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34 おかしな空気
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王太子の執務室へ戻りテキパキと資料をまとめ上げていくダミアンことリリーを見る周りの視線がいつもと違うことにリリーはまったく気づかなかった。
初恋に苦しむ気の毒なものを見る目というだけではなく今日の執務室の面々は王太子アレクサンダーとリリーの気配を交互に探りながら仕事をしている。
そう、王太子の様子がいつもと違うのだ。
そもそも他者に感情を推し量られないように常に一定の穏やかさ、人によってはそれを胡散臭さとも呼ぶが、それを保っているアレクサンダーが何故か今日は全く感情が感じさせないのだ。まるで感情のない人形のように仕事をこなしているが時折ダミアンの方へ視線を向けて動きをとめる。
まるで生気のない視線は美しい顔立ちであるからこそ死霊がついた人形のようで、リリーではなく周りのものを怯えさせていた。
だがリリーの心の空はアルフォンスへの怒りでどす黒い雨雲、雷雲が充満しただただ復讐の二文字でいっぱいになっていたのでそんな気配はみじんも感じていない。
(絶対に痛い目見てもらいますからね!!)
リリーが力を込めて握りしめたペンのペン先が折れそうなほどたわむ。
レオが二度リリーにプロポーズをした時の表情が本当に恋をしている男の瞳というものがどれほど優しく熱く思いを込めて相手を見るのか教えてくれた。
アルフォンスがそのような愛情を込めてリリーを見たことは思い返してみても一度もなかった。
あくまでも幼なじみの延長として婚約が決まっても淡々としていた二人の関係は、貴族の婚約としては珍しいものではなかったのでリリーもそれに関しては何も思っていなかった。
だがアルフォンスとレオを比べてみると頭がお気の毒なレオのほうが断然リリーを愛しんでくれている。心のなかで全力で愛を叫んでくれていたレオのことを思うと胸がチクリと痛む。慌ててレオからアルフォンスへと意識をずらす。
即座に憎しみはリリーの心で燃え上がった。燃料はいくらでもあるのだ、先日殴られ踏まれた件だけでなく思い返せば今まで婚約者として正当な扱いを受けなかったことがリリーをムカつかせる。
(幼なじみとして恋ではなくても家族のような愛情を注いでくれても良かったのでは?)
アルフォンスの中身がゲス男だと知る前はリリーだって普通の貴族令嬢として振る舞っていた。
見た目だって礼儀だって他の令嬢に負けていた訳では無いのに、彼は婚約が決まってからも他の令嬢にちょっかいを出していたのだ。
知りたくはなかったが精霊の呪いのおかげでわかってしまったアルフォンスの悪行に今日改めて腹がたつのは九割がたレオのプロポーズを断る罪悪感。つまり八つ当たりであるのだが何故なのかリリーはわかっていない。
(ぜったいぜったいぜったいぜったい吠え面かかせてやる!!)
カツラの分厚い前髪の奥でリリーの瞳がギラリとひかり彼女の隣りにいたトリスタンが何かをかんじたのかビクリと跳ねた。
こっそりダミアンの様子を伺っていたトリスタンは王太子アレクサンダーと目があってしまった。
何を考えてるのかガラス玉のような表情の見えない目に学友として付き合いの長いトリスタンは改めて今日の状況のまずさを知った。
しばらく見つめ合っていたがふとガラス玉の瞳がそらされて王太子は仕事に戻った。
ダミアンはまだガシガシと何かを書くのに集中している。
トリスタンは今日はもう視線をあげないと決意して自らも仕事に戻った。
その日はいつになく静かな執務室の時間が業務終了時間まで続いたのだった。
初恋に苦しむ気の毒なものを見る目というだけではなく今日の執務室の面々は王太子アレクサンダーとリリーの気配を交互に探りながら仕事をしている。
そう、王太子の様子がいつもと違うのだ。
そもそも他者に感情を推し量られないように常に一定の穏やかさ、人によってはそれを胡散臭さとも呼ぶが、それを保っているアレクサンダーが何故か今日は全く感情が感じさせないのだ。まるで感情のない人形のように仕事をこなしているが時折ダミアンの方へ視線を向けて動きをとめる。
まるで生気のない視線は美しい顔立ちであるからこそ死霊がついた人形のようで、リリーではなく周りのものを怯えさせていた。
だがリリーの心の空はアルフォンスへの怒りでどす黒い雨雲、雷雲が充満しただただ復讐の二文字でいっぱいになっていたのでそんな気配はみじんも感じていない。
(絶対に痛い目見てもらいますからね!!)
リリーが力を込めて握りしめたペンのペン先が折れそうなほどたわむ。
レオが二度リリーにプロポーズをした時の表情が本当に恋をしている男の瞳というものがどれほど優しく熱く思いを込めて相手を見るのか教えてくれた。
アルフォンスがそのような愛情を込めてリリーを見たことは思い返してみても一度もなかった。
あくまでも幼なじみの延長として婚約が決まっても淡々としていた二人の関係は、貴族の婚約としては珍しいものではなかったのでリリーもそれに関しては何も思っていなかった。
だがアルフォンスとレオを比べてみると頭がお気の毒なレオのほうが断然リリーを愛しんでくれている。心のなかで全力で愛を叫んでくれていたレオのことを思うと胸がチクリと痛む。慌ててレオからアルフォンスへと意識をずらす。
即座に憎しみはリリーの心で燃え上がった。燃料はいくらでもあるのだ、先日殴られ踏まれた件だけでなく思い返せば今まで婚約者として正当な扱いを受けなかったことがリリーをムカつかせる。
(幼なじみとして恋ではなくても家族のような愛情を注いでくれても良かったのでは?)
アルフォンスの中身がゲス男だと知る前はリリーだって普通の貴族令嬢として振る舞っていた。
見た目だって礼儀だって他の令嬢に負けていた訳では無いのに、彼は婚約が決まってからも他の令嬢にちょっかいを出していたのだ。
知りたくはなかったが精霊の呪いのおかげでわかってしまったアルフォンスの悪行に今日改めて腹がたつのは九割がたレオのプロポーズを断る罪悪感。つまり八つ当たりであるのだが何故なのかリリーはわかっていない。
(ぜったいぜったいぜったいぜったい吠え面かかせてやる!!)
カツラの分厚い前髪の奥でリリーの瞳がギラリとひかり彼女の隣りにいたトリスタンが何かをかんじたのかビクリと跳ねた。
こっそりダミアンの様子を伺っていたトリスタンは王太子アレクサンダーと目があってしまった。
何を考えてるのかガラス玉のような表情の見えない目に学友として付き合いの長いトリスタンは改めて今日の状況のまずさを知った。
しばらく見つめ合っていたがふとガラス玉の瞳がそらされて王太子は仕事に戻った。
ダミアンはまだガシガシと何かを書くのに集中している。
トリスタンは今日はもう視線をあげないと決意して自らも仕事に戻った。
その日はいつになく静かな執務室の時間が業務終了時間まで続いたのだった。
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