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後編 死界の姿
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「じゃあ、夕月さん。いってきますね」
「ええ、いってらっしゃい。帰ってきたころには終わってるから……」
夕月さんは自身の手首に包丁を当てていた。
「うふふ。死んで恐怖が終わるといいね」
沙夜はうっとりとした視線を夕月さんに向けていた。
灯水村は沙夜が与えた恐怖により静まり返っている。私は沙夜と手を繋ぎ、本来なら祭りがおこなわれている神社へと足を踏み入れる。
「みんな恐怖に溺れている。見惚れてしまうでしょ。夏美」
私が見た光景は出店が並ぶ中で、恐怖に怯え切った人達がうずくまる光景だった。
「この世の終わりみたい……」
その光景が美しく思えて、私の口元は自然と微笑んだ。
「さぁ、夏美は逝きましょう。ケヤキの木の下で私と儚いひとときを過ごすの」
儚いひととき……沙夜の口からそう聞いた途端、心から嬉しさがこみ上げてくる。
沙夜に案内された神社の裏にはケヤキの木があった。
「ああ……ここか……」
白黒の心霊写真に写る沙夜がいた場所。
「この世界で夏美は随分と苦しんだんでしょ。もういる必要はない。私と逝きましょう、死界へ」
そうだ。もう沙夜とも会えたし生きていることにあまり未練を感じなかった。
「ほら」
両手を広げ満面の笑みを浮かべる沙夜。ケヤキの木の下で私は沙夜の胸に飛び込んだ。
優しく抱きしめられたんだと思う。ただそれだけなのに私の意識は暗くなる。どこまでも暗い闇へと落ちていく……
気がつくとそこは薄暗い光だけが照らす世界。ここが死界なんだとすぐわかった。
「昔、ここへきた画家の男は気が狂うまで絵を描き続けていた。私より絵を選んだから元の世界に帰したけど、夏美はそうはならないよね」
「大丈夫。私は沙夜が好きだよ。この世界はとても綺麗だと思うし……」
「……本当に綺麗な場所があるよ……」
沙夜は私の手を取る。誰もいない古民家の集落を通ると、微かに波の音が聞こえる。たどり着いた場所は、命の気配のない光に照らされた大きな湖。
「薄暗い空を見上げてよ、夏美。微かに明るい場所がある。安らかな命がいつまでもあそこに向かっていく。私たちが逝くことがない世界へ。逝けないと思うと、とても儚くて綺麗に見えてしまう」
薄暗い空には微かに光があった。あそこが天国と呼ばれる場所なのかはどうでもいい。どうでもいいはずなのに、私は走り出して湖へと足を踏み入れていた。
「どうして……?」
私は小首を傾げる。どうして私が普通に生きれないのかがわからなかった。
「……学校じゃ友達もできなかったし、好きでもない男にレイプされて……両親は味方にもなってくれなかった……気がついたら殺していて……」
「美しい悲しさ……私は好き……」
沙夜が後ろから私を抱いてくれる。
「友達がほしかった……恋だってして、いつかはその人と一緒になりたかった……私はみんなから祝福されて幸せになりたかったのに……」
「私と死界にいよう夏美。恋なら私がしてあげる。夏美は私が幸せにするから……」
沙夜が耳元で囁いてくれる。ほんの少しだけだけど、私の心は静かに安らぐ……
……この安らぎがいつまでも続いてほしい……
「ええ、いってらっしゃい。帰ってきたころには終わってるから……」
夕月さんは自身の手首に包丁を当てていた。
「うふふ。死んで恐怖が終わるといいね」
沙夜はうっとりとした視線を夕月さんに向けていた。
灯水村は沙夜が与えた恐怖により静まり返っている。私は沙夜と手を繋ぎ、本来なら祭りがおこなわれている神社へと足を踏み入れる。
「みんな恐怖に溺れている。見惚れてしまうでしょ。夏美」
私が見た光景は出店が並ぶ中で、恐怖に怯え切った人達がうずくまる光景だった。
「この世の終わりみたい……」
その光景が美しく思えて、私の口元は自然と微笑んだ。
「さぁ、夏美は逝きましょう。ケヤキの木の下で私と儚いひとときを過ごすの」
儚いひととき……沙夜の口からそう聞いた途端、心から嬉しさがこみ上げてくる。
沙夜に案内された神社の裏にはケヤキの木があった。
「ああ……ここか……」
白黒の心霊写真に写る沙夜がいた場所。
「この世界で夏美は随分と苦しんだんでしょ。もういる必要はない。私と逝きましょう、死界へ」
そうだ。もう沙夜とも会えたし生きていることにあまり未練を感じなかった。
「ほら」
両手を広げ満面の笑みを浮かべる沙夜。ケヤキの木の下で私は沙夜の胸に飛び込んだ。
優しく抱きしめられたんだと思う。ただそれだけなのに私の意識は暗くなる。どこまでも暗い闇へと落ちていく……
気がつくとそこは薄暗い光だけが照らす世界。ここが死界なんだとすぐわかった。
「昔、ここへきた画家の男は気が狂うまで絵を描き続けていた。私より絵を選んだから元の世界に帰したけど、夏美はそうはならないよね」
「大丈夫。私は沙夜が好きだよ。この世界はとても綺麗だと思うし……」
「……本当に綺麗な場所があるよ……」
沙夜は私の手を取る。誰もいない古民家の集落を通ると、微かに波の音が聞こえる。たどり着いた場所は、命の気配のない光に照らされた大きな湖。
「薄暗い空を見上げてよ、夏美。微かに明るい場所がある。安らかな命がいつまでもあそこに向かっていく。私たちが逝くことがない世界へ。逝けないと思うと、とても儚くて綺麗に見えてしまう」
薄暗い空には微かに光があった。あそこが天国と呼ばれる場所なのかはどうでもいい。どうでもいいはずなのに、私は走り出して湖へと足を踏み入れていた。
「どうして……?」
私は小首を傾げる。どうして私が普通に生きれないのかがわからなかった。
「……学校じゃ友達もできなかったし、好きでもない男にレイプされて……両親は味方にもなってくれなかった……気がついたら殺していて……」
「美しい悲しさ……私は好き……」
沙夜が後ろから私を抱いてくれる。
「友達がほしかった……恋だってして、いつかはその人と一緒になりたかった……私はみんなから祝福されて幸せになりたかったのに……」
「私と死界にいよう夏美。恋なら私がしてあげる。夏美は私が幸せにするから……」
沙夜が耳元で囁いてくれる。ほんの少しだけだけど、私の心は静かに安らぐ……
……この安らぎがいつまでも続いてほしい……
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