薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗

文字の大きさ
12 / 42
第1章 精霊がいる薬屋

12、納品、そして日常へ

しおりを挟む
 素材採取に向かった次の日。ヴァレリアさんは一日調薬部屋に篭っていた。説明を聞いたところによると、月光草と魔力草が保有する魔力を、調薬者の魔力で全く干渉せずに混ぜ合わせる必要があるらしい。
 しかし魔力を混ぜ合わせるには魔力干渉が必要で、ならどうやって魔力を混ぜ合わせるの? と疑問になるような調薬法なのだ。そもそも普通の調薬では薬草同士の魔力を混ぜ合わせたりしない。

 そんな異次元の調薬を成功させるには、ヴァレリアさんの魔力を使って薬草の魔力を混ぜ合わせるけど、そのヴァレリアさんの魔力は薬草の魔力に一切混ざらないようにしなければならないらしい。
 要するに魔力に膜を張って伸ばし、魔力を混ぜ棒のようにしながらもいっさい魔力を薬草に干渉させない。そんな技術が必要になるそうだ。とりあえず分かることは、私には絶対に無理だということだけだ。

「レ、レイラ……また失敗した」
「お疲れ様です。一度休んだ方が良いですよ。お昼ご飯にしませんか?」
「そうだな……よろしく頼む」

 ソファーに横になったヴァレリアさんから弱々しい声が聞こえてきたので、私はフェリスと一緒に台所へと向かった。

「フェリス、お昼ご飯は何が良い?」

 私がそう声をかけると、堂々と話せることが嬉しいのか満面の笑みで答えてくれる。

『僕あれが食べたいな。お米!』
「お米かぁ……あったかな」

 お米はこの国では作られていないため、別の国からの輸入品なので高価で、たまにしか買わないのだ。

「あっ、あと少し残ってるみたい。じゃあお米は鍋で炊いて……お肉でも焼こうか。ステーキにする?」
『うん! 焼き加減は僕に任せてよ』
「ありがとう。ちょっと待ってね」

 それからはフェリスと一緒に楽しくお昼ご飯を作って、ヴァレリアさんも呼んで三人でステーキを味わった。久しぶりに食べたけど、お米も意外と美味しい。

「このステーキのタレ、美味いな」
「本当ですか? 私が作ったんです」
「レイラは料理が美味いよなぁ」
「ふふっ、ありがとうございます。ヴァレリアさんにも教えてあげますよ?」
「……いや、私はいい。私が料理をすると黒い何かが出来上がるんだ」

 黒い何かって……いや、そういえば私の誕生日にヴァレリアさんが料理を作ってくれようとして、台所を滅茶苦茶にされたような記憶がある。
 今思い出すまで忘れていた。……ヴァレリアさんは、食べる専門が良いかな。

「そうですね。私がいない時があったら屋台で買うことをお勧めします」
「ああ、そうする予定だ。――よしっ、腹もいっぱいになったしまた頑張るかな」
「分かりました。頑張ってください!」


 ――それから数時間。

 ヴァレリアさんは調薬部屋から出てこなかった。時計を気にしつつ私は部屋の掃除を進めていると……日が暮れた頃に突然、バタンッと調薬部屋の扉が開いた。

「レイラ! 成功した……っ!!」
「本当ですか!? ヴァレリアさん凄いです!」
「今から公爵家に行こう!」
「え、今から? さすがに迷惑なんじゃ……」
「時間を置いたら効果が減少するかもしれないんだ。早く行くぞ」

 ヴァレリアさんはそう言って自室へと駆け上がっていった。効果が減少って……私も早く準備をしないと!


 それから五分ほどで準備を整えて、出来上がった治療薬を大切に持って私達はお店を出た。一番近くの乗合馬車乗り場に行き、通常料金の五倍のお金を渡して貸切にしてもらう。
 そうして馬車に揺られること数十分、公爵家の屋敷の近くに到着した。馬車を降りて門に向かうと、門番さんに怪訝な表情を向けられる。

「ヴァレリア薬屋のヴァレリアとレイラだ。ご依頼の薬が出来上がったので届けにきた」
「……来訪の予定があるとは聞いてないが」
「事前連絡はしていない。薬がいつ出来上がるか分からなかったのだ。早く渡さなければ効果が薄れてしまうゆえ、早めに屋敷へと取り次いでほしい」

 薬の効果が薄れてしまうという言葉を聞き、門番は慌てたように動き出した。

「分かった。じゃあお前達はそこの詰所で待っていてくれ。中に連絡をしてくる」
「頼んだ」

 それから詰所で待つこと数十分。詰所の応接室に慌てた様子で執事らしい男性が駆け込んできた。

「お、お待たせいたしましたっ! 旦那様と奥様の下へ案内させていただきますので、どうぞこちらへ」
「分かった。よろしく頼む」

 詰所を出ると、目の前には敷地内で使うための馬車が私達を待っていた。それに乗るとすぐ屋敷に向かって動き始める。敷地内でも馬車が必要とか、お庭が広すぎるよ……

「こちらへお願いいたします。本日はそのままお嬢様のお部屋へご案内いたします」

 フィラート病を患っているご令嬢のところに、直接通してくれるらしい。治ったら良いけど……ヴァレリアさんの話では、薬が効けばすぐに赤い跡が消えていくのだそうだ。

「ヴァレリア薬屋のヴァレリア様とレイラ様をお連れいたしました」

 執事の男性がそう声をかけると、部屋の内側から扉が開かれた。ご令嬢の私室のようで、中はとても可愛らしい内装になっている。
 そんな部屋の中にはベッドに横たわって辛そうな女の子と、ベッド脇のスツールに腰掛けている公爵様と公爵夫人がいた。

「よく来てくれたな。薬ができたというのは……本当なのか?」
「はい。しかし本当に効くのかは定かではありません。こちらの薬なのですが、ご令嬢に処方しても良いでしょうか?」

 ヴァレリアさんが鞄から取り出したのは、虹色に輝く丸薬だった。凄く綺麗な薬……

「もちろんだ。よろしく頼む」
「かしこまりました。お嬢様、失礼いたします」

 ヴァレリアさんはご令嬢の枕元に膝をつくと、優しい声音で話しかけた。

「これを飲めばフィラート病が治るかもしれません。少し大きいですが、水と一緒に噛まずに飲み込んでください」

 その言葉にご令嬢が頷いたのを確認し、ヴァレリアさんはご令嬢の上半身を起き上がらせて、丸薬を口に含ませた。そしてメイドから受け取った水を、口元につけて傾けていく。するとご令嬢は何とか薬を飲み込んでくれたようだ。

「これで……治ったのか?」

 どうなんだろう。今のところ何も起こらない。お願いだから治って……!

 私のそんな願いが通じたのか、丸薬を飲んでから数十秒後、突然ご令嬢の体が一瞬だけ光り輝いた。そしてその光が収まると……顔や腕にあった赤いあざが、どんどん体に吸い込まれるようにして消えていく。

「やった! 効いた!」

 私は思わずそう叫んでから、ここが公爵家の一室だということを思い出した。やばいと思って慌てて口を閉じたけど、公爵様も公爵夫人も瞳に涙を浮かべて微笑むだけで、責められたりはしない。

「本当に……本当にありがとう。君達は娘の命の恩人だ」
「いえ、薬師として当然のことをしたまでです」

 安心したような笑みを浮かべながらそう返したヴァレリアさんは、誰よりもカッコ良かった。


 それからは家族で喜びを分かち合いたいだろうということで、私達は公爵家を後にした。報酬については後で話し合うことになった。
 治療が不可能だと思われていた病気の治療薬を作り出して、その治療薬で公爵家のご令嬢を救うって……どんな報酬がもらえるんだろう。

「あの……ヴァレリアさんがあのお店にいられなくなるとか、そんなことはないですよね?」

 こんな凄い人材を国が放っておくだろうか。王宮所属の薬師にスカウトされるとか、フィラート病の治療薬に関する論文を書いて、その功績で貴族になっちゃうとか……

「そんな不安そうな顔をするな。私はあの店が好きだから何を言われても断るさ。……まあ、これからは貴族からの依頼が増えるだろうけどな。あとは国からの依頼もくるだろう。レイラ、配達頑張れよ」
「え、王宮にも私が配達するんですか!?」
「決まってるだろう? 私の優秀な弟子なんだから」

 優秀な弟子、優秀な弟子……

「えへへ、そうですか? まあ、確かにそうですよね」

 私はその言葉の響きが嬉しくて、思わず肯定してしまった。

「だろう? だから配達はよろしくな」
「はっ……嵌められた?」
「そんなことはない。ほら、早く帰るぞ」
『レイラ、王宮に配達に行ったら、美味しいクッキーをたくさんもらえるかな』

 いやいや、クッキーなんてもらってる場合じゃないから。絶対に緊張してそれどころじゃないから!

 これからは今まで以上に忙しくて大変な毎日になるのだろう。……でも、そんな毎日も楽しみだ。
 私はこれからの日々に思いを馳せ、前を歩くヴァレリアさんの背中と私の隣にいるフェリスを見て、自然と笑顔になった。もう、不安な気持ちは消えていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になった私は卒業式の先を歩きたい。――『私』が悪役令嬢になった理由――

唯野晶
ファンタジー
【シリアス悪役令嬢モノ(?)。分からないことがあるのは幸せだ】 ある日目覚めたらずっと大好きな乙女ゲーの、それも悪役令嬢のレヴィアナに転生していた。 全てが美しく輝いているセレスティアル・ラブ・クロニクルの世界。 ヒロインのアリシア視点ではなく未知のイベントに心躍らせる私を待っているのは楽しい世界……のはずだったが? 「物語」に翻弄されるレヴィアナの運命はいかに!? カクヨムで先行公開しています https://kakuyomu.jp/works/16817330668424951212

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

処理中です...