ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ

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◇三話◇

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 ――いつからオデットを好きになったのだろうと聞かれると、正確にはわからない。
 ただいつのまにか、純粋な好意をむけてくれる彼女を愛らしく想うようになった。
 一緒に仕事をする同僚、一緒に賊の討伐任務などにゆくこともある。
 オデットとは息があう、同じ戦いで一緒になれば、背中をあずけて戦うことができる。
 そういう存在だった。
 いもうとのような存在から、頼りになる戦友へ、そしていつからか、女性としての彼女を愛おしく思っていた。

 ちょうどそんなころだ、アンネリースの本性に遭遇したのは。
「ランヴァルド様? まさかあなた、わたくしのかわいい妹に懸想しているのではありませんわよね?」
 にこにこと微笑みながら、威圧感を滲ませて彼女が言う。
 清楚で上品、そして穏やかな普段の彼女とはずいぶん違ったので驚いたのを覚えている。
「……なぜ、きみにそんなことを聞かれるのだろう?」
「あなたがオデットを見る目がいやらしいからよ! あげませんわよ、あのこはわたくしのかわいい妹なんですからね!」
 ふんっ、と鼻をならし、彼女は扇で口もとを隠す。
「きたならしい羽虫が近づかないように、演技をしてさしあげているのに、まさかあなたがあのこに想いをよせるとは」
「うすうすきづいていたが、やはりきみのは演技だったんだね」
 初恋はたしかに彼女であっただけに、多少心が痛むが、
 演技であるのは気づいていた、なぜ演技などするのかは知らなかったが。

「よろしいこと? 貴族との恋愛なんてわたくしは認めませんからね。
 あのこには、こんなけがわらしい世界、絶対に近づけさせませんから」
「信用されていないな」
 たしかに、貴族の世界では一夜の遊びやただの使い捨てであることなど多々ある。
 真面目で誠実なオデットでは、すぐにぼろぼろにされてしまうだろう。
 ただし、ランヴァルドがそんなことをすると思われているのは納得がいかない。
 ともかくアンネリースは、自身の経験があるだけにオデットを貴族の男に近づけたくないようだ。
「結婚相手はわたくしが認めた者でなくては許しませんわよ、そう、いやではあるけれど幼馴染のユーグなら譲歩できなくもないけれど、
 あ、な、た、は、だ、め、よ!」
 アンネリースの言葉にランヴァルドは眉を寄せた。
 ユーグは男爵家出身で、今は騎士団に身を置いていたはずだ、ランヴァルドも知っている。
 彼ならよくて、ランヴァルドはなにがだめだというのだろう。
「それはなぜだい?」
 素直に問うと、アンネリースはまなじりをつりあげた。
「あなたみたいにほいほいそこらじゅうの女と噂になるような男、あのこが傷つくのが目にみえているわ!
 それにどうせ性悪女があのこに意地っ汚いマネをしますわよ!」
 噂話のせいとは、さすがに納得がいかない。

「私にやましいことはなにもない、周囲が勝手に言っているだけだろう」
「けど、あのこは傷つきますでしょ」
「……それは」
 否定できない。
「ともかく、あなたなんてわたくしはぜーったい認めませんからね!」
 アンネリースはそう言って去っていったのだが。
 結局それから数か月後、互いの家同士の利益のためにオデットとランヴァルドが結婚することになるのだった。
 ……そのときのアンネリースはといえば、まるで悪鬼のようだった。
 オデットの前では女神のような微笑みで祝福していたが。


 ――……。
 翌日オデットは、逃げだすことができなかった。
「おはよう、オデット」
 先に起きていたランヴァルドが微笑みながらそう言って、まだねぼけているオデットの頬にキスをする。
「身体はだいじょうぶかい? 朝食はとれる?」
「――あの」
「朝食をとる時間くらいは、あるはずだろう?」
 にこにこと微笑んでいるが、反論させない威圧感があった。
「今日は休んでもいいよ、オデット。私から伝えておく」
「い、いえ! いやです! 行きます!」
 そんなことをされては、同僚たちに妙な勘ぐりをされかねない。
 身体は痛むが、休むのはもっといやだ。
「そうか、大事をとって休んでほしいところだが」
「行かせてください、お願いですから」
 オデットの懇願に、「しかたないな」とランヴァルドは頷いた。

 了承を得て、さっさとベッドからおりようとしたオデットの身体をランヴァルドの腕が抱きしめる。
「っ、な、んです、ランヴァルド様」
「もうすこし時間はあるだろう?」
 オデットをうしろから抱きしめて、その髪に、首筋にキスをおとす。
 それに昨夜のことを思いだして、オデットは真っ赤になって逃げだそうとする。
「や、やめてくださいっ、私、もう行かないと――」
「誰かと、約束でもあるのかい?」
 つ、と唇を指で撫でられ、低い声で問われるとオデットの身体がびくりとはねた。
 ユーグのことを言っているのだろう、そして、まだランヴァルドはそれについて怒っている。
「ないのなら、少しくらいこうしていてもいいだろう?」
「……、なぜなのです、ランヴァルド様が好いていらっしゃるのはねえさんでしょう」
「私が愛しているのはきみだと言っているはずだが?」
 ぬくもりをたしかめるように抱きしめて、ランヴァルドはオデットの肩にも唇をよせる。

「……あなたは優しいですからね、っ、ひぁっ⁉」
 そっけなくそう言うオデットに、ランヴァルドは彼女の耳を軽く噛んだ。
「オデット、あまりつれないことばかり言うと、優しくしてあげられなくなってしまうよ」
「そ、のほうが、ましです」
 こんなみじめな思いをするくらいならと、そうこたえたが、
 ランヴァルドはそれに瞳を細めてオデットの耳元でささやく。
「そう、それじゃあきみはひどくされてもいいわけだね」
「――っ」
 うしろからまわされた手が首筋を妖しく撫でる。
 その空気に、オデットは焦った。
「ま、待ってください、ランヴァルド様っ……」
 なんとか逃れようと抵抗すると、ノックの音が響いた。

「旦那様、アードルフ様より火急の連絡が」
 騎士団長の名前に、ランヴァルドはオデットを解放する。
(た、たすかりました……)
 オデットはほっと胸をなでおろしたが、同時にいったいなにがあったのだろうと考えた。
「しようがないな。いってくるよ、オデット」
「はい。私もすぐにまいります」
「ああ。……そうだな、この話はまた今度にしよう」
「?」
 ランヴァルドはなにかを言いかけてやめ、もう一度オデットの髪にキスをしてから部屋を出ていった。


 ……。
「ランヴァルド、おまえたちの子はまだなのか」
 ついて早々、騎士団長の言葉にランヴァルドはおもいきり眉をよせた。
「……あなたは私たちが結婚してどのくらいだと思っているのです、
 というよりそんな話のために呼んだのではないでしょうね?」
 黒い短髪に髭をはやした体格のいい男、騎士団長アードルフは、
 ランヴァルドの顔をみてしごく愉快そうに言う。
「楽しみじゃないか、おまえの剣とオデットの魔術をついで生まれてくる子供なら、うちのいい戦力になる。
 おまえ剣のスジはいいが、魔術はからっきしだろう?」
「魔術は才能です団長、あればかりは努力で手に入るものではありません」
 生まれ持った魔力の量は最初から決まっている。
 そのなかで魔術師になれるほどの力ある子は少なく、しいて言えば女性に多い。
「それで、そんな話をするために呼んだのではないでしょう」
「あぁ、今度大規模な賊の一掃作戦があるんだが、そこにおまえとオデットを投入したいのさ」
「オデットもですか?」
「優秀な魔術師の力が必要だ、敵にもいるからな」
 ランヴァルドはしばし考える。

「団長、あなたの願いで私は彼女をまだ騎士団においていますが、
 本来であれば辞めてほしいのを知っていますね。
 かわりになりそうな魔術師はいないのですか」
「おまえが嫌ならオデットに直接頼むだけさ」
「――卑怯ですよ、彼女がいやだと言うはずがない」
「今回はそれだけ敵もお強いってことだ」
「……そう言って、オデットが騎士団を辞めてまでも利用しないでくださいよ」
「使えるもんはなんでも使うのが俺のやりかたなんだがな」
「今ほどあなたに腹が立ったことはありませんよ」
 額をおさえて、ランヴァルドはしかたなく頷いた。
 どの道、オデットが拒むはずもない。
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