偽装

︎冬

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殺人事件と告白

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【登場人物】

迂路 ウロ

逝夜 イヨ

世那 セナ

妃乃 ヒノ

類 ルイ

被害者 朱雨 シュウ













迂路 様。
先日は、祖母の葬式に来て下さり有難う御座いました。
まさか兄を裏切った迂路様が祖母の葬式に来て下さるとは、思いもしなく、私含め家族が荒ぶって、あんな失礼な事を申し上げた事をお詫び申し上げます。さて、謝罪もこの辺にして本題に入りましょうか。
あの日、貴方は、兄を殺しましたね。
警察署では、否定していたみたいですが、貴方が兄を殺した所を見ていた者が居るんです。
迂路様、そんな驚いた様な顔をされては『そんな馬鹿な。』と言っている様なものですよ。
ちゃんと私達の話を聞いててくださいね。
「では、まず私から」そう口を開いたのは末っ子の世那だった。
世那の姉、逝夜が「あんた、ちゃんと言えるの?」と煽り口の様な声で世那に言った。
世那は、「ちゃんと言えるよ、姉さんと一緒にしないで」と怒った口調で言い放った。
逝夜は、世那が言った言葉に対し怒り、姉妹喧嘩になり始めたので、兄の事件どころではなくなったのだが、弟が「やめろよ!兄ちゃんの事件の話するんだろ」と姉二人に怒鳴った。
弟、類は、温厚で喧嘩は好まないタイプだが、この日は違った。いつも怒鳴らない類が怒鳴ったせいか、姉二人は、喧嘩を止め、大人しく自分の位置に着いた。私、妃乃は、「世那、話してあげて」と言い私も席に着いた。「さて、姉妹喧嘩も終わりましたし、あの日の出来事を話しましょうか」世那がここまで行ったところで、迂路がトイレに行きたいと言った。
「では、私が案内しましょう」そう言ったのは逝夜だ。
迂路のトイレが終わり部屋に戻ってきた。
「それでは世那、早く話してあげて」と私が言う。
「それでは、本題に入ります。
あの日、貴方と兄は早朝から山登りに行きました。
貴方が兄を急かして兄が玄関で、転んでいるのを覚えております。私と姉達も行きたいと兄に縋りましたが、兄には危険だと言い止められました。貴方も『そうだよ、皆。山登りだから、熊とか出てきちゃうかもだから危ないよ。大きくなったら、また行こうね』と私達に笑顔で行ったのを覚えていますか?
私達は、この言葉を信じて、早く大きくなりたいなと話していました。私達は、兄と貴方が帰ってくるのを待っていました。
兄と貴方が山登りに行って六時間後、玄関のドアが開く音がしたので、逝夜姉さん、類、妃乃姉さん、私で急いで玄関まで行きました。お兄ちゃんっ、おかえり!とはしゃいで、皆で言おうと話し合っていましたが、帰ってきたのはお兄ちゃんと貴方では無く、貴方だけでした。しかも泣いて震えていました。母と父が何があったのか聞くと貴方は、泣きながら『朱雨(兄)が崖からっ』と言いました。それを聞いた母と父が警察に言い警察が山に向かいました。
ここで一つ疑問点が有ります。
何故貴方は、兄が崖から落ちた直後に、警察を呼ばなかったのでしょうか。
例えば、山が圏外で電波が通じない。それなら分かりますが、山を急いで降りて警察に駆け込む事も出来るでしょう?それなのに、兄の遺体は、死んでから六時間前後も経っていたと警察が言っていました。
何故貴方は、兄が崖から落ちた直後に、山を降りるなり携帯で救急車を呼ぶなり、しなかったのでしょうか。
それに崖から落ちたと言っても直後は、まだ意識があったでしょう?貴方は、兄に声を掛けましたか?
いいえ、掛けていません。
何故、声を掛けていないと分かるのか。と言う驚いた顔をしていますね。
何故か。それは、私達が見ていたからです。
あれ?迂路様、何処に行かれるのですか?トイレ?トイレはさっき逝夜姉さんと行ったでしょう。
もう少しですので、席に着いて、お聞きになってください。
あの日、兄と貴方が山に向かった後、私達は、山に行きました。理由は、兄が頑張れるか不安でしたので、満場一致で着いて行く事になりました。
何を頑張るか、ですか?
それは、貴方も分かって居るでしょう?
兄が死ぬ二ヶ月前の事です。
嗚呼、やっと分かりましたか?
そうです。貴方に二回目の告白をしようとしていたのです。兄が貴方の事を好きなのは、告白されたので知っているでしょう。
兄は、貴方と山登りに行く前日に、お祝いだと言い私達が大嫌いな赤飯を振舞ってくれました。私達は嫌々食べましたが、兄は嬉しそうに食べておりました。今思えば、私達の赤飯は、炊飯器から。兄のは、パックの赤飯でした。多分貴方が兄に作り過ぎた等と言って、差し上げたのでしょう。そんな兄を、貴方は拒絶し崖から落とした。私達の愛する兄を殺した違いますか?」と世那は、涙を流しながら言った。兄の事を思い出したのか、逝夜と類も泣いていた。迂路は、『違う、違う』と否定しながら、頭を抱えこんでいた。
「それでは、次は私ですね」
そう言ったのは泣くのを止めた逝夜だった。
「世那が言った通り、私達は、兄と貴方に着いて行きました。兄と貴方が山小屋まで行った所で、兄が貴方に好きだと伝えました。貴方は、兄の告白に対し『俺もだよ』と言い兄をハグしましたね。
貴方は、兄の告白を受け入れた筈。
兄の事を好きと言った筈。
それなのに何故崖から落としたのでしょうか。
私達は、貴方が兄の告白を受け入れたので、安心して帰ろうとしました。そしたら類が「お兄ちゃんがっ。」と慌てた表情で言うもんですから、私含め皆で山小屋の中を遠くから覗きました。けれど、貴方が兄をハグしていただけなので、別に何とも無いじゃない。類、馬鹿な事言わないで等と言い、山を降りました。
ええ、そうです。貴方は、ハグをしていたんじゃない。兄に睡眠薬を飲ませ、兄に変な傷が付かないよう、支えていただけだったのです。
類は、見間違えてなんかいなかった。
貴方が兄を崖から落とした理由。
それは、事故だと思わせる為。
だって、兄が山小屋で死んでいたら、真っ先に一緒に居た貴方が疑われますもんね。
崖から落とせば、兄が足を滑らせたと言えば皆、信じてくれる。そうお考えになったのでは?それに警察が言っておりました。兄の身体から睡眠薬が検出されたと。兄は、元々不眠症で睡眠薬を飲んでいました。貴方は、そこを逆手にとったのでしょう。
警察が第一発見者の貴方を疑った時も『俺は、朱雨の恋人だ。そんな事する訳無いだろう』と泣きながら言ったそうですね。
よくもまあ、兄を崖から落としたくせに、そんな迫真の演技が出来ましたね。
いっその事、俳優にでもなったらいかが?」と笑いながら煽り口を叩く逝夜に、私は、煽るのは、止めなさいと言った。
逝夜は、「まぁ、そんな簡単にはなれないけど」と言い、話の続きに入った
「警察も貴方の迫真の演技には、騙された事でしょう。何せ、私と世那、妃乃姉さんまで騙されたのですから。
私達が兄を殺したのが貴方だと、分かったのは、類のおかげです。
類は、山を降りようとした時、貴方が兄に何かを飲ませて、その後に兄が貴方の胸に倒れ込むのを見たと私達に教えてくれました。
そんな戯言に確信は有りませんでしたが、貴方の言動、行動を振り返って思い出してみると、疑問点が沢山浮かんできたのです。
疑問点一つ目は、世那が言った"警察、私達家族への連絡"
二つ目は、兄の告白を受け入れた事。
告白を受け入れたのは、心変わりかもしれません。
けれど、貴方は、兄の一回目の告白で『何それ笑、男が好きなの?笑気持ち悪笑』と兄の前で、兄の部屋で大声で笑いながら言っていましたよね。兄の部屋の隣は、私達の部屋なので、丸聞こえでしたよ。気持ち悪とまで言っていた貴方が、たかが一ヶ月で心変わりするんですか?冗談よしてくださいよ笑
兄が頑張って前日から練習していた告白を、貴方は、気持ち悪の一言で終わらしたんです。
貴方は、その後、『あー、なんか遊ぶ気失せたし帰るわ』と言い、傷ついた兄を置いてさっさと女の所に行きましたよね」と逝夜が言った所で迂路が『違う、俺には彼女が居るから、断っただけで、』と焦った表情で言った。
それに対し逝夜は「口を挟まないでください。
それに何故そんなに焦って居るのでしょうか。
そんなに汗をかいているところを見ると兄を殺した事がバレると、思っているのでしょうか?もうバレているので焦らなくて良いですよ。
話の続きに戻りますが、兄は、貴方に彼女が居る事は知っていました。
迂路様、何故そんな唖然とした顔で、居らっしゃるのですか?まさか、兄が貴方に彼女がいる事を知らないとでも?兄が適当に幼なじみをして、ただたんに貴方が好きだったと思っていたのですか?そんな訳ないでしょう。兄が好きな人ならと思い、私達も貴方を調べさせて貰いました。そしたら、何と面白い事が次々と出てきたのです。
兄が貴方に告った事を広めていた事。
貴方には、彼女が何人も居る事。
貴方は、同級生を脅し金を巻き上げていた事。
他にも有りますが言わないでおきましょう。
兄にこの事を言ったか、ですか?
言ってませんよ、こんな屑みたいな事。
言ったら兄が悲しむでしょうから、私達からしたら、この事を言って、兄が貴方の事を嫌えばいいと思いましたが、兄の長年の片想いは、知っていたので言えませんでした。貴方みたいな屑がたかが一ヶ月で、心変わりする筈ないでしょう。貴方が兄を殺した理由。
それは、あの女の人のせいですよね」と逝夜が言った直後、迂路が『あいつは関係ない、あいつは巻き込むな』と焦りながら早口でそう言った。
私は、迂路に「巻き込むも何も貴方があの人を巻き込んだんでしょう。兄を殺す理由として」と怒った口調で言った。
『違う、違うんだ』迂路がそう言うが、私達には通じない。
「迂路様、私達にその演技は通じませんよ。
私達は、貴方と幼なじみだった事。
貴方と遊んでしまった事。
兄が貴方を好きになってしまった事。
貴方と出会ってしまった事。
全てに後悔しております」と私は迂路に言い「逝夜、その後は私に任せて」と逝夜に言った。逝夜は、「分かった」と言った。「では、逝夜の話の続きから」そう言うと迂路は、演技を止め、私の話に耳を傾けた。
「逝夜が言ったあの女の人。それは、貴方が当時惚れていた女の人。貴方が次の彼女にしようと思っていた相手。そうですよね?あの女の人をAさんと呼びましょう。
Aさんと貴方は、友達の紹介で知り合ったそうですね。
Aさんは、美人でスタイルも良く性格も良かったそうですね。
所謂完璧な人。そんな人に惚れない人は、そうそう居ないでしょう。
貴方もAさんに惚れた中の一人。
貴方は、Aさんに猛アタックし続けました。
それでもAさんは、興味無いと言い、貴方の好意を受け取る事は有りませんでした。
貴方がAさんとデートまでこじつけたある日、貴方とAさんと兄は、街で会いました。
兄は、貴方に会えて喜び。
貴方は、Aさんとのデートを邪魔され不機嫌。
Aさんは、兄を見てイケメンと喜んだ。
貴方は、兄が去った後、Aさんに『それじゃあ、デートの続きをしようか』と言ったが、Aさんは、「あの人、迂路さんの知り合い?名前は?歳は?」等と自分の事では無く、兄の事ばかり聞かれ腹が立ちます。
そして、Aさんは、自分を見てくれなかった。
自分より兄を見たAさんにも腹が立ったが、そんな事より会っただけで、Aさんの心を奪った兄に嫉妬心が芽生えた。
その嫉妬心から兄を殺せば、Aさんが振り向くと思った。
違いますか?
そんな自分勝手な考えでは、誰も振り向こうとはしませんよ。
兄は、最愛の貴方に殺され涙。
Aさんは、一目惚れした兄が死に涙。
貴方は、Aさんに振り向いて貰えなくて涙。
私達は、大好きな兄が死に涙。
貴方のせいで全員が不幸になりました。貴方は、この責任どうするおつもりで?兄の墓にお参りをしに行きますか?刑務所に入り、罪を償いますか?それとも私達に真実を話して、兄に謝って警察沙汰は、無しにしますか?」と私が言うと迂路は『最後のだ、最後のにしてくれ、頼む』と私達に懇願してきた。
その答えに私は「貴方に選ぶ権利があると思って?警察沙汰にするに決まってるでしょう?兄の墓に行って兄に謝り刑務所の中で罪を償うのです」と言い電話をとった。
すると迂路が『違う。違うんだ。殺そうと思って殺したんじゃない』と言った。
絶望しているのか顔が真っ青だが、そんな事は、どうでもいい。
「殺人犯は、大抵皆そう言うで」と類が言った。
十歳近く離れている子に、冷静に言われ正気になったのか、迂路は、『そうか』と言い座り込んだ。
その数十分後、パトカーのサイレンが遠くから聞こえた。
迂路が『ああ、俺も終わりか』とそう言った。
すると、世那が「あんたの事は、許さない」と言った。
私も最後だと思い「罪を償ってください」と言った。
逝夜は、黙り込み、類は、「墓参り、しろよ」と言った。
私達の言葉に対し迂路は、『……分かった』と言い警察に連れて行かれた。
警察からは、よく犯人が分かったね、と褒められた。
私達は、事件の真相を知りたかっただけですと言った。
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