18 / 25
二部
◇外伝:ランヴァルドの追想◆
しおりを挟む
今から十年近く前のことだ、親友であるザクセンに騎士団を案内していた時、ふと、アンネリースの妹であるオデット・バダンテールと目があった。
まだ少し幼さの残る容姿の彼女に、どこかで目をうばわれていた。
さらさらとしたサイドポニーの髪に、宝石のように澄んだ紫色の瞳、陶器のように白い肌。
この時はまだ、彼女に恋をしているという自覚はなかった。
それでも、心のどこかでは強く惹かれていたのかもしれない。
ふと、隣を歩いていたザクセンに問いかけられる。
「ランヴァルド、彼女が誰か知っているか?」
もちろん知っている。
だが、ザクセンの瞳に恋心のようなものを感じて、言うのをためらった。
「……オデット・バダンテール嬢だよ」
「オデット……綺麗な名前だな」
この時にはまだ、なぜ、彼女が魔術師であることを伏せたのか分からなかった。
ただ、興味津々といったようすのザクセンを見て、少しばかり胸に黒い感情がうかんだことは自覚していた。
それからしばらくすると、オデットはランヴァルドの補佐官になった。
どんどん綺麗になっていく彼女に興味を持つ男は多く、
彼女に自覚はなくとも、そういう目的で話しかける者も増えていった。
それをさりげなく追い払っていたのだが、オデットがいつも一緒に過ごす相手は決まって男爵家出身のユーグだった。
ランヴァルドとアンネリースがそうであったように、彼女たちも幼馴染なのだという。
そういえば、昔からよく一緒にいるのを見た気もする。
いつからか、自分がそんな二人の姿に嫉妬心を抱いているのに気づきはじめた。
なぜだろう、たしかにアンネリースに恋心を抱いていたはずの自分は、いつのまにかオデットに想いを寄せていたのだ。
それは幾度もともに戦場を駆け抜けたからか、それとも彼女の素直な好意に惹かれたのか、両方かもしれない。
とにかく、どうしても彼女を他の男に譲りたくないと思っていた。
そんなことになったら、自分はおかしくなってしまうのではないかと思うほど、オデットに惹かれていた。
それはまだ二人が婚約する前のこと。
ある日の夜、オデットに与えられている研究室に遅くまで明かりが灯っているのに気づいて、扉をノックしたが返事がない。
迷いはしたが、ランヴァルドが扉を開けると、オデットは机につっぷして眠ってしまっていた。
「オデット、こんなところで眠っては……」
身体に障るだろうと言いかけたところで、寝ぼけた様子の彼女がなにか呟いた。
「――……ランヴァルドさま……?」
起きたのだろうか、と思ったがどうやらそうではないらしい。
「……お慕い、しております」
「――……」
少し悲しそうに笑った彼女の言葉に、鼓動が高鳴るのを感じた。
きっと自分はずるい、とてもずるい人間だ。
バダンテール家との縁談話がある、姉のアンネリースか、妹のオデットか。
彼女をそんなふうにむりやり奪いたくないと、ずっと思ってきたのだが、それが崩れていくのを感じた。
眠っている彼女の頬に手を伸ばし、そっと触れてからはなれる。
この時には、心を決めていて、
彼女の肩に毛布をかけ、愛おしさに青い瞳を細めた。
まだ少し幼さの残る容姿の彼女に、どこかで目をうばわれていた。
さらさらとしたサイドポニーの髪に、宝石のように澄んだ紫色の瞳、陶器のように白い肌。
この時はまだ、彼女に恋をしているという自覚はなかった。
それでも、心のどこかでは強く惹かれていたのかもしれない。
ふと、隣を歩いていたザクセンに問いかけられる。
「ランヴァルド、彼女が誰か知っているか?」
もちろん知っている。
だが、ザクセンの瞳に恋心のようなものを感じて、言うのをためらった。
「……オデット・バダンテール嬢だよ」
「オデット……綺麗な名前だな」
この時にはまだ、なぜ、彼女が魔術師であることを伏せたのか分からなかった。
ただ、興味津々といったようすのザクセンを見て、少しばかり胸に黒い感情がうかんだことは自覚していた。
それからしばらくすると、オデットはランヴァルドの補佐官になった。
どんどん綺麗になっていく彼女に興味を持つ男は多く、
彼女に自覚はなくとも、そういう目的で話しかける者も増えていった。
それをさりげなく追い払っていたのだが、オデットがいつも一緒に過ごす相手は決まって男爵家出身のユーグだった。
ランヴァルドとアンネリースがそうであったように、彼女たちも幼馴染なのだという。
そういえば、昔からよく一緒にいるのを見た気もする。
いつからか、自分がそんな二人の姿に嫉妬心を抱いているのに気づきはじめた。
なぜだろう、たしかにアンネリースに恋心を抱いていたはずの自分は、いつのまにかオデットに想いを寄せていたのだ。
それは幾度もともに戦場を駆け抜けたからか、それとも彼女の素直な好意に惹かれたのか、両方かもしれない。
とにかく、どうしても彼女を他の男に譲りたくないと思っていた。
そんなことになったら、自分はおかしくなってしまうのではないかと思うほど、オデットに惹かれていた。
それはまだ二人が婚約する前のこと。
ある日の夜、オデットに与えられている研究室に遅くまで明かりが灯っているのに気づいて、扉をノックしたが返事がない。
迷いはしたが、ランヴァルドが扉を開けると、オデットは机につっぷして眠ってしまっていた。
「オデット、こんなところで眠っては……」
身体に障るだろうと言いかけたところで、寝ぼけた様子の彼女がなにか呟いた。
「――……ランヴァルドさま……?」
起きたのだろうか、と思ったがどうやらそうではないらしい。
「……お慕い、しております」
「――……」
少し悲しそうに笑った彼女の言葉に、鼓動が高鳴るのを感じた。
きっと自分はずるい、とてもずるい人間だ。
バダンテール家との縁談話がある、姉のアンネリースか、妹のオデットか。
彼女をそんなふうにむりやり奪いたくないと、ずっと思ってきたのだが、それが崩れていくのを感じた。
眠っている彼女の頬に手を伸ばし、そっと触れてからはなれる。
この時には、心を決めていて、
彼女の肩に毛布をかけ、愛おしさに青い瞳を細めた。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる