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第2章1節 魔法学園対抗戦/武術戦
第228話 おセンチなエリスちゃん
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……ごめんね
ごめんね……!
本当に、ごめんね……!
わたし、わたしっ……約束、したのに……×××××に誓って、何があってもあなたの力になるって……
でも、何も、できなくて……毎日、いたいことばかりで……わたし、見ていることしかできなくて……
本当に、馬鹿だよね……!!
×××××に選ばれたのに、わたし、何もできていない……!!
ごめんね、ごめん……
え……
……
……うん
わたしはそうだよ
わたしはぐにゃぐにゃなんかにならない。ぐにゃぐにゃに生きるなんて、わたしにはできない。ただ目の前のことを、まっすぐにこなしていくだけ
今までも、今も、これからも、ずっとわたしはそうして生きていく。×××××様みたいに、人を惹き付ける魅力もないし、××××様みたいに、人に指示を出せるカリスマもないし、××××××様みたいに、武術も魔法もできるわけじゃない。だけど――
誰かの話を聞いて、誰かの気持ちになって考えて、誰かのために行動することだけは……できるから
……
ありがとう、エリスちゃん……
(……)
(お姉ちゃん……?)
目を開くと、視界には木で作られた天井が目に入る。それから即座に、
「エリス!! 大丈夫か!?」
アーサーの心配そうな顔が入ってきた。
そこから自分が、今ベッドで寝かせられているということに、気付くのはそう遅くはなかった。
「……」
「……あれ。わたし、お城に……」
「そうだ、お前はティンタジェルの遺跡に行ってたんだ。でも城に入った時から様子がおかしくて、謁見の間に入ったら熱出して倒れて――」
「わんわん!」
「――カタリナとリーシャが一緒じゃなかったら、危なかったんだ。もしも二人がいなかったら……」
うなだれながら、アーサーはエリスの左手を掴む。
「済まなかった……オレも一緒に行けばよかったんだ……!」
必死に謝罪を繰り返す彼の手は、小刻みに震えていて。
「……ううん。大丈夫だよ」
エリスはその手を握り返す。すると彼は、はっとしたように顔を上げた。
「アーサーは悪くないよ。わたしもお城で倒れるなんて、思ってもなかったから」
「……」
「変な話だよね……何か特別な魔力でも満ちているのかな……」
窓の外に目を遣る。見えるのは複数の天幕と、やや曇り気味の空。位置と角度が悪いのか、あの城は視界に入らない。
「ねえ、アーサー」
「……何だ」
「あのお城に……聖杯があったんだよね」
ぽつり、ぽつりと話し出す。感じたことをそのままに。
「聖杯があって、多くの人がそれによって幸せに生活していたんだ。ティンタジェルは、名実共に世界の中心だった」
「……だがそんな力を、求めた人物がいた」
「ギネヴィア……」
エリスは視線を窓から離す。
「ギネヴィアは……聖杯の力を手に入れて、何がしたかったんだろう」
「さあな。だがどうせ碌でもないことだろう」
「……本当にそうかなあ」
アーサーから手を離し、指を組んでへその辺りに置いた。
「普通、昔の人ってさ。悪いことも良いことも、どっちも書かれるものじゃん」
「……」
「暴君と呼ばれる人でも、身内には優しかったとか。聖人と呼ばれる人でも、虐殺を繰り返していた過去があったとか。でも……ギネヴィアはそうじゃないんだよ」
「……」
「どの歴史書も、戯曲も、今までに呼んできた本みんなして、ギネヴィアのことを悪い人だって言ってる。聖杯の力を得ようとしたってだけで……理由とか人となりとか、何にも伝わってない」
「――もしかして、誰かがわざと悪評を広めようとしたんじゃないかなって」
「ううん……もしかしてじゃない。絶対そうだと思うの」
後者の一言は、どうして口から出てきたのか、どうしてそう感じたのか、自分でもわからなかった。
「……」
「仮に、ギネヴィアが悪人じゃなかったとしても」
「オレは彼女と相容れることは決してできないだろう」
それが存在意義だ。
彼の姿はそうとでも言いたそうで。
「……ごめんね。わたしの気持ち、聞いてもらっちゃって」
「いや……お前もお前で思う所はあるだろうから……」
うおおおおおおお
「……」
「……」
それから暫く互いに無言の時間が続く。
ふおおおおおおおおお
「おおおおおおおおおおわああああああああ!!」
淀んだ空気を打ち砕く、扉の開閉音。
「エリス!! ……エリス、エリス!! 大丈夫か!!」
そこにいたのは馴染んだ顔――
「お、お父さん……!」
「ユーリスさん……」
「って君もいたのかアーサー!! いやそんなことよりエリスだ!!」
ユーリスはベッドに駆け寄り、手すりを掴んで、エリスの顔を見つめる。
「運営の人に訊いたらエリスは寝込んでるって聞いてさ!! それで来たんだ!!」
「えっと……」
「試合、観に来てくれたんですか」
アーサーの問いに対して、彼は一瞬眉を吊り上げたが、
「うん――そうだよ! 今まで興味なかったけど、エリスも――アーサーも、入学していることだし!? アヴァロン村から近いし、折角だからって思ってね!」
「……はぁ」
「二年生の試合が延期になったこと、聞いてるよ。残念だったかもしれないけど、実はその時僕は行商に出かけててね! だからあまり大きな声では言えないけど、延期になってラッキー!!! だぜ!!!」
「そこだけ大きな声で言うんだ……あ、お母さんは?」
「広場の方にいるよ。今運営本部に屋台の申請出してる。ペンドラゴンさんが手塩にかけて育てた苺を布教するチャンスだ!」
「苺……あっ、そうだ!!」
エリスは急に起き上がると部屋を見回し、カレンダーを探す。
「ねえアーサー、最終戦ってまだだよね? 明日が最終戦とか、そんなことはないよね!?」
「あ、ああ。今日は二十六日目、お前が倒れてからそんなに日は経っていないぞ」
「よかった~……!!」
ほっと胸を撫で下ろす姿には、先程あった城への郷愁は見られなくなっていた。
「アーサー、わたしもう大丈夫だよ。ありがとう。だから訓練戻っていいよ」
「しかし、まだ不調があるんじゃないか?」
「だいじょーぶ! さあさあ、あと二日なんだから、時間は残されてないよ! あとお父さんは残って!」
「お、おおう?」
「……」
アーサーはユーリスの目をちらっと見た後、頭を下げた。
「……よろしくお願いします」
「まあ頼まれなくても、勝手によろしくするつもりだったよ?」
「……では、オレはこれで。エリス、まだ養生しろよ」
「うん、わかった!」
「ワンワン!」
カヴァスを連れて、アーサーは保健室を後にする。
「……何考えてるんだい。エリス?」
「えへへ~。アーサーと二年生のみんなにサプライズ!」
「それはお父さんにも手伝えることかい?」
「むしろお父さんの力が必要! あのね……」
「……うんうん、成程。よーし、それならお父さんも頑張るぞ~」
「ありがとう! 後はカタリナとリーシャ、ファルネアちゃん達も誘おうかな……? 他にも色んな人に声かけてこなくっちゃ!」
「ははっ、熱心だなあエリス。積極的なエリスを見られてお父さん嬉しいぞ!」
ごめんね……!
本当に、ごめんね……!
わたし、わたしっ……約束、したのに……×××××に誓って、何があってもあなたの力になるって……
でも、何も、できなくて……毎日、いたいことばかりで……わたし、見ていることしかできなくて……
本当に、馬鹿だよね……!!
×××××に選ばれたのに、わたし、何もできていない……!!
ごめんね、ごめん……
え……
……
……うん
わたしはそうだよ
わたしはぐにゃぐにゃなんかにならない。ぐにゃぐにゃに生きるなんて、わたしにはできない。ただ目の前のことを、まっすぐにこなしていくだけ
今までも、今も、これからも、ずっとわたしはそうして生きていく。×××××様みたいに、人を惹き付ける魅力もないし、××××様みたいに、人に指示を出せるカリスマもないし、××××××様みたいに、武術も魔法もできるわけじゃない。だけど――
誰かの話を聞いて、誰かの気持ちになって考えて、誰かのために行動することだけは……できるから
……
ありがとう、エリスちゃん……
(……)
(お姉ちゃん……?)
目を開くと、視界には木で作られた天井が目に入る。それから即座に、
「エリス!! 大丈夫か!?」
アーサーの心配そうな顔が入ってきた。
そこから自分が、今ベッドで寝かせられているということに、気付くのはそう遅くはなかった。
「……」
「……あれ。わたし、お城に……」
「そうだ、お前はティンタジェルの遺跡に行ってたんだ。でも城に入った時から様子がおかしくて、謁見の間に入ったら熱出して倒れて――」
「わんわん!」
「――カタリナとリーシャが一緒じゃなかったら、危なかったんだ。もしも二人がいなかったら……」
うなだれながら、アーサーはエリスの左手を掴む。
「済まなかった……オレも一緒に行けばよかったんだ……!」
必死に謝罪を繰り返す彼の手は、小刻みに震えていて。
「……ううん。大丈夫だよ」
エリスはその手を握り返す。すると彼は、はっとしたように顔を上げた。
「アーサーは悪くないよ。わたしもお城で倒れるなんて、思ってもなかったから」
「……」
「変な話だよね……何か特別な魔力でも満ちているのかな……」
窓の外に目を遣る。見えるのは複数の天幕と、やや曇り気味の空。位置と角度が悪いのか、あの城は視界に入らない。
「ねえ、アーサー」
「……何だ」
「あのお城に……聖杯があったんだよね」
ぽつり、ぽつりと話し出す。感じたことをそのままに。
「聖杯があって、多くの人がそれによって幸せに生活していたんだ。ティンタジェルは、名実共に世界の中心だった」
「……だがそんな力を、求めた人物がいた」
「ギネヴィア……」
エリスは視線を窓から離す。
「ギネヴィアは……聖杯の力を手に入れて、何がしたかったんだろう」
「さあな。だがどうせ碌でもないことだろう」
「……本当にそうかなあ」
アーサーから手を離し、指を組んでへその辺りに置いた。
「普通、昔の人ってさ。悪いことも良いことも、どっちも書かれるものじゃん」
「……」
「暴君と呼ばれる人でも、身内には優しかったとか。聖人と呼ばれる人でも、虐殺を繰り返していた過去があったとか。でも……ギネヴィアはそうじゃないんだよ」
「……」
「どの歴史書も、戯曲も、今までに呼んできた本みんなして、ギネヴィアのことを悪い人だって言ってる。聖杯の力を得ようとしたってだけで……理由とか人となりとか、何にも伝わってない」
「――もしかして、誰かがわざと悪評を広めようとしたんじゃないかなって」
「ううん……もしかしてじゃない。絶対そうだと思うの」
後者の一言は、どうして口から出てきたのか、どうしてそう感じたのか、自分でもわからなかった。
「……」
「仮に、ギネヴィアが悪人じゃなかったとしても」
「オレは彼女と相容れることは決してできないだろう」
それが存在意義だ。
彼の姿はそうとでも言いたそうで。
「……ごめんね。わたしの気持ち、聞いてもらっちゃって」
「いや……お前もお前で思う所はあるだろうから……」
うおおおおおおお
「……」
「……」
それから暫く互いに無言の時間が続く。
ふおおおおおおおおお
「おおおおおおおおおおわああああああああ!!」
淀んだ空気を打ち砕く、扉の開閉音。
「エリス!! ……エリス、エリス!! 大丈夫か!!」
そこにいたのは馴染んだ顔――
「お、お父さん……!」
「ユーリスさん……」
「って君もいたのかアーサー!! いやそんなことよりエリスだ!!」
ユーリスはベッドに駆け寄り、手すりを掴んで、エリスの顔を見つめる。
「運営の人に訊いたらエリスは寝込んでるって聞いてさ!! それで来たんだ!!」
「えっと……」
「試合、観に来てくれたんですか」
アーサーの問いに対して、彼は一瞬眉を吊り上げたが、
「うん――そうだよ! 今まで興味なかったけど、エリスも――アーサーも、入学していることだし!? アヴァロン村から近いし、折角だからって思ってね!」
「……はぁ」
「二年生の試合が延期になったこと、聞いてるよ。残念だったかもしれないけど、実はその時僕は行商に出かけててね! だからあまり大きな声では言えないけど、延期になってラッキー!!! だぜ!!!」
「そこだけ大きな声で言うんだ……あ、お母さんは?」
「広場の方にいるよ。今運営本部に屋台の申請出してる。ペンドラゴンさんが手塩にかけて育てた苺を布教するチャンスだ!」
「苺……あっ、そうだ!!」
エリスは急に起き上がると部屋を見回し、カレンダーを探す。
「ねえアーサー、最終戦ってまだだよね? 明日が最終戦とか、そんなことはないよね!?」
「あ、ああ。今日は二十六日目、お前が倒れてからそんなに日は経っていないぞ」
「よかった~……!!」
ほっと胸を撫で下ろす姿には、先程あった城への郷愁は見られなくなっていた。
「アーサー、わたしもう大丈夫だよ。ありがとう。だから訓練戻っていいよ」
「しかし、まだ不調があるんじゃないか?」
「だいじょーぶ! さあさあ、あと二日なんだから、時間は残されてないよ! あとお父さんは残って!」
「お、おおう?」
「……」
アーサーはユーリスの目をちらっと見た後、頭を下げた。
「……よろしくお願いします」
「まあ頼まれなくても、勝手によろしくするつもりだったよ?」
「……では、オレはこれで。エリス、まだ養生しろよ」
「うん、わかった!」
「ワンワン!」
カヴァスを連れて、アーサーは保健室を後にする。
「……何考えてるんだい。エリス?」
「えへへ~。アーサーと二年生のみんなにサプライズ!」
「それはお父さんにも手伝えることかい?」
「むしろお父さんの力が必要! あのね……」
「……うんうん、成程。よーし、それならお父さんも頑張るぞ~」
「ありがとう! 後はカタリナとリーシャ、ファルネアちゃん達も誘おうかな……? 他にも色んな人に声かけてこなくっちゃ!」
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