呪いをかけられ婚約破棄をされた伯爵令嬢は仕事に生きます!なのに運命がグイグイ来る。

音無野ウサギ

文字の大きさ
40 / 63

40  視線

しおりを挟む
 美しくふふふと微笑んだアンナの瞳の奥に剣呑な気配を感じリリーはこの人は絶対に敵に回してはいけないタイプの女性だと確信した。

 貴人に使える侍女らしく美しく控えめな美を持つ彼女は見た目よりすごい権力を持っているに違いない。上品にまとめられた茶色い髪と黒目がちな瞳、バランスが取れているが人目を引く美人ではない。けれどそう考えてみれば、彼女の控えめな美しさは周りに溶け込むように作られているように見える。

 もしもリリーがシシィに害を加えるような行動をとれば、その全力で彼女を王宮にふさわしいやり方で狩りに来るのではないだろうか。

 その場合リリーのような新参者が太刀打ちできるわけもなく、彼女の運命は嫌がらせから神経衰弱に陥るとか古典的な毒殺までいくつものバリエーションの中でバッドエンドでしめられることは想像に難くない。

 そう考えたリリーはアンナに令嬢らしく微笑みで返したが心の中はかなり穏やかではなかった。

 視線をそらしてはいけない。自衛の本能がリリーにささやく。

 しばらくうふふふふふふとほほえみ合う二人を見ていたシシィは何かを感じたのかパシリと扇を鳴らした。

「もう、おねえさま。早くお着替え下さいな。おば様をお待たせするわけにはいきませんの」

 シシィの言葉にせかされて二人が動き出す。
 リリーの着替えをすませ王妃の待つ部屋へと三人は向かった。
 昨晩と違う部屋へ通されて王妃に向かって入り口で一礼をすると予想外の人物がリリーの目に入った。

「あら、遅かったわね」

 くるりと扇を手首で返した王妃クリスティーナは三人を見ると手招きをした。王妃の向かいに座るのは蜂蜜色の髪をした美丈夫、この国の王太子アレクサンダー。リリーが先ほどわかれたばかりの人物だった。

「アレク、紹介するわ。シシィの隣のそちらの令嬢はリリフォリア・アデノフォラ嬢。私の良いお友達なの」

 紹介を受けてアレクサンダーが立ち上がりリリーのもとへと来た。

「アレクサンダーだ。君がアデノフォラ嬢。シシィとも仲良くしてくれているらしいね。会えてうれしいよ」

 リリーは軽く膝を曲げ挨拶をする。向けられた空色の瞳にもしや気づかれるのではとリリーの背中に嫌な汗が一筋おちた。目が合ったがアレクサンダーの様子に変化はない。

(大丈夫かしら?ダミアンだって気づかれてない?)

「シシィもこの間ぶりだね。今日もきれいだね」

『ダミアンと噂になっているアデノフォラ嬢と一緒にいるということは二人は恋のライバルというわけではないのだろうか。やはりダミアンの言っていたことは本当だったのか。よかった本当によかった』

 リリーの思惑に気付かなかったアレクサンダーはシシィの指先をとると軽いキスを落としてにこりとほほえむ。瞳の色が柔らかくなったことにシシィは気づいただろうかとリリーは彼女の様子を伺った。

「お久しぶりですわ。アレク様のお陰でまだ婚約者も決まりませんが、リリー様のお陰で退屈しておりませんわ」

 つんとした態度でシシィはアレクに嫌味をいうが、彼女の本心を知ってしまえばこの態度も恥ずかしくて目を合わせられないのだろうとリリーは思った。

 シシィの頬が上気しているのがその証拠だと彼女は見て取った。

「そんなこと言って。シシィの婚約者にふさわしい男かどうか見極めるのに時間をもらっただけじゃないか」

「先日は他の書類にまぎれたんだとおっしゃってましたけど」

「全く困ったもんだよねぇ。色々と忙しくてね」

『何度出されてもシシィの婚約に関しては私を通すことになっているから。次の婚約がすすんでも絶対とめる!!許さない!!シシィが選んだとしても絶対だ!!』

 他人事のようにシシィの追求をサラリとかわしアレクサンダーはニコリとわらった。
 本音を隠す笑顔だがアレクサンダーの美しい顔立ちでやることで向けられた相手の思考を止める効果は抜群であった。

「お、いそがしいのは、大変ですわね」

 シシィの頬が更に赤く染まり視線が泳いだ。

(大好きですのね。シシィ様ったら。それにしても王太子様はまだ婚約の邪魔をするの?お二人の関係をはっきりさせて自分がシシィ様を幸せにしようという方向にはいかないのはなんでなのかしら?)

 可愛らしいシシィの反応を見ているとリリーの心までむずむずとしてくる。

 そこへなかなか席に来ない三人にしびれを切らして王妃が声をかけた。

「さ、あなた方お座りになって」

「母上、私の用事はすみましたので今日はこちらで失礼します」

「あらそう?じゃあまた近いうちに遊びに来て頂戴ね。あなた最近仕事ばかりで父さまも心配なさっていてよ」

「はい。かならず」

 アレクサンダーはそういうと三人に会釈をして去っていった。

 シシィとリリーの二人が席に着くと王妃は興味深そうにリリーを見つめた。

「アレクってば本当に気づかないのね。あなた達、本当にいっしょに働いているのでしょう?」

 さて、王妃にまで男装姿で王太子執務室で働いているといつ言っただろうとリリーは思ったがシシィも驚いている様子はないので彼女から報告したのだろうかとあたりをつけた。

 まぁ最高権力者の妻が知りたいと思えばどんな情報でも入ってくるのだ。不思議はない。

「一緒に働いている方たちもおねえさまに気付かないのだもの。男性が普段何を見ているのか考えさせられるわね」

 ふぅと大きく息をついた拍子にシシィの胸がたゆんと揺れた。

 そりゃそれだけ胸を強調していたら誰でもそこに視線を送るだろう。今日も見事にアンナによって作られた自らの胸のふくらみに目を落とし、修道院では必要ない技術だが習得すべきかしばし考えるリリーであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。 そんな事ある日、父が、 何も言わず、メイドして働いてこい、 と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。 そこで、やっと人として愛される事を知る。 ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。 そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。 やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。 その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。 前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。 また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m 毎日朝6時更新です(*^^*)あとは、 気分でアップします

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!

ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

処理中です...