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17.無知は罪なり そのに
しおりを挟む「御門と縁切った記念」
「わぁー!ありがとう!!」
目の前に差し出された小さなケーキを見つめる。俺の目は傍から見ても分かるほど輝いているに違いない。
チョコレートケーキにラズベリーやクランベリーがお洒落に乗せられたそれは、可愛くて素敵で嬉しくなる。
ヴー、ヴー、と一定間隔で永久にスマホ端末がローテーブルの上で震えるが、俺もハルもそれはスルーだ。絶対御門様(様付けは妥協)なので。
早速頂きますの挨拶をして頬張る。口の中に甘すぎないビターな甘さが広がって……あぁ、幸せの味。頬を抑えてニヤニヤと口角を上げる俺を、ハルはじっと穏やかな無表情で見つめてくる。
ここ数週間、ずっと御門様からのメッセージでの粘着が続いていたのだ。いい加減鬱陶しいし彼からのメッセージの通知の度にトラウマを抉られるのが嫌だった為、ハルと相談して呼び出させるように仕向けた。
もし大人数で来られたら、と正直不安もあったのでハルには辞書を装備してもらったが、御門様にもカスほどとは言えど誠意というものは存在したようだ。
「今日はお祝いだ~~!!!」
ハルの家から届いた瓶入りの林檎ジュースをグラスに注ぎ、乾杯をする。自然と緩む口角はそのままに飲み干せば、これまた幸せの味がした。ハルも穏やかに目を細めている。
もう一度グラスに注ぎ直し、2人でごくごくと飲む。送って下さったハルのご家族に感謝しないとなぁ。
「ハルは、ご家族と仲良し?」
「うん。俺末っ子だから甘やかされる」
「末っ子なんだー。何人兄弟?」
「3」
「おー、多いねぇ」
物凄く溺愛してきてウザイ、と呟くハルの顔が可愛くてニコニコと笑っていれば、ペシリと軽く頭をはたかれた。「ナツはどうなの」とグラスを傾けながら質問する彼を見上げ、俺も家族を思い浮かべる。
連れ戻されて以来、メッセージでの連絡しか取れていない家族。何故メッセージだけなのかと言うと、電話が繋がらないから。証拠の残るメッセージでは再び助けを求められないからだろう。
「弟が1人いるよー。可愛い」
「へぇ。帝華来るの」
「来ない来ない。今年が中学受験の年だけど、俺の様子みて『絶対入らない』って決心してた」
「賢いな」
「でしょ」
俺の話を聞いてドン引きしていた可愛い弟は元気だろうか。彼からもメッセージは来ているが、理事長の監視下で彼に万が一興味を持たれては敵わないので、当たり障りのない会話しか出来ていない。
へら、と笑って「会いたいなぁ」と呟けば、ハルは優しく頭を撫でてくれた。
恐らく、夏季休暇中も帰れないか厳重な監視下に置かれるかのどちらかだろうから。
体育座りに顔を埋めた。
「……あ、委員長に呼ばれてる」
「え、大丈夫?」
「ちょっとまってて」
ふと、ハルの方の端末が痙攣した。どうやら監査委員会の事情らしく、ハルは少しだけ慌てた様子で個室に入っていく。既に一般生徒の仲間入りをしている俺は彼の委員会でのやり取りを聞き出すことは禁止されている為、大人しくその様子を見守った。
チョコレートケーキを丁度食べ切った頃に、ハルが部屋から出てくる。
「どうだった?」
「緊急招集だって。歓迎会関係」
「そっか。着いてく?」
「ん、ロビーまで」
こういう時、断られないのって地味に嬉しいよね。分かる人いるかなぁ。
ニコニコと笑って頷き、2人ともスウェット姿から最大限部屋から出られる格好に着替えた。シャツとパンツ姿で部屋を出る。
「なんでしょーね」
「……今回、特に監査の仕事は無いはずだけど」
「増えたとか?」
ポツポツと言葉を交わしつつ、早足で廊下を歩く。すれ違いざまの生徒達から視線がビシビシと刺さるが、いつものことなので放置。強いて言うなら風呂上がり間もないことが原因だろう。
トタトタと階段を降り、一応急いでますよー位の速さでロビーに急ぐ。
この時間は既に寮からの出入りは禁止されている為、緊急会議などは玄関ロビー横にあるらしい応接室で行われるとのこと。以上ハル情報。
ロビーに到着し、応接室をハルがノックする。中から「入ってー」という誰かの声がし、ドアがカチリと解錠された。
「じゃあ、俺は部屋で待ってますねぇ」
「ありがと」
「とんでもなーい」
「帰りは大丈夫?」
「問題ありません。夏樹様はこの八束が命を賭けてお送り致しますので」
いつの間に背後に……?
当然のように俺たちの背後に佇んでいる八束センパイを胡乱げに見つめていると、何故か顔を真っ赤にされた。まぁ、1人で戻るよりは危険は少ないだろうけども。
「御門様にはお気をつけ下さいませ」
「はぁ」
目の前を先導する八束センパイの言葉に、俺は目を細める。適当に頷いて見せれば、彼はチラリと俺を振り返って言葉を続けた。
どうやら、御門様は俺と袂を分かったつもりは毛頭ないらしい。相変わらず「反抗しやがって」と俺を矯正するつもりでいるとの事だ。
「殺そうとしたのですが、向こうの隊長に厳重に守られておりまして……膠着状態です」と、サラリと親衛隊間の『戦争』になっている事が明らかにされた。
部屋の前に立ち、距離を取る八束センパイ。俺はスマホ端末を取り出してスキャナーに翳した。
「では、お休みなさいませ、夏樹様」
「はーいお休みなさーい」
90°のお辞儀で見送ってくれる彼を放置して扉を閉めた。
ハルが帰ってきたら、一緒に寝よ。
「ーーッ、ガハッ、ッゲホッ」
「いい加減調子に乗りすぎたとは思わなかったかァ?春名」
自由の効かない身体を思いっきり蹴り抜かれ、壁に叩きつけられる。肺の空気が全て外に押し出される衝撃に咳込めば、目の前の悪魔はケラケラと愉快げに嗤う。
何とか腹や急所は防御するが、そんな春名の様子すら此奴は気に入らないらしい。男は前髪を掴み上げて無理矢理視線を合わせると、酷薄な漆黒を細めた。
「ーーッ"、ぅ」
「昼はよくも遊んでくれたなぁ?お前等如きが俺をやり込められるとでも思ったか?」
目の前の男ーー御門のこの残酷な笑みに、ナツは言葉を失っていったのだろうか。ここにナツまでもが呼び出されなくて、本当に良かった。
あまり機能しない表情筋でせせら笑ってやれば、右頬に拳が飛んだ。ブチブチッと、衝撃で髪が抜ける嫌な音が嫌に耳に響く。
ーーガンッ
「ぅ、あ」
もう一度今度は肩を蹴り飛ばされ、壁に後頭部が激突した。くらりと目眩がして、目を瞑る。すると何を勘違いしたのか御門は愉しそうにケラケラ笑った。
此奴が、ナツを傷付けたのだ。生徒会という生徒を守る立場に君臨しながら、我欲だけを満たしてナツのような生徒を虐げて。
澱む視界を瞬きで覚醒させながら、春名は鼻を鳴らす。もう一度、今度は春名の横腹を蹴り飛ばそうと構えていた御門がピタリと足を止めた。
「っ、は、そんなん、だから、捨てられんだよ馬鹿がーーーーッ"ぐっ、」
「調子乗んなっつってんだろうがァ!!!」
ーーガァン!!!
額を掴まれて壁に叩きつけられ、息が詰まる。
チカ、チカ、と目の前が明滅する。あぁ、死ぬかも。ふらりと崩れ落ちた所を今度は横腹を蹴られ、咳き込む。
助けなんて求めてやるものか。尚も気力を振り絞って睨み上げれば、御門はピクピクとこめかみを震わせる。またもや拳を構えて馬鹿の一つ覚えの様に殴ろうとするのを、耐える為に身体に力を入れ。
「こら司。あんまりうちの子に乱暴しないで」
「…………これはこれは」
ガチャリ、と応接室の扉が開いて、俺を呼び出した張本人とーーーー
「ーーーーッ」
「可愛い姿になってるじゃないか、春名」
あ。
不味い。今、こわがってる。
目を見開いて固まった春名を見て、静かに微笑む男達。素直に離れた御門の横を通り過ぎて目の前に立つと、彼等は好き勝手軽薄に喋り出す。
「ふふ、どうしたの義春。痛かったねぇ」
「お前には怪我が似合うな」
「確かにねぇ。夏樹くんといい」
ナツ。
ナツに、何するつもり。
掠れ切った声でうわ言のように漏らす春名を、2人は愉悦を存分にたたえた目で見下ろしてくる。
「少し眠っているといい」
翳される手をーー
「夏樹も直ぐに連れてきてやる」
ピーンポーン。
「……ハル?」
雨は、止まない。
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