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1 女装王子はため息をつく
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「ひめさまっ!幸せが逃げます!」というカリンからの注意が僕のぼんやりとしていた意識をもどした。
どうやらまた一つため息をついてしまっていたらしい。
「もうすぐローウェル様が来られます。しっかりなさいませ」
後ろに控えるカリンに軽く頷き、手に持った扇を広げる。扇に焚きしめてあるいつもと同じ甘い香が僕の鼻腔に届いた。女性らしい春の花の香り。平素なら僕の気分を上向きにするその香りすら鬱陶しい。
今日着ている襟の詰まったドレスは若草色で僕の婚約者であるローウェルの瞳の色に合わせている。細部に施された刺繍はこの国では恋人たちが永遠の愛を願って贈り合う野草のデザインだ。手にもつ扇についた飾り房は彼の茶金の髪と同色で作られている。
今から彼に会うというのに気が重い僕の気分とは裏腹に、外見は全身で婚約者どのへの甘い愛を囁いているわけだが…テーブルの上のグラスに目をやってもう一度深い溜め息をついた。
「ひ・め・さ・ま!!」
自分の好きな相手から振られるとわかっているのに、今からほほえみ続けなくてはいけないんだから、ため息くらい勘弁してくれよ。
そう思いながらカリンにもう一度うなずいてみせた。
僕は今からあのグラスの中に満たされている『真の姿をさらけ出す霊験あらたかな神薬』とやらで彼の本心を確かめなくてはならないのだ。
こんこん。と扉の叩かれる音が部屋に響き、僕はもう一度ため息をついた。
「ひめさま!!」
ごめんってば。
無理やり笑顔を作った僕は扉へ顔をむけた。
☆☆☆
お国柄ってものがある。例えば右隣の国民は議論が好きだったり、左隣の国民はロマンチストだったり、上隣の国民は喧嘩っ早い。そして我が国の国民たちは大変信心深い。それはそれは信心深い。
例えば我が国では黒は縁起の悪い色だ。他国からは笑われるが黒猫が見えたら遠回りになっても道を変えるほど。でも黒猫はいなくならないし、黒という色はある。そこで僕らは黒を黒と呼ばないことにした。『白ではないもの』と呼ぶ。まぁ…気休めだけど、呼び名が変われば気分も変わるじゃない?そういうこと。
そして男である僕がどうしてドレスを着ているのか、どうして姫様と呼ばれているのか、それも同じ理由だったりする。
建国から300年、古くて大きな我が国では女王が吉とされてきた。歴史書が伝えるには、ある王の時代は不作だったり戦争が起こったり疫病が流行ったり、とあまり喜ばしくない事が続いた。そして次の王の時代にも。次の次の王の時代にも。
皆が女王の時代を懐かしむ。
どうやらこの国は王とは相性が悪いらしい、そう民が確信するほどの悲しみが、国中につもっていた。
喜ばしいはずの王家の赤子が男であると国民があからさまにため息をつくほどに、皆女王を望んでいた。
そして国民が信心深いなら王族もしかり、度重なる不幸に僕のご先祖様も王をたてるのに躊躇したらしい。不幸が不幸をよぶ王の時代が、否が応でも国民の噂話に信憑性を増す。
王族に女子があればそれを女王とし国を治める。だが国を治めるのに適齢の女子が常にいるわけではない、つなぎで王をたてることもある。そこで神殿を頼った。王であっても不幸を呼ばずに済む方法はないかと…
そしてめでたく神託はくだった。
『偽女王を立てよ』と。
んで、現在、将来(女)王となるべく第一子の僕はきれいなドレスに身を包んで過ごしている。物心ついた頃からずっとドレスだ。女性らしい優美な曲線ってやつは詰め物で作り上げているけど、身のこなしもマナーも女性として身につけた。今ではこの国一番の美姫といえば女王である母様を抑え、ルーディア・エーデルオート、この僕のことだ。
えっへん。
美しい母様に似た面差しのお陰で、鏡に映る僕は自分でもびっくりするほど儚げな美人に見える。喉仏を隠すために立て襟のドレスは必須だけど、豊かな黒髪に深い青の瞳、熟れたさくらんぼのような官能的な唇。細身の体も手伝って、今まで僕の本当の性別を疑ったものはいない。いないはずだ。そうでなきゃ困る。
男として生まれてきたのにそれでいいのかって?
僕だって馬を駆り剣をふるい国を守る騎士に憧れたことはある。でもそれやっちゃうと皆が不安になるんだよね。ドレスを着て国の安寧を願うってのも王族のあるべき姿ですぞ!って昔先生に言われた。だから木登りも木の棒を振り回すちゃんばらも遠い昔に卒業した。
今のこの女の子みたいに細い手じゃ鉄剣なんて持ち上げられないんじゃないかな。
しょうがない、僕の性別は国家機密。乳母と少数の侍女を除き僕が男だと知っているものはいない。
生まれたばかりの妹が女王になれるほど大きくなったら僕は病気になって表舞台から姿を消すことになるんだから。彼女にとっては兄は存在しないことにされるのかもしれない。
田舎で静養する前女王の後見人の田舎貴族というのが本当は誰なのか僕は気づいている。あの方がきっと僕の未来の姿だ。
ま、しょうがないよ。母様もまだまだお元気だし、僕が(女)王になることもなく妹に王座が譲られる可能性もある。っていうかその可能性はかなり高い。
だから王配をねらってくる各国の婚約者候補があまりに野心家だとまずい。母国の力を借りてうちの国を支配しようとしたり、まかり間違って母様を弑すなんて事考えそうな人物だと困る。だから僕の婚約者を選ぶのは本当に大変だったみたい。
まあひと悶着もふた悶着もあった婚約者選びのあと、僕の婚約者には建国神話が犬の神様の加護を受けたというくらいしか特に目立った話のない山間の小さな国の第三王子が選ばれた。それがローウェル。3年前のこと。
多分に彼の国の小国具合っていうか、妹の代に悪影響を及ぼしようのない国力が評価されたんだと思う。気の毒というかなんというか。
婚約者を決めたって言われた時も、僕が思ったのは小国とはいえ王族なら、国のために人生を捧げるのは当たり前だろってことだった。僕が人生を国に捧げるんだから、王族なら当然。ってホントに人としてどうなんだろうね、僕。
ローウェルのこと好きになる予定はなかったんだよ。まぁ、最低限、友達みたいに仲良くしていければいいなって思っていたんだ、本当だよ。小国とはいえギスギスして戦争の火種を作るのはまずいしね。
だけど…彼がこの国に来てくれた一年前から今日まで、会えば会うほど、ローウェルのこといつの間にか好きになっちゃってた。
明るい茶金の髪に若草色の瞳のローウェルは僕と同じ年の十八才で。物静かな男だけど小国とはいえ王族の気品にあふれるいい男で。
いや、えっと、別に外見でローウェルのことを好きなわけじゃない。さり気なく優しいとことか口数が少ないけど僕と感性が合うっていうか、一緒にいて落ち着くところが、いいな、って。
おかしいって分かってる。だって妹が女王になれば僕は男に戻れるんだから。男を好きになる必要はないんだよ。
でも、ローウェルに会うと僕の心臓おかしくなっちゃうんだよ。自分ではもうどうしようもない。
けど、まあ、僕、女の格好してるけど男だからね。子供はもちろんのこと普通に閨のこととかできないし。ローウェルはそれでいいのかなって…
好きになった相手の幸せを願っちゃうなんて、僕もほんとに未熟者だよね。うん。知ってる。王族としてローウェルのことを騙し続けなくちゃいけないのに…僕、王族向いてないって思う。ローウェルがこの国で他国の王族としてしっかりとした振る舞いをすればするほど、僕は自己嫌悪と恋心で挙動不審になってしまった。
でも、仲良くしなくちゃって僕から腕を組んでみたり、節度のある範囲でのスキンシップってやつ?したんだけど、不自然だったのかな。彼もなんだか僕から目をそらす事が増えて。
嫌われちゃったのかな…
彼の幸せを考えたらこのまま黙って王配になってもらうのは卑怯かな…そう思って最近は彼と上手く付き合えなくなっちゃって。僕らの様子は周りから見ても不自然なくらいになってしまった。
そんな僕らを見ていた周りが不仲説を噂して、最近では別の国の王子を推してくる貴族たちもあらわれて。国内の勢力争いの材料に…
これはまずい、とさすがに僕も気づいた。でも、本当のことは僕からは言えないし、下手にローウェルに知らせてしまうと彼の命にも関わる。大国の秘密を知った小国の王子が無事にいられるわけがないだろ?ローウェルを守るためにも表面上は仲良くし続けないといけないんだけど。僕、上手くできなくて。
嫌われてるかもしれない相手に表面上は親しく振る舞うってすごいストレス。次期国母として百戦錬磨の狸爺相手の外交のほうがよっぽど気が楽。嫌われたくないって思うと自分の一挙一動に自分でダメだしして毎回大反省会。
このままじゃダメだってわかってるんだ。王族として割り切ればいい。
形だけの結婚生活。とっても普通のこと、王族なんだから。
でも、彼を不幸にする結婚、望めなくて…どうしたらいいのかわからなくて。
気がついたらますます細身に磨きがかかっちゃって。
儚いって辞書引いたら例文に使われちゃうんじゃないってくらい…
そんな僕の気持ちを察した乳母が手配してくれたのが『真の姿をさらけ出す霊験あらたかな神薬』というあやしい薬。もちろん乳母が前もって自身で安全性は確認してくれたものなので死んじゃったりとか具合が悪くなるような毒薬ではないって分かってる。彼女の真の姿とやらは夫が確認したらしい。顔を赤く染めてゴニョゴニョいっていたので、ま、うん。夫婦仲良くてよかったね。
僕だって『神薬』でローウェルの気持ちを確かめて彼が男と結婚なんてできないって言うならすっきりきっぱり諦めて次の婚約者を探そうって思ってる。
世の中って結構上手くできていて男でもいい、いや、男じゃないとだめだっていう人も結構いるみたいだし。僕の王配になれる身分の中でそういう人がいるかはわからないけど。そういう人に出会えればいいなって思う。僕もその人のこと好きになれるかもしれないし。
僕のために不幸になる人を増やしたくないし。いなければいないで、妹が元気に育つまで僕が一人で頑張ればいいだけだしね。あと二十年くらい?ま、大丈夫だよ。
だから、本当は知りたくないけど、僕もローウェルももう十八才になってるわけだし。結婚式のことも考えないといけない時機だからね。
僕は自分の幸せだけを願ってちゃだめだから。だってそんな人が(女)王様になったら国民は不幸だ。だから、ちょっと泣きそうだけど、ちゃんと向き合うことにしたんだ。良い(女)王様になるための一歩だからね。
どうやらまた一つため息をついてしまっていたらしい。
「もうすぐローウェル様が来られます。しっかりなさいませ」
後ろに控えるカリンに軽く頷き、手に持った扇を広げる。扇に焚きしめてあるいつもと同じ甘い香が僕の鼻腔に届いた。女性らしい春の花の香り。平素なら僕の気分を上向きにするその香りすら鬱陶しい。
今日着ている襟の詰まったドレスは若草色で僕の婚約者であるローウェルの瞳の色に合わせている。細部に施された刺繍はこの国では恋人たちが永遠の愛を願って贈り合う野草のデザインだ。手にもつ扇についた飾り房は彼の茶金の髪と同色で作られている。
今から彼に会うというのに気が重い僕の気分とは裏腹に、外見は全身で婚約者どのへの甘い愛を囁いているわけだが…テーブルの上のグラスに目をやってもう一度深い溜め息をついた。
「ひ・め・さ・ま!!」
自分の好きな相手から振られるとわかっているのに、今からほほえみ続けなくてはいけないんだから、ため息くらい勘弁してくれよ。
そう思いながらカリンにもう一度うなずいてみせた。
僕は今からあのグラスの中に満たされている『真の姿をさらけ出す霊験あらたかな神薬』とやらで彼の本心を確かめなくてはならないのだ。
こんこん。と扉の叩かれる音が部屋に響き、僕はもう一度ため息をついた。
「ひめさま!!」
ごめんってば。
無理やり笑顔を作った僕は扉へ顔をむけた。
☆☆☆
お国柄ってものがある。例えば右隣の国民は議論が好きだったり、左隣の国民はロマンチストだったり、上隣の国民は喧嘩っ早い。そして我が国の国民たちは大変信心深い。それはそれは信心深い。
例えば我が国では黒は縁起の悪い色だ。他国からは笑われるが黒猫が見えたら遠回りになっても道を変えるほど。でも黒猫はいなくならないし、黒という色はある。そこで僕らは黒を黒と呼ばないことにした。『白ではないもの』と呼ぶ。まぁ…気休めだけど、呼び名が変われば気分も変わるじゃない?そういうこと。
そして男である僕がどうしてドレスを着ているのか、どうして姫様と呼ばれているのか、それも同じ理由だったりする。
建国から300年、古くて大きな我が国では女王が吉とされてきた。歴史書が伝えるには、ある王の時代は不作だったり戦争が起こったり疫病が流行ったり、とあまり喜ばしくない事が続いた。そして次の王の時代にも。次の次の王の時代にも。
皆が女王の時代を懐かしむ。
どうやらこの国は王とは相性が悪いらしい、そう民が確信するほどの悲しみが、国中につもっていた。
喜ばしいはずの王家の赤子が男であると国民があからさまにため息をつくほどに、皆女王を望んでいた。
そして国民が信心深いなら王族もしかり、度重なる不幸に僕のご先祖様も王をたてるのに躊躇したらしい。不幸が不幸をよぶ王の時代が、否が応でも国民の噂話に信憑性を増す。
王族に女子があればそれを女王とし国を治める。だが国を治めるのに適齢の女子が常にいるわけではない、つなぎで王をたてることもある。そこで神殿を頼った。王であっても不幸を呼ばずに済む方法はないかと…
そしてめでたく神託はくだった。
『偽女王を立てよ』と。
んで、現在、将来(女)王となるべく第一子の僕はきれいなドレスに身を包んで過ごしている。物心ついた頃からずっとドレスだ。女性らしい優美な曲線ってやつは詰め物で作り上げているけど、身のこなしもマナーも女性として身につけた。今ではこの国一番の美姫といえば女王である母様を抑え、ルーディア・エーデルオート、この僕のことだ。
えっへん。
美しい母様に似た面差しのお陰で、鏡に映る僕は自分でもびっくりするほど儚げな美人に見える。喉仏を隠すために立て襟のドレスは必須だけど、豊かな黒髪に深い青の瞳、熟れたさくらんぼのような官能的な唇。細身の体も手伝って、今まで僕の本当の性別を疑ったものはいない。いないはずだ。そうでなきゃ困る。
男として生まれてきたのにそれでいいのかって?
僕だって馬を駆り剣をふるい国を守る騎士に憧れたことはある。でもそれやっちゃうと皆が不安になるんだよね。ドレスを着て国の安寧を願うってのも王族のあるべき姿ですぞ!って昔先生に言われた。だから木登りも木の棒を振り回すちゃんばらも遠い昔に卒業した。
今のこの女の子みたいに細い手じゃ鉄剣なんて持ち上げられないんじゃないかな。
しょうがない、僕の性別は国家機密。乳母と少数の侍女を除き僕が男だと知っているものはいない。
生まれたばかりの妹が女王になれるほど大きくなったら僕は病気になって表舞台から姿を消すことになるんだから。彼女にとっては兄は存在しないことにされるのかもしれない。
田舎で静養する前女王の後見人の田舎貴族というのが本当は誰なのか僕は気づいている。あの方がきっと僕の未来の姿だ。
ま、しょうがないよ。母様もまだまだお元気だし、僕が(女)王になることもなく妹に王座が譲られる可能性もある。っていうかその可能性はかなり高い。
だから王配をねらってくる各国の婚約者候補があまりに野心家だとまずい。母国の力を借りてうちの国を支配しようとしたり、まかり間違って母様を弑すなんて事考えそうな人物だと困る。だから僕の婚約者を選ぶのは本当に大変だったみたい。
まあひと悶着もふた悶着もあった婚約者選びのあと、僕の婚約者には建国神話が犬の神様の加護を受けたというくらいしか特に目立った話のない山間の小さな国の第三王子が選ばれた。それがローウェル。3年前のこと。
多分に彼の国の小国具合っていうか、妹の代に悪影響を及ぼしようのない国力が評価されたんだと思う。気の毒というかなんというか。
婚約者を決めたって言われた時も、僕が思ったのは小国とはいえ王族なら、国のために人生を捧げるのは当たり前だろってことだった。僕が人生を国に捧げるんだから、王族なら当然。ってホントに人としてどうなんだろうね、僕。
ローウェルのこと好きになる予定はなかったんだよ。まぁ、最低限、友達みたいに仲良くしていければいいなって思っていたんだ、本当だよ。小国とはいえギスギスして戦争の火種を作るのはまずいしね。
だけど…彼がこの国に来てくれた一年前から今日まで、会えば会うほど、ローウェルのこといつの間にか好きになっちゃってた。
明るい茶金の髪に若草色の瞳のローウェルは僕と同じ年の十八才で。物静かな男だけど小国とはいえ王族の気品にあふれるいい男で。
いや、えっと、別に外見でローウェルのことを好きなわけじゃない。さり気なく優しいとことか口数が少ないけど僕と感性が合うっていうか、一緒にいて落ち着くところが、いいな、って。
おかしいって分かってる。だって妹が女王になれば僕は男に戻れるんだから。男を好きになる必要はないんだよ。
でも、ローウェルに会うと僕の心臓おかしくなっちゃうんだよ。自分ではもうどうしようもない。
けど、まあ、僕、女の格好してるけど男だからね。子供はもちろんのこと普通に閨のこととかできないし。ローウェルはそれでいいのかなって…
好きになった相手の幸せを願っちゃうなんて、僕もほんとに未熟者だよね。うん。知ってる。王族としてローウェルのことを騙し続けなくちゃいけないのに…僕、王族向いてないって思う。ローウェルがこの国で他国の王族としてしっかりとした振る舞いをすればするほど、僕は自己嫌悪と恋心で挙動不審になってしまった。
でも、仲良くしなくちゃって僕から腕を組んでみたり、節度のある範囲でのスキンシップってやつ?したんだけど、不自然だったのかな。彼もなんだか僕から目をそらす事が増えて。
嫌われちゃったのかな…
彼の幸せを考えたらこのまま黙って王配になってもらうのは卑怯かな…そう思って最近は彼と上手く付き合えなくなっちゃって。僕らの様子は周りから見ても不自然なくらいになってしまった。
そんな僕らを見ていた周りが不仲説を噂して、最近では別の国の王子を推してくる貴族たちもあらわれて。国内の勢力争いの材料に…
これはまずい、とさすがに僕も気づいた。でも、本当のことは僕からは言えないし、下手にローウェルに知らせてしまうと彼の命にも関わる。大国の秘密を知った小国の王子が無事にいられるわけがないだろ?ローウェルを守るためにも表面上は仲良くし続けないといけないんだけど。僕、上手くできなくて。
嫌われてるかもしれない相手に表面上は親しく振る舞うってすごいストレス。次期国母として百戦錬磨の狸爺相手の外交のほうがよっぽど気が楽。嫌われたくないって思うと自分の一挙一動に自分でダメだしして毎回大反省会。
このままじゃダメだってわかってるんだ。王族として割り切ればいい。
形だけの結婚生活。とっても普通のこと、王族なんだから。
でも、彼を不幸にする結婚、望めなくて…どうしたらいいのかわからなくて。
気がついたらますます細身に磨きがかかっちゃって。
儚いって辞書引いたら例文に使われちゃうんじゃないってくらい…
そんな僕の気持ちを察した乳母が手配してくれたのが『真の姿をさらけ出す霊験あらたかな神薬』というあやしい薬。もちろん乳母が前もって自身で安全性は確認してくれたものなので死んじゃったりとか具合が悪くなるような毒薬ではないって分かってる。彼女の真の姿とやらは夫が確認したらしい。顔を赤く染めてゴニョゴニョいっていたので、ま、うん。夫婦仲良くてよかったね。
僕だって『神薬』でローウェルの気持ちを確かめて彼が男と結婚なんてできないって言うならすっきりきっぱり諦めて次の婚約者を探そうって思ってる。
世の中って結構上手くできていて男でもいい、いや、男じゃないとだめだっていう人も結構いるみたいだし。僕の王配になれる身分の中でそういう人がいるかはわからないけど。そういう人に出会えればいいなって思う。僕もその人のこと好きになれるかもしれないし。
僕のために不幸になる人を増やしたくないし。いなければいないで、妹が元気に育つまで僕が一人で頑張ればいいだけだしね。あと二十年くらい?ま、大丈夫だよ。
だから、本当は知りたくないけど、僕もローウェルももう十八才になってるわけだし。結婚式のことも考えないといけない時機だからね。
僕は自分の幸せだけを願ってちゃだめだから。だってそんな人が(女)王様になったら国民は不幸だ。だから、ちょっと泣きそうだけど、ちゃんと向き合うことにしたんだ。良い(女)王様になるための一歩だからね。
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