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30.婚約破棄
グリフィンはケイティを抱きしめたまま、勝ち誇ったように笑った。
そして、壇上からレイチェルを見下ろすと、鼻で笑う。
「貴様がいくら画策しようと、僕の妃はケイティしかあり得ない。たとえ側妃だろうと、貴様などお断りだ!」
そう言って、グリフィンは高笑いした。
「なんてことを……」
レイチェルは思わず天を仰いだ。
まさかここまで馬鹿だったとは。呆れを通り越して、もはや感心してしまうほどだ。
「そうよ! 皆さま、殿下と私はお似合いだって言ってくださるわ! それに、お父さまだって、私の方がお姉さまより王太子妃にふさわしいって言ったもの!」
ケイティも嬉々として叫ぶ。
彼女は完全に舞い上がっている様子だった。
「さあ、皆も僕たちの婚約を祝福してくれ! この場の者たちが証人だ!」
グリフィンは高らかに宣言するが、会場はしんと静まり返るばかりである。
その異様な空気に、さすがのグリフィンも気が付いたらしい。
「な、なんだ……皆、どうしたんだ?」
困惑した様子で周囲を見回す。
だが、誰一人としてグリフィンの言葉に応えようとはしなかった。
「何の騒ぎだ」
そこに国王と王妃が姿を現した。
王妃はグリフィンの姿を見ると、不快そうに眉を顰める。
「これは何の騒ぎですの? こんな場所で婚約破棄を宣言するなど……。しかもレイチェル嬢を……」
王妃は怒りの声を上げると、グリフィンを睨み付けた。
「な……母上! 僕は真実の愛を見つけたのです! このケイティこそが僕の妃にふさわしいと……」
「お黙りなさい!」
グリフィンの言葉を遮るように、王妃は一喝した。
「あなたはまだそんな世迷言を言っているのですか! あなたにはレイチェル嬢が必要なのです! いい加減、現実を直視なさい!」
王妃の言葉にグリフィンは呆然とした表情を見せた。
「で、ですが、こうして大勢の前で宣言したことを、なかったことになどできません。僕は真実の愛を見つけたのです!」
「お黙りなさいと言っているでしょう!」
王妃は再びグリフィンを一喝し、今度はレイチェルに視線を向けた。
「レイチェル嬢……どうかグリフィンを見捨てないでやってください。あなたが王太子妃として、支えてくだされば、この子はきっと立派な王になれます」
王妃は懇願するようにレイチェルに告げる。
「母上! なぜ、レイチェルにそのようなことを言うのです! こんな女など必要ありません! 僕は真実の愛のために婚約を破棄するのです! ……おい、貴様! 婚約破棄を受け入れろ! 身を引くんだ!」
だが、グリフィンがその言葉を遮るように叫ぶ。
すると、王妃は怒りの形相で振り返った。
「お黙りなさい! あなたはまだわからないの!? あなたが国王になるために、レイチェル嬢が必要だと言っているでしょう! いい加減に理解しなさい!」
「し……しかし……」
王妃の剣幕に押され、グリフィンは口ごもる。
そんなやり取りを見ていた周囲の人々は、困惑の表情を浮かべていた。誰もがこの状況についていけていないようだ。
「……婚約破棄、承りましたわ」
そんな中、レイチェルは静かに口を開いた。
「なっ!?」
グリフィンが驚いた声を上げる。まさか婚約破棄を受け入れるとは思っていなかったのだろう。
周囲の人々もレイチェルの言葉に動揺の声を上げた。
「レイチェル嬢!?」
王妃の悲痛な叫びが響き渡る。
「王妃陛下……申し訳ございません。これほどまでにケイティを愛している王太子殿下のお気持ちを思うと、私にはもうどうすることもできませんわ」
レイチェルは悲しげな表情を作ってみせた。
「そ……そんな……」
王妃はその場に崩れ落ちる。
周囲の人々も動揺を隠せない様子でざわめいていた。
「ああ……なんてこと……。私の息子がここまで愚かだったなんて……」
王妃は頭を抱えながら、さめざめと涙を流した。
「母上、なぜ泣くのですか!? 僕は正しいことをしているのです! 父上! 父上は僕の味方ですよね?」
グリフィンは縋るような目で国王を見つめる。だが、国王の表情は硬いままだった。
「父上!」
グリフィンが叫ぶと、国王は深いため息をついた。
「……この愚か者どもを連れていけ」
国王が指示すると、控えていた兵士によってグリフィンとケイティが拘束される。
「な、なにをするんだ! 僕は王太子だぞ!」
「いやっ! どうして!? 私は王太子妃になるのよ!」
二人は口々に叫び声を上げる。だが、兵士たちは構わずに二人を連行していく。
「離せ! 離せよ!」
「いやああ! お父さま、助けて!」
二人は叫びながら連れ去られていった。
会場はしばらく静寂に包まれる。誰もが何が起きたのか理解できずにいた。
国王は壇上に上がると、ゆっくりと周囲を見渡す。
「皆の者には申し訳ないことをした。だが、これは我が王家の問題だ。どうか理解してほしい」
国王の言葉に、人々は静かに耳を傾ける。
「私は息子を甘やかしすぎたようだ。これからは厳しく教育していくつもりだ。どうか、長い目で見てやってほしい」
国王はそう言うと、呆然としたままの王妃を立ち上がらせる。
「王妃よ、行くぞ」
「は、はい……」
二人は会場を後にする。
残された人々はただ呆然とその様子を見つめることしかできなかった。
やがて、我に返った人々がざわつき始める。
そんな中、レイチェルとジェイクは静かにその場を離れていく。
「……お兄さま、この展開は予想外でしたわね」
レイチェルは苦笑しながら言う。
「そうだな……ここまで馬鹿だとは……」
ジェイクもまた呆れたような表情を浮かべていた。だが、その表情には安堵の色が滲んでいるようにも見える。
「でも、これで婚約は無事に解消できそうですわ。望みどおりになりすぎて、少し怖いくらいです」
「そうだな……。だが、まだ油断はできない。この婚約破棄が、新たな問題を引き起こす可能性もあるからな」
ジェイクの言葉にレイチェルも頷く。
「ええ、そのとおりですわね」
レイチェルはそっと髪飾りに触れた。カーティスから贈られた、彼の色を宿した髪飾りだ。
これを身に着けていると、不思議と心が落ち着くような気がする。
「どうした? なにかあったのか?」
レイチェルの表情の変化に気付いたのか、ジェイクが声をかける。
「いいえ……なんでもありませんわ」
レイチェルは首を横に振って微笑んだ。
「そうか?」
「ええ」
二人はそのまま会場を後にする。
そして馬車に乗ると、公爵家へと戻るのだった。
そして、壇上からレイチェルを見下ろすと、鼻で笑う。
「貴様がいくら画策しようと、僕の妃はケイティしかあり得ない。たとえ側妃だろうと、貴様などお断りだ!」
そう言って、グリフィンは高笑いした。
「なんてことを……」
レイチェルは思わず天を仰いだ。
まさかここまで馬鹿だったとは。呆れを通り越して、もはや感心してしまうほどだ。
「そうよ! 皆さま、殿下と私はお似合いだって言ってくださるわ! それに、お父さまだって、私の方がお姉さまより王太子妃にふさわしいって言ったもの!」
ケイティも嬉々として叫ぶ。
彼女は完全に舞い上がっている様子だった。
「さあ、皆も僕たちの婚約を祝福してくれ! この場の者たちが証人だ!」
グリフィンは高らかに宣言するが、会場はしんと静まり返るばかりである。
その異様な空気に、さすがのグリフィンも気が付いたらしい。
「な、なんだ……皆、どうしたんだ?」
困惑した様子で周囲を見回す。
だが、誰一人としてグリフィンの言葉に応えようとはしなかった。
「何の騒ぎだ」
そこに国王と王妃が姿を現した。
王妃はグリフィンの姿を見ると、不快そうに眉を顰める。
「これは何の騒ぎですの? こんな場所で婚約破棄を宣言するなど……。しかもレイチェル嬢を……」
王妃は怒りの声を上げると、グリフィンを睨み付けた。
「な……母上! 僕は真実の愛を見つけたのです! このケイティこそが僕の妃にふさわしいと……」
「お黙りなさい!」
グリフィンの言葉を遮るように、王妃は一喝した。
「あなたはまだそんな世迷言を言っているのですか! あなたにはレイチェル嬢が必要なのです! いい加減、現実を直視なさい!」
王妃の言葉にグリフィンは呆然とした表情を見せた。
「で、ですが、こうして大勢の前で宣言したことを、なかったことになどできません。僕は真実の愛を見つけたのです!」
「お黙りなさいと言っているでしょう!」
王妃は再びグリフィンを一喝し、今度はレイチェルに視線を向けた。
「レイチェル嬢……どうかグリフィンを見捨てないでやってください。あなたが王太子妃として、支えてくだされば、この子はきっと立派な王になれます」
王妃は懇願するようにレイチェルに告げる。
「母上! なぜ、レイチェルにそのようなことを言うのです! こんな女など必要ありません! 僕は真実の愛のために婚約を破棄するのです! ……おい、貴様! 婚約破棄を受け入れろ! 身を引くんだ!」
だが、グリフィンがその言葉を遮るように叫ぶ。
すると、王妃は怒りの形相で振り返った。
「お黙りなさい! あなたはまだわからないの!? あなたが国王になるために、レイチェル嬢が必要だと言っているでしょう! いい加減に理解しなさい!」
「し……しかし……」
王妃の剣幕に押され、グリフィンは口ごもる。
そんなやり取りを見ていた周囲の人々は、困惑の表情を浮かべていた。誰もがこの状況についていけていないようだ。
「……婚約破棄、承りましたわ」
そんな中、レイチェルは静かに口を開いた。
「なっ!?」
グリフィンが驚いた声を上げる。まさか婚約破棄を受け入れるとは思っていなかったのだろう。
周囲の人々もレイチェルの言葉に動揺の声を上げた。
「レイチェル嬢!?」
王妃の悲痛な叫びが響き渡る。
「王妃陛下……申し訳ございません。これほどまでにケイティを愛している王太子殿下のお気持ちを思うと、私にはもうどうすることもできませんわ」
レイチェルは悲しげな表情を作ってみせた。
「そ……そんな……」
王妃はその場に崩れ落ちる。
周囲の人々も動揺を隠せない様子でざわめいていた。
「ああ……なんてこと……。私の息子がここまで愚かだったなんて……」
王妃は頭を抱えながら、さめざめと涙を流した。
「母上、なぜ泣くのですか!? 僕は正しいことをしているのです! 父上! 父上は僕の味方ですよね?」
グリフィンは縋るような目で国王を見つめる。だが、国王の表情は硬いままだった。
「父上!」
グリフィンが叫ぶと、国王は深いため息をついた。
「……この愚か者どもを連れていけ」
国王が指示すると、控えていた兵士によってグリフィンとケイティが拘束される。
「な、なにをするんだ! 僕は王太子だぞ!」
「いやっ! どうして!? 私は王太子妃になるのよ!」
二人は口々に叫び声を上げる。だが、兵士たちは構わずに二人を連行していく。
「離せ! 離せよ!」
「いやああ! お父さま、助けて!」
二人は叫びながら連れ去られていった。
会場はしばらく静寂に包まれる。誰もが何が起きたのか理解できずにいた。
国王は壇上に上がると、ゆっくりと周囲を見渡す。
「皆の者には申し訳ないことをした。だが、これは我が王家の問題だ。どうか理解してほしい」
国王の言葉に、人々は静かに耳を傾ける。
「私は息子を甘やかしすぎたようだ。これからは厳しく教育していくつもりだ。どうか、長い目で見てやってほしい」
国王はそう言うと、呆然としたままの王妃を立ち上がらせる。
「王妃よ、行くぞ」
「は、はい……」
二人は会場を後にする。
残された人々はただ呆然とその様子を見つめることしかできなかった。
やがて、我に返った人々がざわつき始める。
そんな中、レイチェルとジェイクは静かにその場を離れていく。
「……お兄さま、この展開は予想外でしたわね」
レイチェルは苦笑しながら言う。
「そうだな……ここまで馬鹿だとは……」
ジェイクもまた呆れたような表情を浮かべていた。だが、その表情には安堵の色が滲んでいるようにも見える。
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「そうだな……。だが、まだ油断はできない。この婚約破棄が、新たな問題を引き起こす可能性もあるからな」
ジェイクの言葉にレイチェルも頷く。
「ええ、そのとおりですわね」
レイチェルはそっと髪飾りに触れた。カーティスから贈られた、彼の色を宿した髪飾りだ。
これを身に着けていると、不思議と心が落ち着くような気がする。
「どうした? なにかあったのか?」
レイチェルの表情の変化に気付いたのか、ジェイクが声をかける。
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