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第15話 小話 皇帝と女王の内緒話
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管弦楽の音が夜風に乗って聞こえてくる。
王宮の大広間ではまだまだ夜会の最中である。
婚姻式の日から数えて、もう7日目であるの出席者が絶えることはない。
華やかな会場を抜けて、皇太子宮改め皇帝宮へと急ぐ。
かつて女帝マリアが住んでいた旧皇帝宮は、未だ両親が住んでいる、とは言え、この婚姻と即位のパーティーを終えた後、父フランツの生家であるモントス公国にあるエルメス湖畔の離宮で夫婦水入らずで余生を過ごすのだと言う。
王宮へと一番近くにある皇太子宮を皇帝の住まいとする方が効率が良いと、仕事人間の弟皇帝が決めたので、皇帝に皇子が産まれたら旧皇帝宮を新たな皇太子宮にするという。
自身が住んでいた奥宮の部屋は、隣のオフィーリアの部屋と共に既に空室となっており、今は王宮の貴賓室で自身の配偶者と共に過ごしている。
もうこの王宮の住人では無くなったのだと、少し寂しく思いながら皇帝宮の応接室の戸を御付きの侍女がノックした。
「エリザヴェータ女王陛下でございます。」
「諾」
側仕えのやり取りの言葉は変わったが、その室内は以前のままである。
「貴方、離席が早すぎない?」
呆れてため息を溢しつつ、ソファへと腰かける。
執務机で書類を捌いていた手を止め、立ち上がると向かいの独りがけソファへとカールヨハンが座った。
「もう7回目の夜会だ、私など居ても居なくとも問題ない。」
「問題ない訳無いでしょう。アンナルイーゼを置いてきぼりにして。新婚の妻を大切にしないなんてお父様の爪の垢を煎じて飲みなさいな。」
「アンナには良いところで退いて良いと言っておいたのだが、義父フリード王とは違い夜会を拒否する豪胆さは無いようだな。」
カールヨハンはハハと笑い声をあげた。
「笑っている場合じゃないわ、可哀想に困っていたから、わたくしが連れて帰ってきましたよ。だいたいフリード王は夜会嫌い、人嫌い、女性嫌いでしょうに。それでも今回の式にはやっていらしたのだから、喜ばしいことよね。」
カールヨハン付きの侍従がお茶を出して、部屋を出ていった。
エリザヴェータは香り高いお茶に口をつけると、ほうと息を吐いた。
「姉上は主役なのに色々と大変だ。いや、姉上が居なくなった王宮が大変なのだろうな。」
「他人事みたいな事を言わないの。カール、お父様ももうすぐ居なくなってしまうのだし、カロリーナとマリアンナのことも気にかけて頂戴ね。ああ、心配だわ、わたくしがハデスに王女たちを連れて行こうかしら。」
エリザヴェータが頬に手を当てて、悩み深そうな顔をカールへと向けた。
「いや、二人には王宮から嫁がせる。」
「嫁がせるなんて、今日のお父様の話を聞いた?北ウエス王国の国王に幼女趣味を尋ね、アレス王国王子に悪役王女かと問いかけて。夜会でも、周りからどう言った意図かと聞かれて困ったわよ。」
「良いでは無いですか。帝国の誇る予言の巫女姫とでも言っておけば宜しい。」
カールヨハンは切れ長の青い目を悪戯気に細めて、片方の口を上げて笑った。
「だから、その顔よしなさいね、悪役の表情よ。で、あの二人をこれからどうするつもり?」
エリザヴェータが眉を寄せて注意すると、本題とばかりに問いかけた。
「別に他国へと嫁つぐ必要もない。マリアンナの話では周りの王族で革命時に助けてくれた者は誰も居なかった、と言うしな。そうそう、フリード王が『もう疲れたから』と生前退位され、その後を継ぎリンネ王国の国王となったルイーゼの従兄弟ウィルヘイムも助けてくれないばかりか、口先だけ偉そうに介入した結果、革命の火に油を注ぐ始末、散々だったとマリアンナが猛烈怒っていた。そんな薄情な愚か者たちに手中の珠をくれてやる義理は無い。何れ来る革命の時をどう乗り越えるか、それには巫女姫の力が必要ですからな。」
冷たそうな顔のカールがそのまま口を弧にした笑顔は、どこぞの悪党のようだった。
「カール、両方口角を上げた努力は認めましょう。ですが、貴方、お外で笑顔を見せるのはお止めなさいね、絶対誤解されるわ。」
エリザヴェータは再度そう注意をしつつ、ため息を吐くのだった。
王宮の大広間ではまだまだ夜会の最中である。
婚姻式の日から数えて、もう7日目であるの出席者が絶えることはない。
華やかな会場を抜けて、皇太子宮改め皇帝宮へと急ぐ。
かつて女帝マリアが住んでいた旧皇帝宮は、未だ両親が住んでいる、とは言え、この婚姻と即位のパーティーを終えた後、父フランツの生家であるモントス公国にあるエルメス湖畔の離宮で夫婦水入らずで余生を過ごすのだと言う。
王宮へと一番近くにある皇太子宮を皇帝の住まいとする方が効率が良いと、仕事人間の弟皇帝が決めたので、皇帝に皇子が産まれたら旧皇帝宮を新たな皇太子宮にするという。
自身が住んでいた奥宮の部屋は、隣のオフィーリアの部屋と共に既に空室となっており、今は王宮の貴賓室で自身の配偶者と共に過ごしている。
もうこの王宮の住人では無くなったのだと、少し寂しく思いながら皇帝宮の応接室の戸を御付きの侍女がノックした。
「エリザヴェータ女王陛下でございます。」
「諾」
側仕えのやり取りの言葉は変わったが、その室内は以前のままである。
「貴方、離席が早すぎない?」
呆れてため息を溢しつつ、ソファへと腰かける。
執務机で書類を捌いていた手を止め、立ち上がると向かいの独りがけソファへとカールヨハンが座った。
「もう7回目の夜会だ、私など居ても居なくとも問題ない。」
「問題ない訳無いでしょう。アンナルイーゼを置いてきぼりにして。新婚の妻を大切にしないなんてお父様の爪の垢を煎じて飲みなさいな。」
「アンナには良いところで退いて良いと言っておいたのだが、義父フリード王とは違い夜会を拒否する豪胆さは無いようだな。」
カールヨハンはハハと笑い声をあげた。
「笑っている場合じゃないわ、可哀想に困っていたから、わたくしが連れて帰ってきましたよ。だいたいフリード王は夜会嫌い、人嫌い、女性嫌いでしょうに。それでも今回の式にはやっていらしたのだから、喜ばしいことよね。」
カールヨハン付きの侍従がお茶を出して、部屋を出ていった。
エリザヴェータは香り高いお茶に口をつけると、ほうと息を吐いた。
「姉上は主役なのに色々と大変だ。いや、姉上が居なくなった王宮が大変なのだろうな。」
「他人事みたいな事を言わないの。カール、お父様ももうすぐ居なくなってしまうのだし、カロリーナとマリアンナのことも気にかけて頂戴ね。ああ、心配だわ、わたくしがハデスに王女たちを連れて行こうかしら。」
エリザヴェータが頬に手を当てて、悩み深そうな顔をカールへと向けた。
「いや、二人には王宮から嫁がせる。」
「嫁がせるなんて、今日のお父様の話を聞いた?北ウエス王国の国王に幼女趣味を尋ね、アレス王国王子に悪役王女かと問いかけて。夜会でも、周りからどう言った意図かと聞かれて困ったわよ。」
「良いでは無いですか。帝国の誇る予言の巫女姫とでも言っておけば宜しい。」
カールヨハンは切れ長の青い目を悪戯気に細めて、片方の口を上げて笑った。
「だから、その顔よしなさいね、悪役の表情よ。で、あの二人をこれからどうするつもり?」
エリザヴェータが眉を寄せて注意すると、本題とばかりに問いかけた。
「別に他国へと嫁つぐ必要もない。マリアンナの話では周りの王族で革命時に助けてくれた者は誰も居なかった、と言うしな。そうそう、フリード王が『もう疲れたから』と生前退位され、その後を継ぎリンネ王国の国王となったルイーゼの従兄弟ウィルヘイムも助けてくれないばかりか、口先だけ偉そうに介入した結果、革命の火に油を注ぐ始末、散々だったとマリアンナが猛烈怒っていた。そんな薄情な愚か者たちに手中の珠をくれてやる義理は無い。何れ来る革命の時をどう乗り越えるか、それには巫女姫の力が必要ですからな。」
冷たそうな顔のカールがそのまま口を弧にした笑顔は、どこぞの悪党のようだった。
「カール、両方口角を上げた努力は認めましょう。ですが、貴方、お外で笑顔を見せるのはお止めなさいね、絶対誤解されるわ。」
エリザヴェータは再度そう注意をしつつ、ため息を吐くのだった。
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