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第3部 Re:
EP43 旅路(1)
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ユイが外出したいと告げた時、アヤカがユイに預けたのは医療用の空中艇だった。
これはリージョンNと遠方のリージョン間を行き来する際、先代当主が使っていたものだそうだ。
現在では重病人を運ぶ時以外は使用されていない。
「そんなに大げさにしなくても……」
「過保護と思うかもしれないけれど、これ以上は譲れないわ」
ユイはアヤカの厳しい眼差しを受けて、喉元まで来ていた言葉を呑み込む。
それほど大事な命を預かっている、そういう無言の圧力だ。
「道中にはわたくしの護衛たちをつけるわ。……ミオン」
するとアヤカの横に控えていた若い女性が、ユイに向かって頭を垂れた。
ボブカットの黒髪が揺れ、首筋の一部に機械的な露出があるのが見える。
ミオンはリージョンRまで空中艇を操縦し、その後はセキジという護衛が付くという。
「ミオンです! 空路の送迎を担当致します。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
―*―
ユイがミオンに連れられて向かったのはカイドウ家所有のエアポートだ。
カイドウ家は自家用ジェット機さえも所有しているのだろうか。
その総資産を考えると、ユイは軽く眩暈がするほどだった。
そして、目の前。
ユイが見た医療用の空中艇は――
大きな縦長の白いドームの様なボディ。
それを鉄骨の四本足が支えている。
(これに乗るの? まんま未確認飛行物体じゃない……)
ユイにはその乗り物をなんと表現すればいいのかわからない。
ミオンの説明によると、有人型ドローン式医療用空中艇とか言うそうだ。
「なに……空中艇だと!? ……すげぇ!」
少し遅れてやって来たトオルの第一声は、やっぱりその言葉から始まる。
彼の目はもうすでに輝いている。やっぱり根っからの機械オタクなんだろう。
ただ今回はマシューもどこか嬉しそうだ。
「なぁマシュー、このボディ……アウリ合金じゃね?」
「……博識だな。アウリ鉱石とティルタ鉱石から抽出した金属を特別な比率で鋳造した合金だろう。しなやかな剛性がこのドローンにとって……」
カイドウ家所有のエアポートに停まった空中艇の前。
若い技師の男性と、動物型AIが繰り広げるマニアックな会話。
ユイには在りし日のトミオが、マシューに語りかけているような錯覚を覚える。
もしここにレイラが来ていれば、さらに盛り上がったかもしれない。
「それではみなさま、参りましょう」
ミオンが操縦席に座り、ユイはトオルに手を引かれて後部座席に収まる。
ひんやりとしたシートの冷たさが、非日常感を少しだけ感じさせた。
この空中艇は、飛行機よりも早く、安定して飛ぶんだそうだ。
と言ってもユイは飛行機にあまり乗ったことが無いのだが。
隣で相変わらずマニアックな論戦を繰り広げるふたりを、ただ静かに見守るだけだ。
「ユイさま、天候が崩れてきました。少し揺れるかもしれません」
ミオンの知らせで、ふたりの論戦がピタリと止まる。
安定した飛行を見せていた空中艇が、雲の中に入る。
そして直ぐに雲から抜け出す。
ユイの横に座るマシューの目が青く光る。マシューが見つめるのは進行方向。
その澄んだ青には何も映っていない気がした。
ユイとマシューの間に重苦しい間が流れた時、トオルが空中艇の窓を見て呟いた。
「レイラとデートすると、なぜか雨が降るんだよな」
「……そういえば遠足はいつも雨だった」
「……ヒロトとデートすると水辺に連れていかれただろ?」
「うん」
「水が近いと素直になれるんだとさ」
ユイはヒロトと結ばれた夜を思い出していた。
あの時、ヒロトは“傍にいる”と言ってくれた。
場所はたしか噴水近くのベンチだったはずだ。
ユイのお腹に僅かな反応がある。それは痛みとは違っていた。
この子はあの夜に授かった子――
だとしたら、父親に望まれて宿ったのかもしれない。
確信は……まだもてない。でも、そうであってほしいと願っていた。
これはリージョンNと遠方のリージョン間を行き来する際、先代当主が使っていたものだそうだ。
現在では重病人を運ぶ時以外は使用されていない。
「そんなに大げさにしなくても……」
「過保護と思うかもしれないけれど、これ以上は譲れないわ」
ユイはアヤカの厳しい眼差しを受けて、喉元まで来ていた言葉を呑み込む。
それほど大事な命を預かっている、そういう無言の圧力だ。
「道中にはわたくしの護衛たちをつけるわ。……ミオン」
するとアヤカの横に控えていた若い女性が、ユイに向かって頭を垂れた。
ボブカットの黒髪が揺れ、首筋の一部に機械的な露出があるのが見える。
ミオンはリージョンRまで空中艇を操縦し、その後はセキジという護衛が付くという。
「ミオンです! 空路の送迎を担当致します。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
―*―
ユイがミオンに連れられて向かったのはカイドウ家所有のエアポートだ。
カイドウ家は自家用ジェット機さえも所有しているのだろうか。
その総資産を考えると、ユイは軽く眩暈がするほどだった。
そして、目の前。
ユイが見た医療用の空中艇は――
大きな縦長の白いドームの様なボディ。
それを鉄骨の四本足が支えている。
(これに乗るの? まんま未確認飛行物体じゃない……)
ユイにはその乗り物をなんと表現すればいいのかわからない。
ミオンの説明によると、有人型ドローン式医療用空中艇とか言うそうだ。
「なに……空中艇だと!? ……すげぇ!」
少し遅れてやって来たトオルの第一声は、やっぱりその言葉から始まる。
彼の目はもうすでに輝いている。やっぱり根っからの機械オタクなんだろう。
ただ今回はマシューもどこか嬉しそうだ。
「なぁマシュー、このボディ……アウリ合金じゃね?」
「……博識だな。アウリ鉱石とティルタ鉱石から抽出した金属を特別な比率で鋳造した合金だろう。しなやかな剛性がこのドローンにとって……」
カイドウ家所有のエアポートに停まった空中艇の前。
若い技師の男性と、動物型AIが繰り広げるマニアックな会話。
ユイには在りし日のトミオが、マシューに語りかけているような錯覚を覚える。
もしここにレイラが来ていれば、さらに盛り上がったかもしれない。
「それではみなさま、参りましょう」
ミオンが操縦席に座り、ユイはトオルに手を引かれて後部座席に収まる。
ひんやりとしたシートの冷たさが、非日常感を少しだけ感じさせた。
この空中艇は、飛行機よりも早く、安定して飛ぶんだそうだ。
と言ってもユイは飛行機にあまり乗ったことが無いのだが。
隣で相変わらずマニアックな論戦を繰り広げるふたりを、ただ静かに見守るだけだ。
「ユイさま、天候が崩れてきました。少し揺れるかもしれません」
ミオンの知らせで、ふたりの論戦がピタリと止まる。
安定した飛行を見せていた空中艇が、雲の中に入る。
そして直ぐに雲から抜け出す。
ユイの横に座るマシューの目が青く光る。マシューが見つめるのは進行方向。
その澄んだ青には何も映っていない気がした。
ユイとマシューの間に重苦しい間が流れた時、トオルが空中艇の窓を見て呟いた。
「レイラとデートすると、なぜか雨が降るんだよな」
「……そういえば遠足はいつも雨だった」
「……ヒロトとデートすると水辺に連れていかれただろ?」
「うん」
「水が近いと素直になれるんだとさ」
ユイはヒロトと結ばれた夜を思い出していた。
あの時、ヒロトは“傍にいる”と言ってくれた。
場所はたしか噴水近くのベンチだったはずだ。
ユイのお腹に僅かな反応がある。それは痛みとは違っていた。
この子はあの夜に授かった子――
だとしたら、父親に望まれて宿ったのかもしれない。
確信は……まだもてない。でも、そうであってほしいと願っていた。
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