転生勇者を観察していたら、不可解だらけの日常が始まった件

Y-z

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第1話 勇者がやってきた日

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春の光が差し込む講堂。
入学式で並ぶ新入生の列の中、ざわめきは一人の少年に集まっていた。

「ねぇ見て! あの子でしょ? 勇者なんだって!」
「異世界から転生してきたんだってさ。すごすぎ!」

皆の視線の先――短い黒髪の少年が立っていた。
名前は神谷 蓮。
女神に召喚され、この世界に転生した“勇者”だと紹介される。

蓮は慣れない制服に身を包み、ぎこちなく微笑んでいた。
一見堂々として見えるが、その手は小さく震えている。

「へぇ……これが勇者」

私は、白霧ルカ。
人間観察が好きな、ごく普通の一年生。
こうして人の仕草や表情を眺めては、黒革のノートに書き留めるのが趣味だ。

そっとノートを開き、羽ペンを走らせる。

『新入生、神谷 蓮。異世界から転生した勇者。
周囲は期待に沸く。
けれど笑顔は少し引きつっている。』



「勇者さま、本当に魔王を倒したんですか?」
「どんな魔法が使えるんですか?」

講堂を出たあとも、生徒たちの質問攻めは止まらない。
蓮は少し困ったように笑いながら答えた。

「……魔法は、あまり得意じゃないんだ」

一瞬、周囲がざわついた。
「えっ、勇者なのに?」
「でも剣はすごいんでしょ!」
すぐに空気は持ち直し、再び喝采が起こる。

私は、ひとり眉を寄せた。
勇者なのに、魔法が不得意?
それはただの弱点かもしれない。
……けれど、英雄の肩書きにそぐわない“ほころび”にも思えた。

隣のカレンが声を潜めて叫ぶ。
「ちょっとルカ!今の聞いた!? 勇者なのに魔法苦手ってありえる!?」
ユウリは腕を組み、冷静に言った。
「矛盾だな。だが本人がそう言った以上、事実だろう」

私はノートに一行加える。

『勇者。魔法は不得意と自ら認める。
英雄の姿と現実との間に、すでに食い違いがある。』

――不可解な日常は、この瞬間から始まった。
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