元ヤンの伝説のアイドルを吸血した1888年から来た吸血鬼には浮気調査専門興信所はちょっとつらい

k_tokyo

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第4章 美味しい夢

第2話 飛翔

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ロンドンは最近とくに治安が悪くなっていた。
景気が良い者と悪い者貧困の差が顕著になっていた
ホワイトチャペルも出歩くには
危険な地域が多い。

俺も元来は怖がりなので、夜間に出歩きたくないが
昼日向に吸血するのはリスクが高いのと
御婦人も昼間にそういう気分になりづらいので
敢えて深夜に徘徊している。

吸血鬼が太陽の光に弱いというのも
こういった行動から勘違いされたのだと思う。

俺は数少ないロンドンの晴天の日が好きだ。
暖かく眩しい陽射しを浴びてのんびりと過ごす
御婦人に会うならそういう日を本当は選びたい。
だから先週はジョセフィーヌとピクニックを楽しんだし
次は一緒に”パリ大賞典”を観に行こうと約束していた。

さっきの失態を挽回すべく
になって奴を探した。

「キャーッ」
女性の悲鳴で奴の居所が分かった。
また狭く真っ暗な建物と建物の間に逃げ込んだようだ。

そこから娼婦がひとり飛び出してきたのを避けて
俺は今度は慎重に暗闇に目を凝らし歩を進めた。

奴は袋小路に追い詰められて観念したのか。
こちらを向いたまま表情を消して立っていた。

またも音もなく俺の頭上を飛び越えようとしたが
今度は俺も同じぐらいの高さまで飛び上がり
奴の胸元を人差し指で軽くはじくと
”クルッ”とバク転して
元の場所に静かに降り立った。

バランスを崩しながら元いた場所に落ちた奴は
そのありえない反撃に、また恐怖と驚愕の表情を思い出していた。

「今度はどうする?」
俺は細心の注意を払いながらも
じりじりと奴が後ずさりするのを楽しそうに見ていた。
しかし、もたもたしてるとジョセフィーヌとの
蜜月が無くなってしまう。

可哀そうだが人を無残に殺した罪は
その身をもって償ってもらおう。

そう思った俺は早々に決着をつけるために助走をつけて
ありったけの力で右拳を奴の眉間めがけて放った。

「グシャッ!」
鈍い音を立てて俺の拳・・・・

俺の?・・・・・・
俺の拳が・・・・・砕けた!?

無残にも俺の右拳は肘から先があらぬ方向に
曲がって肉片と化していた。
俺はそれを呆然と眺めていた。

吸血鬼だって痛みは感じる。
俺は普段ならちょっとした傷でも
大袈裟に痛がって
御婦人の気を引こうとするが
今は"声も出なかった"ほど
が傷ついた。

”奴は?”
奴は眉間に皺を寄せたままこちらを睨んでいた。
信じられないが奴の前には"見えない壁"があるようだ。
しかもその見えない壁は、バーミンガム製の鉄をも凹ます
吸血鬼ヴァンパイアの渾身をこめた拳を
砕くまでに強硬の物なのか?

”本当にこいつは何者なんだ?”
一度と成らず二度までも俺を驚かせた男
本気で挑まなくてはならないのだが
俺は真剣に他人と争ったことは少ない。

そりゃ吸血鬼と正面切って喧嘩できるのは
狼男けだものと会ったことはないが神龍ドラゴンだけだろう。

兄貴とガキの頃は喧嘩したが
一度御屋敷の庭をめちゃくちゃにして親父に怒られて
二人とも屋敷の堅牢に半年入れられてしまったので
それ以来は口喧嘩で揉め事は解決するようになった。

叔父《ヴァンパイア》は狼男けだものとの決闘話を
会うたびに自慢してたが
叔母《ヴァンパイア》によるとふたりとも酒癖が悪く
会うと喧嘩ばかりしていたので
最後は両方の嫁さん達にこっぴどく怒られて
1年間の禁酒と畑仕事をさせられたと聞かされた。
つまり怪物達は元来が平和主義者なのだ。

困惑の最中でも俺の右腕は見る見るうちに元の形へと再生した。

吸血鬼の肉体は自然の摂理を超えて驚異的な速さで再生する。
特に新鮮な血液を吸血した後は不死身ともいえる状態になる。

よかったやっぱりマリアの聖血は本当に素晴らしい。

その味わいだけでなく、効能も凡人にはない素質を持っているようだ。
次に会うときは、二人で極上のワインを飲みながら、祝杯をあげよう。
そしてまたその柔肌の首筋に私の牙をやさしくたてて
悦楽の世界へいざなってあげよう。

さあ今度は俺のプライドも復元しなくては

俺は普段封印している吸血鬼の本性を呼び起こし
禁断の魔手を使うことにした。

しかしこの手はあまり使いたくなかった・・・

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