槙島源太郎の『まあ週刊ユーモア短編集』

槙島源太郎

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第7作 史上最悪の航空機パニック

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 諸星旦那はあと2日で還暦を迎える全月空のベテランパイロットである。

 妻の安奈から先ほどLINEで「明日お休みなら一緒に銀座四腰デパートに行って何か還暦祝いの赤い物をプレゼントするから一緒に行きましょう。」とメールが来た。

 今日のフライトは羽田空港から鹿児島空港の往復。
しかし、実は一緒に鹿児島行きに乗務しているキャビンアテンダントの小桜満子と今日羽田に戻ったら一緒に品川プリンセスホテルのスイートにお泊りして一晩中ラブラブの予定なので、明日は遅めの13時チェックアウトで予約している。

 「今日は急遽マニラにフライトになったから明日は夕方に戻る予定」とメールしておいた。
するとすかさず安奈から「あら!フィリピン女とパロパロはだめよ!」と返信あり。
「俺がフィリピンパブに行ってるのにいつ気づいてたんだろ。女の勘は恐ろしいな。しかもパロパロなんて言葉をどこで覚えてるのかな?もしかしたら俺の寝言かな?」

 今日の副操縦士はまだ見習いの火取毎達人。
上からの指示では、火取毎は少しコミュショー気味なので良く注意するようにとのことであるが、確かに何か小声でブツブツブツ言っている。

 CAのチーフをしている小桜は、離陸前のアナウンス担当。
「本日は数ある航空会社より全月空をお選びいただき誠にありがとうございます、当機は高性能のエアーフィルターを備えており、約3分で全ての機内の空気を入れ替えております。新型コリナウイルスはおろか、様々な臭いなども御心配ございませんが、皆様のマスク着用をお願い申し上げます。」といつも通りアナウンスした。

 離陸し順調に高度を上げている時、副操縦士の火取毎がつぶやいている。
「あれ、あれ!なんかランプがチカチカしてるなあ。玉切れなのかな?」
「お前歳いくつなんだよ。玉なんか今ランプに入ってないよ。それより何のランプだ?チカチカしてるの。」
「それが機内換気システムなんです。あ!ランプついに消えた。消えたなあ、ついに。」
「機内換気システムか、、、なんせコリナで急いで後から付けたからなあ。まあ、飛行には影響ないし、黙ってれば誰もわからないからさ。あ、マイク入ってないよな!あー良かった!入ってたらパニックになるところだよな」

 今日の客室は減便している影響でほぼ満席。
その乗客の中に大喰与四郎がいた。彼は美食家と悪食を両立させていて有名で世界中の食べ物を食べてはテレビで食レポを仕事にしていた。

 大喰は、この飛行機に乗る前になんと世界一臭いと言われているスエーデン北部の缶詰シュールストレミングを食べていた。

 このシュールストレミングは、発酵したニシンの缶詰でその臭さはくさやの6倍、何匹も死んだ金魚が浮かんでる水槽の臭いとか、下水管の臭いがなどと言われ、あまりの臭いのキツさにこの缶詰を航空機に持ち込みのは大手航空会社で禁じられているほど。(これは事実です)

 これを食べた大喰はあまりの臭に気絶しそうになったため、その後、シャワーを浴び服も着替えて歯磨きと歯間ブラシ、さらにブレスケアを全部飲み込んでいた。

 上昇を続けている時大喰は胃がムカムカしていることが気になっていた。
「やっぱり胃の中でも発酵しているのかな。それともブレスケアとの相性が悪かったかな」

 水平飛行に移り、CAは機内サービスを開始する。

 その時だった。大喰は胃の膨満感に耐えきれずに、思わずゲップをした。

さらに、あろうことか立て続けにおならまで!「ゲップ!」「ブーッ!」

発酵したニシンのシュールストレミングが大喰の体内でさらに発酵したのかそのゲップとオナラの元のシュールストレミングの臭いより倍増し、その強烈な臭いは機内前方から後方へと少しづつ移動していく。

 本来なら空気が換気されるはずだが、機内換気装置は動かないまま。運が悪いとはこのこと。
換気されない機内は密室であり臭いは逃げ場を失っている。

 周りの乗客はその臭いに驚き、あっと言う間に気持ちが悪くなり、座席に用意されたゲロ袋を口に当て始めた。

 10秒毎に各列の乗客が臭いの移動とともにゲロ袋を口にあてて行く様がどんどん後ろの列に続いていく。

 前方にいたCAチーフの小桜は乗客の頭が次々とまるでウェーブのごとく見事に列毎に消えて後ろに続く様を見て、いったい何が起きたのかわからなかった。

 中程で後ろ向きでドリンクサービスをしていたCAはその異変に気づかずに臭いを浴びて気絶して通路に倒れた。

 小桜のいる前方は空気の僅かな流れのせいかまだ完全に水平飛行していないせいか臭いはしない。
しかし、その乗客の様子とCAが倒れ込むのを見て何か有毒ガスのテロにあったと判断した。

 慌てて携帯酸素マスクを装着し、機長に連絡。「機長!大変です。機内で有毒ガスのテロがあったようです!酸素マスクを下ろしてください。」

機内には上から酸素マスクが降りてきた。

 前半分ほどの乗客は酸素マスクとゲロ袋を交互に口にする。
一方後方の席ではいきなり酸素マスクが降りてきて驚いている。

機内は静けさの中に前方でゲロってる音が鳴り響く。

 後方の乗客は訳もわからずに酸素マスクで呼吸をし始め、なんとかシュールストレミングの臭い攻撃から逃れていた。

 なすすべもない小桜は携帯酸素マスクをつけたまま前方の乗客の様子を見回る。
すると、一人だけ、酸素マスクもゲロ袋もつけてない気分の悪そうな乗客がいて涙目でこちらを見ている。
どこかで見た顔だ。
そうだ、テレビに出てる食レポの大喰与四郎だ!

彼の前で「大丈夫ですか?ご気分はいかがですか?」と訊ねる小桜。

すると彼は朦朧とする意識の中で「妊娠、妊娠だ!妊娠が原因だ!」と話かける。
小桜は思わず大喰与四郎の腹を見るとただでさえ食べ過ぎで太っている大喰いの腹は腸内発酵でパンパンに膨れ上がり、シャツのボタンは飛散っていた。「この人女だったんだ!」


小桜には妊娠と聞こえたが、彼は「ニシン、ニシンだ!ニシンが原因だ!」と話ていた。

小桜は諸星機長に連絡する。
「飛行場に有毒ガス対策班とそれから生まれそうなので産婦人科の医師を待機させてください!」

それを聞いた浮気相手の機長、諸星は「お前、妊娠してたのか?」
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