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92.辺境での結婚式1
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辺境の屋敷にて、マテウスとシルヴィアの結婚式は行われた。
いずれ王都でお披露目をする必要はあるだろうが、今は少しでも早く結婚生活を始めたかったのだ。
また、この辺境の地こそがマテウスの育った土地であり、シルヴィアにとっても特別な場所だった。
家族と親しい者たちだけを招き、こぢんまりとした式を挙げることにしたのである。
「皆さま、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
屋敷の中庭にて、マテウスとシルヴィアは並んで立ち、参列者たちに向かって挨拶をした。
二人は揃いの白い衣装を身に纏っている。マテウスは髪を後ろに撫でつけ、シルヴィアも長い髪を編み込みハーフアップにしていた。
「本日、私たちは結婚いたしました。今後ともよろしくお願い申し上げます」
「わたくしたちから、ささやかながら贈り物を用意しております。どうぞお受け取りくださいませ」
マテウスが簡潔に述べ、シルヴィアが続いて言葉を発した。
そして、控えていた使用人たちが大きな籠を運んできた。中には果物や焼き菓子などが山盛りになっている。
「祝福を与えた、新たなる食物ですわ。どうぞお召し上がりください」
シルヴィアは籠に向かって手を差し出し、優しく語りかける。すると、籠の中が淡く発光しはじめた。
「おお……!」
参列者たちは驚きの声を上げる。その光は温かく、まるで生命の輝きを凝縮しているかのようだった。
「それでは皆様、ごゆるりとお楽しみくださいませ」
シルヴィアが優雅に礼をすると、参列者たちは行儀よく並んで、籠から果物や焼き菓子を手に取っていく。
その様子を見て、マテウスとシルヴィアは顔を見合わせて微笑み合った。
すると、シルヴィアの両親が歩み寄ってくる。
「こ、この度は、お招きいただき、ありがとうございます」
シルヴィアの父はマテウスを前に、ガチガチに緊張した様子で挨拶をした。
「いえ、こちらこそ遠いところからご足労いただき、ありがとうございます。シルヴィアの家族は、私にとっても大切な存在ですから」
マテウスはそう言って微笑む。普段の粗野な態度ではなく、余所行きの笑顔だ。
「は、はい! ありがとうございます!」
シルヴィアの父は緊張のあまり裏返った声で返事をした。
その様子を見て、マテウスは苦笑する。
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」
マテウスは優しく語りかけるが、シルヴィアの父は恐縮しきりといった様子で俯いてしまった。
「あなた、もっとしゃんとなさいな」
シルヴィアの母が、夫の背中を軽く叩く。
「だって、あの大公閣下だぞ……緊張するなという方が無理だ……」
シルヴィアの父は情けない声で呟く。
「うふふ、そうね。でも大丈夫よ。閣下はとてもいい方だから」
シルヴィアの母はそう言って微笑んだ。そしてマテウスの方に向き直る。
「大公閣下、この度は本当にありがとうございます。娘のこれほど幸せそうな姿が見られ、わたくしは感無量です」
シルヴィアの母は深々とお辞儀をした。それに合わせて、シルヴィアの父も頭を下げる。
「いえ……こちらこそ感謝しております。私がこうしていられるのも、シルヴィアのおかげですから」
マテウスは穏やかな口調で答えた。そして改めて二人に向かって頭を下げる。
「本当にありがとうございます。シルヴィアを大切にすると誓います」
その言葉に、シルヴィアの両親は涙を浮かべて何度も頷く。
「はい……どうか娘を末永く、よろしくお願いいたします」
シルヴィアの母は震える声で言った。そして再び頭を下げると、夫を伴って参列者の列へと戻っていった。
いずれ王都でお披露目をする必要はあるだろうが、今は少しでも早く結婚生活を始めたかったのだ。
また、この辺境の地こそがマテウスの育った土地であり、シルヴィアにとっても特別な場所だった。
家族と親しい者たちだけを招き、こぢんまりとした式を挙げることにしたのである。
「皆さま、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
屋敷の中庭にて、マテウスとシルヴィアは並んで立ち、参列者たちに向かって挨拶をした。
二人は揃いの白い衣装を身に纏っている。マテウスは髪を後ろに撫でつけ、シルヴィアも長い髪を編み込みハーフアップにしていた。
「本日、私たちは結婚いたしました。今後ともよろしくお願い申し上げます」
「わたくしたちから、ささやかながら贈り物を用意しております。どうぞお受け取りくださいませ」
マテウスが簡潔に述べ、シルヴィアが続いて言葉を発した。
そして、控えていた使用人たちが大きな籠を運んできた。中には果物や焼き菓子などが山盛りになっている。
「祝福を与えた、新たなる食物ですわ。どうぞお召し上がりください」
シルヴィアは籠に向かって手を差し出し、優しく語りかける。すると、籠の中が淡く発光しはじめた。
「おお……!」
参列者たちは驚きの声を上げる。その光は温かく、まるで生命の輝きを凝縮しているかのようだった。
「それでは皆様、ごゆるりとお楽しみくださいませ」
シルヴィアが優雅に礼をすると、参列者たちは行儀よく並んで、籠から果物や焼き菓子を手に取っていく。
その様子を見て、マテウスとシルヴィアは顔を見合わせて微笑み合った。
すると、シルヴィアの両親が歩み寄ってくる。
「こ、この度は、お招きいただき、ありがとうございます」
シルヴィアの父はマテウスを前に、ガチガチに緊張した様子で挨拶をした。
「いえ、こちらこそ遠いところからご足労いただき、ありがとうございます。シルヴィアの家族は、私にとっても大切な存在ですから」
マテウスはそう言って微笑む。普段の粗野な態度ではなく、余所行きの笑顔だ。
「は、はい! ありがとうございます!」
シルヴィアの父は緊張のあまり裏返った声で返事をした。
その様子を見て、マテウスは苦笑する。
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」
マテウスは優しく語りかけるが、シルヴィアの父は恐縮しきりといった様子で俯いてしまった。
「あなた、もっとしゃんとなさいな」
シルヴィアの母が、夫の背中を軽く叩く。
「だって、あの大公閣下だぞ……緊張するなという方が無理だ……」
シルヴィアの父は情けない声で呟く。
「うふふ、そうね。でも大丈夫よ。閣下はとてもいい方だから」
シルヴィアの母はそう言って微笑んだ。そしてマテウスの方に向き直る。
「大公閣下、この度は本当にありがとうございます。娘のこれほど幸せそうな姿が見られ、わたくしは感無量です」
シルヴィアの母は深々とお辞儀をした。それに合わせて、シルヴィアの父も頭を下げる。
「いえ……こちらこそ感謝しております。私がこうしていられるのも、シルヴィアのおかげですから」
マテウスは穏やかな口調で答えた。そして改めて二人に向かって頭を下げる。
「本当にありがとうございます。シルヴィアを大切にすると誓います」
その言葉に、シルヴィアの両親は涙を浮かべて何度も頷く。
「はい……どうか娘を末永く、よろしくお願いいたします」
シルヴィアの母は震える声で言った。そして再び頭を下げると、夫を伴って参列者の列へと戻っていった。
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