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32.新入生歓迎会 そのよん
生徒達からの注目を集めながらも、俺と京極センパイは真っ直ぐに所定の席に向かう。ハルとも別れてある1つの円卓に辿り着くと、そこには既にもう1人の生徒が着席していた。
笑顔で会釈し、俺も腰掛ける。
「交流会では、同じ卓に着席している1年生、2年生、3年生が共に時間を共有し関わりを持つことで、新入生が頼れる先輩を増やすことを目的としていますーー」
司会進行を務める副隊長のナレーションを片耳にしながら、俺は同じ卓に座るセンパイ方をじっと観察した。
そんな俺を見て何を思ったのか、京極センパイは微笑んだ。
「ほな、自己紹介でもしましょか」
「うん、そうだね」
3年生のセンパイもこれまた容姿は整っているけれど、正直見覚えはない。俺もお願いしますー、と頭を下げる。すると、京極センパイは「自分から行きましょか」と手を挙げてくれた。
「2年F組の京極 八重言います。F組の学級委員長とぉ、F組の『総代』も務めとります」
そう言って会釈をする京極 八重センパイ。八束センパイをボコボコにし腐ったこの野郎は、F組を束ねる長ーーつまりF組のトップだ。
『総代』とはF組のみにある特別な役職で、1年、2年、3年のF組の全員で最も強い人間が選ばれる。不良グループの総長的な。
渾名は『スパダリ』。気に入らない人間には無関心だが、気に入った人間にはとにかく優しいし尽くしてくれるセンパイだ。
しかしその反面、自分が気に入っている人間が気に入らない行動を起こした際には、もう手が付けられない程怒り狂い相手が言うことを聞くまで追い詰める闇属性の持ち主。八束センパイはどうやら余っ程この人に気に入られているらしい。
ちなみに、中等部の頃、俺はこの人に何度か気まぐれで助けて貰ったことがある。本当に気まぐれで助けてくれない所か加担されそうになった事もあるのだが。
当時は全く理由が分からなかったのだが、先程漸く分かった。どうやら八束センパイへの褒美or八つ当たりだったらしい。
俺はヘラりと笑みを作って「よろしくお願いしまーす」とだけ返す。彼は細目を更に細め、ユルリと優雅に笑った。
「折角の機会やし、夏樹はんにも俺の連絡先あげるわ」
「有難くいただきまーす」
「素直な子は好きやわぁ」
へら、と笑って端末を取り出し、連絡先を交換する。八束センパイに下手に手を出されない為にも、俺も適度に彼と関わりを持ち2人の距離感を探る必要があった。
すると、そんな俺の思惑を知ってか知らずか、京極センパイはクルリと水が入ったグラスを揺らし口を開いた。
「要とは家同士の繋がりやなぁ」
「すっごくあっさり教えてくれるんですね…………
ん?京極センパイって……」
「おん。京極組やなぁ」
「つまり?」
「要もこっちの人間やさかい、中等部で夏樹はんの親衛隊作る言いよった時にはこっちは滅茶苦茶荒れたで」
京極組とは、西部一帯を統括している極道だ。過激派としても名高く、時折街中での銃撃戦やら抗争やらがニュースにチラチラ上がるらしい。
八束センパイの普段のあの過激っぷりは、どうやら裏での教育の賜物のようだ。
裏社会の人間である八束センパイが、中等部で家や派閥の同意なく主を見つけたと言って、あわや大戦争だったのだ、と京極センパイは楽しげに語る。
俺の預かり知らぬところで、本当に色んな事情が絡んでくる。まぁ、それで八束センパイを手放したりはしないのだけれど。あの人はもう俺のなので。
「夏樹はん、こっちで意外と有名人なんやで」
「はははそーですか」
「ふ、ふ、療養中も、要が迎えに行くまではちゃんと守っといたったんやで?感謝してや」
ピク、と俺の手が震えたのを見つめ、京極センパイはケラケラと嗤う。
裏の人間には、何もかもお見通しという訳だ。これは益々F組行きにならなくて良かった。完全に玩具にされるじゃないか。
3年生のセンパイは、そんな京極センパイと俺の会話を興味深そうに微笑みをたたえて聞いている。あらかた京極センパイの挨拶も終わったと思いチラリとセンパイの様子を伺うと、その視線を的確に受け取ってくれたセンパイはニコリと優しく笑ってくれた。
F組総代を前にしてここまで冷静でいられるなんて、絶対に只者じゃない。
俺?さっきから震え止まんない。だって、気まぐれでこの人に襲われかけてる過去があるんだもの。
センパイは京極センパイの方も伺い、目線だけで何事か対話して頷いた。
「次は私の番かな?」
「せやなぁ」
「私は神楽 凛月。3年S組で、元生徒会副会長です。夏樹君の代とは直接関わりはないからはじめまして、ですね」
ゑ?
ポカン、と固まる俺をニコニコと可愛らしい笑顔で見つめたまま、神楽センパイは紅茶を1口啜った。京極センパイもニヤニヤ楽しそうに俺達の様子を観察している。
大ホールはガヤガヤとしていて、交流会はおおいに盛り上がっているらしい。俺はこの群衆の中からハルを連れてさっさと帰りたくなった。
もうディナーとかルームサービスのでいいので帰らせてください。
とはいえ本当に帰る訳にも行かないので、俺はグッと姿勢を正して2人を見つめた。
「1年B組の夏樹 颯夏ですー。中等部では生徒会会計を務めてましたー。よろしくお願いしまーす」
「よろしくお願いします」
「仲良うしよや」
「ところでー、これって本当にランダムなんですかねー?」
「そう思いますか?」
同じ答え帰ってきたよ……。まぁ、実際のところ過激な親衛隊員と対象者を組ませられなかったり、過激派の親衛隊を持つ対象者と一般生徒を組ませたりすると面倒事が色々起こるため、制限は色々と課されるのだろう。
とはいえ、御門達生徒会の作意が分かりやすすぎる。
溜息を吐いて「ご迷惑おかけしますー」とだけ告げれば、俺が正しく状況を読み取ったのがわかったのだろう。2人もにこやかに頷いてくれた。
ピアスに触れ、俺も微笑み返す。
「凛月はんと喋るんも久しぶりな気ぃするわぁ」
「そうですね……引退してからは本当に無職ですし。八重君が総代になるなんて友人として誇らしいですね……時の流れを感じます」
「爺やん」
仲良くーー何故か小声で交流している2人をぼんやりと見つめ、俺は首を傾げる。どうやらS組の生徒達は基本的にF組を見下していると思っていたのだが、この2人はかねてから交流があったらしい。
生徒会副会長とF組なんて、珍しい組み合わせだ。中等部1年で何も分かっていなかった時期とはいえ、それでも耳に入りそうなくらいには噂が流れそうなものだけれど。
「お知り合いだったんですかー?」
「んー?」
「お知り合いでもお友達でもないですよ」
…………お家事情か。
こんなに多くの生徒がいる場で、極道と名家の人間が友人や知り合いを名乗ることは出来ないらしい。
「そーでしたかー」とだけ返して微笑むと、2人は何故か俺をじぃっと見つめてきた。
え、なんだ。
「私、どうやら噂話に踊らされていたみたいですねぇ」
「悪くないやろ?」
「えぇ。賢い子は好きですね」
「はは……」
何やら頷きあっている2人に適当に笑い返しておく。嫌われるよりは気に入ってもらえる方がいいーーと言うには、特に京極センパイが怖すぎる。
籠の中から出た鳥を追って追って追って捕まえて閉じ込めて二度と出れないように躾て愛するタイプのスパダリ(?)に気に入られるなんて。
本能的な恐怖が込み上げてきて、腕を摩る。八束センパイはよく耐えていると思う。ーー八束センパイも強いからか。是非とも今後も頑張って欲しい。
京極センパイと神楽センパイは、ヘラヘラと笑っている俺を楽しそうに見つめている。そこに何かを言おうとして躊躇っているような雰囲気を感じて、俺は唇を噛んだ。
存外使えそうだから利用しようって?お断りだ。
「夏樹はんはさぁ、真宮の誘い乗るん」
「乗ると思いますー?」
「ふ、ふ」
彼等と同じ返しをしてやれば、京極センパイは益々楽しそうに口を隠して笑う。
「思っとらんけど要がな?」
「あー……」
八束センパイが京極センパイの怒りを買った理由が分かってきた。思わず呆れたような声を漏らしてしまい、苦笑する。神楽センパイもクスクスと微笑ましげだ。
風紀委員とF組は所謂天敵。そこの長と自分のお気に入りが手を組んだとなって、ブチ切れない京極センパイではない。
俺を守ってやるなどと言って八束センパイを唆してペアを組み、ボコそうという魂胆だ。俺が言うのもなんだけど、八束センパイ、向けられる好意に鈍感すぎる。
京極センパイからすれば、天敵を頼りつつ自分もキープされている感覚なのかもしれない。
「……八束センパイ、俺のせいであんまり余裕ない感じなんでー、許してあげてくれませんかねー」
「ふ、ふ、許すと思っとる?」
「…………はぁ……神楽センパイ……」
「可愛らしい嫉妬ですね」
「可愛らしい…………」
頭を抱えて机に項垂れる俺を、京極センパイはニヤニヤと笑って見下ろしている。「可愛い嫉妬やんな?」と囁きかけてくるのを手で払うようなジェスチャーで返せば、益々楽しげに笑い声を上げた。
「何を求めてますー?」
「夏樹はんが聞くん?」
「俺のものなので」
「…………まぁ、せやなぁ?」
ピリ、と一瞬張りつめた空気に、周辺に座る生徒達が息を呑んだ。流石は本業。
ゆったりと涼やかな笑みを浮かべた京極センパイは、真っ直ぐに俺を見つめた。
「無理なもんは無理やでって言っといてや」
「………………」
「そう簡単になんも変わらんのなんて、夏樹はんが1番知っとるやろ?
なら、現状維持が1番やん」
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