悪役令嬢のビッチ侍従

梅乃屋

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本編

17:緑色の瞳

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 昨夜はうっかり勢いに飲まれて皇子の犬になってしまった俺だが、報告義務があるだけで別段何も特別な事は依頼されず解放された。

 とりあえずルシャードはウィリデリアの古代遺跡視察という名のデートを楽しむようだ。

 ウィリデリア王国は小さいながらも千年以上続く古い国だ。
 思うに、ここが乙女ゲームの世界だと思っていたけど逆のような気がする。この世界をモデルに乙女ゲームが作られたんじゃないのかなと。
 それだけ深い歴史があり、文化も発達の過程がある。

 こればかりは俺の頭じゃさっぱり分からんからこれ以上は考えても無駄だろう。

 ともあれ。
 考古学的にも割と貴重な遺産が残っているので、ルシャードは古城や遺跡資料館を中心に訪問される。
 学芸員が遺跡の説明をする度にフェリシテお嬢様は通訳し、ルシャードはそれに耳を傾ける。

 律儀に通訳するお嬢様の真面目さには感服するが、時折差し込むルシャードの口説きに顔を赤らめている彼女に俺はニンマリと頬を緩める。

 ただ非常に気になることが一点。
 ヴィラードがたまに俺を見ているんだよ。
 単なるお誘いの視線なら断然ウェルカムだが、あの視線は絶対違う。だって怖いもん!

 視界の外から感じる奴の視線。何故見られているのか分からないこの状況が居心地悪すぎて立ち位置を変えたい。
 だが俺の立ち位置を変えると他の護衛さん達に迷惑が掛かる。
 何せ皇子の護衛は半端なく、移動するたび死角を補い位置を変えるガチガチの警備だ。

 ルシャードの暴走を見る限り護衛なんか必要ないんじゃないかと感じるんだが、帝国の皇子たるもの体裁って大事なんだろう。

 美丈夫に無表情で睨まれている俺は、後ろめたい事情がありすぎて気が気じゃない。

 何か疑われてんのか?
 まさか俺の素性がバレてるとかないよな?
 怪しい行動を取らないか見張られている気分で冷や汗タラタラだ。

 こえぇよ、マジで何なんだよ。
 正体明かしたところで所詮俺だ。顔以外何の取り柄もないポンコツだからな?
 しかも今は何の指令も受けていないただの侍従なんだから疑わないでと切に願う。




 ランチタイムになり、俺もこっそり廊下に抜け出し料理長に作ってもらったサンドイッチを頬張る。
 侯爵家から離宮に連れて来た料理人の腕は最高だ。
 世界的にもウィリデリア王国は美食の国として有名で、下味のない料理は味気ないと思ってしまう、舌の肥えた元日本人の俺でもこの国の料理は美味いと感じる。

 因みに今日のサンドイッチはカツサンドだ。
 異世界あるあるの料理無双は出来なかったが、パン粉塗して油で揚げる調理はやはりなかったので俺が伝授した後料理長がアレンジし、侯爵家の定番となった。

 モシャモシャとカツを味わっているとルシャードの護衛騎士、ヴィラードがまたもや俺の背後にいた。

「ンモっ!」
 コイツいつも気配消して近寄るからビックリするんだよ。

 喉に詰まりそうになるのを堪えて、慌てて水筒を口にする。
 ごくりと飲み込みいつもの侍従フェイスを保ちつつ、ヴィラードに声を掛けた。

「気配がないので驚きましたよ。あ、お一つ如何ですか?」

 カツサンドを勧めると、彼はその硬い表情を崩すことなく受け取った。
 百九十五センチある身長は、百八十センチぴったりの俺でも上目遣いが出来るほどだ。
 そのむっちりとした筋肉は俺の股間が刺激される。
 しかも顔も美形な上に鋭い緑色の瞳は煌めいていて綺麗だと素直に感じる。但し、睨まなければの話だがな。

 ヴィラードは短く礼を言ってカツサンドを頬張ると、その硬い表情は一瞬崩れる。

「これは、美味いな……王宮の料理人が作ったのか?」
 緑色の瞳が驚愕で見開いた。

「いいえ、これはマレクラルス侯爵家から来ている料理人の手作りです。美味いでしょう?」

 モグモグと上品に咀嚼する口元を、俺は舐めるように見つめた。
 …食べる姿もエロいな♡
 ごくりと飲み込む喉仏にしゃぶりつきたい衝動を抑えて俺もカツサンドを齧る。

「あぁ。ウィリデリアの料理はどれも美味いが、これは格別だな」
「お口に合ってよかったです」

 実は帝国の料理って正直レベルが低いからな。
 強国のくせに何故か料理はあまり発達してないんだよ。
 征服して強大になった軍事国家だけに歴史は浅く、古い文化や伝統料理とか継承されなかったのかもしれないな。

 なんて考えながら最後のサンドイッチを食べる俺をまたもや視線が突き刺さる。
 もう我慢できん!俺は意を決して訊いてみた。

「俺の顔に何か?ソースでも付いてますか?」
 さっきからジロジロ見られてんのはわかってんだよ。

 ヴィラードはその無表情を動かすことなく俺を見ている。
 だからその目だよ!怖えぇから何か理由を言ってくれよ!

「ソースは、付いていない」

 しん、と沈黙が漂う。

 終わりかーい!
 なんかあるんだろ?疑っているから俺を見てんだろ?
 答えるから喋れよ!何なんだよこの空気!
 もうやだ。
 このエロボディめ!誘惑すんぞ?

「では何故俺を見てるんですか?さっきもずっと見てましたよね?何か疑われるような事をしましたか?」

「ルシャード殿下がお前とフェリシテ嬢の関係をお疑いになっている。なので、お前の表情を見ていた。不快に感じていたなら、すまなかった」

 え?
 まだ疑われていたの?違うって否定したのにあの暴走皇子、独占欲強すぎだな。
 だがそれなら俺も安心した。
 内心ビクビクと震えていた心臓が落ち着きを取り戻し、いつものエロ仕様に思考が傾く。

「俺はお嬢様に対して敬愛はあるものの不埒な欲は一切ございません。それに、あなたもこの前のアレを見ていたんでしょう?」

 俺はソースのついた自分の指を、舌を出しゆっくりと舐めつけた。
 彼はそれを視線で追い、綺麗な眉毛がピクリと反応する。

 うは♡ 好感触?

 調子に乗った俺はヴィラードとの距離を縮める。
 息の掛かる距離になった俺に一瞬身動いだが、嫌悪は無さそうだ。
 じ、と見つめると綺麗な緑色の瞳が揺れた。

 綺麗な目だなぁ…。

 このままちょっと口説こうと口を開いた瞬間……

「………!」

 お嬢様の周囲に張った感知魔法が一瞬揺らいだ。
 ヴィラードも気配を察知したのかすぐに走り出す。はぇぇぇっ!
 俺も慌てて駆けつけると既に怪しい人物は捕らえられ、ルシャードとお嬢様の目には入らない内に連れて行かれていた。

 何か喚いていたが無視だ。
 帝国は悪だの何だの叫んでいたが、よくある事だろう。
 何せコルディア帝国は近隣諸国を武力で捩じ伏せて来た国だからな。恨みはたくさん買っている。

 ヴィラードもルシャードに小さく『捕らえました』と報告し、ルシャードは頷いた。

 あーあ。

 折角口説こうと近づいたのにアイツのせいで台無しじゃんよ!
 あとちょっとで首くらい舐めさせて貰えたかもしれないのにぃ!
 あーどんな味だろう。ちょっとしょっぱいかなー。あの喉仏舐めたかったー!

 俺は八つ当たり的な恨みを不審者に投げつけ、ランチタイムは終わった。

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