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第一章 始まり
異世界とこちらの世界 前編【3】
しおりを挟む「あはは。そもそも、異世界人なんて珍しくないこの世界でなんで自分を誘拐したのかっていう疑問が湧きますよね」
あくまで俺は、リーダーの男に自分の考えが伝わらないよう表情を固め努めているにもかかわらず、俺が誘拐された理由を聞きたいと考えていることなんて、全てお見通しのような口振りで語るリーダーの男。
その表情は先程の荒んだ表情とはまた違った、瞳に光が一切無い温かさとはかけ離れた酷く冷たく暗い、より荒んだ表情をしていた。
張り付いて音を発しにくくなってしまっている喉に更なる不快感が重なったが、そんなこと思っているとは気づかれないように、俺は自分の瞳に力を込めてリーダーの男の光の無い瞳を見つめ返すことで話の続きを促す。
「この世界に異世界の知識を持つ者は確かに珍しくありません。ですが、その存在はあまりにも守られすぎている。あなたはこちらの世界に来て戸惑う事はあったかと思いますが、困り事などはすべて後見人であるあの厄介者ができうる限り解決してくれたはずです。
何故、こんなにもこの世界の異世界からの転移者や転生者を守り育むような制度がしっかりとしているか、あなたも少しは気になったりしたんじゃないですか?」
それは確かに、そんな事は一度も思った事ないとは言えない程度に、実は頭の中でチラッと、やけに制度がしっかりしているなという考えが浮かんだりはしていた。
しかし以前ゼンから聞いた、初めてこちらの世界に異世界の人間が来たのは一万年以上前だという話だったのだから、それだけの時が経てば、そりゃあそれなりのレベルまで制度がしっかりするのは当然だろうともその時は思ったが。
でも、前の世界でもそうだった。
人というのは、何かしらの心や考えの変化というものが起こらなければ、現状を変える力というものがない。
つまりは、こちらの世界の者達が本当に今の今まで何も変化を求めない力の無い者達であったのなら、俺が現在この世界で享受しているこのレベルまでの制度というものは決して整ってはいなかっただろう。
ということは、だ。
この世界も前の世界と同じ、一筋縄ではいかない世界であるのだ。
例えば何事も問題のない世界で皆が優しくお互いが思い思いやれて、考えが平等な世界だったら。争いや暴力、対立など起こるわけもなく平和で平坦な世界なので、世の中に改革、革命、変革、改善などの考えにすらその世界の者たちは考え付くことすらできないだろう。
だが実際は、複雑怪奇な感情を持つ人という生き物が生まれてしまった前の世界では、様々な思考や思想が飛び買っていた。一度飛び立ってしまったそれは、時に言葉の針やナイフとなり人を刺すだけでなく、エスカレートしていけば己の信念の為に命の奪い合いまで行ってしまうほど。
「それはですね、大昔にあったんですよ。転移者や転生者を奪い合う醜い醜い争いが」
リーダーの男の口から出たのは、俺がまだ知らないこの世界の裏の姿。
いや、俺が今まで聞こうとしなかっただけでそれが本当の姿だったのかもしれないが、それはこの世界に異世界の知識という本来あるはずのない異物が入り込んでしまったが故の弊害であった。
こちらの世界に帰って来る異世界の知識を持つ者達。
主に転移者が無事に保護されるようになったのは、偉大なる神カリファデュラ神の采配のおかげなのはこの世界では皆が周知の事実。
かの神は、ようやく見つけだし保護する事のできた可愛い我が子である魂達が、己の保護下であるこちらの世界の領域へ帰すことができることに安心と喜びを噛みしめました。
しかし、喜びもつかの間。
別の世界で存在しないはずの魂であったという理由で、こちらの世界とは違う世界の合わない波長や環境せいという理由によって、酷く傷ついてしまった魂達。
せっかく異世界より過ごしやすいこちらの世界に戻ることができるのだからと、贖罪する意味も込めてカリファデュラ神は少しでも癒そうと努めました。
その努めた内容はというと、帰還する魂達の保護だけでなく。
傷つき疲弊してしまっていた魂達の心や身体を癒すように、守り慈しみ育むようにと、神の声を聴くことのできる性質特化の魔力を持つ者にお告げをし、託したのです。
そのお告げによって、当初こちらの世界に帰ってくることのできた魂達はというと。
来たばかりの頃は、前の世界との様々な違いに悩み、苦しみ、戸惑う者や不自由を感じる者がいました。
ですが、カリファデュラ神のお告げに従った、カリファデュラ神の精神と同じように慈しみの心を持ったこの世界の心優しき者達が、大事に癒し見守り育むように支えたことによりすぐにその違和感も無くなり心穏やかに過ごすようになります。
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