カレイなる日々

隠井迅

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二巡目(二〇二三)

第21(145)匙 味覚と視覚で味合う盛られたカレー:TAKEUCHI(A10)

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 東京都の千代田区の内神田のあたりに位置する〈神田美土代町〉と言えば、漢字の読み方を間違え易い町名のひとつであり、ちなみに、これは〈かんだみとしろちょう〉と読む。

 千代田区が提供しているサイトを参照してみると、歴史的には、今の神田美土代町があった地には、例えば、五代将軍・徳川綱吉の側近であった柳沢吉保の屋敷、すなわち、江戸時代には、老中や若年寄などを輩出する、そのような身分の高い武士の屋敷が位置していたそうだ。 
 同時に、そうした武家屋敷だけではなく、商人や職人が住む町屋も在ったそうで、つまり、現在の美土代町があった地区は、武家屋敷と町屋という、二様の住居が混交し、こう言ってよければ、江戸時代には、身分が混交する地だったようだ。

 やがて時代を経て、その武家屋敷と町屋の混交地は、〈美土代〉と名付けられたのだが、それは明治五年、一八七二年の事だという。ちなみに、その名の由来は、かつてこの地に、伊勢神宮に捧げる初穂を育てる神(み)の田(た)、つまり、水田(みとしろ)が存在していたからで、明治から昭和初期までは、美土代町は、もっと範囲が広かったらしい。だが、昭和二十二年、一九四七年に、千代田区美土代町は縮小し、現在の規模になったそうだ。

 その今の美土代町の、神田警察通り沿いに「MID STAND TOKYO」という施設がある。
 この名称は、武家屋敷と町屋の混交という意味を込めて、〈半〉という意味の〈MID〉と、その地名である〈美土代(みとしろ)〉を掛けたものであろうか、と思った書き手が、『MID STAND』のサイトを参照してみると、そこには次のように書かれていた。

 「『MID』には  東京の中心(MIDDLE)を意味する『MID』  美土代町の美(MI)土(DO)をかけた『MID』  二つの意味が込められている」
 なるほど、掛詞になっているという書き手の直感はほぼ正しかったようだ。

 その、美土代町の「MID STAND TOKYO」が在るのは、実は、関東大震災後の大正十三年、一九二四年に、洋家具メーカーとして出発した〈楓屋〉の前身、〈田熊商店〉の創業の地であるらしい。

 かくの如く、その田熊商店の創業地は、二〇二三年現在、「MID STAND TOKYO」として運営されている分けなのだが、この施設は、簡単に言ってしまうと、キッチン付レンタルスペースである。

 以前、書き手は、二〇二三年の五月に実施された、『神田カレーグランプリ』のコラボ企画において、「大正軒」がカレー料理を提供した際に、この「MID STAND」を訪れた事があった。
 それから三か月後の、「スタンプラリー23」開催中の八月末の、二十日から二十五日の四日間に、コラボ企画第三弾として、『日本で最も美しい村 × 神田カレーグランプリ特別企画』として、「洋食膳 海カレー TAKEUCHI」さんが、スッペシャルなカレーを提供する、という告知がSNSにおいて為された。
 しかも、この特別企画においても、スタンプの押印が可能なので、書き手は、企画の二日目に当たる八月二十三日の水曜日に、美土代町の「MID STAND」に足を運んだ次第なのだ。

 普段は神保町の路地に在る店舗で営業している「海カレーTAKEUCHI」といえば、行列ができるカレー屋さんで、営業時間内であっても遅めの時刻に訪店すると、カレー枯れの憂き目に合う事が多い、そんな印象の超人気店で、二〇二一年のカレーグランプリでは「神田カレーマイスター賞」を受賞している。

 いつもは半時間以上の待ち時間を織り込んだ上で訪店するTAKEUCHIさんなのだが、この日、開店直後の十一時台に到着した書き手は、待つことなくすんなりと入店する事ができた。また、その待ち時間の間に、どの品をを頼むべきか悩む事になるのも常なのだが、今回は特別企画という事もあって、提供品は一種のみなので、注文に迷う必要も全くなかった。

 今回の企画で、海カレーを店名の前に掲げているTAKEUCHIさんの入魂のカレーは、北海道東部の根室管区の標津町(しべつちょう)とのコラボカレーである。
 標津町といえば、サケやマス、そしてホタテの産地なので、当然、そうしたシーフードがふんだんに使われており、その名も「標津町を楽しむ鮭節踊る帆立マリネと北海出汁の粗挽き鶏豚キーマカレー」である。
 机の上に置かれていたラミネートされた紙面には、昨今のライトノヴェルのタイトルのような、具体的な情報が充分に表わされている料理名に加え、料理の写真も掲載されていたので、事前にどんな品が提供されるのか、ある程度のイメージを客が掴む事ができるようにさえなっていた。

 だがしかし、である。
 !!
 実際に出てきた皿は、卓上の写真とは大きく異なっていたのだ。

 一般に、何らかのアプリを使う事によって、見映えがするように、撮った写真を加工する事はしばしば為される事であろうが、TAKEUCHIさんのカレーの場合は、その真逆だったのだ。

 TAKEUCHIさんは、カレーの見た目も重要視している、〈ヴィジュアル〉系のカレー屋さんとしても名高いのだが、提供されたキーマカレーは、マリネされたホタテや、鮭のフレークが写真以上に満載で、現物の方が遥かに〈盛られ〉ていたのである。

 店内の客の人数やタイミングの問題もあると思うのだが、注文から皿が提供されるまで約十五分ほどかかった。
 つまるところ、味の良さに加え、見目も麗しいカレーを提供する為には、盛り付けに相当な時間を要するのも然りなのだろう、と思う書き手であった。

〈訪問データ〉
 洋食膳 海カレー TAKEUCHI:神保町エリア
 MID STAND TOKYO:美土代町
 A08
 八月二十三日・水・十一時半
 標津町を楽しむ鮭節踊る帆立マリネと北海出汁の粗挽き鶏豚キーマカレー:一三〇〇円(現金)
 北斗の〈券〉:No.20 ヒューイ&シュレン〈二枚目〉

〈参考資料〉 
 「洋食膳 海カレー TAKEUCHI」、『神田カレー街 公式ガイドブック 2023』、七十二ページ。
〈WEB〉
 「町名由来板:美土代町(みとしろちょう)」(更新日:二〇一四年十一月十一日更新)、『千代田区』、二〇二三年九月三日閲覧。
 『MID STAND TOKYO』、二〇二三年九月三日閲覧。
 「Company」、『株式会社楓屋』、二〇二三年九月三日閲覧。
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