カレイなる日々

隠井迅

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一巡目(二〇二二)

第051匙 米沢のブタニクはバケモノか:キッチンカロリー駿河台下本店(E04)

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 靖国通りから見て、逆V字(△)になっている、これまで、本論考の他のエピソードの中で既に何度か言及してきた〈神保町Δデルタ〉、ざっくりとした印象では、この三角形の左辺には焼き肉店が多く、反対側の右側、明大通りに面している方にこそ、カレー専門店が幾つも軒を連ねている、という印象がある。

 この日、木曜日の夕方前に、書き手は、その神保町デルタ・ゾーンの右辺に位置している、洋食店〈キッチンカロリー駿河台下本店〉を訪れんとして、坂道を上っていた。

 この店は、「カロリー」という名が示唆しているように、一九五四年創業で、六八年の歴史を誇る洋食店〈キッチンカロリー〉の本店である。
 つまり、明大通りの坂を上がり切り、JR御茶ノ水駅前の〈茗渓通り〉沿いにある、〈カロリーカレーハウス〉は、そのキッチンカロリーのカレー専門店なのだった。
 ちなみに、書き手が九月の最初に訪れた〈カロリーカレーハウス〉は、幅のないウナギの寝床のようなカウンターに客が座るタイプの、まさに、これぞ〈ザッツ昭和〉な印象の店で、かつ、値段も極めてリーズナブルだったのだが、これに対して、靖国通り近く、こう言ってよければ、坂の麓付近にある〈駿河台下本店〉の方は、これぞ昭和の洋食屋といったインパクトを書き手には抱かせない、もっとスマートな感じの店であった。

 靖国通りから、少しだけ坂を上がっただけで、書き手は難なく店にたどり着いたのだが、入口の扉にあった貼り紙によって、翌週から木曜日が休みになるという情報を得た。どうやら、この日の書き手は運が良かったようである。

 キッチンカロリーの本店は、カレー専門店ではなく、洋食店なので、例えば、ハンバーグステーキやオムライスなどのメニューもあったのだが、書き手は、テーブルに置かれていた、「お客様に安心、安全なお料理を提供したい。こだわりの食材を使ったお料理を紹介します」という文言によって、店から推されていた「『キッチンこだわり』メニュー」の中から、「米沢豚のロースカツカレー」を注文した。

 やがて、提供されたのは、大きなカツが真っ白なライスの上に置かれた白い皿と、カレー・ソースが入った銀のグレイヴィー・ポットであった。
 カレー専門店ではない洋食屋のカレーだったので、ライスとカレーが別になっているのは少し驚きであった。

 とまれ、最近の書き手は、カツ・カレーを食す時は、カツだけ、カツとライス、カレー・ライス、さらに、カツカレーとして、四種の方法でこのカツ・カレー・ライスを味わっている。

 このカツが非常に美味しかったので、どんな豚肉なのか気になった書き手は、このロースカツカレーに使われていた〈米沢豚〉についての詳細を、後日、調べてみる事にしたのだった。

 実を言うと、スタンプ・ラリーでカレー店を巡っている中で、いっぺこっぺの〈常陸豚SPF〉や、ティーダイニングの、三重県亀山市の〈チャンピオン豚〉や、ピッグテイルの〈富士ヶ峰ポーク〉で、ロースカツ・カレーや、フィレフォワグラ・カレーなどを食して以来、書き手は、豚肉の産地や品種、あるいは飼育法について興味を抱くようになっていたのである。

 さて、キッチン・カロリーのロースカツ・カレーで使われていた「米沢豚」は、もちろん、山形県の米沢市の名を冠した豚である。
 
 米沢のブランド豚である「米澤豚一番育ち®」(以下、〈米沢豚〉と表記)は、置賜地方にある〈ピッグファーム室岡〉で生産されているそうだ。

 米沢豚は、〈三元交配豚〉、いわゆる〈三元豚〉である。
 三元豚については、本論の第二十一食目のティーダイニングの時に話題にした。
 さて、米沢豚の場合、まず、ランドレース種と大ヨークシャー種を交配させ、その生まれた豚を〈SPF豚〉にしているそうだ。そして、その〈SPF豚〉にデュロック種を交配させているらしい。結果、三種を掛け合わせた米沢豚の肉は、柔らかく、甘く、脂が旨い、バランスの良い豚になっている、との事であった。 

 ここで注意したいのは、デュロック種と掛け合わせた豚が、本論の第六食目のいっぺこっぺの時に言及した、あの〈SPF〉である点だ。

 再確認になるが、〈SPF〉とは、〈Specific(特定の)〉、〈Pathogen(病原体)〉の〈Free(無い)〉の略記号で、「あらかじめ指定された病原体を持っていない」という意味である。
 病原体が無いということは、SPFの豚は健康に発育した豚であり、SPFポークは、筋肉がきめ細かく、保水性に富んでいるがゆえに、旨味を逃さずに調理可能で、加熱しても灰汁が出にくく、冷えても固くならず、風味豊かなのだそうだ。さらに、脂の質が良く、あっさりしていて、豚肉独特の臭みもないらしい。

 さらに、米沢豚は〈飼料〉にもこだわりがあり、豚への餌は、「大麦とビタミンを多く含み、旨味をだす海藻やマイロなどを独自に設計配合」しているのだそうだ。その結果、「米澤豚一番育ち」は、「真っ白な脂肪と甘いコクとうまみ」を持つ豚肉になっている、との事である。

 参照した『どっこいニッポン』の記事によると、「肉の甘みを引き出しているのは、飼料のとうもろこし。旨味を高めるのは麦類です」と書かれていた。
 さらに、餌に〈海藻〉を加えている事が指摘されていたのだが、海藻によって、米沢豚の肉に含まれるビタミンEは、通常の豚の二.七倍、つまり、約三倍も多いらしい。

 つ、通常の三倍だとっ! 米沢の豚肉は化け物か、思わず、そう叫びたくなった書き手であった。

 三元交配豚で、SPFで、さらに、飼料にこだわった結果の甘みや旨味、通常の三倍のビタミンEの含有量、この「米澤豚一番育ち®」を使ったロースカツを使ったカツカレー、これって、もしかしたら無敵なのではなかろうか。
 
〈訪問データ〉
 キッチンカロリー駿河台下本店;神保町・お茶の水
 E04
 十月十三日・木曜日・十五時半
 米沢豚のロースカツカレー:一〇五〇円(現金)

〈参考資料〉
 「キッチンカロリー駿河台下本店」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、五十八ページ。
〈WEB〉
 「米沢豚一番育ち」、『有限会社ピックファーム室岡』、二〇二二年十二月二十四日閲覧。
 「米澤が誇る良質なブランド豚!6つのこだわりから生まれた『米澤豚一番育ち』」、『どっこいニッポン』、二〇二二年十二月二十四日閲覧。
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