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タクシーで家に帰ると由尭くんはいなかった。
帰ったのだろうな、怒ってたし。
疑われるようなことはしていない。
でもくだらない理由で隠し事をしていたことは事実だ。
こんなことになるなら、腹が出てきたからジムに通っていると早く言うべきだった。
愛した人がいなくなるのが怖くて恋することに臆病になってた。
由尭くんはそうじゃないと信じきれなかったのは俺だ、俺が悪い。
失うのが怖いのは好きだから。
昴くんに言われないと気づけないなんて情けない。
由尭くんを失いたくないと思ってる。
受け止めてくれる、それを信じよう。
暗い部屋で気持ちを落ち着かせる。
大丈夫、信じろ。
手が震える。
寒くはないのに震える。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……
時間をどれだけ有しても震えは止まらない。
待とう、俺がちゃんと動けるまで。
自分を信じられるまで。
どれくらい時間が経ったのだろう。
自分に待ちくたびれた。
待てないせっかちは俺だな。
ふっと力が抜けた瞬間、震えが止まった。
スマホを取り出し、由尭くんの番号を見つける。
連絡先アプリを使わなくても通話履歴ですぐに出てくる。
四ツ木さん。
ビジネスライクな名称に胸が痛む。
電話をかける。
呼び出し音が鳴っている。
こんな夜中だ、迷惑なだけだ。
それでも電話を切ることが出来ない。
今、繋がって欲しい、繋がりたい……
スマホの向こうで由尭くんを呼び出すその音が、やけに大きく感じる。
そろそろ留守電に切り替わってしまう。
その前に、繋がってくれ……
ガチャガチャ!
玄関で音がする。
「一絃さんっ!」
由尭くんが飛び込んできた。
スマホが鳴ってるのもそのままに、俺に向かって真っしぐらに飛びつき、きつくきつく抱きしめる。
「ごめんなさい、一絃さん。
あなたを信じなくてごめんなさい。
くだらないヤキモチ焼いて苦しめてごめんなさい」
「由尭くん……」
俺の方が……俺が……
謝りたいのに言葉が出てきてくれない。
「一絃さんがいてくれるだけでいい。
一絃さんが怖くならないように俺が守るから……
だから……俺の傍にいて……失いたくない……」
出てきてくれない言葉の代わりに背中に回した手でギュッと抱きしめる。
「弱くて……臆病でごめん……
由尭くん、ごめん……」
「一絃さん……」
由尭くんが泣きながらキスをする。
「そんなのじゃ足りない」
由尭くんの首に腕を回す。
「俺を満足させてよ……」
「俺でいいの?」
「由尭くんがいいんだ」
「一絃さん……」
帰ったのだろうな、怒ってたし。
疑われるようなことはしていない。
でもくだらない理由で隠し事をしていたことは事実だ。
こんなことになるなら、腹が出てきたからジムに通っていると早く言うべきだった。
愛した人がいなくなるのが怖くて恋することに臆病になってた。
由尭くんはそうじゃないと信じきれなかったのは俺だ、俺が悪い。
失うのが怖いのは好きだから。
昴くんに言われないと気づけないなんて情けない。
由尭くんを失いたくないと思ってる。
受け止めてくれる、それを信じよう。
暗い部屋で気持ちを落ち着かせる。
大丈夫、信じろ。
手が震える。
寒くはないのに震える。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……
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それでも電話を切ることが出来ない。
今、繋がって欲しい、繋がりたい……
スマホの向こうで由尭くんを呼び出すその音が、やけに大きく感じる。
そろそろ留守電に切り替わってしまう。
その前に、繋がってくれ……
ガチャガチャ!
玄関で音がする。
「一絃さんっ!」
由尭くんが飛び込んできた。
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「ごめんなさい、一絃さん。
あなたを信じなくてごめんなさい。
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「由尭くん……」
俺の方が……俺が……
謝りたいのに言葉が出てきてくれない。
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だから……俺の傍にいて……失いたくない……」
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「弱くて……臆病でごめん……
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「一絃さん……」
由尭くんが泣きながらキスをする。
「そんなのじゃ足りない」
由尭くんの首に腕を回す。
「俺を満足させてよ……」
「俺でいいの?」
「由尭くんがいいんだ」
「一絃さん……」
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