ! さて、今から買い物ね!」
レーラはそう言った後、風もびっくりする速さで買い物かごを持ってきた。
「籠はここに持ってきたわ! さあ行きましょう!」
「は、はい!」
「おっしゃあああ! 成り行きで何かすることになっちゃったけど頑張るぞおおお!」
「気合の入れようが凄いですね! 流石王国騎士!」
それからは何事もなく、二度目の買い物を終わらせることができたのだった。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
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ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
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高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
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しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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