自分を陥れようとする妹を利用したら、何故か王弟殿下に溺愛されました

葵 すみれ

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36.建国祭

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 そして、ついに建国祭の日がやってきた。
 建国祭は三日間に及び、その最終日に結界の修復が行われることになっている。
 その間、国中がお祭り騒ぎで、街の至るところに飾り付けや屋台が立ち並ぶ。屋台からは美味しそうな匂いが漂い、行き交う人々の表情も楽しげだ。
 そんな中、レイチェルとカーティスは馬車に乗って王城を目指していた。

「いよいよですわね」

 向かい側に座ったカーティスを見つめて、レイチェルは微笑んだ。

「ああ、そうだな。儀式は三日目だが、準備は今日から始まる。成功するかは我々次第だ」

 カーティスも緊張の色を浮かべつつも、決意に満ちた表情で頷いた。

「そうですわね……結界の修復が成功するように、私も全力で頑張りますわ」

 レイチェルはカーティスに寄り添い、彼の手をぎゅっと握りしめた。すると、カーティスは嬉しそうに微笑む。

「ありがとう、レイチェル。きみの支えがあれば、何も恐れることはない」

 カーティスはレイチェルの手に指を絡めるように握り直すと、そっと引き寄せた。

「カーティスさま……」

 レイチェルが名前を呼ぶと、カーティスはもう片方の手でレイチェルの髪を優しく梳く。

「愛しているよ、レイチェル」

「私もです……カーティスさま」

 二人は見つめ合い、唇を重ねた。軽く触れるだけの口付けだったが、それだけでも心が満たされていく。

「さあ、そろそろ王城だ。準備をしよう」

 カーティスが手を差し出すと、レイチェルはその手を取った。
 そして、二人は馬車から降りると王城の庭園へと向かう。
 そこでは、すでに多くの宮廷魔導士たちが動き回り、儀式の準備を進めているようだった。

 広大な庭には祭壇が築かれ、魔法の力が宿っているのであろう宝石や花々で飾り付けられている。
 儀式は二日後だが、ほぼ完成していると言ってもいいだろう。
 建国祭には毎年参加しているレイチェルだが、これほど大規模な準備を見たのは初めてだった。

「これは……壮観ですわね」

 レイチェルは思わず感嘆のため息を漏らした。

「ああ、そうだな。だが……早すぎる」

 カーティスがぼそりと呟いた言葉は、レイチェルの耳には届かなかった。

「カーティスさま?」

「いや、なんでもない。広間へ行こうか」

 カーティスに促され、レイチェルは頷く。
 広間に入ると、既に多くの貴族たちが集まっていた。その中にはウサーマス公爵の姿もある。

「これはカーティス殿下、お久しぶりでございます。建国祭でお姿を拝見するのは、初めてかもしませんな」

 ウサーマス公爵は大げさな身振りで挨拶すると、カーティスに向かって笑みを浮かべた。

「久しいな、ウサーマス公爵。ご壮健で何より」

 カーティスも穏やかな笑みを浮かべて返す。しかしその目は全く笑っていない。

「殿下も、すっかりご立派になられて……。いやはや、時の流れは早いものですなぁ」

 ウサーマス公爵はわざとらしく首を振りながら言う。

「それにしても、今日はオウムト公爵も、リグスーン小公爵もいらっしゃらないようですな。スーノン公爵はまあ、いつものこととはいえ……。お三方とも、どうされたのやら……まさか、抗議のおつもりですかな?」

 ウサーマス公爵はレイチェルにも目を向けて、挑発的な物言いをする。

「まあ、抗議とは何のことですの?」

 可愛らしく首を傾げながら、レイチェルは問い返した。

「おや、これは失礼いたしました。てっきり、カーティス殿下が儀式を執り行う許しが出なかったことに、お怒りなのかと思いましたので」

 ウサーマス公爵はニヤリと笑い、カーティスに向き直る。

「いやいや、これは邪推でしたな。まさか四大公爵ともあろう者が、そのような幼稚な真似はしますまい。カーティス殿下、どうかお許しを……」

 ウサーマス公爵は謝罪するような仕草をしてみせるが、明らかに皮肉と嫌味を込めた言い方だった。

「構わないさ」

 カーティスは微笑みをたたえたまま、ウサーマス公爵に返事をした。

「おお、寛大なお言葉。これはありがたい。では、私はこれで……」

 ウサーマス公爵は満足げに頷くと、さっさと立ち去ってしまった。
 ただ嫌味を言いに来ただけのようだ。カーティスの支持者を貶めたかったのだろう。
 下らないとレイチェルは心の中で悪態をつく。
 しかし、オウムト公爵たちの姿が見当たらないのは、何故だろうか。まさか本当に抗議などという理由ではないだろう。
 兄ジェイクの姿も見えないが、特に何も聞いてはいなかった。

「カーティスさま……」

 不思議に思い、カーティスに尋ねてみようとしたところで、国王夫妻が姿を現した。

「皆の者、建国祭に集まってくれたこと、感謝する」

 国王が朗々とした声で話し始めると、広間はしんと静まり返り、すべての視線が国王へと向けられた。

「我が弟カーティス、そして婚約したレイチェル嬢が今年、建国祭の儀式に参加することになった」

 国王の言葉に広間はざわめきに包まれる。
 とうとうカーティスを次期国王として認めるのかと、期待の声が上がり始めた。

「カーティスには、第二王位継承権者として、儀式の補助を行ってもらう」

 ところが、続く国王の言葉で、そのざわめきは一瞬で収まった。

「補助……?」

「第二王位継承権者……」

「それでは……次期国王と認めたわけではないと……?」

 ざわざわと不穏な空気が漂い始めたが、国王はそれを手で制して話を続けた。

「本来ならば、三日目に行う儀式だが、今回は特別に今日行う。三日目は、何かあった場合の予備日とするためだ。そして、その場合のみカーティスに参加してもらう」

 国王がそう告げると、会場内はどよめきに包まれた。

「なっ……!」

「それでは、カーティス殿下が儀式に参加する意味がないではないか……」

「なぜ今更そのような……」

 会場内から不満の声が次々と上がり始める。
 しかし、その空気を断ち切るように国王は声高に叫んだ。

「静まれ!」

 その一喝で会場内はしんと静まり返る。国王は一つ咳払いをすると話を続けた。

「儀式を行うのは、第一位王位継承権者であるグリフィンだ。次期国王にふさわしい資質を証明してもらう」

 国王がそう言い終わると、広間の扉が開き、グリフィンが現れた。その隣にはケイティが寄り添っている。

「なっ……」

 レイチェルは言葉を失くした。カーティスも目を見開いて固まっている。
 ケイティは領地で謹慎しているはずではなかったのか。
 どうして彼女がこの場にいるのか理解できなかった。
 すると、ケイティはレイチェルにちらりと視線を向け、勝ち誇ったような笑みを見せた。
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