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9 ごめんなさい出来る子はいいこ

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野草採集を終えルシル君と話をしながら転移門をくぐった僕を学園側で待っていたのは意外な人物だった。いかにも僕に用事があると言いたげに見つめ、少しはなれた所で一人たたずむ彼女は僕を階段から突き落としたエリカ様。なんだか幼い子供のようにきゅっと結ばれた口元に戸惑う僕。ルシル君が僕と彼女の様子を見て僕のかごを持っていってくれると言うのでお願いすることにした。周りに人がいなくなった頃「話をさせて欲しい」やっとそう言った彼女に答えたのは僕ではなかった。

「信じらんない!あんたなんでまだ学園にいるのよ!人を殺しそうになっておいて謝ればすむと思ってるの!図々しい。親の威光で揉み消すってこと?人としてどうかと思うわ!」

僕の後ろから現れたピンクの頭がきーきーとエリカ様を糾弾し始める。いやいや今どっから出てきたの?すごい自然に会話に割り込んでくるけど君部外者だよね?

「もちろん謝れば済むことではないと分かっている。だがまず謝罪させて欲しい」

礼儀も何もなってないピンク頭さんの行動。目上の人に勝手に話しかけちゃダメって常識知らないのだろうか。生徒間に身分差をつけないって建前を信じてるの?あり得ないんだけど。けれどエリカ様は彼女の言葉に顔色を悪くしつつも僕に向かって頭を下げた。

「フィリップ  グレンツ君。先日貴兄に働いた無礼、大変申し訳ない」

そう言ったっきり九十度に腰を折り僕につむじを見せて動かないエリカ様。僕を階段から突き落とした犯人なんだけど横できーきーエリカ様を糾弾しようとわめく子の方が気になる。

「えーと、その、あの」

僕は言葉を探して言葉につまってしまいごにょごにょ口の中で言うだけになってしまった。

だって上級貴族のお嬢さんが下級もいいとこの僕に頭を下げてきててどう言えばいいのかなんて僕にはわからないよ。けれど最初に不遜な態度で彼女を傷つけていたのは僕。でも打ち所が悪ければ死んでしまう可能性があったわけで、簡単に許していいのかな……でも、僕は今元気だしきちんと謝ってくれる彼女にもういいかなって思えた。先に彼女の心を傷つけたのは僕の方だから。

「頭を上げてください。約束していただきたいのは一点。今後怒りにまかせて暴力をふるわないで欲しいってことだけです。ちょっと怖かったし痛かったので」

「はー?殺されかけといてバカなの?モブだからか」

ピンク頭の発言にいらっとする。 ほんとにこの子は!

「なぜあんなことが出来たのかわからない。恥じている」

「口だけならなんとでも言えるわよ」

だからなぜ当事者じゃない君が。僕の代弁者のような顔をするのはやめて欲しい。

「あなたに言うべきではないがあの時はあなたさえいなければアーノルト様の側にいられるのにという気持ちでいっぱいで。なぜかはわからない。アーノルト様のお心は分かっていたし学園卒業後まであと少しだというのに」

「嫉妬に狂ったってことでしょ。学園やめるべきでしょう?修道院に行きなさいよ。あんたみたいなのがいたら怖くてしょうがないわよ」

「すまない、少し黙っていただけるかな?私はあなたを存じ上げないのだが、どなたなのか?」

「私を知らない?モブの名前はフルネームで知ってるくせに!」

「彼はアーノルト様の友人だ。当然だろう?」

「何よ。私はこのモブが邪魔したからまだアーノルトの横にいないだけよ。腹立つわー女なのに騎士口調で。騎士道気取るなら自分の行動に責任とりなさいよね。とっとと修道院!」

「……学園を去ることも考えた、アーノルト様にも謝罪した時にそう伝えたんだが。本当にすまなかった」

エリカ様はピンク頭の言葉に一瞬眉をしかめたけど、もう一度頭を下げるときびきびと去っていった。その後ろ姿もりりしくイケメン騎士らしくあり僕は見惚れてしまった。エリカ様はピンク頭が話通じないと見抜いたんだよね。さすが騎士、判断が早い。あー僕もここから立ち去りたい!もちろんそうは問屋がおろさないわけで。

「ちょっとあんた何バカなこと言っちゃってくれてんの?許す?エリカが無罪放免ってこと?だいたい自分を突き落した犯人をかばうってどういうつもり?このままじゃあの子が修道院に行かなくなるじゃない!ありえないー!!ストーリーがずれたらハーレムエンドにするの激ムズじゃん。修道院絡みの隠れキャラどうやって出すのよーもーモブの癖に余計なことばっかしないでよー」

髪を振り乱しながら興奮してる彼女は二人になっても話は通じそうにない。

(あれ)

「そういえばなんで君がエリカ様が僕を階段から突き落としたって知ってるの?」

「この世界は私のためのものだからに決まってるでしょ!」

やっぱり話が通じない。僕も諦めてこの場を去るとしよう。
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