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27.依存性友愛 そのに
しおりを挟む「なんで僕が夏樹様に手を出すんだ!?」
「それはホントにそうですねぇ」
「面食いだから」
「それはホントにそう」
然り、と頷く秋風君は、ハルの目が益々剣呑なものになっているのに気付いているのだろうか。頭を抱えて溜息を吐いている風紀委員長を一瞥しつつ、俺も溜息を吐く。
そろそろ茶番も終了で良いだろう。俺としてはこのまま終わっても良いのだが、それだとハルの気持ちの整理がつかない。秋風君のことは別にどうだっていいが、彼が何時まで立っても嫌な記憶としてハルの中に残るのは不愉快だ。
俺にとってハルが唯一無条件に信用出来るようになった存在なのだから、ハルにとっての俺もそう在るべきだと思わないか?
それには、目の前の男が大分邪魔だ。個人的にはここで完璧に仲違いしてくればこれ幸い。
俺は愛想良く秋風君に笑いかけ、言葉を紡ぐ。
「ハルに何か聞きたいことや言いたいことがあるのではー?」
「……聞きたいこと……言いたいこと……」
「ですです。…………逆にハルはありますか?」
秋風君は相変わらず無言で悩み抜いているため、ハルに笑いかけ、発言を促す。ハルは俺の顔をじっと見て暫く思案すると、チラリと秋風君を見つめた。
こうして秋風君が悩んでいる度に、ハルからの好感度は下がっていくだろう。悩むということは、ハルが彼によって傷付いた事実に気づいていないということになるのだから。
「…………秋風は」
「アキな」
「秋風は、俺と話してどうしたいの」
「ど、どうしたい……?」
「俺は秋風が俺に何か言いたいことでもあるのかと思ってた」
優しいねぇハルは。何故傷付いた側のハルがここまでお膳立てしてやらねばならないのか。途端に白けた気分になって、俺は八束センパイへと視線を向ける。
指で、秋風君を示す。
首を指差す。
ヒラヒラ、と、切るように動かす。
『此奴、殺しますか?』
なんてメッセージ性の分かりやすいジェスチャーだろう。ちょっとだけ悩んでから一時停止のジェスチャー。返しておく。
あ、風紀委員長が溜息を吐いた。あの人そろそろ胃に穴でも開くんじゃないだろうか。全然良いけど。
秋風君はウロウロと視線をさ迷わせ、時折ハルをチラリと見ては俯く、という行動を繰り返している。
「…………僕、」
「うん」
「なんかした?」
「ぁ"?ーーぅ"ゔんッ、失礼」
危ない危ない。物凄く低い声が腹から出て、慌てて咳払いをする。ハルはピクリと眉を動かしたものの、俺の頭を撫でるだけに留めて。じ、と秋風君を見つめるその瞳は、ただただ無感情だ。
一言文句でも言ってやりたい程腹立たしいが、この問題に俺は実際殆ど無関係。手が出そうだけど我慢するしかない。お前、机を挟んで座って良かったな。
そんな俺の憤怒を知ってか知らずか、秋風君はオロオロと慌てた様子で再度口を開く。
「や、違う。ちが、違わないのか?ただ僕、本当になんでハルが怒ってるのか分かんなくて」
「怒ってるというより呆れただけ」
「だからそれがなんで!」
「……ちょっとは自分で考えてはー?」
「は?」と不愉快そうに俺を睨み付ける暇があるのならば、ハルの言葉を真剣に受け止めればいいのだ。なのに自身の感情に任せてそこに目を向けないから、こうなっている。
このまま2人のペースで対話を続けても平行線な気がしてきた。俺が司会進行して言葉を引き出してさっさとお互い共通認識を持ってもらった方が楽なのでは。
そこまで考えて、俺はギュッと眉を顰めた。ーー俺が呼ばれた理由、それか。
はぁ、と息を吐けば、ハルが小声で謝ってくる。謝るのはハルじゃなくていいんだよ。目の前のこいつだこいつ。
「このままうだうだ話を続けてもお互い時間の無駄だと思うのでぇ、俺が司会進行してもー?」
「ん、お願い」
よし、ハルの許可も貰ったことださっさと終わらせて明日の準備をしよう。実際のところ、準備といっても殆ど終わっていて精々朝使うものを最後に入れるくらいなのだが、それはさておき。
俺はハルと秋風君の間の所謂お誕生日席に腰掛け、手を叩く。胡乱げに此方に視線を移す秋風君を見つめ、俺は微笑んだ。
「君はハルが自分から離れた理由が知りたいという認識でいいですかー?」
「あ、うんそう」
「ハルの答えはいかがですかー?」
「自分で考えたら?」
「ふむふむ、秋風クンはー、なんとなく思い当たる節などはありますかー?」
ちったァ自分で考えろ。
そんな意思を込めて首を傾げれば、秋風君はグッと息を呑んだ。山伏色の美しい瞳をウロウロとさ迷わせ、どうやら必死に考えているらしい。
最初の巫山戯た態度で貫くようなら、ハルの一友人として仲直りをあらゆる手段を使って阻止しようと思ったが。ハルの様子も見ている限りその必要は無さそうだ。
あーあ、つまんな。ハルの事じゃなかったら絶対無視してる。そんな風に考えてしまう俺は、性格が悪いのだろう。
結局俺も、御門や風紀委員達と大差ないくらい、他人の為に動けない人間なのだ。
目を伏せて自嘲していると、間に座った事でちょうど向かい合う形になった八束センパイ達と目が合う。生憎スマホ端末はハルに取られたままなので彼等とやり取りする事はできないが、何となく応援の気配は感じた。
へらり、と適当に微笑んでおく。
「…………僕が、ハルの愚痴を聞いて風紀を動かなかったから」
「-20点」
「なっ、夏樹様にそこまで言われるー?」
「ちゃんと話したいなら巫山戯るのやめて貰えますー?」
「……」
愚痴。
そう当たり前のように告げた秋風君は、己の言葉がどれ程の威力を伴ってハルを傷付けているか、想像すらしていないのだろう。
怖かった思い出を、辛かった出来事を、愚痴なんて表現で片付けるその浅はかさに、こんな人間がどうやって気付くのか。結局はハルが折れて説明しなければ、相手はその視点すら持っていないのだから気付けない。
-20点でも相当甘い採点だ。
「ハル、勝手に採点してすみません。今のを聞いてどーでした?」
「終わりでいいかなって」
「待って待って待って!!なんで!?ちゃんと考えるって」
「キミにその猶予を与える間にハルは何度傷付いてもいいとー?」
「傷付く?なにに……?」
あぁ、これ以上は話にならないな。
俺は顔を歪め、立ち上がる。直ぐ様ハルも立ち上がったから考えは一緒なのだろう。
これ以上、微かな期待を裏切ってハルを傷付けるのはやめてくれ。俺が窓の外を見て『終わりです』と口パクすれば、風紀委員長が頭を抱えた。
ガラリ、と扉を開けて中に入ってくる風紀委員長は、目を白黒させて狼狽えている秋風君の頭を撫でてハルを見下ろした。
この人、ハルよりも背高いのか。いやそれはどうでもいいな。
「時間取らせて悪かったなァ。もうちっと此奴自身に考えさせるべきだった。すまねェな」
「謝罪で済んだら警察は要らないんですよ」
「……それは皮肉かァ?」
「そう取られるのならそうなんじゃないんですかー?」
俺はニコ、と笑いかけてハルと手を繋ぐ。そして、動揺し切って思考停止してしまったらしい秋風君を見つめる。
無意識のうちに、俺も彼に期待しているところがあったのかもしれない。この学園の風潮に染まりきった役職持ちの生徒が、外部からの刺激との関わりの中で変わる姿を見たかったのかも。
その姿を見て、自分が帝華に戻ってきている事が少しでも無駄じゃなかったのだ、と思いたかったのかもしれない。
何処までも甘い己を嘲笑う。ハルがギュッと手を握ってくれたけれど、胸が空くような空虚は無くならなかった。
「……結局何も変わらない」
「…………夏樹、ちょっと話せるかァ」
「お断りしますー。風紀は信用ならないことを再認識したので」
秋風君に目を向けて鼻で嗤ってやる。しかし、反抗してくるかと思った彼は存外落ち込んでいるらしく、しゅんとしたままそれを受け止めた。
……こっちが悪者みたいじゃないか。
あぁ、胸糞悪い。
ギリ、と歯を食い縛る音が教室中に響いた様な錯覚を起こす。もう、この人達と1秒でも同じ空間にいたくなかった。
何よりも、勝手にハルの事情に自分の気持ちを重ねて落ち込んでいる己が汚くて。そんな自己中心的で我儘な自分から逃げてしまいたかった。
風紀委員長は暫く俺の目をじっと見つめて何事か考えていたが、「わかったァ」と頷く。
「悪かった春名、夏樹」
「なんの謝罪ですか」
「傷付けたろォ」
「いえ、諦めの方が大きいです。ナツを傷付けたことは謝って欲しいですが」
「あァ、本当に悪かったな、夏樹」
五月蝿いな。
良い人ぶるなよ今更。
「…………いえいえー!此方こそお忙しい中同席まで頂いてありがとーございますー」
入り込めると思ったら大間違いだ。
ヘラ、と笑ってみようと思ったけれど、上手く笑えなかった。
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