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第10章 戦夢
第4話 ハンバーグ
しおりを挟むあれ?どうした?
少女は幼い時からしているように、
歯を食いしばって耐えようとしていたが、痛みが襲ってくることが無かったので恐る恐る両眼を開けた。
ハンバーグのひき肉をこねるような音が、いまだに少女の耳にも聞こえている。
「ぷぷぷ・・・」
なんとか振り返ったが豚野郎が、相変わらずタイヤメーカーのあのキャラクターに
見えたので、こんな状況なのに笑ってしまった。
豚野郎はあまりにも幾層もの肉塊があるために
奴の肝心なハンバーグはその肉層に阻まれて、なかなか出来上がらないようだった。
しばらくしてやっとハンバーグのひき肉をこねるような音が止んだ。
「いったいどんだけ大きいジャンボハンバーグを作ったんだ?」
少女は想像してそんな大きな物は口に入らないと拒否したかった。
少女はいよいよ覚悟し
「おじさん、たすけて」と小さな声でつぶやいた。
「エリ、だいじょうぶ。助けに来たよ」
耳元でおじさんの幻言が聞こえた、念のために声のした方に顔を向けた。
べッドスタンドのわずかな光に照らされて、彫像のような白く美しい顔が真横に合った。
「おじさん」
エリの素の声色は、なんと美しく軽やかでかわいらしいのだろう。
俺は家にいる時と同じように、エリの横に両手を頭の後ろで組んだまま仰向けで寝ころび
右足で豚野郎の極小で不味そうなハンバーグを踏みつけ、こねてやっていた。
それがさぞ気持ち良かったのだろう。
ハンバーグ野郎が俺を両手で抱き絞めようとしてくれるのを
今度は出来損ないハンバーグを両足でおもいっきり蹴り飛ばしお断りした。
「ドンドンドンドンドン・・」
部屋の隅まで飛ばすはずが、思いのほか重量があったので、ハンバーグ野郎は
床のごみを吸収しながらゴロゴロと転がった。
それからうつ伏せに寝かされていた全裸のエリをやさしく抱き起した。
「おじさん・・・」
珍しくすこし半泣きで、素の声色で俺の胸の中に抱き着いて来た。
恐怖でその身体は青白くなり微かに震えていたが、強力に張り出した胸元と
魅惑的な曲線の腰つきは俺に戦う気力を与えてくれた。
ベッドの毛布をエリに巻きつけ部屋の片隅へ優しく置くと
「ちょっとだけ。お留守番だ。」
と言ってハンバーグの焼き加減を見に行った。
ハンバーグ野郎はやっと立ち上がったように見えた。
「エリたんがいけないんだ・・・」
そのセリフを聞いて、さっきまであのタイヤメーカーの営業マンだと思っていた俺は驚いた。
3年前の暴挙のあとなかなか狼男が見つからず
この豚野郎を仕方がなく、人があまり寄り付かないビルの地下3階で熟成させていた。
しかも時おり様子を見に行き、痩せすぎないようにエサも与えていたのに・・・・
「どこかで拾い食いしていたな。絶食だ!」
俺は助走をつけてありったけの力で右拳を奴の・・・
どこかにめがけて放った。
「グチョッ!」
鈍い音を立てて俺の拳・・・?
俺の?・・・
俺の拳が・・・どこいった?
無残にも俺の右腕が、肩まで豚野郎の肉塊に呑まれて行方がわからなくなった。
俺はそれを呆然と眺めていた。
しかたなく、肩まで肉沼に埋まった右腕を抜こうと思ったが、豚野郎が
俺を”推し”にしたらしく、抱き着いて離れない。
さらに”推し”倒されてしまった。
「グエッ」
さすがの俺もこの”推し”には音を上げた。
身体中の骨と内臓が”推し”つぶされて、せっかくの輸血を吐き出してしまった。
「なんだこの重さは?」
しかもいくら手足を動かしても、それこそひき肉をこねているように
いっこうに手応えが無い。さらに顔全体がひき肉に覆われて呼吸が出来ない。
吸血鬼は、人間より呼吸を止めていられる時間が長い。
ただし決して無酸素で生きられる訳ではない。
新鮮な酸素は血液には必要不可欠だ。
どんなに我慢しても、1時間が限界だ。
叔父は呼吸を10時間・・・
そうか叔父さんと叔母さん
あれからも仲良くしてたのかなあ・・・
しまった。逃れようと必死に踠いたので、余計に酸素を使った。
俺は、徐々に意識が遠のいていった。
「エリごめん・・たすけられ・・・」
なんてこった吸血鬼がハンバーグ食って窒息死なんて・・・
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