聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ

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25.デート2

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 マテウスに手を引かれるまま、シルヴィアは歩き出す。
 やがて街に着くと、賑やかな喧騒が耳に飛び込んできた。
 
「まあ、とても活気がありますのね!」
 
 大通りには露店が立ち並び、人々が行き交っている。
 シルヴィアはきょろきょろと辺りを見回した。

「ああ、こんなクソみたいな地でも、頑張って生きてんだよ。捨てたもんじゃないだろ?」

 どこか誇らしげに言うマテウスに、シルヴィアは微笑んだ。

「はい、本当に素晴らしいです」

 シルヴィアがそう答えると、マテウスも嬉しそうに笑った。

「じゃあ、少し歩いてみるか」

 そう言って、マテウスはシルヴィアの手を引く。
 その温もりにまた心臓が高鳴るのを感じながら、シルヴィアは頷いた。
 二人は手を繋ぎながら通りを歩く。

「大公さま! この間はありがとうございました!」

「大公さま! またお越しくださいね!」

 街の人々はマテウスの姿を見ると、笑顔で手を振ってくれる。
 マテウスはそれに手を振り返しながら歩いていた。
 王都では呪われ大公と忌み嫌われているマテウスだが、この辺境の地では人気があるらしい。

「皆さんに慕われていらっしゃるのですね」

 シルヴィアが声をかけると、マテウスは苦笑する。

「一応ここら辺を治めてるからな。あと、この地は年々荒廃し続けていたんだが、俺が来てから止まったらしい。それで感謝されてんだよ」

「まあ……それは素晴らしいことですわ」

 シルヴィアがそう言うと、マテウスは肩をすくめる。

「そんなの、偶然だろうけどな。土地が荒廃していくのは、悪逆公の呪いだと言われているけど、二百年も経ったらそんなのだって薄まっていくだろ。たまたま、タイミングが重なっただけだ」

「それでも、マテウスさまのおかげで救われた人がたくさんいるのですわ。本当に素晴らしいと思います」

 シルヴィアが心からの賛辞を送ると、マテウスは照れたようにそっぽを向いた。

「俺はそんな大層なことしてねえって」

 そう言うマテウスの耳が赤くなっていることに、シルヴィアは気づいてしまった。
 マテウスはシルヴィアの視線に気づくと、ごまかすように咳払いをする。

「あー……向こうに市場があるみたいだから、行ってみるか」

「はい!」

 マテウスの提案に、シルヴィアは笑顔で応じた。
 二人は手を繋いだまま歩き出す。
 市場に着くと、様々な商品が並べられていた。
 不毛の地と聞いていたが、意外なことに新鮮な野菜や果物が並んでいる。
 王都では見たことのないものばかりで、シルヴィアは目を輝かせた。

「まあ! とても新鮮なお野菜ですわ」

 シルヴィアが感嘆の声を上げると、マテウスは得意げに笑った。

「だろ? 最近は、この地でも育つ作物が少しずつだが出回ってきているんだよ。他国から取り寄せた種や苗を栽培してな」

「まあ……それは素晴らしいですわね!」

 シルヴィアが称賛すると、マテウスは嬉しそうに微笑んだ。

「ああ、これで飢える奴が減ればいいんだけどな」

 そう言って市場を見回すマテウスだったが、ふと何かに気づいたように立ち止まる。

「あら、どうされましたの?」

 不思議に思ってシルヴィアが尋ねると、マテウスは眉を寄せて呟いた。
 
「……あいつらは何をしているんだ?」

「え?」

 マテウスの視線を追ってみると、そこには人だかりができていた。
 どうやらスカイラー教の神官らしい人物が、店に並べられた野菜に文句を言っているようだ。

「おお、なんと嘆かわしいことだ! このような神に許されざる物を食すとは!」

 神官の言葉に、店番をしている男が食ってかかる。

「なんだと!? これは俺たちがやっとのことで作った野菜だ! 侮辱することは許さねえぞ!」

 激昂する男を、神官は鼻で笑う。

「ふん、これだから卑しい野蛮人は困るのだ。このような聖典に記されていない食物を口にするなど、神への冒涜以外の何物でもない」

「なんだと、この野郎!」

 激昂した男が神官に?みかかるが、神官の従者達に止められている。
 その様子を見たマテウスは顔をしかめていた。

「ったく、めんどくせえ奴らだな……これだからスカイラーの神官どもは嫌なんだ。せっかく、この地で育つ作物を見つけても、奴らがいちゃもんつけてきやがるからな」

 マテウスはため息をつきつつ、人だかりに向かって歩き出す。
 シルヴィアは慌ててその後を追った。
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