どうやら勇者に寝返る魔王の側近だけども【R18】

梅乃屋

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第一章

09:身も心も全て

 


 さぁどうしよう?

 次の日、起きた瞬間私は頭を抱えた。
 昨日の頭痛は嘘のようにすっかり無くなったが、新たな問題が発生し、やはり頭を悩ませる。

 無断で人間界へ行き、勇者と接触した件だ。

 通常ならば手続きを踏んでから行ける人間界。
 管理局に書類を提出して認可を受けてやっと行けるシステムだ。但し魔王様と緊急事態は除く。
 全部すっ飛ばして勝手に渡ってしまった事が問題なのだ。

 私の中では緊急事態ではあったが、正直に前世の件から話したとして、果たしてあのお方が納得してくれるかどうか疑問だ。

 なんてウンウン悩んでいると、ネビロスが顔面を腫らして訪ねてきた。

「うわっ!ひどい顔!何があったの?! 」
 慌てて駆け寄ると、ネビロスは大丈夫だと笑った。

「昨日あの後魔王様がやって来て、無言でぶっ飛ばされた…」
 ネビロスはそう言って肩をすくめた。

 無言て…!超怖い!

 彼は打たれた後しばらく気を失っていたらしいが、気が付いて直ぐに顔を冷やしたらしい。丁度飛ばされた先が王城の中庭だったので、噴水で冷やしたとか…どんだけ吹っ飛んだんだよ。
 ぶっ飛ばしたルキフェル様もだけど、それを喰らってピンピンしているこの男も恐ろしいわ。

「本当にごめんなさいネビロス。軽率だったわ。まさかバレるとは思わなかったの」
「まぁ軽率だったのは俺もだ。で、どう説明するつもりなんだ?」

 それだ。
 今朝からずっと考えているが、良いアイディアが浮かばない。
「小説の続きを取りに行っていたって言っても、信じないわよね?」
 口から出まかせに吐いたお土産話を盛る方法も考えたが、内容を聞かれたらアウトだし。

「だったら俺一人で行けば良いって話になんだろうよ」
「だよねー」
 いつものミラならネビロスに頼んで、自分からは行かないだろう。

「思ったんだけどよ?」
 ネビロスは取り敢えずと言い、その恋愛小説をドンと机に置いて話を続ける。
「あの勇者達は確かに強かったが、魔王様がやられる程じゃねーだろ?何ならゼブル様でも余裕だろう。何が気になるんだ?」

 ネビロスの言うゼブル様…バアル・ゼブル様は序列二位の方だ。血の気が多く、魔界人らしい性格をしている。
 問題はそうじゃなくて、原作強制力とか私の前世の知識が何となく危険だと感じているだけだ。

 それを話すか、話すまいか。それが問題だ。

「あの勇者達は……天使の加護を強く感じて、危険性が高いと思ったのよ」
 前世話は諦めた。これもまぁまぁ嘘ではない。何て言うか、彼らは『天使臭い』って感じで鼻に付く。

 ネビロスは訝しげな顔をしながらも『魔王様は天使がお嫌いだしな』と言って納得したようだった。

 帰り際、手に入れてくれた恋愛小説の件にお礼を言うと、
「あぁそれな。妻の愛読書だったから返さなくても良いぞ?」
「え。それこそ大事な遺品じゃない。お返しするわよ」
「いや、俺が持っていても気持ち悪ぃだろよ」

 うん、確かに。
 恋愛小説を読んで涙ぐむマッチョ…ある意味唆るが、目の前でされるとドン引きするだろうね。
 折角なので、じっくり読ませて頂こう。


 ◆



 空は曇天。
 晴れでもなく雨でもなく。

 窓を開ければほんのり冷たい風が頬を掠め、何となくにわか雨が降りそうなお天気の午後。

 私は姿勢を正してソファに座り、目の前のお菓子に手もつけず、膝に置いた手をぎゅっと握り込む。
 汗がすごい。

「天使臭い……と?」
 崇拝する我が主はカップを優雅に傾け、お茶の香りを嗜み一口啜る。

「はい」
 震える唇を奮起させ、精一杯のお返事をするも、小さな声しか出ないヘタレ女、私だ。
 結局私は、正直に勇者と接触したことを白状した。

「それで?この私がたかだか天使の加護が厚いだけの人間に負けるとでも?」
「いえ、決してそんな事は思っておりません」
「だが規律を犯してまでも人間界へ赴き、奴らと接触したのでは?」
「わざわざルキフェル様のお手を煩わせるような事は避けようと思いまして」

 魔王の威圧で冷や汗が止まらない。

「ミラ。お前は私の何だ?」

「私の全てはルキフェル様のものです。身も心も命も、この髪の毛一本すら貴方様のものです!」
 恥ずかしげも無く言い切る自分がイタイ。だが本心だからしょうがない。

 ルキフェル様はカップを置き、側に来いと指で手招きする。
 私は重い腰を上げ彼の横に座り、髪をかき上げ嘆息する仕草を見つめた。

 そして私の髪をふわりと掬いキスを落とす。
「この髪の毛一本すら私のものか?」
「はい」
 長い指を頬に滑らせ、唇を撫で付ける。
「この唇も?」
「はい」
 唇を撫でていた指が首筋をたどり、左胸の下で止まる。
「この心臓も」
「はい」

 トクトクと脈打つ心音がルキフェル様の指へ伝わる。
「ではこの赤い唇に誰かが触れたら?万が一にもこの身体が傷付いたら?私はどうすると思う?」

 …どうすると?
 答えが分からず首を傾げ、私はルキフェル様の紅い瞳を見つめた。

 彼は眉を顰め、額をコツンと合わせて囁きかけた。
「私は即座にその者を消すだろう。例えお前が懇願しても許す事はない。お前の全ては私のものなのだから、それを奪う者に容赦はしない。逃げ出したとしても地の果てまで追いかけ八つ裂きにして跡形も無く消し去ってやる」

「……っひ」
 本気でビビると言葉を失うのだと、今、知った。
 いや、私が八つ裂きにされるとは言われていないが、それを想像すると恐ろしくて変な声となって出た。

「私が恐いか?」
 うん、ちょっと恐い。それでも…
「お慕いしております。一生お側に居ます」

 ふ、と吐息を漏らすように微笑うルキフェル様。
 そのまま私の顔を掬い、軽く唇を合わせて直ぐに離した。

「一生離れず居てくれるのか?」
 指腹で頬を擽りながら、紅い双眸は真っ直ぐに私を見つめる。
「はい」
 離れろと言われてもストーキングする事請け負いですけど?

「では私もそうしよう」
「は………はい?」
 え?ストーキングするの?

 思わず疑問系で答えると、ルキフェル様は顔を顰めた。
「どうした。お前が離れないというなら、私もお前から離れない。何かおかしいか?」

 あれ?おかしくは、ない?
 私はルキフェル様がダイシュキだから側にいたいのであって、彼も側に居ると言った。
 この男は何のために私の側に居るつもりなのだろう。
 側に居るって意味がゲシュタルト崩壊しそうなんだけど?

「ルキフェル様?」
「なんだ」
「私はルキフェル様が大好きだから一緒にいたいのです。ルキフェル様は…何故私の側に居てくれるのですか?」
「忘れているのだろうが、私はお前のものだと誓っている」

 は?え?何それ?

「え?え?私はルキフェル様のもので、ルキフェル様は、私の、もの?」
「そうだと言った」
「全部?」
「身も心も全て」


 ……みもこころも
 すべて…………?

 全部、私のものなの?
 その美しいお顔も完璧な体も、そして強靭な心も、全て?

 理解できた瞬間、嬉しすぎて気を失いそうになった。

 あぁどうしよう!何て言えば良いか言葉が見つからない!
 今までずっと私には愛をくれないなんて、何故思っていたんだろう?
 何故私はそんな重要な事を忘れてしまっていたんだろう?

 ああああ、でもいいや!

 っは!これ夢じゃないよね?
 私起きてるよね?

「あぁぁどうしようルキフェル様!嬉しくて泣きそうです!」
「そうか」
「泣いても良いですか?」
「構わない」
「ルキフェル様!ルキフェル様……ルキ様…」

 あ。

 ふと。
 脳裏に浮かんだ金色の髪の毛。
 眩しいくらい輝く金色の瞳。
 美しい十枚の白い羽を持ち、白い衣装を着た、美しいお方。
 遠くから眺める光景は、いつも憧れていた。

「……………熾天使、さま?」

 あれ?
 私は何を呟いた?

「ミラ………思い出したのか?」

 思い出した?何を?
 一瞬、何かが込み上げるような感情に呑まれそうになったが、波が引くように消えていった。

「いいえ………無理でした」
「………そうか」
「でもルキフェル様への愛は変わりません」
「何よりだ」







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



ご精読誠にありがとうございます♡

ここで一旦休憩し、次回よりルキフェル視点となりますので、宜しければお付き合いくださいませ♪

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