27 / 58
第一章
第27話 湯けむりパニック!!?
しおりを挟む
──流の登場なんて何もなかったかのように、川での休憩を終え、俺たちは再び山道を歩いていた。
もちろん、相変わらず険しく道なき道を進んでいることには変わりない。
もう上りなのか下りなのかもよく分からない道を、俺はただひたすら前の二人について…後ろの二人に若干煽られながら歩くだけだ。
日暮れまでに目標の温泉に辿り着かなければならない、というのが俺にとってはプレッシャーにもなっていた──そんな中、
「……もう少しスピード上げてもいいかい?」
ふいに先頭を行く幻夜が振り向いてそう言った。もちろん、俺に、だ。
だが、その言葉は疑問形の確認ではあっても、決定なのだろう。
すでに先程から実行されてないか?
徐々にスピードを上げていることは、さすがに俺だって気付いてるぞ…?
これは、すでに実行されていることを、更に……ということか??
確かに、焦りもあるかもしれない。
俺に合わせるのも、こいつらにとっては面倒だし、余計に疲れるのかもしれない。
もちろん、俺に拒否権はないだろう。
返事を返す気力もなく頷いた。
まぁ…一応、休憩もしているので少しは回復した気もするし、大丈夫だろう……!
そう自分を励ますように言い聞かせ、改めてスピードアップされたペースに必死についていく。
──それでも、やっぱり厳しいことには変わりない。
日もだんだん傾き始め、一度暮れ始めれば暗くなるのも早い。
こんな山道で暗くなられたら……何が出てきてもおかしくないし、文句も言えない。
少なくとも、俺には危険なだけだ!!
なんだか、鳥か獣かも分からないような怪奇な鳴き声が聞こえる気もしてきたぞ!?
焦っても時間は待ってくれないし…こいつらはどんどんペースアップしていくし……容赦ない!?
ただ、一応俺を気遣ってくれて最小限のペースアップなのかもしれないし、周囲への注意も払いながらだったりする…ハズ。
俺が弱音を吐くことはもちろん、文句なんてとんでもないよな?
……というか、そんなことを言う元気もないのだが。
俺がそんな状態だとしても…相変わらず他四名は元気だし、賑やかなことに変わりない。
俺を挟んで飛び交う会話は他愛もないものだが……俺にはそれに参加する余裕もなければ、まともに話を聞く気力もない。
「そういえば、最後にみんなであの温泉に行ったのっていつだっけ?」
ふいに切り出した彼方の言葉に……他三名が一瞬遠い記憶を辿るような沈黙の後、
「……紅牙がいなくなる少し前だったんじゃね?」
天音がそう答えると、篝が当時のことを思い出したのか、
「あぁ…! あの時は大乱闘だったよねぇ」
懐かしそうに言う篝に対し、幻夜が溜め息混じりに、
「……というか、それは毎回のことだろう?」
オイオイ、毎回大乱闘ってどうだよ!?
どれだけ好戦的な奴らなんだよ。
声に出してツッコミを入れる気力も元気もなく…心の中でのみでツッこんだ……。
流の件もあったし、こいつらは行く先々で問題を起こしているんじゃなかろうか??
……まぁ、その中に紅牙も含まれているようなので…俺としては何だか複雑な気分ではあるが。
──結局のところ 。
こいつらの会話を所々聞いていると、物騒な話ばかりだが…懐かしむというより、その時のことをつい昨日のことのように──とても楽しそうに話している。
こいつらの中では遠い終わった過去ではなく、今も確実に続くより鮮明な記憶、楽しい出来事なのかもしれない。
毎回のハプニングも大乱闘も、そんな楽しいイベントの一つなんだろうな……。
そんな戦闘マニアの集団(仮)にいることと、どんどん暗くなってくる空に不安を感じながら……尚も進んで行くと、前方の木々の間から煙…いや、湯気らしきものがチラリと見えた──!
もしや、あれが??
「…良かった、日が暮れきるまでになんとか着いたようだね」
幻夜が苦笑混じりにそう言うと、彼方が笑顔で俺を振り返って、
「宗一郎、良かったね! 着いたよ、温泉」
……ということは、あれはやっぱり温泉の湯煙か?
俺はホッとした気分で頷いた。
──その会話から数分後。
日も完全に暮れ、辺りは真っ暗になってはいたが…俺たちは無事に温泉に辿り着いた──のだが、
「──…ここが?」
思わず指差して確認する俺に、
「そうだよ」
彼方はにっこりと頷いた。
一応、誰かが設置したと思われる灯りはあるので、真っ暗な中でも支障はない程度の明るさは確保されているが──木々と岩に囲まれたそれは、言ってみれば…山の中に急に現れた湯気の出ている池?
それこそ、湯気がなければ温泉とは思えない感じだった。
若干困惑気味だった俺に、
「ここは元々、温泉が湧いてる泉なんだよ。でも、見た目はともかく…水深も浅いし、ちゃんとお風呂っぽくなってるから大丈夫だよ」
篝が苦笑混じりにそう言った。
……ということは、自然の温泉にちょっと手を加えただけな感じか?
まさに…以前テレビで観た、秘湯がここに……!?
「ここはオレらがよく来てた温泉なんだよ。紅牙もここ気にいってたしね」
彼方は俺の様子を伺いつつも、にこやかにそう言った。
……たぶん、何か思い出すきっかけがあることを期待してるんだろうな──正直、まだ特にはないが。
すると、
「──というか、オレらの他にもいろんなのが来るけどな」
「そのたびに喧嘩してたのは誰だい?」
天音の言葉に意地悪そうにいう幻夜。
ということは、さっき言ってた“大乱闘”の原因は……天音?
「オ…オレだけじゃねぇだろ!? 紅牙だって……ッ」
なんとか言い返そうとする天音に、
「はいはい、早く入ろうね~」
早々に不毛な会話を切り上げる篝。
──まぁ、そういうわけで。
成り行き上、皆で一緒に温泉に入ることになった俺たち。
……とりあえず、俺ら以外は誰もいないのかな?
恐る恐る周りを見渡し、確認してみる。
それはそうと、何というか……
まさかこいつらの顔だけではなく、肉体美まで惜しげもなく披露されるハメになるとは──
若干落ち込みつつある俺。
別に、俺が貧弱とか華奢なわけではないハズだが……さすがに、こいつらの鍛えられた(?)体とは違う。
細いのにキレイに付いた無駄のない…おそらく実戦向きの筋肉が眩しく感じられる……!?
もちろん、中性的(かつ大食い)な彼方も例外ではなかった。
もう俺的には、何だか肩身の狭い気分にすらなるよ……?
と、そこで、
「ん…? 篝は??」
ふと、篝の姿がないことに気付き、改めて辺りを見渡すと──いた。
大人の姿…正確には人間成人verの篝が……!!
「なんで、大人??」
思わず呟いた俺に、
「えー? だって、せっかくじゃない!?」
と、当たり前のように言われたが──何がデスか?
「……ここは、いわゆる混浴だからな」
ボソッと天音が俺に言った。
……ん?
えぇっ!? 混浴!!?
確かに、この温泉には仕切りなど一切ないが……
いや、まてよ?
混浴と聞いて一瞬ドキッとしたが…妖怪の雄雌(?)が、てことだよな??
……そう思うとなんだか微妙だが、もし篝がそれを意識しての大人verだとするなら更に微妙な気分だ…!
まぁ…もう皆は裸なわけだし、入るしかないんだけど。
──広さの結構ある大浴場もしくは、ちょっとしたプール並みかもしれない。
湯気が濃くて対岸もよく見えないな……。
白濁したお湯は少し熱めだが、入ってしまえば気持ちが良い。
一息ついて、改めて見回してみる。
岩風呂とかジャングル風呂とかは聞いたことがあるが、やはりここは大自然の中に溶け込んでいる…まさに秘湯だ。
まぁ、足が伸ばせる…それこそ、泳いでも問題ない広さの風呂ってのは……やっぱり最高だ。
疲れも取れるような気がするし。
他四人もとりあえず大人しくくつろいでいるようだし……ここは安心して俺も温泉を満喫させてもらうとするか。
──ん?
湯煙の向こうに人影??
俺ら以外にも誰か入ってるのか?
湯煙でよく分からないけど……
“毎回、大乱闘”
俺の頭には先程の物騒なセリフがよぎり、嫌な予感が──…?
だが、珍しく他四人はその存在に気付いているのかどうかは分からないが、特に気に止めてない様子?
──しかし、そいつは違った!
「きゃあっ! 篝じゃない!!?」
「!!!」
聞き覚えのある声に俺…いや、篝の方がビクッと反応した……!?
そのまま、こちらへバシャバシャ近付いてきたのは──そう、蘭丸。
「……最悪…ッ」
心底嫌そうに呟いた篝。
だが、大人verの篝の姿に、蘭丸のテンションは最高潮!?
「あの胸からタオル巻くあたりから許せねぇよな……てか、湯船にタオルを入れるのはマナー違反だろ」
「まぁ……心は乙女だからね」
「あはは」
天音の言いたいことは分かるけど。
この際、マナーはおいといて……どうも、この三人は他人事として関わる気はなさそう?
もちろん、蘭丸には篝しか目に入ってない。対して、やや後退り気味の篝。
全裸で自分のストーカーに直面すれば……そりゃあ、確かに固まるよな。
言ってみれば、貞操の危機か!?
──これは、最悪な状況だ。
もう、いろんな意味で…!
「あぁん! やっぱり大人の方がス・テ・キ」
ねっとりするような熱視線と声音に、篝は嫌悪感全面アピールの表情のまま硬直している!?
にじりよってくる蘭丸から、なんとか逃れようと後退る篝だが……
これはもう、大乱闘とは別の問題で面倒なことになってる??
「これは…大人の姿があだとなってるね……明らかに」
所詮他人事なだけに、冷静に言う幻夜。
間違いなく、その点については篝本人が今一番…物凄く後悔しているに違いない。
戦いとなれば有利な篝ではあるが、今はそんなことも頭から抜けているかもしれない。
というか、目の前の危険から貞操を守る方が先か!?
見ている限り、今回は明らかに篝の方がピンチ??
誰の目から見ても明らかに不利な感じの篝の様子に…さすがに気の毒に思ったのか、
「……おい、なんとかしてやれよ」
溜め息混じりではあったが、天音が彼方に視線を送る。
あくまでも自分は関わりたくはないのか??
だが、彼方は……
「え? うー…ん、そうだねぇ……」
そう言って苦笑をうかべたまま、黙ってしまったが、
「……じゃぁ、とりあえずやってみようか?」
小さくそう呟くと、その左手が淡く光を放ち始めた……!
これは、もしや──…?
シュル……ッ
「白叡…!?」
予想通り、その左手から白叡が出てきた!
何だか……すごく久しぶりの登場な気もするが。
出てきた白叡は嫌そうな表情をうかべているにも関わらず、
「というわけだから、よろしくね? 白叡」
にっこりと有無を言わさぬ無敵笑顔の彼方に言われ(命令?)……白叡は渋々といった感じで、膠着状態の蘭丸と篝に視線を向けた。
そして、小さく溜め息をつくと、
『……今回だけだからな?』
舌打ち混じりにそう言うと、
シュ…ッ!
「!!」
白叡は一瞬で蘭丸の(胸から巻いた)タオルを剥ぎ取った──!?
「きゃあぁっ!!?」
予想外の出来事に、不意をつかれた蘭丸はパニック状態!
しかも、悲鳴はともかく、何故か胸を隠している……!?
──おそらく、この場にいる全員が、
“頼むから、下の方を隠してくれッ!!”
そう力強く思ったに違いない。
俺的にはかなり衝撃的だった蘭丸の全裸だったが……篝はこれで我に返ったのか、その一瞬の隙を見逃さなかった!
その手にはどこから取り出したのか……あの時のトゲ付き金棒が!!?
「……ッせめて、去勢してから出直してこぉーーい!!」
そう叫ぶと、篝の全身全霊を込めたフルスイングが蘭丸に炸裂した!
カキーーンッ!!!
「☆○△×ーー!!」
光の速さで夜空の星となった蘭丸。
何か叫びながら飛んでいったようだが……少なくともろくな事ではないだろう。
──とりあえず、これで篝の貞操の危機は免れた!?
浴場には、篝の荒い息遣いと…静寂が戻ってきていた──。
もちろん、相変わらず険しく道なき道を進んでいることには変わりない。
もう上りなのか下りなのかもよく分からない道を、俺はただひたすら前の二人について…後ろの二人に若干煽られながら歩くだけだ。
日暮れまでに目標の温泉に辿り着かなければならない、というのが俺にとってはプレッシャーにもなっていた──そんな中、
「……もう少しスピード上げてもいいかい?」
ふいに先頭を行く幻夜が振り向いてそう言った。もちろん、俺に、だ。
だが、その言葉は疑問形の確認ではあっても、決定なのだろう。
すでに先程から実行されてないか?
徐々にスピードを上げていることは、さすがに俺だって気付いてるぞ…?
これは、すでに実行されていることを、更に……ということか??
確かに、焦りもあるかもしれない。
俺に合わせるのも、こいつらにとっては面倒だし、余計に疲れるのかもしれない。
もちろん、俺に拒否権はないだろう。
返事を返す気力もなく頷いた。
まぁ…一応、休憩もしているので少しは回復した気もするし、大丈夫だろう……!
そう自分を励ますように言い聞かせ、改めてスピードアップされたペースに必死についていく。
──それでも、やっぱり厳しいことには変わりない。
日もだんだん傾き始め、一度暮れ始めれば暗くなるのも早い。
こんな山道で暗くなられたら……何が出てきてもおかしくないし、文句も言えない。
少なくとも、俺には危険なだけだ!!
なんだか、鳥か獣かも分からないような怪奇な鳴き声が聞こえる気もしてきたぞ!?
焦っても時間は待ってくれないし…こいつらはどんどんペースアップしていくし……容赦ない!?
ただ、一応俺を気遣ってくれて最小限のペースアップなのかもしれないし、周囲への注意も払いながらだったりする…ハズ。
俺が弱音を吐くことはもちろん、文句なんてとんでもないよな?
……というか、そんなことを言う元気もないのだが。
俺がそんな状態だとしても…相変わらず他四名は元気だし、賑やかなことに変わりない。
俺を挟んで飛び交う会話は他愛もないものだが……俺にはそれに参加する余裕もなければ、まともに話を聞く気力もない。
「そういえば、最後にみんなであの温泉に行ったのっていつだっけ?」
ふいに切り出した彼方の言葉に……他三名が一瞬遠い記憶を辿るような沈黙の後、
「……紅牙がいなくなる少し前だったんじゃね?」
天音がそう答えると、篝が当時のことを思い出したのか、
「あぁ…! あの時は大乱闘だったよねぇ」
懐かしそうに言う篝に対し、幻夜が溜め息混じりに、
「……というか、それは毎回のことだろう?」
オイオイ、毎回大乱闘ってどうだよ!?
どれだけ好戦的な奴らなんだよ。
声に出してツッコミを入れる気力も元気もなく…心の中でのみでツッこんだ……。
流の件もあったし、こいつらは行く先々で問題を起こしているんじゃなかろうか??
……まぁ、その中に紅牙も含まれているようなので…俺としては何だか複雑な気分ではあるが。
──結局のところ 。
こいつらの会話を所々聞いていると、物騒な話ばかりだが…懐かしむというより、その時のことをつい昨日のことのように──とても楽しそうに話している。
こいつらの中では遠い終わった過去ではなく、今も確実に続くより鮮明な記憶、楽しい出来事なのかもしれない。
毎回のハプニングも大乱闘も、そんな楽しいイベントの一つなんだろうな……。
そんな戦闘マニアの集団(仮)にいることと、どんどん暗くなってくる空に不安を感じながら……尚も進んで行くと、前方の木々の間から煙…いや、湯気らしきものがチラリと見えた──!
もしや、あれが??
「…良かった、日が暮れきるまでになんとか着いたようだね」
幻夜が苦笑混じりにそう言うと、彼方が笑顔で俺を振り返って、
「宗一郎、良かったね! 着いたよ、温泉」
……ということは、あれはやっぱり温泉の湯煙か?
俺はホッとした気分で頷いた。
──その会話から数分後。
日も完全に暮れ、辺りは真っ暗になってはいたが…俺たちは無事に温泉に辿り着いた──のだが、
「──…ここが?」
思わず指差して確認する俺に、
「そうだよ」
彼方はにっこりと頷いた。
一応、誰かが設置したと思われる灯りはあるので、真っ暗な中でも支障はない程度の明るさは確保されているが──木々と岩に囲まれたそれは、言ってみれば…山の中に急に現れた湯気の出ている池?
それこそ、湯気がなければ温泉とは思えない感じだった。
若干困惑気味だった俺に、
「ここは元々、温泉が湧いてる泉なんだよ。でも、見た目はともかく…水深も浅いし、ちゃんとお風呂っぽくなってるから大丈夫だよ」
篝が苦笑混じりにそう言った。
……ということは、自然の温泉にちょっと手を加えただけな感じか?
まさに…以前テレビで観た、秘湯がここに……!?
「ここはオレらがよく来てた温泉なんだよ。紅牙もここ気にいってたしね」
彼方は俺の様子を伺いつつも、にこやかにそう言った。
……たぶん、何か思い出すきっかけがあることを期待してるんだろうな──正直、まだ特にはないが。
すると、
「──というか、オレらの他にもいろんなのが来るけどな」
「そのたびに喧嘩してたのは誰だい?」
天音の言葉に意地悪そうにいう幻夜。
ということは、さっき言ってた“大乱闘”の原因は……天音?
「オ…オレだけじゃねぇだろ!? 紅牙だって……ッ」
なんとか言い返そうとする天音に、
「はいはい、早く入ろうね~」
早々に不毛な会話を切り上げる篝。
──まぁ、そういうわけで。
成り行き上、皆で一緒に温泉に入ることになった俺たち。
……とりあえず、俺ら以外は誰もいないのかな?
恐る恐る周りを見渡し、確認してみる。
それはそうと、何というか……
まさかこいつらの顔だけではなく、肉体美まで惜しげもなく披露されるハメになるとは──
若干落ち込みつつある俺。
別に、俺が貧弱とか華奢なわけではないハズだが……さすがに、こいつらの鍛えられた(?)体とは違う。
細いのにキレイに付いた無駄のない…おそらく実戦向きの筋肉が眩しく感じられる……!?
もちろん、中性的(かつ大食い)な彼方も例外ではなかった。
もう俺的には、何だか肩身の狭い気分にすらなるよ……?
と、そこで、
「ん…? 篝は??」
ふと、篝の姿がないことに気付き、改めて辺りを見渡すと──いた。
大人の姿…正確には人間成人verの篝が……!!
「なんで、大人??」
思わず呟いた俺に、
「えー? だって、せっかくじゃない!?」
と、当たり前のように言われたが──何がデスか?
「……ここは、いわゆる混浴だからな」
ボソッと天音が俺に言った。
……ん?
えぇっ!? 混浴!!?
確かに、この温泉には仕切りなど一切ないが……
いや、まてよ?
混浴と聞いて一瞬ドキッとしたが…妖怪の雄雌(?)が、てことだよな??
……そう思うとなんだか微妙だが、もし篝がそれを意識しての大人verだとするなら更に微妙な気分だ…!
まぁ…もう皆は裸なわけだし、入るしかないんだけど。
──広さの結構ある大浴場もしくは、ちょっとしたプール並みかもしれない。
湯気が濃くて対岸もよく見えないな……。
白濁したお湯は少し熱めだが、入ってしまえば気持ちが良い。
一息ついて、改めて見回してみる。
岩風呂とかジャングル風呂とかは聞いたことがあるが、やはりここは大自然の中に溶け込んでいる…まさに秘湯だ。
まぁ、足が伸ばせる…それこそ、泳いでも問題ない広さの風呂ってのは……やっぱり最高だ。
疲れも取れるような気がするし。
他四人もとりあえず大人しくくつろいでいるようだし……ここは安心して俺も温泉を満喫させてもらうとするか。
──ん?
湯煙の向こうに人影??
俺ら以外にも誰か入ってるのか?
湯煙でよく分からないけど……
“毎回、大乱闘”
俺の頭には先程の物騒なセリフがよぎり、嫌な予感が──…?
だが、珍しく他四人はその存在に気付いているのかどうかは分からないが、特に気に止めてない様子?
──しかし、そいつは違った!
「きゃあっ! 篝じゃない!!?」
「!!!」
聞き覚えのある声に俺…いや、篝の方がビクッと反応した……!?
そのまま、こちらへバシャバシャ近付いてきたのは──そう、蘭丸。
「……最悪…ッ」
心底嫌そうに呟いた篝。
だが、大人verの篝の姿に、蘭丸のテンションは最高潮!?
「あの胸からタオル巻くあたりから許せねぇよな……てか、湯船にタオルを入れるのはマナー違反だろ」
「まぁ……心は乙女だからね」
「あはは」
天音の言いたいことは分かるけど。
この際、マナーはおいといて……どうも、この三人は他人事として関わる気はなさそう?
もちろん、蘭丸には篝しか目に入ってない。対して、やや後退り気味の篝。
全裸で自分のストーカーに直面すれば……そりゃあ、確かに固まるよな。
言ってみれば、貞操の危機か!?
──これは、最悪な状況だ。
もう、いろんな意味で…!
「あぁん! やっぱり大人の方がス・テ・キ」
ねっとりするような熱視線と声音に、篝は嫌悪感全面アピールの表情のまま硬直している!?
にじりよってくる蘭丸から、なんとか逃れようと後退る篝だが……
これはもう、大乱闘とは別の問題で面倒なことになってる??
「これは…大人の姿があだとなってるね……明らかに」
所詮他人事なだけに、冷静に言う幻夜。
間違いなく、その点については篝本人が今一番…物凄く後悔しているに違いない。
戦いとなれば有利な篝ではあるが、今はそんなことも頭から抜けているかもしれない。
というか、目の前の危険から貞操を守る方が先か!?
見ている限り、今回は明らかに篝の方がピンチ??
誰の目から見ても明らかに不利な感じの篝の様子に…さすがに気の毒に思ったのか、
「……おい、なんとかしてやれよ」
溜め息混じりではあったが、天音が彼方に視線を送る。
あくまでも自分は関わりたくはないのか??
だが、彼方は……
「え? うー…ん、そうだねぇ……」
そう言って苦笑をうかべたまま、黙ってしまったが、
「……じゃぁ、とりあえずやってみようか?」
小さくそう呟くと、その左手が淡く光を放ち始めた……!
これは、もしや──…?
シュル……ッ
「白叡…!?」
予想通り、その左手から白叡が出てきた!
何だか……すごく久しぶりの登場な気もするが。
出てきた白叡は嫌そうな表情をうかべているにも関わらず、
「というわけだから、よろしくね? 白叡」
にっこりと有無を言わさぬ無敵笑顔の彼方に言われ(命令?)……白叡は渋々といった感じで、膠着状態の蘭丸と篝に視線を向けた。
そして、小さく溜め息をつくと、
『……今回だけだからな?』
舌打ち混じりにそう言うと、
シュ…ッ!
「!!」
白叡は一瞬で蘭丸の(胸から巻いた)タオルを剥ぎ取った──!?
「きゃあぁっ!!?」
予想外の出来事に、不意をつかれた蘭丸はパニック状態!
しかも、悲鳴はともかく、何故か胸を隠している……!?
──おそらく、この場にいる全員が、
“頼むから、下の方を隠してくれッ!!”
そう力強く思ったに違いない。
俺的にはかなり衝撃的だった蘭丸の全裸だったが……篝はこれで我に返ったのか、その一瞬の隙を見逃さなかった!
その手にはどこから取り出したのか……あの時のトゲ付き金棒が!!?
「……ッせめて、去勢してから出直してこぉーーい!!」
そう叫ぶと、篝の全身全霊を込めたフルスイングが蘭丸に炸裂した!
カキーーンッ!!!
「☆○△×ーー!!」
光の速さで夜空の星となった蘭丸。
何か叫びながら飛んでいったようだが……少なくともろくな事ではないだろう。
──とりあえず、これで篝の貞操の危機は免れた!?
浴場には、篝の荒い息遣いと…静寂が戻ってきていた──。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる