呪いをかけられ婚約破棄をされた伯爵令嬢は仕事に生きます!なのに運命がグイグイ来る。

音無野ウサギ

文字の大きさ
19 / 63

19 黒猫令嬢の事情

しおりを挟む
「助けるとは具体的には何をすればよろしいのでしょうか?」



「私の婚約許可願いがアレク様のところで止まっているのはご存知よね」



「はい」



「とりあえずそれを手に入れてほしいの」



 シシィはなんてことないという口調だったが盗難の示唆であることはあきらかだった。

 リリーは穏便な方法を示すことにした。



「取り下げるということでよろしいのですか?なら私に言わなくとも正規の手続きで」



「正規の手続きで更に待たされるのごめんなの。私時間がないのよ。取り下げた証明にあの書類が手元にないと新規の手続きができないの」



「はぁ?」



「心配しなくてもサインの偽造をしろというんじゃないわ。まあそれでもいいけど」



「いやだめですよ」



「サインを偽造してもらっても書類のお相手とはもう結婚はできないの。新しい手続きをはじめないと」



「三ヶ月待たされただけで婚約を破棄するというのは短気な方ですよね」



「そうなのよ。怒った挙げ句に死んでしまうなんて酷い話よ。私またお相手を探さないといけないわけ」



「は?」



「あら、どうかして?」



「お相手が亡くなったんですか?」



「そうなのよ。怒りすぎて頭に血が上ってしまったみたい。こまったわ」



「頭に血が……おいくつだったんですか?」



「七〇歳」



「ちなみにシシィ様は?」



「今年で一六歳ね」



「ちょっと年が離れすぎでは」



「でも確実に愛されなくちゃいけないんだもの。手堅く行きたいのよね。時間がないし。ほら、こんなに若くて可愛い私と結婚できるならお年をとっている方は喜んで結婚するじゃない?」



「ちょっとよくわからないのですが、シシィ様が時間がないようには見えませんが。お元気そうですし、これからいくらでも良い出会いがあるのでは?」



「そうね。今は元気なの。でもこのままだと一七歳になったら精霊の国に行くことになってるのよ。後一年しかないの」



「は?」



(精霊?)



「約束してしまったの。誰かが私のことを心から愛していない時は一七歳で精霊の国に行くって」



「は?」



(精霊の国?)



「あなた、貴族令嬢としてどうかと思うわよ。その相槌の仕方。下品だわ」



 シシィは貴族令嬢としての心得を説く気になったのか扇でリリーを指した。

 こうよ、こう。とアルカイックスマイルを浮かべ「まぁ、そうですの」と柔らかく頷いてみせるがリリーは聞く耳を持たなかった。



「シシィ様は誰かに愛されないといけないということですが、シシィ様が愛する方ではだめなんですか?あとは家族とかの愛ではだめなんですか?」



 貴族令嬢にあるまじき熱量で問いただすリリーに向かってシシィはけだるげに応えた。



「家族ではダメなの。私小さい頃すごくすごくすごく病弱だったのよ。何度も死にかけたんだけど、ある時精霊が私があんまり可愛いから一七歳になったら精霊の国にお嫁に来るなら助けてあげるって言ってくれたの」



「精霊の国へ」



(悪い場所ではなかったけれど時間の流れ方が違ったのよね)



 シシィの言葉に園遊会で行方不明になったときのことをリリーは思い出していた。



 彼女は精霊とかくれんぼをしようと言われ短い時間遊んだだけで二日が過ぎていた。

 体感としてはせいぜい三〇分といったところだったのに。



(緑豊かで美しいところではあったけれど、人間がすみつづけるとどうなるの?)



「でも誰かが私のことを心から愛している証明ができたらその時には精霊の国に来なくていいよって約束してくれたの。恋のライバルが精霊よりも私を愛している証明ね」



 おわかりかしら?と言いたげにシシィはリリーを見た。



「愛している証明」



「精霊の言うことだもの。どうなるかわからないけれど。だから私のことを死ぬほど好きだって言ってくれた方をお相手に選んだんだけどなぁ。まさかほんとに死んでしまうなんて」



 シシィは死んでしまった相手を思ってかさみしげな笑いを浮かべた。



「悪い方ではなかったのよ。二人きりで会いたいとうるさかったけど。結婚前に二人きりになれるわけないじゃない?」



(悪い方になる機会がなかっただけで悪い方だったのでは……)



いつの間にか部屋の隅に控えているアンナがリリーの視界の端で渋い顔をしているのが見える。

おそらくその男はアンナの尽力で良い人のままでいれたのだろうと察することが出来た。



「ね?だから早く次の手続きをはじめないといけないの。次のお相手がが死んでしまう前に」



「ちなみに次の方のお年は?」



「聞きたい?八〇歳よ」



 クスクスと楽しげに笑うシシィにリリーは目をむく。



「あがってるし!!」



「だから後一年でいなくなるかもしれない私と結婚する人なんていないのよ。普通の殿方は王家につながる姫に軽い気持ちでちょっかい出せないの。半分耄碌した年寄りしかいないのよ。わかるでしょ?」



「そんなことは絶対ないですよ。現にア『アレク兄様はダメ!!』」



 きつい口調にリリーは続けることが出来なかった。

 つり上がった大きな青い目にみるみるうちに涙がたまる。



「アレク兄様。きっと私のことを好きだもの。愛している証明に王になるのを諦めろと言われたら諦めてしまうかもしれない。そんなのアレク兄様が立派な王になるのを邪魔した自分が許せないもの」



『もしも愛の証明が出来ずに精霊の国に行くことになったら、私きっと悲しくて死んでしまうわ。アレク兄様に愛されてないなんて知りたくないの!!他の方ならいいわ。だって私が好きな方じゃないんだもん。でもアレク兄様に好かれてないなんて、絶対ぜーったいに知りたくない!!』



 聞こえてきたシシィの本音にリリーは掛ける言葉をなくした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。 そんな事ある日、父が、 何も言わず、メイドして働いてこい、 と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。 そこで、やっと人として愛される事を知る。 ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。 そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。 やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。 その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。 前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。 また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m 毎日朝6時更新です(*^^*)あとは、 気分でアップします

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

処理中です...