7 / 24
07
しおりを挟む
その後、シャステは午後の自由時間に中庭を散歩していたのだが、そこでまた見たくもないものを見せつけられることになった。
初夏の陽射しを避けるようにして、中庭の東屋に居るのはアンネマリー、そしてその隣にはレーベの姿がある。アンネマリーがレーベに会いに来たのだろう。
二人とも金髪で、白い服を着ていて、眩しいほどにとてもよくお似合いだ。
シャステは反射的に木の陰に隠れて、自分の真っ黒な髪に触れる。今日もシャステのドレスは黒で、彼らとは対照的だった。
(って……なんであたしがこんなことを気にしているのよ)
シャステは首を横に振り、もう部屋に戻ろうと思うのに、視線は彼らに向いてしまう。
楽しそうに会話をしていた二人だが、アンネマリーは脇に置いていた小さなバスケットからクッキーを取り出すと、それをレーベの口もとに差し出す。
彼はそれを口に入れ、やけに嬉しそうに微笑んだ。
彼からすれば普段通りなのかもしれないが、シャステからすればそう見える。
そのことに、どうしてかひどい苦痛を感じてシャステは今度こそ駆け出すようにその場から離れる。その物音で、レーベが彼女の後姿を見たことにも気づかずに。
◇◇◇
シャステがその場を立ち去る少し前のこと、レーベとアンネマリーは話をしていた。
「レーベ、王女様とはうまくやれているの?」
「それ、聞くの?」
嫌そうな顔をしたレーベに、アンネマリーはくすくすと笑う。
「ええ、恋のお話は女の子にとって特別なものですのよ」
「恋、ねえ……」
言いながら、レーベは嘲笑をうかべる。
「一方通行とさえも言えない、片想いと呼ぶのも認められないような関係が?」
シャステにとってレーベは目の上のたんこぶのようなもので、到底、恋と表現することはできない。
一方レーベにとってシャステはとても大切な少女であったが、その想いを表に出すことは彼女を苦しめることになる。
そんな彼に、アンネマリーは俯いて言う。
「……あのときのことは、彼女にとってきっととてもつらいことでしょう。けれど、逃げてばかりもいられませんわ」
「逃げ続けてくれたって、構わないよ。ぼくはね」
それを聞くと、アンネマリーは眉を寄せてレーベを見る。
「レーベ、あなたもですわよ。いつまでも逃げてなんていられませんわ。それは、あなたのためにも、王女様のためにもならない」
「ぼくにどうしろと? せいぜい、時が解決してくれるのを待つしかない。医者にもそう言われている、余分なことをするなとね。まぁ、良いほうに解決すれば天に感謝するけど?」
「投げやりですのね」
アンネマリーは小さく息を吐いて、レーベの頬を細い指でつついた。
「王女様が大切なら、あなたもしっかりなさいませ」
「ひとのことはともかく、そういうおまえのほうは大丈夫なの?」
レーベの問いに、アンネマリーは小さく笑った。
「わたくしのほうは何も問題ありませんわ。楽しみですわね、いつか王女様とレーベと、一緒に笑いあえる日が」
「……そんな日、くればいいけど」
どこか憂鬱そうに言うレーベに、アンネマリーは頬を膨らませて小さなバスケットからクッキーを取りだす。
「もう、レーベ、本当にしっかりしてちょうだいな。これでも食べて元気をだして? 今日、料理長に作ってもらったものですのよ」
「ん」
口もとに差し出されたそれを口に含む。
「うん、おいしい」
「でしょう? わたくしのお気に入りですの」
そのとき、アンネマリーは気づかなかったようだが、かすかな物音が聞こえてレーベはそちらに視線を向けた。
流れるような黒髪に黒いドレスを目にとめて、彼は慌てて席を立つ。
「ごめんアンネマリー、急用」
「あら……まぁ、いってらっしゃい」
それに彼女はふふっと笑い、手を振った。
初夏の陽射しを避けるようにして、中庭の東屋に居るのはアンネマリー、そしてその隣にはレーベの姿がある。アンネマリーがレーベに会いに来たのだろう。
二人とも金髪で、白い服を着ていて、眩しいほどにとてもよくお似合いだ。
シャステは反射的に木の陰に隠れて、自分の真っ黒な髪に触れる。今日もシャステのドレスは黒で、彼らとは対照的だった。
(って……なんであたしがこんなことを気にしているのよ)
シャステは首を横に振り、もう部屋に戻ろうと思うのに、視線は彼らに向いてしまう。
楽しそうに会話をしていた二人だが、アンネマリーは脇に置いていた小さなバスケットからクッキーを取り出すと、それをレーベの口もとに差し出す。
彼はそれを口に入れ、やけに嬉しそうに微笑んだ。
彼からすれば普段通りなのかもしれないが、シャステからすればそう見える。
そのことに、どうしてかひどい苦痛を感じてシャステは今度こそ駆け出すようにその場から離れる。その物音で、レーベが彼女の後姿を見たことにも気づかずに。
◇◇◇
シャステがその場を立ち去る少し前のこと、レーベとアンネマリーは話をしていた。
「レーベ、王女様とはうまくやれているの?」
「それ、聞くの?」
嫌そうな顔をしたレーベに、アンネマリーはくすくすと笑う。
「ええ、恋のお話は女の子にとって特別なものですのよ」
「恋、ねえ……」
言いながら、レーベは嘲笑をうかべる。
「一方通行とさえも言えない、片想いと呼ぶのも認められないような関係が?」
シャステにとってレーベは目の上のたんこぶのようなもので、到底、恋と表現することはできない。
一方レーベにとってシャステはとても大切な少女であったが、その想いを表に出すことは彼女を苦しめることになる。
そんな彼に、アンネマリーは俯いて言う。
「……あのときのことは、彼女にとってきっととてもつらいことでしょう。けれど、逃げてばかりもいられませんわ」
「逃げ続けてくれたって、構わないよ。ぼくはね」
それを聞くと、アンネマリーは眉を寄せてレーベを見る。
「レーベ、あなたもですわよ。いつまでも逃げてなんていられませんわ。それは、あなたのためにも、王女様のためにもならない」
「ぼくにどうしろと? せいぜい、時が解決してくれるのを待つしかない。医者にもそう言われている、余分なことをするなとね。まぁ、良いほうに解決すれば天に感謝するけど?」
「投げやりですのね」
アンネマリーは小さく息を吐いて、レーベの頬を細い指でつついた。
「王女様が大切なら、あなたもしっかりなさいませ」
「ひとのことはともかく、そういうおまえのほうは大丈夫なの?」
レーベの問いに、アンネマリーは小さく笑った。
「わたくしのほうは何も問題ありませんわ。楽しみですわね、いつか王女様とレーベと、一緒に笑いあえる日が」
「……そんな日、くればいいけど」
どこか憂鬱そうに言うレーベに、アンネマリーは頬を膨らませて小さなバスケットからクッキーを取りだす。
「もう、レーベ、本当にしっかりしてちょうだいな。これでも食べて元気をだして? 今日、料理長に作ってもらったものですのよ」
「ん」
口もとに差し出されたそれを口に含む。
「うん、おいしい」
「でしょう? わたくしのお気に入りですの」
そのとき、アンネマリーは気づかなかったようだが、かすかな物音が聞こえてレーベはそちらに視線を向けた。
流れるような黒髪に黒いドレスを目にとめて、彼は慌てて席を立つ。
「ごめんアンネマリー、急用」
「あら……まぁ、いってらっしゃい」
それに彼女はふふっと笑い、手を振った。
0
あなたにおすすめの小説
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる