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しおりを挟む「ごめんねフラウ。会話のできない君とは結婚できないよ。婚約破棄させてもらうね」
申し訳なさそうな顔で告げたのは、この国の王太子であり、私の婚約者。
あ、もう『元』婚約者になるのかしら。
見目麗しい顔を、私のせいで悲しげにさせてしまいごめんなさい。
婚約破棄、納得です。
貴方のせいではありません。
むしろよく頑張ってくれたと思います。
私の心を開こうと、何かと気を遣ってくれました。
でもね、ダメなんです。
誰もが羨む知識と魔法の能力と剣の技と美貌を持つ私。
だけどたった一つだけ足りない力があって。
自分でも、わかっているんです。
前世でも縁がなかったその力。
『コミュニケーション能力』
その力が無いと、世の中生きていくのが難しい、ということ。
それは前世でも今世でも共通ですね。
前世、日本という国のブラック企業といわれる場所で乙女ゲームを製作する仕事をしていた私。
ブラック企業とは人間を酷使する、恐ろしいところ。
だからただでさえコミュニケーションを苦手とする私には、休みたい、なんて言えなかった。
具合いが悪くても、たった一人の家族である父が亡くなっても。
ある日28日ぶりに自宅に帰れた私は、過労のため倒れ孤独死を迎える。
生まれ変わったこの世界は魔法と魔物が存在する世界。
前世の記憶を持ちながら転生して、しかも美貌と魔物でさえ倒せるチート能力を与えられ、俺TUEEE状態で人生順風満帆かと思った。
聖女扱いされて幼くして王太子の婚約者にまでなれるし。
でも、ひとつだけ能力が足りないことに気付いた時には絶望した。
小さいうちはまだ恥ずかしがり屋で済んでいたけれど、18歳になっても人とコミュニケーションがとれない者に世間の目は厳しい。
婚約破棄については、後日陛下からお詫びの言葉があった。
その場には宰相も同席していて、少しビクビクしてしまう。
宰相には申し訳ないけれど、実は私は彼に少し苦手意識を持っている。
前世で私に仕事を押しつけてばかりいた課長にそっくりなんだもの。
陛下の言葉のあと、宰相が口を開いた。
「フラウ様には、その能力を活かして魔王討伐へ行っていただくのはどうでしょう」
ええ!? 何を言い出すのだこの人は。
そういえば、前世の会社で上司の意にそぐわない人は、能力を活かしてと言われつつ厄介払いとばかりによりつらい部署に異動させられてたっけ。
そんな事を、ふと考えてしまう。
断りたいなぁ、でも、言葉が上手く出てこない。
「女勇者なんて、とても名誉ある称号です。フラウ様、是非」
宰相が、ぐいぐい押してくる。
前世の会社でも主任という肩書をもらったけれど、給料は変わらず仕事が増えただけだったな、なんて思い出してしまった。
「城には優秀な戦士も魔導士も揃っていますから、旅の仲間にも困らないでしょう」
いやいやいやいや、誰かと一緒に旅するなんて、コミュニケーション能力皆無の私には無理ゲーですから。
ああ、本当に、コミュニケーション能力さえあれば、王子様と結婚できてめでたしめでたしだったのに。
とりあえず、ひとりで行きますね。ぼっちの私、世界を救えなかったらごめんなさい。
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