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第二章 旅立ち
美味しい料理と新たな同行者【2】
しおりを挟む「そうか、そうか、それなら気になるよな。ミョウガひとかけ舐めてみるか? 噛んだら辛いから舐めるだけにしておけよ」
「お、ありがとう」
俺は少年の好意に甘えて、ひとかけ貰ってミョウガを舐めてみた。
「あ! これミョウガじゃなくてショウガじゃん!」
「しょうが? が何かは分からんが似た食べ物は知ってるんだな!」
駄洒落かよ! まさかのミョウガに似た食べ物はショウガの味だった。
前の世界のショウガよりちょっと辛みが強めな気もするが。
「じゃあ、このすり合わせたのはソースに使うから、寝かせていた肉を焼くぞ!」
少年はそう言うと、一度火から下ろされていた鉄板に下ごしらえをした肉を焼き始めた。
肉が鉄板に触れた瞬間から肉の旨味がじゅわりと溶け出し、下ごしらえで塗ってあったものと混ざり合ってふわりと香ばしい匂いが溢れ出す。
「うわぁ、いい香り」
「これは、上手そうだな」
「焼き方に好みはあるか? ないなら少しレアに焼くが」
「それで大丈夫だ。な、リンタロウ」
香ばしい匂いに酔いしれている俺に、ゼンが問いかけるので、正気に戻った俺は首を縦に振って少年にオーケーを出した。
「よし! 焼けた肉を皿に盛って、鉄板に残っている旨味の肉汁とさっきすり合わせたのを混ぜ合わせ、最後にワインと爺様直伝、特性ソースで仕上げて、それを肉にかけたら……。できあがりだ!」
「美味そう!!」
「これは、美味そうだな」
その他にも少年はいろんなスパイスなどを使ってスープやサラダを作ってくれて、皆で食べることになった。
ご馳走するつもりが、ご馳走される側になってしまったのはご愛敬という事で。
「…………、美味いな」
「なんだこれ、めちゃくちゃ美味い! 肉に臭みもないし、ソースが合う!」
「ははっ! 口に合ったみたいで良かった!」
少年が作った料理は、どれも美味しかった。
ゼンが作る料理が不味いと思ったことは無いが。いつも味付けがシンプルで、少年が作ったようなスパイスなどはあまり使わないザ・男の料理といった感じだったので、こういう凝った料理はリッシュ家でお世話になっていた以来であった。
俺も前の世界では料理は普通にやっていたのだが、如何せんこちらの世界の食材に詳しくない為、思うように料理が出来ない。
リッシュ領にいる間にパルフェット様やセリューさんに教えてもらえばよかったのだが、そこまでの時間を作る事が出来なかったのが悔やまれる。
「君、料理上手いんだな」
「料理は爺様に教えてもらったんだ。爺様は薬学者で、スパイスとかにも詳しかったから必然的に料理も上手かった」
「なるほどねー」
俺が少年と話している間、ゼンはもくもくと料理を消費していって一言も話さない。
まあ、思わず黙って食べ続けてしまうくらいに、この少年の料理は美味しくて。
俺もその後、ほぼ会話もなしにペロリと食べきってしまったくらいだった。
食事の後片付けなどを終え、旅支度をしてそれぞれの旅路へと戻るのかと思いきや…………。
「あの、離してくれませんかね」
少年にがっちりとバックを掴まれて、俺は身動きが取れなくなってしまっていた。
「…………あの、お前達、どこへ向かっているんだ」
「俺達はこのまま都心部、オリマギナへ向かうところだ」
「!…………ぁ、ぁの! ぉれ……て…………さぃ」
「「???」」
少年が何やらもごもごと言ったが、俺とゼンは聞き取れなかった。
というか、目的地の地名、今初めて知ったわ。普通もっと前に聞くべきだったな。
俺は聞き取れなかった少年の言葉を聞き返して、もう一度言ってもらう事にした。
「ごめん、聞き取れなかったんだけど、なんて言ったんだ?」
「ぅっ…………、お、俺も連れてってください!!!」
「えぇ!?」
まさかの自分も都心部へと連れて行ってほしいと言う少年。
どうやら詳しく話を聞いて短くまとめて結論を言うと、彼は迷子になったとの事。
彼は、元は捨て子で、彼が爺様と呼んでいた人に拾われて育ててもらっていたそう。
そんな彼が育った村は、彼以外は皆高齢な年齢層の方達ばかりで、一人だけ若い彼は大層可愛がられて育ったそうな。
彼は小さい頃読んでいた歴史を元に書かれた絵本の中の『英雄王』と呼ばれた伝説の人物に憧れて、自分も英雄王の様になりたいと思い、育ての親であるおじい様に都心部に行って、英雄王のような立派な剣士になると昔から言っていたそう。
けれど、おじい様はそれに大反対。少年を自分のような薬学者にすると言って話を聞いてもらえなかったそうだ。
しかし、彼は今年で十八という成人になったことにより、都心部の騎士団に入団できる歳になったので自分の意志で家出を決意。
一人村を飛び出してどうにかこうにかここまでたどり着けたそうだ。
だが、先程の山猪に襲われた際に、旅に必要なコンパスや地図をなくしてしまったので、一人で戻る事も進むこともできなくなってしまったというわけ。
ていうか、一個下だったのか。もう少し若いかと思った。
…………しかし、困ったなあ。
「どうする? ゼン」
「俺は行き先がいっしょなら構わない。リンタロウはどうしたい?」
正直言うと、カリスタで今まで飛べた所が、この少年が加わる事で飛べなくなるかもしれない。と俺は考えたのだが、ゼンが構わないと言うのであれば大丈夫だろうし。
こんなに目を輝かせて、英雄王とやらに憧れている彼の夢を壊すのも忍びない。
「うん。俺も構わないよ。一緒に行こう」
「っ!! ありがとう! 本当に、ありがとう! 俺の名前はヨル! よろしくな!」
こうしてゼンと二人きりであった旅路に、もう一人加わることになった。
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