元ヤンの伝説のアイドルを吸血した1888年から来た吸血鬼には浮気調査専門興信所はちょっとつらい

k_tokyo

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第5章 目覚めぬ夢

第1話 豚野郎

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近くで騒がしい声がする。
聞き慣れない言葉だが
男と女が争っているようだ。

頭が重い。
ひどい耳鳴りがする。
ダメだ、吐きそうだ。
うるさい。喧嘩するなら他所でやれ。


「エリたんがいけないんだーーー」
実際は金切り声で、なんと言っているのか誰にもわからない。

はち切れんばかりに伸びきったピンク色の布地のTシャツを着た
巨漢の男が暗闇に潜んでいた。

Tシャツの胸に書いてあるロゴはその醜い肉塊で湾曲し
微かにアルファベットであろうということしかわからない。

それにつけ胸元辺りからだらしなく膨らんだ腹部にかけて
なにやらの汚汁を垂れ流した跡が続いている。

「エリたんがいけないんだ・・・」

今度はぶつぶつと何か呟いているが、そのたびごとに
口角に黄色く変色したカニの泡のような物質がひとつふたつと
湧いては消え湧いては消え無限に続いている。

それは独り言なのか、それとも相手に語りかけているのか、
呪文のようで聞く者に言いようのない不安を与えていた。

さらに掛けた眼鏡だけが暗闇の中でも
不気味な鈍い光を放っていた。

「エリたん怖い。もう止めて、お願い。」

なんだこのきしょいのまた来たのかよ?

きれーな満月見ながら、ちょっと一服しようと裏口に回ったら
まさかこいつがいるなんて。
こいつ元々坂口推しだったんじゃなかったっけ?
いつも何言ってんだかわかんねーし。
今日は特にチョーヤバイ感じじゃんかよ。
とりあえずなんとかこの豚野郎追っかけを落ち着かせねーと。

少女は自分が窮地に陥っていることはわかっていたので
それで本性を隠して、なんとか逃れる術はないか考えていた。

地元で女相手に喧嘩で負けたことは無かったし
ヘタレな男の不意をついて勝った時も何度かあったが
どんなに喧嘩が強くても
本気を出した男性との体力・腕力の差を埋めることは
できないことも経験上わかっていた。

そういう時は逆らわないことが、被害を小さくする最善の方法であるが
この相手には何を言っても言葉が通じないのかもしれなかった。

少女の見立て通り豚野郎追っかけ
この近くにある相撲部屋にいた元力士であった。

もちろん関取では無かったが、体重は少女の5倍近い
200kgになろうかという巨体の持ち主で、押し相撲が得意だった。
本人の意思では無く、ただ体の大きさだけで相撲部屋にスカウトされたので
部屋がアキバに近かったために、しだいに元来のオタク気質の方が
前面に出てしまい、少し前にアイドルにハマって稽古に身が入らないと
破門されていた。


豚野郎追っかけは少女の声を聞いているのかいないのか
少女の姿を見ているのかいないのか、それすらもわからない程
異様な姿をさらしている。

しばらくすると、その場で膨張した肉脂をぶるぶると揺さぶりながら
ドスン ドスンと四股しこを踏み始めた。
あまりに激しく振るい過ぎて、肉汁ごとすべてが流れ落ちてしまうと思われた時
「エリたんがいけないんだーーー」
今度は怒号を発しながら突進してきた。

チキショー。やっぱスタンガンは
いつもパンストに挟んでおくべきだったなあ。

少女は汚い言葉使いとは裏腹に、顔だけは傷つきたくないからと覚悟して
白くか細い両腕で、やはり色白で美しい顔を固く防御した。

"ズッドーン・・・・・ ドッッサ"
重々しい音と振動が少女を震わせた。

あれ?どうした?

少女は幼い時からしているように
歯を食いしばって耐えようとしていたが
痛みが襲ってくることが無かったので
恐る恐る両腕をひろげると
豚野郎追っかけが自身の吐き出した黄色い飛沫に顔を埋めるように
ときおりぶるぶると痙攣をしながら、前のめりにぶっ倒れていた。

その横に長く黒いコートを着た男が、片膝をついて座っていた。

コイツがやっつけてくれた?

少女はどこからともなく現れた
また新たなる不審人物に恐る恐る近づきながら
「おじさんがやってくれたの?」と尋ねると
男は首を縦に振り終わると同時に
冷たく固いアスファルトの地面に倒れ込んでしまった。

少女はどうしたのかと顔を覗き込んだ。

よく見ると外国人なのか
色白い肌に彫りの深い目元
顎のラインもシャープで
名前はわからないが
有名な俳優によく似ている。
墨色の髪には血糊が付いている。

「ヤベー。すげーイケメン。」
少女はミニ丈のメイド服を気にもせずに
大きく脚を広げて隣にしゃがみ込んで
タバコを燻らせながらしばらくその顔を堪能した。

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