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31.新入生歓迎会 そのさん
「ーー成程?」
目の前に土下座する八束センパイを見下ろし、俺は静かに呟く。
2時間程仮眠をして、15時半。俺達はルームサービスでパフェとスフレパンケーキの紅茶セットを注文した。それで、俺達の為に一心に働いてくれている八束センパイも一緒に食べるのはどうか、と言う話になったのだ。
で、連絡して1時間。16時半になって漸く現れた八束センパイは、部屋に入れた途端無言で土下座をした。
「しょーじきに理由を言ってくれてありがとーございます」
俺の言葉にバッと顔を上げた八束センパイは、しかし俺達の無表情を見るや再度ガンッと音を立てて大理石の床に頭を打ち付けた。
「夏樹様のご連絡を無視するなど…………腹をも着る覚悟です」と声を震わせる先輩だが、全然分かっていない。
美しい頬は赤く腫れ、口元は切れて血が滲んでいる。制服のシャツは寄れて腕部分が裂け、刃物のようなもので切られた痕跡さえある。加えて、恐らくあちこちを殴打されたのだろうーーここに移動するまでの身体の動きは酷く鈍かった。
ハルはトラウマを刺激されたのか、ぎゅっと俺の腕を掴んでいる。
「その同室者呼んでください」
「な、夏樹様……?」
「今すぐ」
「き、危険です!自分の不手際でご迷惑をお掛けしてしまい大変申し訳ございません。お願いですから危険なことはーー」
「なんにも分かってない」
俺は湧き上がる憤怒を八束センパイにぶつけないように必死に堪えつつも、八束センパイの言葉を遮る。
1時間連絡無理されたことを怒っていると思われている。俺が八束センパイを心配して、こんなボロボロの姿で現われられてどれ程驚いたかなんて、全く思い付きもしないのだろう。
その事が、酷く辛いし悔しいし、申し訳ない。俺とハルがトラウマを植え付けられたように、八束センパイは俺の庇護を求める事が出来ないのだ。
俺の独占欲が、未だに『役に立つから』という理由だけのものだと思われている。でも、仕方の無いことだ。
全てを投げ打って帝華から離れることを選んだのだから。
俺は顔を歪め、呆然と固まる八束センパイの頬の傷に触れる。痛々しく腫れたそこは、指輪か何かついていたのだろう。重なるようにして付いた擦過傷から血が滲んでいた。
「俺とハルは、先輩に何かあったんじゃないかって心配したんです」
「そ、」
「しますよ。こんなに親身に関わってくれるセンパイを心配しないわけなくないですか」
「っ……」
ぶわ、と涙を浮かべる八束センパイ。
俺は巷で『天使の微笑み』と名高いらしい微笑みを浮かべ、八束センパイの目の前にしゃがみこんだ。上目遣いでコテン、と首を傾げ、俺は言葉を紡
がず、八束センパイの制服ポケットからスマホ端末を奪った。センパイは慌てて俺に手を伸ばすが、俺に乱暴も出来ず手をうろうろさせるのみだ。
俺は端末をセンパイの目前に翳して顔認証でロックを外し、ベッドの上まで戻る。
「どれですか」と冷たい声を意識して呟けば、漸く観念したらしいセンパイはしょんぼりと肩を落とした。
「…………『ゴミその8』です」
「なんちゅー名前付けてんですか」
「どうかご無理はなさらないでください」
「それはこの人によります」
メッセージを開けば、何とも物騒な会話がポツポツと続いていて。どうやらかなりコンスタントに連絡を取りあっているらしいことが分かった。
とはいえ仲が良い訳では無いようだ。向こうの言葉は優しいが、八束センパイからは90%暴言が放たれている。あとは電話。
成程、会話を残してはならない相手のようだ。
俺は八束センパイが止めようとするのを気に止めず、迷いなく通話ボタンを押した。
ーーprrrrrrr……prrrrrrr……
『ーーどしたん』
「名前は?」
『…………ほぉん、要も忠犬ハチ公みたいになっとんなぁ』
涼やかな方言混じりの声。
聞き覚えがあり過ぎるそれに、俺は無表情で八束センパイを見下ろした。ダラダラと冷や汗を流して真っ青になった八束センパイは、いよいよ抵抗の意志を無くして項垂れている。
俺はギリ、も力を込めて端末を握り直し、再度通話へと意識を集中させる。
チラリとハルを一瞥すれば、ハルは勝手知りたるとばかりに頷いて端末を開いた。
『静まりなやぁ夏樹はん。どうもお久しゅう』
「俺のに手を出してくれたと伺いましたが」
『手は出しとらんわ。殴っただけやん』
「それを一般では手を出したって言うんだよ!!」
『そうなん?犯す方かと思たわ』なんて呑気に呟く男。俺は何も無い空間を睨み付けつつも、己を落ち着けるためにもう一度ため息を吐く。
ハルに救急箱で応急処置をされているセンパイは、オロオロと俺を見上げつつ手当てをするハルに恐縮つつ、忙しない。
ハルが俺に向けて翳した端末には、親衛隊副隊長から『直ぐに向かいます』という連絡が来ていた。頷いてそれに応える。
『まぁ、俺もちょうど夏樹はんに連絡取りたかった所やから助かったわ』
「は?」
『交流会、俺と夏樹はん一緒のグループやで。はよ降りてきぃ』
「…………は?」
『夏樹はん部屋どこよ。要使いもんならんし迎えいくわ』
そうしたのはお前だろうが。
と言いたいところだが、確かに時計を見ると交流会まで残り10分と迫っていた。
ドアベルの音がなり、ハルが親衛隊副隊長を伴って入室してくる。副隊長の少年は、此方にぺこりと頭を下げると口パクで『交流会へ向かって下さいませ』も告げた。
俺は「いりません」とだけ告げて通話をぶち切り、扉近くに立っているハルに近付く。八束センパイは俺達を置いてこの部屋に居座ることに抵抗を示していたが、副隊長の「動けないでしょう」と言う言葉に再度力を失った。
「八束センパイ、どうか交流会終了まではこの部屋に居てください。しっかりと休んでから、また俺達の為に過ごしてください」
「…………畏まりました。ですが、どうかご無理はなさらないでくださいませ。もしも何かがあった場合、自分にご連絡ください」
「もちろん」
ようやく安堵したらしい八束センパイを俺達のベッドに寝かせ、間もなくして眠りについた彼の頭を撫でる。
貴方も、もう十分俺の中で大切な人になっちゃってるんですから、もっと自分を大切にしてください。そんな気持ちを込めて彼を見つめていると、背後に控えていた副隊長が声を掛けてきた。
「夏樹様、もうまもなく交流会が始まります。どうか春名様と共に4階大ホールにご移動下さい。各階に親衛隊の戦闘要員を派遣しておりますので道中は安全です」
「……八束センパイをお願いします」
「拝命致しました。命に変えても隊長をお守り致します」
「命には変えないで下さい」
そんな簡単に、命を代償にしないでくれ。じっと彼を見つめてそう告げると、彼は90°にお辞儀をして「拝命致しました」と再度頷いてくれた。
「お久しゅう、夏樹はん」
「謝罪して下さい」
「なにによ」
「理解は求めないんで取り敢えず謝ってもらっていいですかー京極センパイ」
京極、と呼ばれた男は涼やかな笑みを浮かべ、「すまんかったわ」と適当に呟く。それをしれっと録音してボイスメッセージとして八束センパイに送っておいた。直ぐ様既読がつき、『副隊長です。感謝致します』と返事が来た。
京極センパイはユルリと口角を上げ、「相変わらずやなぁ夏樹はん」と楽しそうに頷いている。
「偶然ですかー?」
「んー?やと思う?」
「ちっともー。俺を襲いますかー?」
余裕のある笑みを浮かべて彼を見上げれば、彼は益々口角を上げて俺を見詰める。
涼し気な一重の目は彼をミステリアスで魅力的に見せ、多くの人間を魅了する。しかし、魅了された人間の末路を俺は知っているから。
「襲うわけないやんなぁ?
歓迎会中は要の代わりにお守りしたるよ」
そう言って、スリ、と頬を撫でてくる京極センパイ。
大ホールに数多く設置された円卓に各々着席した生徒達が、遅れて入ってきた俺達をじっと観察しているのがわかる。その中ーー上座に、俺にこの人を差し向けた張本人だろう御門がいるのを見つけ、俺は。
ーーぎゃぁああああああ!?!?!?
「わぁい、ありがとーございますー」
ギュッと彼に抱き着き、満面の笑みを浮かべた。
生徒達の絶叫が大ホールに響き渡る。
背後からはハルの殺気が一心に浴びせられているが、説教はどうか後程聞かせて欲しい。
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