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1.この世界の真理
エマがイヴを選んだ理由
しおりを挟むしかし、これでアイツのお墨付きももらったことで、イヴという少女は連れ帰っても良いということになった。
「イヴ」
「は、」
「一緒に来い」
自分が1番関わっているはずなのに全く話についていけないイヴ。混乱したまま、腰を抜かして立てないでいるとレオに単刀直入に命じられた。
「ま、待ってください!なんでそいつなんですか?そいつは罪人の娘で、見た目だって地味で性格だって暗くて」
横入りするソフィアに、口が悪くなるガイア一行。さっさとイヴだかいう戦利品を連れ去って、こんな地からおさらばしたいのに、この金髪娘はまだ食い下がらないのか。
「うるせぇな、何勝手に喋ってんだよ、この女」
「不快だから、撃って良いですか?」
「良いだろう、許可する」
アベルとジゼルのやり取り。最後はグレンの声色を真似したアベルが返事をした。
「それ、俺の真似のつもりだったら殺すぞ」
ふざけるアベルを叱るグレン。
レオはさっきからずっと俯いたままのイヴを見下ろしていた。
イヴは顔を上げられなかったのだ。
実のところ、さっき目覚めてから老婆の話を聞いている最中ずっとこの調子で、チクチク痛い程の視線を感じてずーっとこうやって俯いていたのだった。
ソフィアに言われたことは全部本当のことだ。
なんでエマという人は私なんか選んだんだ。
私は、罪人の娘で暗くて地味で、決してこんなレオとかいうすごい人の対になるような人間じゃない。
昨日の転落事故の前、もしかして私が強く「黙れ」と願ったことがソフィアを苦しめたのかもしれない。
未遂だったから良かったものの、もし、もっと残酷な願いをしていたら?
思わず怖くなって息が苦しくなる。
その様子に面白くないレオの顔つきが曇る。こうやって彼女は、ずっとここで虐げられ泣かされてきたんだろう。
そしてエマという、うさんくさいが聖女の始祖だっていう奴がこいつを選んだ理由もなんとなく分かってしまった。
こいつはどれだけ、いじめられて傷ついても、報復や復讐を考えることがなかったのだろう。こうやって、ウジウジすることはあっても人への優しさを失うことなく、自分よりもまず誰かに手を差し伸べることができる。
どんなに過酷な試練を与えられても、清らかな魂を維持できていたことが選ばれた決め手だったんだろう。
本当に優しい善人なのだろう。
同じような人間を知っているだけに、こういう人間は皆から優しくされて欲しいし、邪悪や脅威から1番遠い優しい世界で幸せに穏やかに生きるべきだと思っている。
それなのに、彼女がおかれている状況はひどいものだ。
こんなに見ていて胸クソ悪いもんはない。少しは言い返せばいいものの、むしろ素直に納得して反省しているフシさえある。
苛立ちは頂点に達し、また下唇を噛み締めて俯くイヴの顔を掴んで上を向かせた。
「おい、顔あげろ」
「や、やめ、不吉な目だって」
「は?」
「め、めがね、してない、から。目が合うと、不幸なことが、」
何を馬鹿なことを、ここで言われたことを鵜呑みにして、人に危害を与えてはいけないと、頑なに人と目を合わせないようにしてきたのか。
自分を傷つける人間の言葉を信じ、自分をいじめる相手を不幸にさせないようにと守るために。呆れた。
頑として目を背ける目の前の少女。
本当に、なんて馬鹿で愚かなんだろう。だけど、少し、ほんの少し情がわく、愛しいと感じてしまう。
守ってやりたい、と自分の庇護下において、少しでも優しい世界に身を置かせてやりたい、と。
「また、さっきのしてやろうか」
「……っ」
「お前はこれから一生下を向いて生きていくのか?」
「で、でも」
「これのどこが不吉な目だ。お前は綺麗だよ」
驚いて思わず顔を上げて、レオの顔を見た。顔がみるみる赤く染まっていく。瞳は涙に濡れて、更に透明度が増す。キラキラ光る目から今にも溢れそうな雫。
彼の言葉が信じられなくて呆けていると、「来い」と言われて、自分の腕を掴まれて軽々しく持ち上げられてしまった。
「あ、え、っ」
頭が追いつかないイヴ、もう何が何だか分からない。この人は、突然綺麗だって言うし、その他にも、エマだかの後継だとか、この人の対だとか。
私は一体どうしたら良いの。このまま引っ張られるまま、ついていけばいいの。
そんな戸惑うイヴを察したのか、唐突にレオが腕を離した。イヴに選ばせたかったのだ。
突然腕を離され、それはそれでまた戸惑う。無理矢理にでも連れ去ってくれた方が楽だった。
きっと自分がどうしたいのか決めて良いんだ。
だけど、今まで自分がしたいように選べるような生き方をしてこなかったから、いざ自由を与えれても、どうしたら良いのか分からない。
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