聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ

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71.大神官2

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「わたくしはもともと、わがままなのです。それに、次期国王にふさわしいというのなら、ベアトリクス王女が適任ですわ」

 シルヴィアが王女の名を出すと、大神官は再び大きくため息をつく。

「ベアトリクス王女は、無理です。あの方には神を敬う心が欠けています」

 返ってきた内容に、シルヴィアは首を傾げる。

「どういう意味でしょうか?」

 シルヴィアの問いに、大神官は薄く笑ったまま答える。

「そのままの意味ですよ。あの方は神の教えを軽んじている節がある。そのような人物に国を任せるわけにはいきません」

 大神官の言葉に、シルヴィアは考え込む。
 神殿には保守派と革新派がいるという話は、以前聞いたことだ。ベアトリクスは革新派にあたるのだろう。

「では、神の教えとは何でしょうか?」

「神の教えとは、すなわち神のご意思です。我々はその教えに従い、この国を導いていくのです」

 大神官の言葉に、シルヴィアは眉をひそめる。

「わたくしは、神の言葉を聞くことができます。しかし、神はいつもわたくしを後押ししてくださるだけ。そしてわたくしは、常に自分の心に従って行動してまいりました。それが神の意思に沿うことだと、わたくしは信じております」

 シルヴィアがそう告げると、大神官は一瞬だけ苦渋に満ちた表情を浮かべる。しかし、すぐに元の笑顔に戻った。

「ふむ……やはり、呪われた男の側にいて、感化されましたか。聖女とあろうものが、なんと嘆かわしい……」

 大神官は悲しそうに首を振る。

「呪われた男……マテウスさまのことですか?」

 シルヴィアが尋ねると、大神官は頷く。

「ええ。あの男は呪われています。空を闇に染める悪魔の色を宿した髪。血のように真っ赤な瞳。そして、呪われた力……。あれは悪魔そのものです」
大神官の言葉に、シルヴィアは怒りをあらわにする。

「たかが髪や瞳の色で、呪われているなど……それこそ、神のご意思に背く行いではありませんか」

 シルヴィアが反論すると、大神官は首を横に振る。

「いいえ、神のご意思とは神殿の教義のこと。つまりは神の教えです。その教えに背くものは、すなわち神の敵なのです」

 もはや話が通じないようだ。シルヴィアはため息をつく。

「あなたのおっしゃりたいことはよくわかりました。しかし、それでもわたくしは自分の心に従います」

 シルヴィアが宣言すると、大神官は眉根を寄せた。

「そうですか……やはり聖女さまは洗脳されているようですね。いいでしょう、ならばあなたを異端審問にかけることにしましょう。そうすれば、あなたのお心も変わるでしょう」

 告げられた言葉に、シルヴィアは目を見開く。

「異端……審問……?」

「ええ、あなたを洗脳から解き放つためには仕方ありません。ご安心ください。命まで取るようなことはいたしません。ただ、少し苦痛を味わっていただくだけです」

 大神官はそう言って、不気味に笑った。
 シルヴィアは背筋がぞっとするのを感じる。しかし、すぐに気を取り直すと、大神官を睨みつけた。

「よいでしょう。わたくしは聖女です。洗脳などされていないと、証明してみせますわ」

 シルヴィアがそう答えると、大神官は満足げに微笑む。

「それでこそ聖女さまです。ですが、耐えられなくなればすぐにおっしゃってくださいね。命まで取りはしませんが、あなたの心が壊れてしまうかもしれませんからね」

 大神官はそう言って、シルヴィアに微笑みかける。
 シルヴィアは無言で頷いた。

「では、神殿の地下にご案内しましょう。こんなこともあろうかと、準備していたのです」

 大神官は立ち上がり、部屋の外へと歩き出した。シルヴィアはその後に続く。
 逃げようと思えば、逃げられるかもしれない。
 しかし、シルヴィアは立ち向かうことを選んだ。
 聖女としての誇りと、マテウスへの想いを胸に、シルヴィアは大神官の後をついていった。
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