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第一章
01:転生先はお色気キャラだった
とある王城の最上階。
勇者と異形の王である悪魔が対峙していた。
異形の王が膝を付き、荒い息を吐き出しながら、自分を追い詰めた勇者を睨んでいた。
無惨にも血塗れの巨躯を起こし、異形の王〝ネビロス〟は死期を目前に叫ぶ。
「フハハハハ!我は上級悪魔六衆の中でも最弱!我が主、魔王様に掛かれば貴様なんぞ赤子同然よ!」
最弱を謳うネビロスは、片方折れてしまった角を揺らし、苦しそうに悶えながらも魔王への忠信を宣った。
勇者達は悪態を吐くネビロスに、止めの一撃を与えようと近寄る。
だがその瞬間、悍ましい気配が辺りを包み込む。
瞬時に気配を察知した勇者は反射的に飛び退いた。
勇者達が見上げると、そこには悠然と佇む冷酷な目を持つ恐ろしいほど美しい男。
そしてその傍には、妖艶な笑みを浮かべる色香溢れる美女が、その男にしなだれ掛かり揺蕩う。
二人とも人間とは到底感じ入れぬ不気味さを漂わせ、此方を眺めていた。
「ま、魔王、さま!」
血走った目を見開き、突如現れた男に驚愕するネビロス。
魔王と呼ばれる美しい男はネビロスを無言で一瞥すると、傍の妖艶な美女が高慢な口調でネビロスを詰る。
「無様ねネビロス少将。お前はもう用済みだそうよ」
美女がしなやかに指を揺らすと、ネビロスは青い焔に包まれ一瞬にして消えた。
「…………!ま、待っっ!…………ぶろゔぉえっ!」
配下であろうネビロスに、無情にも止めを差したその女に勇者達は戸惑い、更に圧倒的な脅威を目の前にして一歩も動けずただ立ち竦んでいた。
その美女は勇者に近付き、細い指で顎を撫で上げ囁く。
「ふふ。ウチの少将を随分と追い込んでくれたわね?代わりに貴方が新しい少将にならない?」
艶やかで扇情的な笑みを浮かべる美女に、勇者は一瞬目を奪われた…………
所で私は前世を思い出す。
この状況でどこのポジションかって、今まさに勇者に顎クイしている女悪魔ですよ。
すんごい露出度高い衣装着てメイクバリバリのお色気ムンムン、サキュバスのミラ、私だよ!
やば。この顎クイしたお手てどうしよう?
何せ前世はこんな妖艶に男を誘うなんてした事ないアラサー地味女だったんだから。引き際が分かんねー!
しかもこのイケメン赤髪勇者、ちょっと頬染めて私をみてんじゃん。段々自分の笑顔が引き攣りそうになる。
ちょっとどうしたらいい?いきなり前世なんて思い出したせいで、脳内大パニックなんだけど!
「や、やめなさいっ!貴方達の仲間になんてなりません!」
ぱーん!と果敢にも私の腕を弾いたのは清純そうな銀髪の少女。多分僧侶か聖女かその辺りのポジションなんだろう。
あーでも助かったわ。どうやってこの指引っ込めようか迷ってたんだもん。
「アレックス!この女はきっとサキュバスです!誘惑に負けてはいけませんわ!」
おぉ~聖女ちゃん半分正解!
サキュバスは正解だけど、勇者に魅了魔法は使ってないもんね。
「す、すまないソフィー。危なかった…」
アレックスと呼ばれる勇者は顎をぐいと拭うと、先ほどの闘志溢れる目付きで私を睨んだ。
いや、そんな顔しても魅了使ってないってば。
とりあえず今の私は脳内大混乱してんだから早々に退散したいんだけど。
私は貼り付けた笑顔のまま背後に控える我が主、魔王ルキフェル様に視線を送った。
するとルキフェル様は冷たい視線をそのままに、勇者達を見据える。
「我を斃したくば、魔界に来い。そうすれば相手をしてやろう」
そこはかとない色気を含んだ支配者然とした声は、私の子宮が疼く。はぁぁぁ♡魔王様のイイ声♡
魔王ルキフェル様にうっとりと見惚れる私。あぁイカン!さっさと退散せねば!
私は体を翻し、ルキフェル様にくっつき空間転移魔法を発動する。
とりあえずもう一度頑張って余裕ある笑顔を振り撒き、その場を退散した。
◆
「いてててっ!もうミラちゃん強引だよぉ~!」
涙目で折れた角をさするネビロス。
ここは魔界の魔王城。
先程人間界の王城で勇者にやられて傷だらけのネビロス。彼から救援要請を受けて、慌てて転移させたのに文句を言われている私だ。
「多勢とは言え人間にフロボッコされてたから急遽こっちに転移させたんじゃない。感謝してよネビロス」
「いやぁ、あの勇者強かったぜ?見ろよ俺の角、ポッキリよ!」
ガハハハと豪快に笑うネビロスの腹が揺れた。少し見ないうちに太ったな?
我が魔界では少将の地位にある、このネビロス。
五十年前にふらりと人間界へ遊びに行き、とある小さな国が隣国に侵略されそうになっていた所を助けた。
その功績を讃えられ、王女と結婚し国王となり元々持ち合わせていた魔導技術を余すことなく広め、小国だった国を大きく発展させた。
だが五十年経っても老いの来ないネビロスに人々は疑念を抱くも、国民は賢王と称えていた。
「隣国が俺を悪魔だと吹聴して勇者を派遣してくるとはなー。あー俺の国民どうなるんだろう…」
自己再生能力で大方の傷が塞がったネビロスは、遠い目をして憂う。
彼は勇者に〝真実の鏡〟なる物で変化を解かれ、角や翼を晒したネビロスに『正体を表したな悪魔め!』とばかりに成敗されたようだ。
人間界の常識では我ら魔界人は悪魔らしい。異形な者も多いし。
「まぁ変化できるとは言え魔界人である事には変わりないもの。勇者にしてみれば国を騙して統治する悪い悪魔に見えたんでしょ。今頃隣国は強すぎる王が成敗され侵略しやすくなってウハウハじゃないの?」
「はぁぁぁ。納得いかねーが、まぁしょうがねぇよな」
魔界人の中には変化し人間界で生活する者もいるが、寿命が違いすぎるため時が経てば魔界に戻ったり、他の国へ移住したりと割と自由気ままに生きている。
六衆の中では最弱と宣っていたネビロス。
魔界人に於ける序列は第九位とかなりの上位魔界人だ。
序列とはそのまま強さの順位で、一位は当然魔王ルキフェル様。
弱肉強食の脳筋魔界では力が全て…と言うと少々語弊はあるが、要は全魔界バトルロワイヤルの勝者が魔王になれる至ってシンプルな世界。
勿論チーム戦でも可能で、リーダーがその序列を取得できる。
現在第三位のアスタロトは大勢の配下を持ち、チーム戦でその座を維持している。
実はこのネビロスもその配下の一人ではある。六衆はアスタロトが囲っているチームだ。
「人間界の国の事はアスタロト様が後は任せろって言ってたけど?」
「はぁぁぁっ?!ちょっと待て!アスタロト様が俺の国に入ってんのか?序列三位の方が人間界に干渉するってまずくね?色々不味くね?魔王様、怒ってない⁉︎」
「ルキフェル様は好きにさせろって言ってたけど。とりあえずネビロスは暫く大人しくした方が良いんじゃない?」
慌てふためくネビロスを見ながら、私はこの医務室でのんびりお茶をのんだ。
するとネビロスが怪訝な顔を見せて、私を覗き込む。
「ミラちゃん?何か今日は冷たさがねーな?俺が人間界に行ってる間に性格変わったか?」
どきり。と心臓が跳ね上がった。
何せ前世を思い出したせいで性格はかなり変わった。
今までの私はどちらかと言うと他人に干渉せず、只ひたすら魔王様に尽くすだけの重すぎる女だったからだ。
魔王か、魔王以外か。
どこかの元ホストの様な格言を地で行ってた私だ。
ルキフェル様以外は眼中になく、他の者に対して高慢な振る舞いをしてきた。
思い起こせばヤンデレだった私は、黒歴史も深淵になるほど痛い女だった。
何せ、ルキフェル様に近付く女も男も、全て廃人にしてきたのだから。
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