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第一章 惑星ガイノス開拓計画

狩人の産声

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 戦闘用義体、通称《バーサーカー》を開発した人間は控え目に言って頭がどうかしている。

 戦場に出る兵士の役割はつまる所『人を殺す』これに集約される。しかし人間相手に設計されたとは思えないその性能は、過剰で異常で狂気を感じずにはいられなかった。

 成る程《バーサーカー》とはよく言ったものだ、と名付けた人間に妙に感心してしまった。

 きっとこれを設計した人間は「ロマンがてんこ盛りだぜ!ヒャッハー!」とか言いながらハシャいでいる中二病患者か、あるいはプリンが大好物のマッドサイエティストに憧れていたに違いない。


*****


 惑星ガイノスを開拓するにあたり問題点と突破口はただ一で、巨大で凶暴なあのモンスター達をどうにかする。この一点さえ解決出来れば開拓は成功したようなものだ。

 しかしその一点が途方もなく、果てしなく、無理難題であって、それ故政府は諦めざるを得なかった。

 ゲームで例えるなら「このダンジョンの奥に凄いお宝があります。条件は武器無し防具無しで攻略してください。モンスターとのエンカウントは避けられません」と言われているようなものだ。

 ゲームとの違いは、死んだら人生が終わる。無理ゲーここに極まれりだ。

 では生身で銃器もなしで人間がモンスターに対抗するにはどうしたらいいか?

 そこで目を付けたのが、惑星間戦争が生んだ負の遺産、政府がその処分に頭を抱えている戦闘用義体バーサーカーの再利用だ。この義体のぶっ飛んだ性能なら人間はモンスターと戦える。

 機械でなければ持ち上げるのも不可能な重さを容易く振り回すことが出来るし、大型車に衝突されようが10階の高さから落ちようが壊れる事はない。

 VRでお馴染みのコネクションダイビングシステムを応用し義体の脳チップに接続して操るので、仮にボディが破壊されても操縦者が死ぬことはないし、在庫が尽きない限りゲームのようにcontinueも可能だ。


「つまり、ハンターの身体を再現可能って訳だ。これを使ってガイノスを開拓する。勿論使うのはバーサーカーだけじゃない、ヒューマノイド難民も連れて行く。住居や施設の建造、食糧を確保するのに役立って貰う」


「成る程ね、一石二鳥どころか三鳥も穫れるわけね。政府が動く大義名分としてはパーフェクトだわ、企業からもスポンサーの応募が殺到するでしょうね。でも、リョースケの真の目的はそこじゃない…」

 ミラはその細い指を顎に添えて数秒黙り込む。

「あなたは現実世界で……そう…言うなれば『リアル・ハンティング・ワールド』を作ろうとしている」

「流石ミラ」

 VRが発達して以来、相当にリアルな感覚でゲームが出来てはいるが、やはりそれは疑似体験でしかない。

 しかし、惑星ガイノスならバーサーカー義体を使って現実でモンスターの狩猟体験が出来る。狩猟だけでなく未知の鉱石もあるという話だからその採掘、地球にはない植物の採取など、それ自体が惑星の開拓に繋がるのだから当然金が動く。
 つまり「職業ハンター」としてお金を稼ぎ生活出来るのだ。まさにリアル・ハンティング・ワールド。絶対楽しいに決まっている。


「そういうこと。どうだ、ワクワクするだろ?」

「最っっっっ高ね。で、調査員という名のハンター達はどうするわけ?」

「フフン、いるだろここに。我らのハンティング・ワールドに。鬼畜難易度じゃないとエレクトしない愛すべきマニア達が」

「その言い方は偏見ねリョースケ。女だってエレクトする所はちゃんとあるのよ?男しか勃つ所がない、みたいな表現は差別だわ!」

「どこで張り合ってんだよ!生々しいよ!」

「流石、突拍子もねえ事考えるなリョーは」

 呆れた顔でマイクがそう呟いた。

 あ、そうそう今はハンティング・ワールドにログインして、いつもの酒場で皆に集まって貰っている。
 惑星ガイノス開拓計画の話をするためだ。

「リョーちゃんあのブツブツ言ってる時はこれを考えてたのねー♪驚いたわ!」

 そうだね、バニーはあの時邪魔してくれてたもんね。

「後で話すと言ってたのはこの事だったんだね!いやはや、感服する他ないよ僕は」

 ロイに紹介して貰った宇宙船の製造をしている大企業の社長さんには既に協力の確約をいただいている。
 量子観測機のデータとエマさんの言質を見せたら、それはもうすんなりと話が進んだ。企業の代表としてはあの莫大な見込み利益を見せられたら動かない方がおかしいだろう。
 俺があの時「ソイツは好都合」と言っていたのは、元々ガイノスが発見された当初、宇宙船の需要が増える事を見越して製造を始めていのだが、先日のニュースでそれが無駄になるところだったらしい。
 だから今回の計画は渡りに船だ、と大いに喜んでいた。宇宙船なだけに…ってやかましいわ。


「とまあ、そういう訳だ皆。この話…乗るか?」

「「「「当たり前だ(よ)!」」」」

「よしっ!じゃあこの『リアル・ハンティング・ワールド』計画を煮詰めて行くとしよう。何か気付いた事やアイデアがあれば言ってくれ」

「おう、まずはバーサーカーをどうにかしないとだな。まさかこのまま殺人兵器を使う訳にはいかないだろ?流石にお偉いさん方も良い顔はしないぜ」

「その通りだマイク。で、パティさんをお呼びしたのはその件です」

「私の事はパティと呼び捨てにして頂ー戴♪とうとう抱いてくれるのかと思ったら仕事の話ね♪」

「やーーだぁーー!リーダーったら大胆ねぇん♪」

 最初に発言したのは、猟団「show time!!」のリーダー、パティさん。ロングの黒髪と焼けた肌が美しいアジア系の色っぽい姉さんだ。露出多めの服装で楽しそうにコチラを見ている。
 ちなみに元男だが、ご多分に漏れずバイオテクノロジーで身体も完全に女性化している。

 野太い声で照れているのはマリアンヌさん。
 一言で形容するならゴリラ乙(漢)女と言えば分かるだろうか…そのごつさはマイクといい勝負だ。

 何故パティさんと同じように女性化しないのか?とは聞けない…何かこだわりがあるんだろう。

 二人は現実世界では義体工学のスペシャリストであり義体デザイナーでもある。


「残念ですが、それはまた今度の機会に…。パティさんの会社にはバーサーカーの修正、加工、デザインなんかをお願いしたいのですが」

「かの戦闘用義体を弄っていいなんて素敵ねん♪リーダー、スッゴく楽しそうじゃない♪」

「そうねマリアンヌ♪うん、分かったわリョースケちゃん!後程契約書をお願いするわね♪」

「ありがとうございます、契約書関係はウチの秘書に届けさせます」

「いやん♪ダメよ、リョースケちゃんが私の家に直接、夜に届けに来てくれなきゃ♪」

「パティ、調子に乗るなよ?」

「やだー♪ミランダちゃん怖ーい!冗談よー、そんなに睨んだらせっかくの美人が台無しよ♪」

 ミラが女性関係で怒るその線引きがとても難しい…バニーもマリーも自分の母親ですらwelcomeなのに…ハッ!?身内ならOKなのか?

「麗しいレディ達が争っている姿は見たくないなぁ、話を戻そうじゃないかハニー?ミスパティ?」

「誰がハニーだ死ね」

「ロイちゃんの言う通りよミランダちゃん♪建設的な話し合いをしましょ♪どんな加工をお望みかしら?大概の事は出来ちゃうんだから何でも言ってみて」

 おお、何か軽い言い方だけど職人としてのプライドが感じられる発言だ…頼んで良かった。

「取り敢えずデータを見ながらアイデアを出していこう」

 そう言ってから皆の見える位置にバーサーカーのデータファイルを展開させる。

「スンゴーイ♪これ作った人は本物の変態ねん」

 身体をクネクネさせ金髪のツインテール(無駄にツヤツヤしている)を揺らしながらマリアンヌさんが俺と同じような感想を述べた。楽しそうなのは言葉だけでその目は真剣そのものだった。この人もまた職人なのだろう。

「変態には同意です。で、ご覧になってどうでしょうか?まずどこまでが可能で、あるいは不可能か教えて下さい」

「ウフフ♪分かってないわねリョースケちゃん、コレだけの素材なら何でも出来ちゃうわよ。むしろそちらの要望を言ってくれた方が早いわん♪」

 早く弄りたくてウズウズしているようだ。頼むから魔改造とかしないでくれよ。それより何かそのまま勢いで襲われそうで怖い。仮想現実なのに怖い。押し倒すならマイクかロイをどうぞ…

「てことはー、女性用のボディに変更するのは出来るのよね?」

「余裕過ぎておっぱいが零れるわよヴァネッサちゃん。先に言っておくけど、顔も3Dプリントして表情筋も本人の違和感がないよう再現出来るわ♪」

「なあコレさ、ハンティング・ワールドを再現するならステータスも変更出来ねえかな?」

「マイクお前天才かよ!そこは気付かなかった!」

 ハンティング・ワールドは自分の性格と武器に応じて、ステータスをカスタマイズ出来るシステムがあり、そこにプレイヤーの個性が出る。例えば同じロングソードでもオーソドックスな『バランス型』攻撃力特化の『パワー型』、『パワーバランス型』なんてのもある。自分が使いやすいように設定していくのが醍醐味の一つだ。これをハンター達は『スタイル』と呼んでいる。アップデートされる度に新モンスターに応じたスタイルを考えるのも楽しい。

「だろ?やるなら自分の拘ったスタイルでプレイするのがハンターってもんだぜ。で、パティ?出来るんだろ?」

「余裕過ぎてそのスキンヘッドに欲情するわマイクちゃん♪どうせだからもっと個性が出るように、ステータス数値を各部位で設定出来るようにしちゃいましょ♪」

「お、おう。頭に興奮されたのは初めてだぜ…」

「じゃあ、こんなのはどうだい?…

「いいねー、細かい所に目がいくなロイ…


「そこはこうしたぼうが…


*****



 その後、俺達は時間を忘れてアイデアを出し合った。中には荒唐無稽なアイデアもあったが(大概はミラが出した)。
 おかげで計画の要であるバーサーカーの改造・修正案はハンティング・ワールドプレイヤー達を納得させる形に落ち着いた。

 そして数ヶ月後、時代が産んだ忌むべき殺戮兵器《バーサーカー》は人類の未来に貢献する調査用義体《ハンター》として産声をあげるのだった。

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