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### 第4話:魔王と騎士団、仲良く正座する
しおりを挟むハジマリの村の平穏は、金属の擦れる音と、威圧的なファンファーレによって破られた。
「神聖国家セントラルが第一騎士団である! 大地を癒やす『聖女』を保護しに参った! 速やかに娘を引き渡せ!」
村の入り口に現れたのは、白銀の鎧に身を包んだ百人の騎士たち。その先頭には、仰々しい法衣を纏った神殿の司教が立っていた。
対するは、アーシェを背中に隠し、武器を構えるバルカスたち村人。そして――。
「……ほう。我が庭に土足で踏み込み、勝手な理屈を並べるとは。人間の強欲さには恐れ入るな」
地を這うような低い声。魔王ベルフェゴールが、一歩前に出る。
その瞬間、周囲の空気が凍りついた。騎士たちの馬が泡を吹いて倒れ、司教の顔が真っ青になる。
「ま、魔王……!? なぜ、伝説の魔王がこんな辺境の村に!」
「貴様らが『聖女』と呼ぶ娘は、この島の宝だ。……消えろ。さもなくば、その首を神殿に送り返してやろう」
一触即発。魔王の魔力が膨れ上がり、騎士団が恐怖で剣を震わせる。
まさに、異世界ファンタジーらしい大決戦が始まろうとした、その時。
「――もーー! うるさーーいっ!!」
両陣営の真ん中に、小さな影が割り込んだ。アーシェである。
彼女は両手を広げ、魔王と司教を交互に睨みつけた。
「ベルおじさんも、ピカピカの鎧のおじさんたちも! なんで仲良くできないの!? せっかく今日は、カボチャの収穫祭なんだよ!?」
「アーシェ、下がっていろ。こいつらは貴様を連れ去ろうと――」
「だいたい、ベルおじさんも怖い顔しすぎ! お客さんが来たら、まずは『こんにちは』でしょ!」
アーシェが地面をドン、と踏む。
その瞬間、彼女を中心に**『全域沈静化(ホーリー・ピースフル・フィールド)』**が発動した。
「え……?」
「力が……抜ける……?」
魔王の禍々しい魔力も、騎士団の戦意も、霧が晴れるように消えていく。それどころか、あまりの心地よさに、全員の心が「あ、なんか争うのバカバカしいな……」という悟りの境地に達してしまった。
「はい、全員そこ! ぺったんこして!」
アーシェが指差した先。
そこには、いつの間にか村の広場に用意された大きなゴザが。
「……え、あ、はい」
真っ先に毒気を抜かれた魔王が、されるがままにゴザの上へ。
それを見た騎士団も、アーシェの背後に控える「例のピカピカに浄化された白銀ドラゴン(元・黒炎竜)」に睨まれ、震えながら隣に並んだ。
* * *
数分後。
呪われた島の中心で、世にも奇妙な光景が広がっていた。
最強の魔王と、神聖国家の誇る騎士団長、そして権力欲にまみれた司教が、横一列に並んで**「正座」**しているのだ。
その前を、アーシェが腕を組んで行進する。
「いい? ベルおじさんは、すぐに力を使おうとするのがダメ! 強い力は、カボチャを運ぶ時に使いなさい!」
「……うむ。以後、気をつける」
「ピカピカ鎧のおじさんたちは、勝手に人の家に来て『引き渡せ』なんて失礼! お手紙を書いて、手土産を持ってくるのがマナーだよ!」
「も、申し訳ございません……聖女様……」
アーシェの説教(物理的な浄化マナ付き)は、彼らの魂の汚れを根こそぎ洗い流していく。
司教に至っては「私はなんて愚かなことを……権力など、このカボチャの輝きに比べれば塵に等しい……」と涙を流して改心し始めていた。
「わかればよろしい! じゃあ、みんなでおやつを食べようね!」
アーシェがパチンと指を鳴らすと、エルフのジニエたちが運んできたのは、山盛りの「カボチャのプリン」だった。
魔王と騎士団。
かつてこれほどまでに平和に、同じ食卓(ゴザ)を囲んだことがあっただろうか。
島を覆っていた呪いの霧は、アーシェの笑い声と共に、また少しだけ晴れていくのだった。
(ふふん、これぞ女神の統治術! ……まあ、女神っていうより、幼稚園の先生みたいになってる気もするけど……ま、いっか!)
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**【設定資料:マナ・プロセス覚書④】**
* **全域沈静化:** アーシェが無意識に放った「平和を願う」マナが、周囲の脳内麻薬(セロトニン)を強制活性化させたもの。敵対心が消滅するため、ある意味で攻撃魔法より凶悪。
* **カボチャのプリン:** アーシェが適当に混ぜただけだが、神界の供物レベルの味がする。食べた騎士団の数名が「もう国に帰りたくない、ここで農家になりたい」と言い出す副作用がある。
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