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9 早起きは辛い
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「リリーおはよう」
見目麗しい男が毎日自分に会いに来たら普通の令嬢はどう思うのか。しかも君が愛しいと言わんばかりの笑顔を振りまいていたらどんな女性でも悪い気持ちはしないのではないか。
普通の女性なら。
今日も今日とて幸せいっぱいの笑顔を浮かべた青年の顔を見てリリーは作り笑いを浮かべた。
「おはようございます。今日も良い天気ですわね」
初めて会ったあの日以来、彼は中庭で毎日リリーを待っていたらしい。
しかも教えた覚えのない名前まで知られていた。
気味が悪いとは思ったが王宮で権力者に隠せることなどなにもないので彼の立場なら容易いことだったのだろうとリリーは納得した。
ある日たまたま仕事帰りに彼の姿を見かけたリリーは男装をといて中庭へ行ってみた。
彼女はそこでヨハンと呼ばれる侍従に子供のように叱られながらリリーを待ち続けるレオを見つけたのだった。
(レオ様、情熱的と言えば情熱的なのかも知れないけれど少しこわいわ)
だがレオはリリーに会えればそれで満足らしく初日のように抱きついてきたりすることはなかった。中庭のベンチに座って少し話をするとたいていヨハンが迎えに来て帰っていく。
たまになにか言いたそうにもじもじとして言葉に詰まるが、だいたいリリーも忙しい朝の時間ゆっくりと話をすることが出来ないのでお互い名前くらいしか個人の情報を知らなかった。
「じゃあねリリーまたね」
今日もヨハンが迎えに来て子供のように何度も手を降って去っていく姿は愛らしく弟が居たらこんな感じだろうかと思わせられた。
(どう見ても私より歳上なのに)
大きなあくびを一つしてリリーは部屋へと向かった。
早く男の格好に着替えないと仕事の時間が迫っている。
彼はリリーに会えないと一日中待っていると聞いて朝一番に着替えた後に中庭に出るようにしているのだがリリーは本当は少しでも長く寝ていたい。
なれない王宮での暮らしと仕事の疲れがなかなか取れないのがリリーの悩みのタネになりつつあった。
(今日は一段と眠いわ……)
仕事中に大きなあくびをしたリリーが涙を拭うためにメガネを外したのは無意識だった。
「ダミアンの目はきれいなグリーンなんだな」
となりのトリスタンに覗き込まれてリリーの動きが止まる。
(しまった。顔見られちゃった)
「うちの母もダミアンみたいなグリーンなのになぁ。残念ながら父の目を受け継いだおれはこのとおり平凡な茶色だ。グリーンならもう少し男ぶりが上がったと思うんだけどなぁ」
二カリと大きく歯を見せて笑うトリスタンは特に他意はないようだ。とリリーはメガネをかけ直した。
「トリスタン様の落ち着いた茶色も優しい色でいいと思います」
「なんだよダミアン。褒めても何も出ないぞ!っていうかお前可愛い顔立ちなんだからもう少しなんとかしたら令嬢達にほっとかれないぞ。その時に今みたいに褒めてやれよ。社交界最初の年に失敗すると令嬢たちの噂が消えるまで恐ろしいことになるからな」
「トリスタンはドレスを褒め間違えたんだよな。『美しいひと。あなたの素敵なドレスは北国の女神ドーラのようだ』ってな」
二人の会話が聞こえていたのかはなれた席から、からかう口調でアレクサンダーがネタバラシをする。
北国の女神ドーラは厳しい女神様で婚期の遅れた女性を揶揄る時に使われる事が多い。それを未婚の女性に向かって社交の場で言ったのならさぞかし場が凍っただろうとリリーは思った。
「うるさいな。仕事に戻れよアレク!!」
王太子に向かってその態度でいいのかと心配になるほどトリスタンは雑に返す。だが周りもクスリと笑って流しているのでそれでいいのだろう。
「お前こそ、仕事しろ。」
「はーいかしこまりました。王太子殿下」
学友たちで固められたこの執務室では誰もが忙しく仕事をしているが気心がしれているせいかピリついた雰囲気になることがない。
ご令嬢同士での会話だと常に裏にある気持ちの読み合いのような、余計な嘘を暴いてしまう可能性に気を取られることもないのがリリーにはありがたかった。
新しい書類に手を伸ばす。国内有数の鉱山を領する公爵領の書類だということは名前をみれば分かった。とくに国内で取れる魔石はほとんどがこの公爵領のものだ。
前年比と比べても生産量の数字に特に目立った変わりはない。
(……おかしいわ魔石の生産量は変わっていないのに)
先日のガンスエッケ辺境伯の使いの男は『魔石の値段が上がっている。だから国庫からの支給のものを横流ししよう』と思っていた。
(生産量は変わっていないのに値段が上がっている?流通量が減っている?誰かが買い占めているのかしら?なんのために?)
リリーは手を止めた。
嫌な予感に手が震える。
(私が気づく程度のことを他の人がきづかなかった?見逃した?わざと?)
綿入りの上着をきているのに急に寒く感じられた。
(魔石の主な使用法は魔道具の起動燃料。魔道具なしで魔物退治も戦争もできない)
見目麗しい男が毎日自分に会いに来たら普通の令嬢はどう思うのか。しかも君が愛しいと言わんばかりの笑顔を振りまいていたらどんな女性でも悪い気持ちはしないのではないか。
普通の女性なら。
今日も今日とて幸せいっぱいの笑顔を浮かべた青年の顔を見てリリーは作り笑いを浮かべた。
「おはようございます。今日も良い天気ですわね」
初めて会ったあの日以来、彼は中庭で毎日リリーを待っていたらしい。
しかも教えた覚えのない名前まで知られていた。
気味が悪いとは思ったが王宮で権力者に隠せることなどなにもないので彼の立場なら容易いことだったのだろうとリリーは納得した。
ある日たまたま仕事帰りに彼の姿を見かけたリリーは男装をといて中庭へ行ってみた。
彼女はそこでヨハンと呼ばれる侍従に子供のように叱られながらリリーを待ち続けるレオを見つけたのだった。
(レオ様、情熱的と言えば情熱的なのかも知れないけれど少しこわいわ)
だがレオはリリーに会えればそれで満足らしく初日のように抱きついてきたりすることはなかった。中庭のベンチに座って少し話をするとたいていヨハンが迎えに来て帰っていく。
たまになにか言いたそうにもじもじとして言葉に詰まるが、だいたいリリーも忙しい朝の時間ゆっくりと話をすることが出来ないのでお互い名前くらいしか個人の情報を知らなかった。
「じゃあねリリーまたね」
今日もヨハンが迎えに来て子供のように何度も手を降って去っていく姿は愛らしく弟が居たらこんな感じだろうかと思わせられた。
(どう見ても私より歳上なのに)
大きなあくびを一つしてリリーは部屋へと向かった。
早く男の格好に着替えないと仕事の時間が迫っている。
彼はリリーに会えないと一日中待っていると聞いて朝一番に着替えた後に中庭に出るようにしているのだがリリーは本当は少しでも長く寝ていたい。
なれない王宮での暮らしと仕事の疲れがなかなか取れないのがリリーの悩みのタネになりつつあった。
(今日は一段と眠いわ……)
仕事中に大きなあくびをしたリリーが涙を拭うためにメガネを外したのは無意識だった。
「ダミアンの目はきれいなグリーンなんだな」
となりのトリスタンに覗き込まれてリリーの動きが止まる。
(しまった。顔見られちゃった)
「うちの母もダミアンみたいなグリーンなのになぁ。残念ながら父の目を受け継いだおれはこのとおり平凡な茶色だ。グリーンならもう少し男ぶりが上がったと思うんだけどなぁ」
二カリと大きく歯を見せて笑うトリスタンは特に他意はないようだ。とリリーはメガネをかけ直した。
「トリスタン様の落ち着いた茶色も優しい色でいいと思います」
「なんだよダミアン。褒めても何も出ないぞ!っていうかお前可愛い顔立ちなんだからもう少しなんとかしたら令嬢達にほっとかれないぞ。その時に今みたいに褒めてやれよ。社交界最初の年に失敗すると令嬢たちの噂が消えるまで恐ろしいことになるからな」
「トリスタンはドレスを褒め間違えたんだよな。『美しいひと。あなたの素敵なドレスは北国の女神ドーラのようだ』ってな」
二人の会話が聞こえていたのかはなれた席から、からかう口調でアレクサンダーがネタバラシをする。
北国の女神ドーラは厳しい女神様で婚期の遅れた女性を揶揄る時に使われる事が多い。それを未婚の女性に向かって社交の場で言ったのならさぞかし場が凍っただろうとリリーは思った。
「うるさいな。仕事に戻れよアレク!!」
王太子に向かってその態度でいいのかと心配になるほどトリスタンは雑に返す。だが周りもクスリと笑って流しているのでそれでいいのだろう。
「お前こそ、仕事しろ。」
「はーいかしこまりました。王太子殿下」
学友たちで固められたこの執務室では誰もが忙しく仕事をしているが気心がしれているせいかピリついた雰囲気になることがない。
ご令嬢同士での会話だと常に裏にある気持ちの読み合いのような、余計な嘘を暴いてしまう可能性に気を取られることもないのがリリーにはありがたかった。
新しい書類に手を伸ばす。国内有数の鉱山を領する公爵領の書類だということは名前をみれば分かった。とくに国内で取れる魔石はほとんどがこの公爵領のものだ。
前年比と比べても生産量の数字に特に目立った変わりはない。
(……おかしいわ魔石の生産量は変わっていないのに)
先日のガンスエッケ辺境伯の使いの男は『魔石の値段が上がっている。だから国庫からの支給のものを横流ししよう』と思っていた。
(生産量は変わっていないのに値段が上がっている?流通量が減っている?誰かが買い占めているのかしら?なんのために?)
リリーは手を止めた。
嫌な予感に手が震える。
(私が気づく程度のことを他の人がきづかなかった?見逃した?わざと?)
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