元会計には首輪がついている

笹坂寧

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23.風紀委員会 そのさん

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「ブフゥッ」
「ちょっと汚いんですけど」


 階下の騒動から悠々と抜け出して隣に腰掛けた男を見つめ、1年B組所属の風紀委員幹部こと秋風 雅秋あきかぜ まさあきは溜息を履いた。
 隣に座った男は、響き渡った元会計の嫌い宣言に噴出し、机に突っ伏して笑っている。ブルブルと痙攣する身体を退屈な気分で見下ろしていれば、そんな雰囲気を察したのか、彼は秋風の頭をサラリと撫でる。

 その手を黙って受け入れていれば、ムクリと起き上がった男ーー現風紀委員長、真宮 煌覇しんぐう こうはは賑やかな階下を見下ろし、その黄金を怪しく細めた。


「良い啖呵だなァ。こりゃ夏樹の親衛隊も張り切る」
「迷惑です」
「八束が上手くやんだろォ。彼奴はこっちに気取られる程馬鹿じゃねェ」
「……ふーん。随分信用してるんですね」
「嫉妬かァ?」
「は?違います」


 委員長に倣って階下を見下ろせば、ピキリと固まってしまった御門会長補佐と、スッキリした様子でハルと手を繋いでいるーー元会計が視界に入った。
 


「……フッ、」
「なんですか」
「いんやァ?かわいいなァお前ら」
「は?」


 訝しげに眉を顰めると、カラカラ軽快に笑った委員長がもう一度秋風の頭を撫でてくる。
 「春名取られちゃったもんなァ?」と至極愉しげに覗き込んでくるその顔を睨みつければ、彼はもう一度カラリと笑った。

 この人にはこれ以上反抗しても無駄なので、秋風はもう一度階下に視線を移す。
 硬直した生徒会役員を放置してそそくさと帰りの準備を始める2人は、元会計のタメ口にビビり散らかしている一般生徒すら目に入っていない様子。

 彼等の中で、完全に2人っきりの世界が創り上げられている。知らずギチリと歯を悔い縛れば、隣からもう一度笑い声が聞こえた。


「元々はお前が仲良くしてたのになァ?」
「…………」
「羨ましいかァ?」
「……羨ましいというか」


 なんで?

 ずっと繋がれたままの手を見つめる。

 最初は、元会計が居座るその場所には秋風がいたはずなのだ。なのに、何時からかハルは己から距離をとり、「アキ」とすら読んでくれなくなった。
 何か彼の気に触るようなことをしただろうか、と秋風の周囲を彷徨く信者達に探らせた事もあったが、ハルが終ぞ口を割ることはなく。完全に一匹狼と化したハルに自分だけがしつこく絡む事で、何とか傷つけられた自尊心を補っていたというのに。

 この学園から逃げ出しておいて、当たり前のようにハルの隣に居座る元会計。「夏樹様」なんて呼んではみたものの、秋風は彼と仲良くする気など毛頭なかった。幾ら彼がえげつない美貌の持ち主だとしても。


 だと言うのに。


『……へー、風紀委員会に俺がですかー?』


 委員長に事前アポまで取って貰う厚遇を受けて風紀委員室に訪れた元会計は、それに萎縮するでもなくへらりと笑った。いっそビクビクしようものなら溜飲が下がったと言うのに。
 加えて、隣に当たり前のように座るハルも、秋風の苛立ちを誘った。秋風には殆ど身体を触らせなかったのに、元会計には自分から手を繋ぎに行くなんて。

 それが、生徒会の所業によるものだという報告は入っているけれど、ムカつくものはムカつく。被害しか受けていないのに、あのハルが元会計に依存しているのも。
 暴力と射精管理で、そんなに怯えるような男だったのか、とガッカリする気持ちも多少はあった。

 実際は、それ以上にその現場に居合わせたかったっていう気持ちの方が大きい。可哀想は可愛い。これこそ真理だと思うのだ。

 
『俺ァお前が欲しい。欲を言えば春名も欲しかったが、監査が放さねェからなァ』
『なんでですかー?先輩方、俺の事お嫌いじゃないですかー』


 委員長からの問い掛けにも、身内でもないくせに臆することなく答える度胸が妬ましい。飄々としたその様子が、「お前達とは次元が違うのだ」とでも言いたいようにすら思えて不愉快だった。
 しかし、委員長はそんな彼に寧ろ気を良くして、楽しそうにニヤニヤ笑って。久しぶりに身内以外の人間に対してあんな純粋な笑顔を向ける委員長を見て、益々イライラした。


『ま、ちったァ本気で考えてくれや』
『あははー』
『ぜってェ考えてねェだろ』
『だって風紀委員会が元生徒会を誘う意味がないじゃないですかー。……あ、内部分裂でも、と思ってらっしゃるならぁ、は違うと思いますー』


 にこにこ、にこにこ、と微笑みながらも、明確な敵意をもって此方を見る元会計を睨み返したのは、委員長の周囲に立つ秋風達幹部のみだった。委員長は尚更楽しそうに『そういうんじゃねェさ』と微笑み、彼らの繋がれた手を見つめて。
 

『信じろたァ言わねェが、俺はお前を気に入ってんだ。中等部の時からな』
『そーだったんですかー?ありがとーございますー』
『おうおう信じてねェなァ。……まァ、考えてくれやァ』
『あははは、はーいまたお返事いたしますねー』


 終わった瞬間、雑談もなくスっと立ち上がって去っていった元会計の背を見つめ、『ダメかァ』とちょっとーー否、かなり落ち込んでいた委員長を思い出し、秋風はもう一度顔を歪めた。

 

「……元会計の何がそんなに良いんですか」
「夏樹様呼びはやめたのかァ?」
「本人いないので。ハルも、何がそんなに……顔は確かに最高ですけど」
「面食いだなァ相変わらず」
「顔面こそ至宝ですよ」
「生徒会なんてイケメンの宝庫じゃねェか」


 階下で未だに固まっている御門会長補佐達を指さす委員長の顔があまりに楽しそうで、秋風は溜息を吐く。「それ以前に敵なので」と告げると、彼は満足そうに笑った。
 ……どうせ、信じてなんていない癖に。

 とっくにハル達がいなくなった大食堂内は、ざわざわと混乱に包まれている。元会計のタメ口もそうだが、元会計と御門会長補佐との明確な敵対に、を談義しているのだろう。
 とはいえ、御門会長補佐の方が絶対的に有利には違いないが。


「ま、ハルが僕に泣き付く展開になれば上々ですね」
「欲に忠実で何よりだァ」


 まぁ、顔面の強い元会計とハルが慌てる様子を傍観できると思えば、特別悪い展開では無いかもしれない。強姦とか大怪我とかにならないギリギリの所までなら大丈夫だろうし。
 流石に強姦とかされる寸前では助けますよ、と声を掛けると、委員長は何故か苦笑した。

 それきり食事に向かってしまった委員長は、まるで元会計のように硬直した微笑を浮かべている。その様子に秋風が首を傾げていると、委員長はチラリと秋風を一瞥した。


「秋風」
「はい」
「……あーー。説教じみた事は言いたかねェが、失う前に気付けよ」
「……失う?」
「話が出来る内に話しとけってことだァ。思い返して後悔しても遅いからなァ」


 要領を得ない静かな忠告。
 普段の委員長からは想像もつかないような静謐な声色に、自然と息を呑む。呆然と聞き入っている秋風の頭を一撫ですると、彼はゆるりと口角を上げた。

 その微笑が、絶望の海の底まで潜ったような悲惨なものに見えて。


「い、いんちょう?」
「……悪ィなァ。…………俺が夏樹を誘ったのァ、奴がだったからだ」


 転機……?
 首を傾げる秋風の髪の毛を梳きながら、委員長は尚も硬い笑みを浮かべている。

 委員長には、そんな笑顔は似合わないのに。何時だって余裕綽々といった様子で悠然と高尚に笑む彼が、秋風の理想なのに。
 

「……分かりました。ハルと……また、暇な時にでもちゃんと話します」
「おう。夏樹ともなァ」
「はい?何故」
「委員長命令」
「はぁ……」


 どうやら本当に気に入っているらしい。

 一体いつそんなに元会計を気に入る瞬間があったのだろうか。委員長と元会計が話している姿を見たのなんて、それこそ委員長が中等部3年、元会計が2年だった時の仕事上でのやり取りと、今回の勧誘以外では全くないのだが。
 ハルといい委員長といい、元会計は人を誑し込むのが随分と上手いらしい。そういう意味では、理事会との寄付金や予算交渉等も担当していたその手腕は流石と言うべきか。

 全然納得も理解もできなかったが、委員長をこれ以上落ち込ませたくは無いので、取り敢えず頷いておく。


「分かりましたよ……」
「そりゃァ良かった」
「あの、どうぞ」


 ついでに己のデザートであるプリンを委員長の前に滑らせる。



「ありがとなァ」


 ようやく何時もの笑顔に戻ってくれた。
 
 
 
 
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