カレイなる日々

隠井迅

文字の大きさ
93 / 226
一巡目(二〇二二)

第71匙 麺ソーレ、タイ✕沖縄カオソーイ:BANAcoco.OKINAWA-THAILAND 東京カオソーイ(B15)

しおりを挟む
 火曜日の昼、書き手は、いつものように、東西線の九段下駅で降りたのだが、半蔵門線に乗り換えずに、そのまま改札を出ると、九段下駅の五番出口から五分とかからない所に位置している店、〈東京カオソーイ〉に向かった。

  この店のウリは、その店名が端的に表わしているように、東京にいながらにして、本格的なカオソーイが食べられる点にある。

 カオソーイとは、東南アジアの麺料理で、歴史的に言うと、ミャンマーからラオス北部に伝わり、それから、ルアンパバーンのようなラオス北部から、チェンマイのようなタイ北部に拡がっていったそうだ。
 それゆえに、ひとくちにカオソーイといっても、ラオス風のカオソーイと、タイ風のカオソーイとでは、かなり違った料理になっているらしい。
 とまれ、我々日本人にとって、〈カオソーイ〉といえば、タイのチェンマイの料理として認知されているように思われる。

 カレー・ガイドブックの店紹介ページには、「タイ家政大学でタイ料理を学んだシェフ」が研究を重ねた「自家製ペーストで作るタイカレー」、「チェンマイ名物のカレーヌードルカオソーイ」、「タイ現地と同じ製法、素材にこだわ」っているという〈カレーへの思い〉が記述されているので、この店のカオソーイは、間違いなくタイ風のカオソーイであろう。

 タイ風のカオソーイの特徴とは、スープはココナッツミルクを加えたカレー・スープで、このスープに揚げた卵麺を入れ、ここに〈ナムプリックパオ〉と呼ばれている唐辛子や干しエビなどのペーストが添えられているそうだ。
 つまり、東京カオソーイでは、このペースト、ナムプリックパオが自家製なのであろう。ちなみに、このペーストには「沖縄の生ハーブ」も使われているとも書かれていた。
 何ゆえに沖縄、と思われるかもしれないが、実は、この店の正式名称は、「BANAcoco.OKINAWA-THAILAND 東京カオソーイ」で、沖縄とタイの融合を東京で体現しているような店なのだ。

 店のホームページを参照してみると、「タイと同じ種類の素材、調味料を同じ調理法で」「タイ、沖縄の新鮮素材」をもってして、「タイ✕沖縄」な料理を提供している、とも書かれていた。

 はたして、九段下の路地裏にある店に到着してみると、そこに在ったのは、座席数わずか八席のコンパクトな店で、その佇まいは、那覇にいるような錯覚を書き手に抱かせた。
 カオソーイは、タイでは屋台料理らしいので、タイの屋台のような雰囲気も、もしかしたら漂わせているのかもしれない。
 
 運よく待たずに入店できた書き手は、もちろん、カオソーイを注文したのだが、タイ帰りの沖縄出身の店主から、カオソーイの提供には十五分ほど時間を要すると念を押された。
 おそらく、会社員が昼休みの短い時間帯にさっと食べるつもりで訪れる場合には、十五分待ちというのは、けっこうな時間なので、待てるかどうかの確認が為されているのかもしれない。
 もちろん、カオソーイ目的でわざわざ訪店した書き手が、十五分待ちできない分けがなかった。

 やがて約十五分後に提供されたカオソーイは、カレー・スープに、軟らかな麺が入っていたのだが、ここに、大ぶりな骨付きの鶏肉が添えられ、さらにその上に、茹でる前のインスタントラーメンのような大きさの、固く揚げられた麺が載せられていた。
 カレー・スープとその中の麺にたどり着くためには、その揚げ麺と大きな骨付き肉をまずは食せねばならない。

 書き手が知っている、これまで日本で食べてきたカオソーイには、そのようなごっつい揚げ麺が載せられてはいなかったのだが、もしかしたら、それこそが、本格的なタイ風のカオソーイなのかもしれない。あるいは、沖縄風なのであろうか? もしかしたら、この店の独自のカオソーイなのでは?

 そんな事を考えていると、店の中で流れていたラジオから、次のような話が耳に入ってきた。
 そのラジオは、沖縄の放送局の番組だったのだが、番組のパーソナリティーによると、その日、十一月一日は、なんと〈琉球文化の日〉であるらしい。

 琉球文化の日とは、「先人たちが創り上げてきた沖縄の歴史と文化への理解を深め、故郷への誇りや愛着を感じられる地域社会の形成に取り組むとともに、新たな歴史と文化を県民自らの手で創造していくことを決意するもの」で、令和三年三月三十一日に制定された、二〇二二年で二回目を迎えたばかりの、出来立てほやほやの記念日であるとの事であった。

 「タイ✕沖縄」を謳っている東京の店に〈カオソーイ〉を食べに来た日が、まさに十一月一日、〈琉球文化の日〉であるという偶然に、何か因縁めいたものを感じてしまった書き手であった。

〈訪問データ〉
 BANAcoco.OKINAWA-THAILAND 東京カオソーイ
 B15
 十一月一日・火曜日・十三時
 東京カオソーイガイ:九一八円(QR)

〈参考資料〉
 「BANAcoco.OKINAWA-THAILAND 東京カオソーイ」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2022』、三十六ページ。
〈WEB〉
 『東京カオソーイ』、二〇二三年一月二十三日閲覧。
 「琉球歴史文化の日とは」、『沖縄県』、二〇二三年一月二十三日閲覧。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

アルファポリス底辺ユーザーのポイント・スコア記録。鼻で笑いたい方は是非ご覧ください。他、涙ぐましいポイ活の記録とか。

筑前煮
エッセイ・ノンフィクション
タイトル通りです。ド底辺ユーザーのスコアなどを載せています。その他アンケートサイトなどで稼いだ実績などを、備忘録も兼ねて淡々とのせます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...